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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第4章 漣 第3回

2010.02.24  *Edit 

 少しでも多くの人に来てもらおうと、部員全員で在校生には
前売り券を売っていたのだが、誰から買ったのだろう?
 「私の順番は、午前は10時半で午後は2時から」
 「じゃぁ、午前中に行こうかな。それと、明日良かったら一緒に回らない?」
 「えっ?」
 ドキっとした。
 「いやかな?」
 「でも、ゆきちゃんと・・・」
 急に恥ずかしくなって俯いた。
 「最上さんなら小泉と一緒に回るんじゃないかな?」
 その言葉に更に驚いた。
 「えっ?聞いてないけど」
 「多分、今頃誘ってると思うよ。小泉がそう言ってたから」
 「ええー?あの、小泉君がぁ?」
 理子は驚く。あの口数の少ない大人しい小泉が。電気部の友人の
村田が、肝心な事ほど言わないと言っていた、あの彼が。
 「何でそんなに驚いてるの?察してると思ってた」
 「あっ、まぁ、察してはいたけど、彼、大人しいじゃない?
焦れったいくらい、行動に移さない人なのかと思ってたから」
 「そっか。そういう意味で驚いたんだ。なるほどね・・・。
でもまぁ、そういうわけだから、理子は一人になってしまうわけよ」
 「理子?」
 理子は聞き返した。さっきまで「吉住さん」だったのが、
いきなり「理子」だ。
 「あっ、ごめん。でも、いいでしょ?みんなそう呼んでるし」
 結構、気安い。こんな気安い人だったのか。


 「理子は知らないだろうけどさ。誘いたがってる奴、
結構いるみたいだぜ」
 「えっ?そうなの?ウソでしょう?」
 今まで誘われたことなんて、須田先輩くらいしかいないのに。
 「彼氏がいると思ってるから遠慮してるんだよ。今回なんか、
耕介と一緒だろうと、多分みんな思ってる。でも耕介は物凄い
恥ずかしがり屋だから、無理やりカップルにさせられても行動を共に
しないだろうな。だから、ある意味、いいチャンスなんだよ」
 「いいチャンス?」
 一体、何がチャンスなんだ。ドキドキしてくるじゃないか。そもそも、
そんな事を言われてもピンとこない。自分で無い他の女子の事を
言われているように思える。
 「明日、楽しみだなぁ。みんなの反応が」
 そう言ってにやけている。
 「ちょっと、ちょっと。一緒するって返事してないけどー」
 「えっ?そうだった?まぁ、いいでしょう、決まりで」
 と、さっさと勝手に決めてしまった。昔からこういう強引な所は
変わっていないみたいだ。だが、こういう強引さが、好きだった。
理子は少々強引な男に惹かれる。好まない相手なら困るばかりだが、
好む相手だった場合、好意が増す傾向にある。
 中1の時に、そもそも最初に好きになったのは、枝本のこの積極性だ。
おまけに眼鏡をかけている。あの時は黒縁だったが、今は銀縁だ。
どちらもよく似合っているが、銀縁の方があたりが優しい感じがする。
 二人で揃って教室へ入ったら、一斉に皆の注目を浴びた。
 「耕介―、奥さん浮気してるぞー」
 と冷やかす声が上がった。
 理子はそう言った男子を睨みつけて、自分の席に座った。隣のゆきの
席は空いていた。まだ戻ってきていない。
 「お前なんで、ひ、否定しないでいなくなっちゃうんだよー」
 と、耕介がまだ赤い顔で話しかけてきた。
 「ごめん、ごめん。まぁ、いいじゃん。言いたい奴には言わせておけば」
 と理子は笑った。
 「ちょっ、お前、ほんとにいいのかよ」
 「そのうち、飽きるんじゃない?」
 そう言えば、枝本と理子が急接近して、互いの気持ちを知らずに
一喜一憂していた時、当人たちの知らない所で、二人の仲が噂に
なっていた事を思い出した。
 ある日、枝本の友人が黒板に二人の相合傘を書いて冷やかしてきた事で
初めて知ったのだった。だがその時は、それきりだった。枝本がクラスの
男子の人気者で、学級委員じゃなくなっても、クラスの中心者である事には
変わらなかったので、みんな枝本に遠慮していたのだった。
 あの時理子は、枝本との相合傘を書かれた事そのものが、理解できないで
いた。傍(はた)からは随分と仲良く見えたようだったが、当人は、ちっとも
そんな風に感じていなかったからだ。だから噂になっているらしい事を
知って意外に思った。
 そういう点で、今回は似ている。あの時は、理子は枝本が好きだったから、
益々疑心暗鬼になったものだったが、今回は驚くだけである。仲の良い
男女の場合、みんなカップルみたいに思われるものなのか。
 間もなく、ゆきが戻ってきた。小泉は少し間を置いてから戻ってきた。
 ゆきの顔が少し赤い。
 理子がそっと窺っていたら、ゆきが気づいて目が合った。
 「理子ちゃん・・・」
 どことなく声が切なく甘い。
 「明日のことでしょ」
 「えっ?なんで知ってるの?」
 「察したの。二人していないから。もしかして明日一緒に回らないかって
誘われてるんじゃないかと」
 「凄い、理子ちゃん。わかるんだ」
 本当は枝本に聞いたのだが、それは内緒にしておこう。小泉が他人に
話したと言う事は知らない方がいいような気がした。
 「ごめんね、理子ちゃん。そういう事だから明日は一緒に
回れない・・・」
 矢張り、友情より恋が優先なのか、とちょっとだけ思う。でも、こういう
時こそ、好きな男子がいれば、一緒に回りたいものだろう。仕方がない。
 「うん、いいよ。折角のチャンスじゃん。良かったね」
 「ありがとう、理子ちゃん」
 ゆきの表情が、あまりにも嬉しそうで溶けそうなほどだ。可愛い子だ。
幸せそうで羨ましい。
 
 文化祭当日。まだ少し残暑がきついが、天気に恵まれて良かった。
 ホームルーム終了後、段取りを皆で確認し合い、9時ジャストに始まった。
花火が上がる。学校の周辺や、中学の時の友人達を通じて他校へもチラシを
配り、しっかり宣伝しておいたせいか、始まったばかりなのに、外部の人
間が続々とやってきた。
 ゆきは、小泉と連れ立って教室を出て行った。ゆきは頬を染めていた。
 理子は耕介と今日一日のスケジュールや段取り等を確認した後、
耕介と別れようとしたら、周囲から声が上がった。
 「お二人さん、一緒に行かないの?それとも、どこかで待ち合わせ?」
 指笛が鳴った。むかつく。いい加減にしてくれ、って感じだ。
 「残念でしたー。理子は俺と一緒だよー」
 と、そこへ枝本が割り込んできた。
 皆、一斉に驚いた。耕介も驚いている。
 「お、お前、いつの間に・・・」
 「じゃぁ、そういう事でー」
 と、枝本は理子を促した。理子も枝本の行為に驚いたが、
うざい連中にひと泡吹かせたようで、少々気持ち良い。
 教室を出た後、枝本がクックック・・・と笑っていた。
 「あいつら、凄い驚いてたな。一部の連中なんて、トンビにアブラゲ
さらわれたって感じの顔してた」
 「トンビにアブラゲ?」
 「そー。あいつら馬鹿なんだよ。結局、羨ましいから、あんな風に冷やかすんだ。
気があるならそんな事しないでアプローチすればいいのに。ガキなんだよな」
 理子は黙って枝本を見上げた。何を言っているのかわからない。
その視線に気づいて、枝本も理子の方を見た。
 「俺も昔はガキだったな」
 それだけ言うと、
 「さぁ、じゃぁ、どこから見る?」
 と言って、プログラムを開いたのだった。

 文化祭の時にはカップルができやすい。クリスマスと似たような
精神的欲求があるのだろうか?それとも祭りの高揚感か。この日は何故か、
カップルで回りたがる者が多い。
 去年は、須田先輩と一緒に回った。須田先輩は優しくて、いつも理子に
希望を聞いて、理子の希望を優先してくれた。常に気遣ってくれていた。
 今年はなんだか枝本のペースだ。枝本は一応、理子にも希望を聞くが、
互いの希望が一致しない時の決断が早い。自分の希望を優先すると言うよりは、
効率良く回れそうな方を優先するようだ。
 10時半少し前に一緒に作法室へと行き、枝本は主客となって、理子の
お手前のお茶を飲んだ。静謐な時間が流れた。茶道部のお茶会は盛況で、
どの回も定員12人しっかり入り、次の回を待つ人間がいる程だった。
さすがに緊張する。
 去年は初めてだった事もあり、何度か途中で次の動作を瞬間的に
忘れてしまう事があった。今年はさすがに、それは無かったのでホッとした。
 なんだか、男子が多いなぁ~。前の回も男子が多かった気がする。
 自分の番が終わり、後片付けと次の回の準備をしてから廊下へ出た。
やっぱり次の回も男子が多い。校内の生徒もいるが、他校の生徒も多かった。
やっぱり、女子だけの部って、人気があるのだろうか?
 並んでる他校の男子が、「ここの茶道部員は可愛い子が多い」と言っていた。
そういう理由で来るのか。
 廊下で枝本が待っていた。
 「足、痺れた~」
 と苦笑いしている。
 「お茶はどうだった?」
 「思っていたより、苦くないんだね。美味しかった」
 「それは良かった。薄茶は甘みがあるくらい、美味しいんだよね」
 「だけど、お茶を点ててる姿、良かった。女の子らしくて」
 「えっ?やだ。恥ずかしいじゃん・・・」
 枝本の思わぬ言葉に赤面する。
 「やっぱり、伝統文化っていいよね。日本女性らしさを感じる」
 「枝本君は、そういう方が好きなの?」
 「特にそういう方がいいってわけじゃないよ。良さっていうのは色々
あるから。その内の一つに過ぎないよ。日本の文化や歴史も、
良い面と悪い面と両方あるし」
 「うん、そうだよね」
 それから二人は再びあちこちを回りだした。各クラス、各部、
趣向を凝らしてあって面白い。それにしても人が多い。大盛況だ。
途中で自分たちのクラスに寄ったが、思っていたよりも人気があった。
朝二人が教室を出た時にいなかったメンバーは、二人が一緒なのに
驚いていた。特に女子は。
 午後1時、理子の合唱部のコンサートが音楽室で開かれる。今回理子は、
合唱の後にソロで歌うので大緊張だ。ソロで歌う事は、誰にも話していないので、
部員以外は知らない。
 枝本は当然のように一緒に音楽室に入った。入口にプログラムが置いてある。
それを見て、驚いていた。その枝本を尻目に、理子はさっさと楽屋である
音楽準備室へと入った。
 既に殆どのメンバーが集まっており、発声練習を始めていた。今回、
ソロで歌うのは、3年生の女子と、理子だけだ。3年生は今年最後だから
抜擢されたが、2年の理子も抜擢されるとは思ってなかったし、人前で
ソロで歌うのは非常に恥ずかしくて断ったのだが、顧問の音楽教師の
強い勧めで歌う事を決心した。
 歌うのはシューベルトの「ます」と、パイジェロの「うつろな心」だった。
「ます」はドイツ語で、「うつろな心」はイタリア語で歌う。
 やがて開園時間がやってきた。先生を筆頭に、準備室から順番に出る。
ピアノの横に三列で並ぶ。理子は真ん中だった。指揮は顧問の教師で、
ピアノは別の先生に頼んだ。
 ピアノの前奏の間、何となく、教室内を見回す。思っていたより
入っていた。ゆきも小泉と一緒に来ていた。耕介もいたし、茂木までいた。
枝本は一番前の席に座っていた。見知らぬ顔も多いが、先生方も数人きていた。
その中に増山を見つけて、理子は心臓が止まるほど驚いた。一番後ろの
窓際にいた。緊張感が一挙に高まった。
 合唱の方はまだいい。だが、ソロだ。どうしよう?先生の前で歌うの?
途中で帰ってくれたらいいのに。
 そんな事を思いながらも、何とか集中するように努めた。だが、
歌っているそばから、緊張が更に高まっていく。合唱が終わった時には、
足が震えてきていた。
 最初に歌うのは3年生だった。先輩はシューベルトの「野ばら」と、
「夢路より」を歌った。どちらも、ドイツ語と英語の原語だ。自分の番が
どんどん迫ってくる。体中が震えてきた。
 先輩が終わり、理子の番になった。物凄く緊張した状態で、前へ出た。
見ないようにしていたのにも関わらず、つい、増山の方を見てしまった。
おまけに目が合ってしまった。慌てて逸らしたが、増山は微笑んでいた
ようだった。考えてみたら、理子が歌っているのを、増山は一度聞いている。
だが、あの時はポップスの弾き語りだ。今回は声楽曲なわけで、歌い方から
して全然違う。上手く歌えなかったら、弾き語りの時よりも恥ずかしい。
 理子は何とか心を落ち着かせ、ピアノの方へ向いて頷いた。ピアノの前奏が
始まる。「ます」の前奏は短い。四小節で曲に入る。しかもテンポが早いので、
すぐに始まる。とにかく、歌うことだけに集中しなければ。
 原語で歌うのは難しい。発音もさることながら、感情表現がし難いのだ。
日本語なら、歌いながら歌詞の意味が自分にも聞き手にもストレートに
入ってくるが、原語は意味をわかっていても歌ってる時はどうもピンと
こない。特に「ます」は、川魚の鱒が釣られる様子を見ている人間の、
情景描写と感想が混じっている上にテンポが早いから、細かい表現をしにくい。
どこでどう歌うのか、事前によく考えて決めておいて、その上でしっかり
練習しないとならない。理子は、練習した通りに歌うよう、ひたすら心がけて歌った。
迷っていたら中途半端なものになってしまう。
 そうしてなんとか「ます」を歌い終わり、その頃には気持ちも大分
落ち着いてきた。歌う事に集中できてきているような気がする。
 次の「うつろな心」は恋の歌だ。恋煩いで、心がうつろになってしまった、
というような意味の歌だ。テンポはゆっくりで、短い曲である。この曲はただ
ひたすら、うつろな心の感情で歌えばいいので、「ます」よりは楽だ。
情感の変化がない。如何に恋煩いのうつろな心で歌えるか、それしかない。
 原語で歌うので、ドイツ語やイタリア語がわかる人間か、オペラが好きな
人間にしか、意味はわからないだろう。プログラムに大意は書いてあるが。
 この曲も前奏が短く、すぐに始まった。高音から始まる。綺麗な曲なので
好きだった。一生懸命情感を込めて歌った。歌い終わった時、思いのほか
拍手が多くて嬉しかった。とにかく何とか歌えたことで、理子自身も満足した。
 全員で挨拶して、コンサートは終了した。部員も顧問もみんな褒めてくれた。
有難かった。そんな皆と理子はすぐに別れて準備室を出た。2時からお茶の
お手前がある。急いで行かないとならない。枝本には話してあるので、一人で
走るように作法室へと向かった。
 客足は、午前中よりは減った感じだ。並んでいる様子はない。これなら、
午前中より、少し落ち着いた気分でお手前ができそうだ。自分の番まで、
20分はあるので、水屋の仕事をしながら息を整えた。お手前は大体20分少々で
終わるので、間の10分間で、お客の入れ替えと準備をする。
 理子の前の番が終わって、入れ替えに入った時、歓声が上がった。受付係の
女子が飛ぶように入ってきて、「増山先生が来た!」と言った。
 ええ~?なんでぇ~?どうして、またなの~?
 偶然なんだろうか?
 合唱部はプログラムの時間を見てきたのだろう。担任なので、まぁ、
来るのも理解できるが、お茶会の方は、理子のお手前の時間は枝本以外には
誰にも教えていない。部員に聞いたとは思えないし。
 水屋の方からそっと部屋を覗くと、案内係が主客を勧めていた。
 ひょえぇ~。主客かよ。私のお茶を先生が飲むのかい!うわぁ~、どうしよう?
 まぁ、どこに座られていても、点てている姿を見られるのは恥ずかしい
ものがある。緊張して、手を滑らせて失敗しなければ良いのだが。
 室内も、受付件待合用の教室の方も、増山の存在にざわめいていた。
普段接する機会が少ない1年生などは、顔を紅潮させて見とれているし、
他校の女生徒も顔を赤らめてヒソヒソと話していた。この回は、朝と違って、
男女半々だった。石坂先生も来ていた。気楽にできそうだと思っていたのに、
とんでもなかった。朝より緊張してきた。しかも、今さっき、歌を聞かれた
ばかりなのだ。
 先生は、私が登場したら驚くだろうか?
 そう思いながら、時間がきたので、入口に正座して、扇子を前へ置き、
おじぎをした。顔を上げた時に、チラッと増山を見たら、全く驚いた様子が
無かった事に、理子の方が驚いた。まさか、私って知ってた?そうだとしたら、
何故?納得いかない。いかないが、始めるしかない。
 水屋に戻り、まず水差しを持って部屋へ入る。まっすぐ正面へ歩き、
窯の左横へ置く。立ち上がって、踵を返し、しずしずと水屋へ戻る。
次は懸垂と柄杓、そして茶碗と棗。全部揃った所でしっかり座り、
居住まいを正す。
 左腰に挿してある袱紗を取り、捌(さば)く・・・。一連の行為を流れる
ようにこなす。目の前に増山が座っている。理子は手元を見ているので、
増山の膝あたりしか視界には入ってこない。それだけが救いだ。
 少々緊張するのは、お抹茶を茶碗へ入れた後にそそぐ湯だ。
入れすぎないように注意した。
 茶筅で最初に「い」の時を書くように茶碗の端をなぞり、それから縦に
手首を振って点てる。増山が飲むんだと思うと、力が入る。念入りによく点てねば。
しっかり泡立った所で、「の」の時を書くようにして茶筅をあげる。
 理子は体の向きを変え、茶碗を取って回し、定位置に置いた。増山は
次の客に軽く会釈をすると、長い手を伸ばし、一端自分の前へ茶碗を置いて
おじぎをした。見たところ、心得ているようだ。そう言えば、点てている間に
お菓子が出るのだが、その時の作法もスムーズだったように思えた。
 再び茶碗を手に取り、左へ二回、回した。茶碗を回すのは、茶碗の正面の
模様を避ける為だ。亭主が回すのは、お客に茶碗の正面を向ける為である。
飲む時は、その正面を避けるのが礼儀とされている。回す回数は表・裏や
流儀によって多少異なる。
 理子は伏せ目がちに、増山の様子を観察していた。動作が慣れている。
どうやら嗜みがありそうだ。お茶は3回で飲み干す。最後に飲み干す時に、
増山の喉が見えた。右側の首すじに、黒子があるのに気付いて、ドキっとした。
 増山の茶碗が返された。それを引き取って、洗う。その手が震えた。
茶碗を手に取った時、増山の手のぬくもりが残っているように感じたからだ。
朝、枝本に点てた時とは、明らかに違う感触だった。どうしてこんなにも、
心が揺さぶられるのだろう。それに、増山が口を付けた部分に神経が集中した。
ドキドキする。
 自分の手元を増山がじっと見ているのを感じた。見られている。それだけで
緊張する。そこに、二人だけの時間と空間があるような感じがした。
 茶碗を洗い、茶筅を洗い、入ってきた時と逆の順番で、道具を持って
水屋へ戻る。そして、最後に、茶室の入口で扇子を置いて深々と
お辞儀をして終了である。
 理子は最初から最後まで、増山とは目を合わせなかった。合わせて
いたら、頭が真っ白になって、何もできなかっただろう。
 お辞儀が終わって、完全に水屋に下がった時、物凄い緊張から解き放たれた
感じがした。部屋の隅に崩れおりた。普段よりも緊張して、余計に
足が痺れたような感じだ。
 「大丈夫?理子?」
 と、皆に介抱された。
 「そりゃ、緊張するよね。増山先生なんだもん」
 皆が口々に言った。
 「ついてるんだか、ついてないんだか、わからないよねぇ」
 と言う言葉には納得だ。
 理子はそこで暫く休んでから、廊下へ出た。もう誰もいない。ホッとした。
 だけど、どうして増山先生に私は心を乱されるのだろう。相手は
教師なのに。大人で住む世界が違うのに。自分で否定しても否定しても、
否定しきれない想いがあるようだ。会わなければ、多分大丈夫だと思う。
これ以上気持ちが進む事はないだろう。だが担任だから、否が応でも毎日会う。
おまけに、こうして、何かと接触がある。
 本当なら、少しでも先生とのふれあいが多い方が嬉しい。相手が同じ
高校生だったら、毎日、こういうふれあいが嬉しくて仕方なかったろう。
だが、相手は大人だ。教師だ。嬉しいだけで、憧れだけで済むのなら良いが、
このままでいったら、本気になりそうだ。それが怖い。
 叶わぬ恋に本気になっても、辛い思いをするだけだ。相手にされない事は
わかりきっている。
 そんな事を思いながら、枝本が待っている場所へと向かうのだった。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>柳一様 

柳一さん♪

まだお若いのだから、諦めずに精進なされば良いのにと思います。
得意なものは無いとおっしゃってますが、私は文才あると思ってますよ。
もう少し色々勉強されて、練れてきたらイイ線いくと思うのですが。
とは言え、自作に自信を持てる人なんて、早々いないとは思っていますけども。

私は今回、10年ぶりくらいの執筆です。
書く意欲が全く無くなってしまっていたので。
ある刺激を受けて、いきなり書きたい欲が湧いてしまい、
驀進中です。だから疑問に思う点、沢山あるかと思いますが、遠慮なく
おっしゃってください。ヨロシクです。

NoTitle 

 再びお邪魔します。


 いや、そんな、身構える必要ないのですよ(汗)
 このお話はnarinari様のお話ですし、narinari様がいろんな思いを込めて造り出した素敵なお話ですっから、それ自体にダメ出ししたりなどという野暮ったいことはいたしません。
 ただ、同じ物書きの立場から見て「これはどうなんだろう?」と思ったことを述べさせていただこうと考えただけですので、そこまで気にせずとも「ふーん、そっか」くらいに思って頂けたら幸いでございます。

 私も六、七年物書きしていますが、才能がないのでプロになることをあきらめているんですよ。ですから、narinari様となにも変わりません。
 なので、上から目線でも下から目線でもなく、あくまで同じくらいの立ち位置から(でもちょっと下から目線でしょうか……)率直な意見を述べさせていただきたいなあ、なんて考えています。
 その際には、どうかよろしくお願いいたします♪

Re: NoTitle>柳一様 

柳一さん♪

こんにちは。忙しくて時間無いのに、わざわざ読んで頂き恐縮です。

いやぁ~、なんだか怖い気がしますね。
まぁ、自分的には突っ込みどころ満載だと自覚しております。
無駄な部分が多い為に無駄に長いし、主題は曖昧だし、話の流れも
起伏に欠けてて退屈な個所も多いし、ばっさりスパッとしたいし
出来る部分もありながら、あえてダラダラと書いているのは自覚しているので、
ウケないのも自覚しております。

書きながら迷ってる部分があるんですよね。だからつい、いらぬ事まで
書いてしまう・・・。
もうプロになる事はとっくに捨ててますので、娯楽として書いてますが、
思う所があるようでしたら、おっしゃって頂きたいと思います。
今後の参考にもなりますので。宜しくお願い致します。

NoTitle 

 こんにちは♪ いつもお世話になり、ありがとうございます。
 先日はご心配をおかけして申し訳ありません……今はわりと元気です♪



 さて、小説もここまで読ませて頂きました。
 それにつきまして、ちょっといろいろ思うところなんかもいくつか浮上してきました。
 一つの小説として、同じ小説書きとしての意見なんかもそれなりにあるのですが、ただ、そういうのをいきなりボンボン申しあげるのも失礼かなあと思いまして……

 どうでしょうか、話自体の感想だけでなく、作品そのものを一個の小説として拝見するにあたっての意見や批評のようなことも言ってしまって大丈夫かなあ、と思っています。
 もし、そういう意見批評も大丈夫です、というのであれば申し上げてみたいのですが、いやいや、そんな批評は要らない、普通に読んでくれるだけでいいよ、というのなら自粛したいと考えております。

 それでは失礼いたします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
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