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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第22章 卒業~第24章(最終章) 旅立ち


クロスステッチ 第1部第22章 卒業 第1回

2010.05.03  *Edit 

 卒業式の日も、理子はいつもと変わらない時間に登校し、静かに
教室で本を読んで過ごした。寒いが天気は良く、空気が澄んでいて
空が綺麗だった。みんなと顔を合わすのも今日が最後だ。そう思うと、
矢張り寂しい。ゆきや美輝とは、卒業しても定期的に会おうと約束
している。だが、男友達とは、そういう訳にはいくまい。
学校だからこそ、楽しく一緒の時間を持てたのだと思う。
 理子は、彼らとの会話が好きだった。何と言っても、女の子と
話す時のように神経を使わなくて済むのが楽だ。増山は理子をウブだと
言っているが、理子が男子と具体的にどんな会話をしているかは
知らない。単に、歴史や科学など、男子が好きなものの話しをして
いるだけだと思っているが、理子は男子の猥談にも参加して、
一緒に談笑している。
 中学の時から、そうだった。だから、一時期「男おんな」と言われて
いた事もある。「お前は男子の中で揉まれて成長するタイプだから、
女子高は合わない」と、担任に共学を勧められた。そんな理子だから、
哲郎から女扱いされなかったのも、仕方なかったのだろう。
 最後の日だからなのか、いつもよりも、みんなが集まって来る
時間が早いようだ。
 「おはよう!」
 と、いつもの爽やかな笑顔で岩崎がやってきた。毎日の、当たり前の
光景だが、今日が最後だ。理子はこの笑顔に、どれだけ癒されて
きたかわからない。この、爽やかでのほほんとした表情を見ると、
自然と気持ちが落ち着いてくる。
 「はい、これ」
 と、理子は岩崎から頼まれていたサイン帳を渡した。岩崎からも、
理子のものを渡された。互いに、最後に頼んだのだった。最後に
なったのは、席が前後と言うこともある。
 「受験、どうだった?」
 岩崎が小声で聞いてきた。2日目の夜に、メールでも問われていた。
 「うん。上出来だったと思う。あの後、数学の答案を増山先生に
ファックスで送ったの。そしたら、完璧だって言われた。数学でそう
なら、他はもっと自信あるから、いけると思う」
 理子は少し照れながら言った。
 「そっか。それは良かった。それなら、絶対大丈夫だよ。
理子は随分頑張ってたし、自分で実力を出し切れたと思うなら、
間違いないと思う」
 「ありがとう。岩崎君は、どうだったの?」
 「僕の方も、まぁまぁ自信はあるんだ。補習クラスで教わった事が
生きたと思う。でなかったら、結構戸惑う部分もあったと思うんだ」
 「あ、それは同感。受験テクを教わっておいて、本当に良かった
よね。あれを知っているのといないのとでは、随分と結果に大きな
違いが出たと思う」
 二人でそう話している所へ、登校しだした生徒達が集まって来た。
全員が揃うのは久しぶりだ。結果は卒業式の後だが、取りあえず試験は
終わっているので、皆の目は少し落ち着いている感じがする。
2次試験の話しになり、皆そこそこ出来たようで良かった。
 廊下の方で歓声が上がった。女子が騒いでいる。何事かと、みんなで
廊下の方へ視線をやったら、増山が入って来た。白のネクタイをした
正装姿である。教室内にいた女子からも嬌声が上がり、男子はおおぉ~と、
どよめいた。理子は声が出ない。
 いつ見ても素敵な男性だが、今日の姿はひと際だった。こんな騒ぎは、
初めて赴任してきた時以来じゃないだろうか。あの時は、周囲の騒ぎに
冷然としていた増山だったが、今日は微かに笑みを浮かべている。
自然体だ。きっと、慣れたのだろう。卒業式と言う、晴れの日
だからかもしれない。
 「みんな、卒業おめでとう。一年間、俺の生徒でいてくれて、
ありがとう。このクラスは全員進学希望者だったから、俺も随分と
頑張ったつもりだが、みんなもよく頑張ってくれたと思う。結果が
まだの者も多いが、俺はみんな、大丈夫だと信じてる。だから、
今日の卒業式は、みんな胸を張って、卒業証書を貰って欲しい」
 増山の言葉に、女子の一部が涙ぐみ、そして、拍手が湧いた。
みんな、増山に感謝しているのだ。先生がいなかったら、みんな
ここまで頑張れなかっただろう。しっかり目標を定め、途中で
息切れする事なく、意欲的に取り組めた。地獄のような受験勉強
では無かった。みんながやりきれた達成感を感じていたのだ。
 「さぁ、みんな行くぞ。廊下に並んでくれ」
 増山の言葉に、みんなは席を立ち、廊下へ並び始めた。まだ泣いて
いる女子がいる。理子も少し涙ぐんでいた。
 10組は最後に入場だ。体育館には、既に全生徒が控えていた。
下級生達の間を拍手を受けて進んで行くのだが、先頭の増山が入った時、
体育館の中で、女子の大きな歓声があがった。その声に驚いて、
既に着席している卒業生たちも振り返り、増山を見て、更に嬌声が
上がった。司会を務める副校長が、何度も「静粛に」と声を掛けた。
何度めかの声かけで嬌声は止んだが、ざわざわと落ち着かない。
10組の生徒が全員着席した所で、やっと静かになった。
 こうして、卒業式が始まった。生徒が多いので、次々と呼ばれては
壇上へ上がり、卒業証書を校長から手渡される。理子は今年度の出席
番号は最後では無かった。「渡辺さん」がいたので、最後から
二番目である。それでも、ほぼ最後であるから、自分の番が
回ってくるまでは、退屈だ。
 やっと10組の番になり、9組の担任と増山が入れ替わって
壇上下のマイクの前に立つと、軽い嬌声が上がった。一番から順番に
名前を呼ばれる。最初の生徒が呼ばれた時、その美声に、また嬌声が
湧いた。本当に、素敵な声だ。自分の名前を呼ぶ時だけでも、録音して
おきたいと思う理子だった。多分、女子はみんな同じように思って
いるかもしれない。
 「吉住理子」と静かに呼ばれた時、理子の胸は高鳴った。
こうやって、フルネームで呼ばれるのは、これが最後かもしれない。
練習通りに理子は立ち、増山の前を通過して壇上へと上がった。
校長が卒業証書を渡す時、「おめでとう。よく頑張ったね」と言った。
理子は笑顔で「ありがとうございました」と答えた。礼をして
壇上から降り、自分の席へと戻った。
 その後、式は粛々と進み、滞りなく終わった。各クラス、
一端教室へ戻った後、体育館は謝恩会の会場として生まれ変わる。
生徒達は、各教室で成績表、アルバム、記念品等を受け取った。
10組は、それにプラスして、文化祭の時に作った映画のDVDが
配布された。
 準備が整うまで、まだ暫く時間があり、女子の一部が増山に携帯で
一緒に写真を撮りたいと言い出したのを皮切りに、殺到した。
いつもならつれない増山だが、最後の最後だからだろう。
一緒に写真を撮りだした。
 「時間が無いから、さっさとな。一人一回」
 などと言っている。それぞれが携帯を出し、撮りっこしてるのを
見かねて、理子が撮影係に名乗りを上げた。ついでに、整理誘導する。
 「順番に並んでねー。自分の番がくるまでに、携帯の準備をしておくこと」
 と言って、順次携帯を受け取っては、ツーショットで撮ってやる。
みんな嬉しそうな顔をしていた。20人ほどだが、理子が手際よく
撮影したので、ちょうど時間までに撮り終えた。「ありがとう」と
みんなに感謝され、嬉しくなる。「理子はいいの?」と聞かれたので、
この際だから、ついでに撮って貰う事にした。正装姿なんて滅多に
無いから、撮りたい気持ちはあったのだ。
 理子との撮影が終わった時、「あー、疲れた」と増山が言った。
女子達に合わせて、少し中腰になっていたからだろう。この分だと、
謝恩会でも同じ現象が再現されることになるかもしれない。
 謝恩会の準備が整い、会場の体育館へと移動した。長机に白い
クロスが掛けられて、ずらっと並んでいた。基本はクラス毎だが、
30分を過ぎたら自由に移動して良い事になっている。テーブルの
上には、軽食と飲み物が置かれていて、まず最初に、乾杯が待っていた。
 「みんな、卒業おめでとう!これからの未来を祝して、乾杯!」
 と、校長の音頭で乾杯した。
 既に進路が決定している生徒達は、最初からテンションが高い。
発表をこれからに控える国立組は手放しでは喜べない感じだ。だが、
試験そのものは終わっているので、切羽詰まった表情の者はいなかった。
 「理子と岩崎君って、仲がいいよね。もしかして付き合ってるの?」
 と、女子に訊かれた。理子は首を振る。
 「じゃぁ、茂木君?」
 その言葉に、周囲の男子が
 「理子は茂木の彼女じゃねーよ」
 と言った。
 「えー?じゃぁ、誰の彼女なのぉ~?」
 と別の女子が言うと、
 「誰の彼女でもないの」
 と、言われた。
 周囲のやり取りを聞いて、理子は苦笑した。
 「それって、誰とも付き合って無いって事ぉ?」
 「そうだよ。俺達いつも一緒にいるから、わかるよなー」
 と、周囲の男子に同意を求め、みんなが「おお」と返事をしている。
なんだか、複雑な気分だ。みんな3年で受験生ではあっても、
彼氏彼女のいる生徒が多かった。そんな中で、彼氏がいないって、
恥ずかしいような気持ちになってくる。勿論、彼氏はいるわけだが、
公言できない。でもそのうちに、みんな知るんだ。
理子と増山が結婚する事を。
 みんな、ショックを受けるだろう。どんな反応をするんだろうか。
増山の結婚を、女子の多くがショックを受けるだろう。結婚すると
言うだけでもショックだろうに、その相手が理子と聞いたら、
許せない気持ちになるかもしれない。
 「なぁ、理子―。最後だから、写真撮ろうぜ、写真」
 一人がそう言いだし、周囲の男子が次々にツーショットを
撮りだした。あらら?なんで?そんな気持ちである。普段、平気で
猥談したりして、男の子と変わらない筈なのに、なんでツーショット?
そう思いながらも、カメラを向けられると、つい笑顔になる。
 女子の誰かが、「八方美人」と言っているのが聞こえた。やっぱり、
そう思われてるんだ。だが、その一方で、女子達からも一緒に写真を
撮ろうと誘われた。それが、とても嬉しかった。3年になってから、
10組の女子とは、いまひとつ親しくなりきれなかったのが、
心残りでもあったからだ。
 謝恩会は、記念撮影会の会場のようになった。30分経って、
自由に行き来できるようになったら、みんなが思い思いの相手と
写真を撮ったり、集まったりしている。
 理子の元には、歴研のメンバーを中心に、矢張り男子が多く
集まって来た。勿論、そばにはゆきと美輝がいる。歴研では、
午後に打ち上げをしようということになっている。他の部活や
同好会でも、打ち上げをする所が多いようだ。
 また、それとは別に、茂木、枝本、岩崎、ゆきと理子の5人で、
明日、ファミレスでランチをしようと約束していた。茂木、枝本、
ゆきは、既に志望校に合格しているので、その合格祝いも兼ねている。
理子は、そのランチの前に、教習所へ入学の手続きに行く事に
なっていた。春休みは教習所通いで忙しくなりそうだった。
 「姫、写真をお願いします」
 歴研のメンバーが順番にツーショットを申し込んで来たので、
理子は一緒に撮る。ゆきも美輝も同じように申し込まれて撮っていた。
 先生方の方を見ると、増山が女子達に囲まれて、次々と写真を
撮っていた。熊田先生が撮影係になっている。まさに、10組での
再現である。女子は、増山との撮影が終わると、他の人気の先生の
所へ行っては、またツーショットを撮っている。
 「凄いよな~、増山人気。普段冷たい先生も、さすがに卒業式だけは
冷たくできないみたいだな」
と、枝本が言った。
 「あの先生は、本当は優しい人なんじゃないかな。ただ騒がれるのが
嫌なだけなんだよ。真面目な女生徒には親切に接してると思うよ」
 と、岩崎が言った。理子は岩崎の言葉に感心した。先入観無しに、
冷静に観察している。理子も、その事に関しては、早くから気付いていた。
 「ほら、理子、また来たぞ」
 と、茂木に言われて見ると、合唱部の男子達がやってきた。
 「理子、写真お願いー」
 と言われ、一緒に写真を撮る。何だかんだで引っ切り無しだ。
写真以外でも、サイン帳を持って来る者もいた。
 「理子って、やっぱりモテるよな」
 と、茂木に言われ、首を傾げる。
 「何首ひねってるの?」
 「だって・・・。モテるって、モテてるの?私・・・」
 「モテてるじゃんか。何言ってんの」
 「理子って、そっち方面は鈍いんだよ」
 と、枝本が言った。
 「鈍いって・・・」
 「だって、そうじゃないか。理子ってさ。はっきり言われないと
わからないんだよな」
 そう言われて、理子は赤くなって俯いた。確かにそうかもしれない
と思ったからだ。
 「ははぁ~。確かにそうかもなー。俺達が送る信号に、
全然気付いてくれなかったしな」
 と、茂木が言った。
 「そうだよ。だから、耕介!ちゃんと言わないと
わかってもらえないぞっ」
 近くにいた耕介は、枝本にいきなり振られて、真っ赤になった。
 「な、な、な、・・・何、い、い、言ってるんだよぅ」
 耕介は緊張すると、すぐにどもる。
 理子も枝本の言葉に驚いた。 
 「り、理子を、す、す、好きなのは、茂木だろうがっ!
お、俺は、茂木の為に骨折ったんだぞ」
 そうか。去年、眼鏡が好みとか言う話しをした時の事を、
理子は思い出した。
 その時、「10組の吉住さん、マイクの所までおいで下さい」
と呼ばれた。驚いて皆で顔を見合す。
 「ごめん。ちょっと行って来るね」
 理子は急いで、マイクの所へ行くと、
「校長先生が呼んでるから、壇上裏に行って」と言われた。
 校長先生が?理子は首を傾げながら、ドアを開けて中へ入ると、
校長と副校長がいた。
 「吉住さん、よく来てくれました。二次試験の方は、どうでしたか」
 と訊ねられた。二次試験明けが卒業式なので、試験の出来が
どうだったのか、先生方はまだ知らないのだ。
 「はい。十分力を発揮できたと思います。自分としては自信があります」
 理子の言葉に、校長と副校長は顔を見合わせた。
 「そうですか。東大模試の判定もAだったから、力を発揮
できたのなら、合格してるでしょう」
 二人は、取りあえずはホッとしたといったような表情をした。
 「本当に、長い間、よく頑張りましたね。合格発表の時には、
必ずすぐに学校へ連絡して下さいよ」
 「はい。わかりました。色々ありがとうございました」
 理子はそう言うと、仲間の許へと戻った。
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~ Comment ~

Re: 卒業おめでとう>OH林檎様 

OH林檎さん♪

ありがとうございます。
私も先生と一緒に写真撮らせて欲しいですv-238
いいなぁ~、みんなぁ~、と指をくわえてました。

卒業式って、やっぱり切ないですよね。仲良しの子とは約束して会えるけど、
それ以外とはもう会えない。
特別会いたいわけではないけれど、なんか寂しい感じがします。

合格発表は、次章になります。
もう少し、お待ち下さいませ~<m(__)m>

卒業おめでとう 

なんだか胸が熱く…
自分の(はるか昔の)卒業式を思い出して、切ないです。
あと…
私も正装の増山先生と写真撮りたい!
もーーー想像するだけでどきがむねむね!!!!
きっと美しいんでしょうねぇぇぇ。

次はいよいよ合格発表ですね。
き、緊張するーーーー!
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