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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第4章 漣 第2回

2010.02.23  *Edit 

 学級委員の仕事は、思っていたよりも忙しかった。まずは、文化祭がある。
期末が終わった7月の後半から準備は進められてきていたが、この時期は
仕上げに入る。2年6組は水風船すくいと、綿菓子をやる。段取りはほぼ
できているので、そちらは手順通りに進めればいいが、道具の製作がある。
自分の部活も2つもある為、目まぐるしい忙しさだ。帰宅部の耕介に大体を
任せるしかない。
 合唱部は音楽室で歌う。茶道部の方は各人の出番と水屋での仕事の当番が
ある。家へ帰っても、なんやかやと考えてしまい、勉強に集中できなかった。
 そんな、文化祭を間近に控えたある日の昼休み、理子は借りていた本を
返し新しい本を借りる為に図書室にいた。朝霧高校の蔵書は結構多い。
まだまだ読んでいない本がたくさんある。次は何にしようと物色している時に、
声をかけられた。見ると、枝本だった。
 ドキリとした。枝本の方から声をかけてくるなんて予想していなかった。
お互い、無視していたわけでは無かったが、理子の方は敢えて、顔を合わせ
ないように意識していた。矢張り気まずいのである。
 「あのさ、・・・久しぶりだね」
 枝本はしどろもどろな感じで言った。枝本の方も、何をどう言ったら
良いのか分からない感じだ。
 「うん。元気だった?」
 「うん。だけど、転校してきて驚いた。君がいたんで」
 お互いに何となく視線を交わせずにいた。
 「あたしも・・・」
 物凄い勢いで心臓が動いている。


 「あのさ。お互いに昔の事を気にするのは止さないか?」
 理子は枝本を見た。目が合った。懐かしい目だ。全体的に大人っぽく
なっていた。だが、目だけは変わっていない。キラキラとして綺麗な目だ。
 中1の三学期、毎日この目を見ては、彼の気持ちを推し量り、一喜一憂
していたのだった。その目が、今再び目の前にある。
 「同じクラスの中にいて、何となく気まずいのってイヤなんだ。クラスメート
として普通に接したいって思うんだけど、吉住さんはどう思う?」
 少し低い落ち着いた声だった。以前はもう少し声が高かったと思う。
変声期前だったからだ。
 「うん・・・。私もそれは同じ。普通にできるのなら、そうしたい。だけど、
あれからずっと気になってる事があるんだ。それを訊いても、いいかな?」
 理子の言葉に、枝本は戸惑いの表情を僅かに見せたが、頷いた。
 「いいよ。何?」
 「あの、・・・私の事、怒ってない?」
 恐る恐る尋ねた。ずっと気になっていた事だ。手紙の返事が無かった
ことで、前の彼女の時と同じように怒っていやしないか。それが
一番の気がかりだったのだ。
 理子の言葉に枝本は不思議そうな表情をした。
 「怒ってなんかいないよ。何故怒らなきゃならないの?」
 「私の方からサヨナラの手紙を出した事で、枝本君のプライドが
傷ついたんじゃないかと思って」
 「俺のプライド?」
 「うん。誇り高い人だから。女の方から別れを告げられて、黒田さんの
時のように怒ったんじゃないかなって、ちょっと思ったの」
 黒田とは、前の彼女の事だ。
 「黒田さんの時とは別だよ。そんな事を気にしてたんだ。俺が返事を
出さなかったからか。あの時は、悪かったのは俺の方だよ。何度も約束を破って、
自分から連絡もしなかった。吉住さんが嫌になるのは当たり前だと思う」
 「私、嫌になったわけじゃないよ。辛くなっただけ・・・」
 理子はそう言って俯いた。言ったそばから恥ずかしくなったからだ。
 「じゃぁ、俺の事を嫌いになったわけじゃないの?」
 「うん・・・」
 「そっか。それは良かった。俺の方は、それを気にしてたんだ。
嫌われたのかと思ってたから」
 意外な言葉だった。離れてしまえば、すぐに興味を失う程度の
在だったのだろうと、思っていたのに。
 「じゃぁ、これからは、友達としてよろしく。吉住さんが、歴史が
得意だって知って驚いてたんだ。これからは気軽に話せる」
 歴史か。思い起こせば、新しい中学で歴史クラブを創設し、理子と
約束した日に、それを忘れて友人達と発掘へ出かけて行ったのが、
最初のすっぽかしだった。理子は一時間待った。その後、家へ電話したら、
電話に出た枝本の母親から、発掘に出かけて行った事を知らされたのだった。
 本人が帰ったら電話させる、と言われたが、夜、いつまで経っても電話は
来なかった。仕方なく自分の方から電話をしたら、「ごめん、忘れてた」と
言われたのだった。以来、何度も同じような事が続き、春休み以降、結局
一度も会えずに日ばかりが経ってゆき、とうとう理子は耐えられなくなった。
思い出すと辛い。やめよう。
 「じゃぁ、これで。後で教室で」
 枝本はそう言うと、去って行った。理子は溜息をついた。少々複雑な思いだ。
これで、過去の事を気にすることも無くなったし、顔を合わせないように気を
使う必要もなくなった。だが何故かスッキリしない。
 友達かぁ。・・・友達、ねぇ。

 この日から、理子の周囲がまた賑やかになった。
 理子と耕介がそろって学級委員になった為、休み時間に耕介が自分の席から
離れない事が増えた。その為、茂木や小泉が再び耕介の席の方へ来る事が多く
なり、そこへ枝本も参加するようになったのだ。枝本はクラスの人気者なので、
その枝本目当てでまた人が集まってくる。
 理子にとっては、煩くてたまらない。ゆきは、皆の話に目を輝かせて楽しそうに
参加している。仕方がないので、理子は耕介に用事が無い時や、用事が終わった後は、
図書室へ移動するのだった。
 文化祭前日だった。
 理子が席を立った時、誰かが
 「耕介、奥さんがどっか行っちゃうよ」
 と言った。
 それを聞いて、二人してギョっとした。
 「な、な、何言ってんだよ。奥さんって、何だよそれ」
 耕介の顔が真っ赤だった。
 「だって、仲いいじゃん。付き合ってんじゃないの?」
 「ば、馬鹿言え!そんなわけないだろう。なぁ?」
 と、赤い顔でどもりながら、理子に同意を求めてきた。
 理子が周囲を見回すと、何人かが冷やかしの表情を浮かべている。
 馬鹿馬鹿しい。
 理子は黙ってその場を立ち去ろうとした。
 耕介が大声で、
 「おい!なんで否定しないんだよー」
 と情けなく叫んだが、無視して教室の外へ出る。
 付き合っていようが、いまいが、どうでも良い事だろうに。耕介って
純情だな。顔を真っ赤にさせちゃって。あれじゃぁ、からかい甲斐が
あるってものだ。
 だが。これからどうするか。否定しなかった事で、みんなに矢張り
付き合っていると思われただろうか?クラス中の噂になるのか?
必死に否定した耕介の言葉は信用されないのだろうか。
 こういう時、大抵必ず、「耕介と付き合ってるって本当?」とか、
「耕介のどこがいいの?」ってぶしつけに言ってくる女子がいる。
それを聞いて何の意味があるというのだろう。普段から親しくない人間ほど、
そう言ってくるのが多い。それに対して、答える義務なんて無いだろう。
 理子は何だか腹立たしくなってきた。図書室へ入って席へ着いたものの、
読書に集中できない。仕方なく、外を見たら、中庭にあるテニスコートで
増山と古文教師の小松真純がテニスをしていた。周囲には多くの女子が
見物している。二人とも上手い。特に増山は手足が長いので、殆ど
ポジションが動かない。
 古文の小松は、増山と同じく新卒で、東京女子大出身だ。テレビドラマで
人気の女優に少し似ていて、本人も自分のルックスに自信があるようで、
それを鼻にかけている節がある。美人なので、最初男子生徒に騒がれたが、
高慢で刺々しい性格の為に評判は悪い。
 小松は増山に気があると、もっぱらの噂だ。アプローチには冷たいと
言っていたのに、一緒にテニスなんかしちゃって、と理子はなんだか気に入らない。
だが、こうやって見ていると二人はお似合いだ。美男美女のカップルに見える。
やっぱり先生は大人なんだ。女子高生なんて、先生から見たら子供だよね。
あんなに素敵なんだから、恋愛経験も豊富だろう。相手もより取りみどりに違いない。
 なんだか、寂しいな~。教師に憧れているだけなんて・・・。
 「何見てるの?」
 突然声をかけられて驚いた。枝本だった。いつの間に?
 「増山先生かー。一緒にテニスしてるのは、小松だな。
凄いなぁ、女子が・・・」
 理子は黙っていた。
 「もしかして、吉住さんも増山先生のファンなの?」
 「えっ?」
 驚いて枝本を見た。
 「ううん。外が騒がしいから見てただけ。二人とも上手いから驚いてた」
 「似合いだよな」
 「そうだね」
 「ところで、何で何も言わずに出てっちゃったの?」
 妙に無邪気な目をしている。好きだった時も、少年のようにキラキラしていると
憧れた目だったが、今も変わらないのが不思議だった。心惹かれる目だ。
 「なんか、馬鹿馬鹿しくなっちゃって」
 「馬鹿馬鹿しい?」
 「だって、結局のところ冷やかしでしょ。いちいち相手するの、面倒くさい」
 理子の言い方はどこか投げやりな感じだった。
 「面倒臭いって、じゃぁ、誤解されたままでいいの?それとも、
噂は本当なのかな」
 「なんで、そんな事を聞くの?付き合っていようがいまいが、
そんなのどうでもいいことじゃん」
 機嫌が悪くなってきたのが、自分でもわかった。
 「俺には、・・・どうでも良くない・・・」
 枝本は力なく言った。語尾は声が小さくなった。
 何、今の台詞?理子は枝本を見る。枝本は少し気まずそうな顔をしていた。
「ごめん。俺は気になるんだ。だから、教えてくれないかな」
 開き直ったような言い方だった。だが、理子は動揺した。気になるって?
なんで?その方が気になる。
 「わかった。じゃぁ、何を教えればいいのかな?」
 「まず、彼氏はいる?」
 「いません」
 「3年生の彼氏がいるって聞いたけど」
 「もう、別れてる」
 「じゃぁ、耕介と付き合ってるの?」
 「付き合ってない」
 「付き合ってないけど、好きだとか・・・」
 「なんか、凄い根掘り葉掘りだよね」
 ここまで聞かれる理由がわからない。
 「ごめん・・・」
 枝本は項垂(うなだ)れた。
 普段から気の強い枝本が、項垂れるのなんて初めて見た。だけど、
「ごめん」の言葉で、過去が蘇る。何かアクシデントがある度に、
「ごめん」と言われた。彼からそう言われるのが、当時の理子はとても好きだった。
心配してくれるのが嬉しかったのだ。
 枝本との接触が増えるごとに、昔を思い出し、昔の気持ちが蘇り、胸
が熱くなってくるのだった。1年間、ずっと思っていた相手だ。大好きだった。
切なくて、辛くて、幸せだった。枝本を見ていると、あの日の自分に戻る気がする。
 理子は少し息をついた。どうも自分は刺々しいようだ。
 「こっちこそ、ごめんね。質問の答えだけど、耕介の事は気の合う
友達としては好きだけど、異性として好きとか、そういうのじゃないから。
あいつはいい奴で、凄く気が合うんだよね。でも、それだけ」
 枝本は安心した顔をした。
 「そうか。でもそれじゃぁ、尚更、誤解されてちゃまずいんじゃないの?」
 「だって、耕介は否定してるんでしょ」
 「そうだけど、あいつ、真っ赤になってシドロモドロだから、みんな照れ
隠しって思ってるみたいだ」
 「そうなんだ。うーん・・・・、どうしようかな。面倒くさいから
ノーコメントで通しちゃおうかな」
 「えー?いいのかよ、それで」
 「それはそれで、なんか面白くない?」
 理子は笑った。真実は当人だけが知っている、って言うのもオツだ。
 「あと、わざと、そういうフリをするのも楽しいかも」
 「って、吉住さん、変だよ、それって」
 枝本の顔は、理解しがたいと言っているように見えた。
 「シャレよ、シャレ」
 「それって、耕介が可哀そうな気がする・・・」
 「もしかして、私って罪な女かしら?」
 そう言って笑う理子を見て、枝本は今まで見たこともない理子の一部を
垣間見た気がした。
 「話し変わるけどさ。歴史研究会を作らない?」
 枝本の提案に、ひどく驚いた。
 「この学校って、歴史の部活が無いよね。好きな連中多いのに。
鉄研はあるのに歴研が無いなんて」
 「うーん。そうだよね。でも、今さらって気もする」
 「今さら?」
 「だって、もう2年も半ばだよ。あと半年すれば受験モード全開って
感じでしょう?おまけに、文化祭は明日だし。作った所で、私達には
もう出番が無いじゃない」
 「そういうの、関係ないと思う。出番が無くたって、活動できる期間が
短くたって、好きならやりたいって思うもんじゃないの?」
 枝本は、好きだから、もっとみんなと語り合いたいんだと続けた。
 その気持ちはわかる。今のクラスになって、歴史好きと仲良くなって、
どんなに楽しいか。出来る事なら、もっと色々と歴史談義をしたいとは思う。
 「耕介は賛成してる」
 「耕介に話したの?」
 「うん。まだ耕介だけだけど。10人いれば、同好会として発足できるらしい。
15人以上で、一応部活扱いになる。吉住さんは他に2つも部活に入ってるから、
これ以上増えたら大変だとは思う。だから、なんなら名前だけでもいい。
とにかく人数を揃えたいんだ。協力してくれると有難いんだけど」
 「そっか・・・。だけど、顧問がいないとダメなんだよ?」
 「知ってる。顧問は増山先生に頼もうと思ってる」
 理子の胸がいきなりドキンとした。
 「でもあの先生は、吹奏楽部の顧問をしてるのよ。だから無理なんじゃない?」
 「吹奏楽かぁ。吹奏楽って毎日部活やってるのかな」
 「・・・練習日は月水金」
 理子が小さめの声で言った。
 枝本は驚いた。
 「よく知ってるね」
 「合唱部の隣でやってるから」
 理子はドギマギした。
 「それなら火木を活動日にすればOKじゃん」
 嬉しそうな枝本に理子は言った。
 「火曜は、私の茶道部の活動日なんだ。」
 二人は目を合わせた。
 「まっ、木曜があるけどね。一応、名前だけは登録するよ。取りあえず
発足させたいんでしょ?」
 「サンキュ。そうしてくれると助かるよ」
 枝本は微笑んだ。その顔を見て少し胸がキュンとする。考えてみると、
昔、彼に笑顔を向けられた覚えが無い。いつも目は輝いているが、
案外笑顔だった事はあまり無かったんだなと今更ながらに気付いた気がする。
 「じゃぁ、そろそろ戻ろうか」
 そう言って理子は本を閉じた。結局、全く読めなかった。それとなく
窓の外の様子を窺うと、既に人影は無かった。とっくに引きあげたようだ。
 「一緒に戻っても平気?」
 と、枝本が訊いてきた。
 「私は平気だけど、枝本君は?」
 「俺も平気」
 二人は並んで歩いた。
 随分、背が伸びたな~と思った。別れた頃は、同じくらいだった。
枝本は中学に入学した時は小柄で、いつも列は前の方だった。
逆に理子は成長が早かった為、小学生の時から後ろの方だった。
それが、理子と同じ班になった3学期には、枝本の方が追い付いてきたのだった。
今では完全に枝本の方が高い。170センチは越えているだろう。
 「明日の茶道部でのお茶会なんだけど、吉住さんは何時から点てるの?」
 「来てくれるの?」
 「勿論。前売り券、ちゃんと買ってあるんだぜ」
 そう言って枝本は笑った。

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