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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第20章 もうすぐ 第3回

2010.04.27  *Edit 

 クリスマスイヴの日、理子とゆきは、枝本、茂木、岩崎と一緒に、
学校帰りにファミレスへ行った。茂木が、忘年会も兼ねて、受験の
ストレスを吹っ飛ばすべく、みんなでランチを食べに行こうと言い
出したのだ。小泉も誘ったが断られたと言う。それを聞いたゆきは、
寂しそうな顔をした。
 この間増山に逢った時、理子は小泉の勉強の様子をちょっと訊いた。
増山が言うには、問題ないと言う。早くからコツコツと頑張ってきた
甲斐があって、志望校の合格ラインを越えていると言う。もう少し
肩の力を抜いてリラックスした方が良い気がするとも言っていた。
 理子に対しても、気を抜いてはいけないが、焦る必要は全くないし、
少し余裕を持った方が本番で実力を発揮しやすいと言った。
「あとは、のんびりやれ」と言われたので、心持はのんびりした。
 この中で、国立組は理子と岩崎だけである。岩崎は、外見はとても
のほほんとした感じで、必死で勉強するタイプにはまるで見えない。
言い方に語弊があるかもしれないが、茂木や枝本の方が遥かに利発そう
に見える。茂木も枝本も利発には違いないのだが、岩崎は更にその上を
いっているようだ。
 「勉強、さすがに疲れてきたな~。みんな、どう?」
 と茂木が言った。その言葉には深く同感である。
 「茂木や枝本は、まだ私立だからいいよ。早く終わるじゃないか。
僕達はほんと、長いよね」
 と、岩崎が理子に同意を求めた。
 「結果がわかるのが卒業式の後だもんね。まぁ、その前にセンターで
一次突破してないと話しにはならないけれど・・・」
 「みんな、第一志望、どこなの?」
 と、ゆきが言った。
 皆で顔を見合す。誰も、お互いの志望校を知らなかった。
 「あっ、じゃぁ、言いだしっぺのあたしから言うね」
 って、それじゃぁ、他の皆も言わなきゃならないのだろうか?
と理子は思った。
 「あたしは、横浜女子短大なんだけど・・・」
 と、みんなの様子を窺うように見まわしながら言った。
 「へぇ・・・・」
 との感想しか出て来ない。誰も知らないのだ。
 「どこにあるの?」
 理子が訊いた。
 「港南台なの」
 「じゃぁ、直線距離だと近いけど、電車だとちょっと遠くない?」
 「うん。でも思ったより時間がかからないみたい」
 「短大って、2年で全部やるから、結構ハードだよね。頑張ってね」
 理子はそう言った。
 そして、沈黙が流れた。互いに互いの顔を見合す。まるで探り合いだ。
 「みんな、志望校は隠しておきたいの?」
 と、その中でもひと際明るい顔をしている岩崎が言った。
 「別に隠しておきたいってわけじゃないけど、何となくさ、
言いにくくない?」
 と茂木が照れくさそうに言う。
 「じゃあ、僕、言うよ。僕は横浜国大の経済です」
 おおぉ~、とどよめいた。どよめくと言っても、茂木と枝本だけなのだが。
 「理子は?」と、岩崎が理子に振って来た。理子は「えっ?」と
戸惑う。それを見て、枝本が言った。
 「理子姫は最後でいいよ。俺は東京理科大の薬学ね」
 枝本の志望校を聞いて、理子は驚いた。
 「枝本君、獣医になるんじゃなかったの?」
 理子のその言葉に、今度は茂木が驚く。
 「理子、なんでそんな事を知ってるの?」
 「えっ・・・・?」
 理子の顔が引きつった。
 「理子、よくそんな事を覚えてたね。まぁ、あの時はそう思ってたけど、
途中から医学よりも薬の方に興味が移ったんだよ。生物より化学の方が
好きになっちゃったって言うか」
 「おいおい、何だよ、枝本のその答えは。『よく覚えてた』って、
どういう意味?」
 茂木が突っ込んで来た。
 「ああ。お前には話して無かったな。俺達、昔、付き合ってた事が
あるんだよ。中学の時だけど」
 「なんだってぇ~?」
 大袈裟と思うくらい、茂木は驚いていた。勿論、初めて聞く話しに
岩崎も驚いている。
 「ほ、本当なの?」
 茂木が理子の顔を見た。
 理子は苦笑する。何も今こんな時に言わなくても、と思ったが、
きっかけを作ったのは自分だった。
 「中1の終わりに、ちょっとだけね。枝本君はすぐに別の中学に
行っちゃったから。付き合ってた、なんて言っても、付き合いらしい
付き合いは、まともにしてないのよ」
 理子の言葉を受けて枝本が言う。
 「そういう事。だから、お前は何も心配することはないよ。その後は、
付き合って無いし、ふられたのはお前と一緒だし」
 「そっか・・・」
 と、安堵したような顔をした。
 「少し、納得した。だから二人は、どこか違うんだな。俺はいつも、
枝本との扱いの差を感じてたんだけど、そういう事だったのか」
 「扱いの差?」
 理子は茂木の言葉に驚いた。扱いに差なんてつけている覚えはないのに。
 「ピッタリくる言葉が見つからないんだけど、見る目とか態度とか、
微妙に違う気がして。断然、枝本の方が有利って感じがするんだ」
 理子は枝本の方に視線を向けると、枝本も理子の方に視線を寄越してきた。
クリっとした目にドキリとする。
 「俺達さ。両思いになったのに、まともな付き合いをしないうちに
別れちゃったから、微妙にその時の気持ちが残ってるんだよ。でも結局の
ところ、理子には彼氏がいるんだから、俺だってお前と同じ立場なんだぜ」
 枝本のその言葉に、茂木は理子を見た。
 「理子はさ。もし今の彼氏がいなかったら、俺達のどっちと付き合ってた?」
 真剣な眼差しだ。だが、そう訊かれても困る。理子は、もし増山の
存在が無かったら枝本と付き合っていただろうと、今まで思っていたが、
男女の関係ほど読めないものはない。色んな条件が重なり合っての結果だと
思うから、はっきりした事なんて言えない。茂木には、そう答えた。
 「じゃぁ、俺にも可能性はあったと思ってもいいのかな」
 「可能性なら、あったんじゃない?」
 理子は苦笑した。可能性という事だけなら、茂木だけに限らないと
思ったからだ。
 「それはそうと、茂木はどこを志望してるの?」
 と、岩崎が話しを戻した。
 「俺は、早稲田の文学部・・・」
 と、照れ笑いを浮かべた。
 「へぇー、早稲田かぁ」
 岩崎が感嘆の声を上げた。補習クラスに入っているのだから上位の
大学を狙っているのだろうとは思っていたが、早稲田と聞いて理子も
少し驚いた。そう言えば、茂木は国語はよくできる。
 そして、みんなの視線は理子に集中した。
 「最上さんは、知ってるの?理子の志望大学」
 何故か、枝本がゆきに振った。
 「ううん。あたしも聞いてないの。親友だって言うのに、
教えてくれなくて」
 「おや、そうなんだ。何で?」
 「だって、何となく恥ずかしいし・・・」
 「確か、日本史って言ってたよな。それだったら、御茶大かな」
 との枝本の言葉に、
 「ああ、あそこ、あったよな、確か。レベル高いし、やっぱりあそこ?」
 「私、中学の担任に、理子は女子高は合わないって言われた事が
あるんだけど、自分でもそう思う」
 と、理子は言った。
 4人は顔を見合わせた。
 「じゃぁ、御茶大じゃないんだ。そうすると、どこだ?」
 仕方が無い。この話しの展開では、自分だけ秘密と言うわけにもいかない。
 「東京大学・・・・」
 ボソリと言った。
 「えっ?」
 ファミレスなので、周囲は雑音で溢れている。みんな理子の言葉を
聞き取れなかった。
 「何て言ったの?もう一回、言ってよ」
 理子は次は、はっきりと言った。
 「東京大学です」
 「ああ、東京大学。・・・って、どこ?」
 茂木が言った。どうも、そういう名称だとピンと来ないらしい。
それを受けて岩崎が言った。
 「東大のこと?」
 「そうです」
 ええーっ!?と、理子の答えを聞いて全員が大声で驚いた。その様子に、
周囲の客から注目を浴びた。
 「う、う、う・・・、じょ、・・・冗談、じゃないよね?」
 茂木はかなりどもっていた。
 他の三人は二の句が継げない。驚きの形相で、暫く沈黙が続いた。
 「ここ一年の、理子の学力の伸びには、俺も驚いてはいたけど、
まさか東大とは思って無かった」
 最初に話し出したのは枝本だった。
 「あたしも・・・でも理子ちゃん、凄い頑張ってたものね。恋愛してても、
必死で頑張ってる理子ちゃんを凄いと思ってたけど、東大志望じゃ、
確かに頑張るしかないよね。なんか、凄いよ理子ちゃん」
 ゆきは涙ぐんでいる。
 「なんで、ゆきちゃん、泣くの」
 「だって・・・。何か、感動しちゃって」
 「まだ感動するのは早いよ。感動するなら合格してからにして」
 「でも僕、何となく予感はしてたんだ」
 と、岩崎が言った。
 「何でだよ」
 茂木が仏頂面で訊く。
 「だってさ。理子は毎日昼休みに職員室へ勉強を教えて貰いに
行くじゃん。あんなに熱心に勉強してるから、きっと上位の凄い所を
狙ってるんだろうな、とは思ってたんだ。テストだって模試だって、
結果はいつもトップだし。まぁ、うちの学校でトップだからって、
東大行けるとは思って無いけど、僕はすぐ近くの席で理子の勉強ぶりを
見て来たから、もしかして、って予感はあったんだよね。だって、
僕より遥かに上行ってるって、補習クラスでも思ったし」
 私立の補習クラスにいる茂木と枝本は、補習クラスでの事は知らない。
だが、国立組で勉強している生徒達は、既に理子には一目置いていた。
自分達とのレベルの差を感じていたのだ。プログラムの内容も、
自分達のものと違う。先生達の扱いも微妙に違う。期待されているのが
周囲に伝わっていた。だからと言って、朝霧で東大受験とは、簡単には
思わないのだが。
 「そう言えば、理子は数3を履修してるよな。その為なのか」
 「そうなの。でもって、この事は他の誰にも言わないでね。受験が
終わるまで言わないようにって言われてるの」
 「先生に?」
 「うん。増山先生と、校長先生に」
 「校長先生まで?」
 「そうなの。今年の春に呼ばれてね。朝霧で東大を受験するとなると、
きっと大騒ぎになるだろうからって。それで受験勉強に差障りが出ると
いけないから、終わるまでは秘密にって。だから、先生方もみんな知って
るんだけど、秘密にされてるの」
 「そうなのかぁ。そりゃぁ、そうだろうな。知ったら驚くだけじゃなく、
何かとからかったり、あれこれ言ったりするヤツ、多いもんな。だけど、
よく決意したよな」
 「そうだよ。いつから東大を受験しようと思ったの?」
 「うーん・・・。決意したのは、去年の夏に東大のオープンキャンパスへ
行ってなんだけど、その前の個人面談で先生から勧められたのよね。
それがきっかけ」
 「増山先生に?」
 「うん・・・」
 「それって、あの、最初の個人面談だろう?あの時、理子はまだ好きな
日本史へ進むかどうするか、迷ってた時だったよな。面談が終わった後、
日本史へ進む事に決めたって言ってた、あれなんだ」
 理子は頷いた。
 二学期に転校してきた枝本は、その事は初めて聞く話しだった。
 「そっかぁ。それなら、何となく納得だな。増山先生は東大の日本史
だもんな。理子の日本史のレベルを見込んで、自分の出身大学を勧め
たんだろうな、きっと」
 「だから、あの先生は何かと理子の事を気遣ってるんだな」
 その言葉に理子はドキリとする。
 「気を遣ってるって?」
 ゆきが突っ込んだ。
 「ほら。例えば、歴研の副部長を決める時とか」
 「ああ、理子は忙しいから駄目だ、とか言ってたな。姫とか呼んでるなら、
もっと大切にしてやれとか何とか」
 「きゃー、先生優しいっ!」
 と、ゆきが顔を赤らめて言った。
 「そんな、一年も前の事で、何言ってるのよ、ゆきちゃん」
 「だってぇ。あたし、あの時は全然、増山先生の優しさに気付かな
かったー。だけど、考えてみると、夏休みのあの時も、先生、
理子ちゃんに優しかったよね」
 と、言って、夏休みにゆきに待ちぼうけを喰らった時の事を話しだした。
理子は恥ずかしくて俯いた。何だか居たたまれない。
 「へぇ~。そんな事があったんだ。へぇ~、あの先生がねぇ」
 「やっぱり、自分と同じ道を目指している生徒だから、目を掛けてるんだよ」
 そう言われて、理子は少しホッとした。そういう意味として受け止めて
くれている分には問題はない。だけど、理子からしてみれば、学校での
増山は理子を特別扱いしているようには全く見えないし、他の女子に
対するのと同じようにされているとしか思えないから、目を掛けていると
感じている彼らを不思議に思った。理子の身近にいる者からすると、
そう見えるのか。
 「もしかして、渕田の席が変わったのも、先生が?」
 と、岩崎が突然言い出したので、理子は茂木と枝本の二人と顔を見合わせた。
 「えっ?どういうこと?そう言えば、理子ちゃんの後って渕田君だったのに、
いつの間にか席変わってたよね。その事を言ってるの?」
 ゆきが不思議そうに言った。
 「それはさぁ。俺と枝本で先生にお願いに行ったんだよ。お前も席が
近いから、知ってるだろう?あいつが、やたらと理子に絡んでたのを」
 「うん。それは知ってるけど。しつこいし、理子は迷惑そうにしてるし、
嫌なヤツだとは思ってたけど」
 「枝本は中学であいつと一緒だった事があるから、あいつが油断ならない
ヤツだって知ってるんだ。だから、俺達で頼みに行ったんだよ。先生は、
歴研の姫の窮地を知って、俺達の願いをきいてくれたんだ」
 「ふーん。じゃぁやっぱり、先生は理子びいきって事なのかな、やっぱり」
 「そんな、ひいきとか、言わないでくれる?私は別にひいきにされてる
意識って全く無いから。なんか、みんなにそんな風に言われるの、
あまり嬉しくないんだけど」
 理子は先生に好かれてるとか、贔屓されてるとか、中学の時にも
言われた事があった。贔屓と言っても目立った贔屓を言っているのではなく、
先生の心証が良いから評価が実際よりも高いとか甘いとか、そう言う点で
贔屓されていると、同じ班の男子が言い出して、皆がそれに賛同した。
 本人は全くそういう自覚は無い。無いが、朝霧へ入った最初の年、
個人面談の時に熊田先生から内申書の内容をチラッと言われて、自分が
思っていたよりも、そして実際よりも良く書かれているみたいだと
感じたのだった。それから鑑みると、みんなが感じていた事はあながち
嘘では無かった事になる。本人は気付かなくても、周囲は感じている
ものなのかもしれない。だが、贔屓されていると言われても、
あまり嬉しくはない。
 「多分、私じゃなくても、他の女子だったとしても、先生は
同じ事をしたと思うよ」
 「そうかもしれないね。渕田のヤツ、理子が嫌がってるのに、
制服の袖を引っ張ったりして、強引だったもんな。あれは目に余る行為だよ」
 と、岩崎が言った。
 「ええー?理子ちゃん、そんな事をされてたの?」
 ゆきは今更ながらに驚いた。初めて聞く事だったからだ。
 「うん。なんか、やたらと絡んできて、凄く迷惑してたの」
 「そうだったんだ。あたし、何にも知らなくて、ごめんね」
 「ううん。ゆきちゃんは小泉君の事で色々と悩んでたでしょ?
余計な事で気を使わせちゃ悪いしね」
 「あたしの方こそ、理子ちゃんに余計な気を使わせちゃってたよね。
ごめんね。あたしはもう、大丈夫だから。勉強の方も今挽回中だし」
 そう言って笑った顔を、理子は可愛いと思った。
 「さぁ。ケーキでも食べて、景気をつけようぜ」
 「あっ、それ、もしかしてダジャレ?」
 4人はケーキを食べて、その後も話しに盛り上がり、多いに
楽しんで別れたのだった。
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