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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


 クロスステッチ 第1部第20章 もうすぐ 第1回

2010.04.25  *Edit 

 「先生、怪我して入院したんだって?」
 珍しく理子の部屋へやってきた父が、突然言った。
 「えっ、お父さん、どうして知ってるの?」
 「いや。新居のマンションの事で、紹介した不動産屋から
聞いたんだよ。携帯に電話しても繋がらないから自宅へ
電話したら、親御さんから事情を聞いたって。驚いてたが、
彼から聞かされたお父さんはもっと驚いた。
『ご存じなかったんですか?』って言われて、たじたじだったよ」
 「ごめんなさい。報告した方が良かったのかな」
 「そりゃぁ、そうだろう。ちょっと入院するならともかく、
一カ月ともなるとな。しかも、あのテレビでも報道されていた事故に
巻き込まれたそうじゃないか。災難だったな。どうなんだ、様子は」
 心配そうな顔をしている。
 「肋骨と、右の腕と足を骨折したの。私も最初聞いた時は凄く
驚いて心配したんだけど、もう大分落ち着いてて、元気よ」
 「それは大変だな。右の手足となると、今後も不便で仕方ないだろう。
見舞いに行っとかないといけないな」
 「えー?別にいいんじゃない?」
 「何を言ってる。あちらのお父さんとも面識あるのに、俺が
知らんぷりってわけにもいかないだろう。この先、
娘がお世話になるってのに」
 父の言う事も尤もだ。変わり者の父だが、長年、営業職で
苦労しているせいか、母よりは常識的だ。
 「いつ、退院するんだ?」
 「今週の金曜日よ」
 「じゃぁ、もう日が無いじゃないか。急いで行って来ないとな」
 「お父さん。ありがとう」
 理子は父の気遣いが嬉しかった。こういう当たり前の事でも、
母だったら期待できないから余計だ。
 昨日が最後の日曜日だった。
 増山は既に腕の方は殆ど良くなっていて、松葉づえを突いて
歩けるようになっていた。だが体力が大分落ちたようで、
すぐに疲れると言っていた。
 「俺、太ったかな?」
 と、心配げに聞いてきた。
 「多分・・・。ちょっとだけじゃないですか」
 「やっぱり、そうだよな。見た目でわかるって事は、
数字的には大きいぞ、きっと」
 ギブスを付けているので、正確な体重を測れないのだ。
 「まぁ、動けるようになれば、すぐに元に戻れますよ」
 「そうだといいんだけどな。ダイエットなんて、嫌だなぁ~」
 「甘い物好きですものね。どうします?おやつ」
 理子が意地悪そうに笑って訊く。
 「おやつは食べる。平日は我慢してるんだから、日曜日くらい、
いいだろう?」
 昨日のおやつは、ぶどうのゼリーだった。
 理子も、少し太った増山の体型を気にして、カロリーの低い
ものを作ったのだった。
 ずっと動かずにいたので、筋力が大分落ちたようだが、既に足
のリハビリに入っているので、少しずつ筋力を取り戻すべく、
本人もかなり頑張っていた。早く回復しない事には、一人で通勤も
ままならない。
 理子は、退院の日に行きたかったが、平日の上に補習クラスも
ある。だから翌日の土曜日に、増山の家へ行く約束をした。車を
運転できない増山に変わって、紫が迎えに来てくれる事になった。
楽しみ半分、不安半分の理子だった。
 あれから、日曜日に増山の病室を訪れては、二人で真面目に
勉強をしていた。増山は理子が来た時と帰る時には、とても甘くて
切ない目をして理子を見るのだが、それ以外は、学校での増山に近く、
冷静で落ち着いた大人の男性で、教師として理子に勉強の指導を
してくれた。昼食とおやつの時には、子供に帰って甘えてくる。
 昨日だって、もう右手が使えるにもかかわらず、理子に食べさせて
くれとせがみ、仕方なく理子は食べさせてあげたのだった。
却って理子の方が恥ずかしくなったくらいだ。
 まさか、これから先も、こうやってせがまれるのかと
心配になって聞いたら、
 「今日が最後だから」
 との答えが返って来たのでホッとした。
 もう、病院で増山に会う事は無い。退院するのは凄く嬉しい事だが、
何だか寂しい気もした。恋しい人の世話をすると言うのは、嬉しくて
楽しいものだ。病院での事を思い出して、理子はほのぼのとした
気持ちになるのだった。

 増山はリハビリから帰ってきて、母が淹れてくれたお茶を飲んだ。
かなり息があがっている。自分で自分を情けなく思う。この程度で
こんなに息が上がるとは。
 「あまり無理をしない方がいいわよ」
 と、母が言った。
 「わかってる。でも、こんなんじゃ、先行きが心配だよ」
 「焦ったって、しょうがないじゃないの。最初は低速、そのうち
段々速度が増してくるわよ。車と同じよ。急発進は事故の元」
 増山は母のその言葉に頬にエクボを浮かべて笑った。
 「いい事言うな、母さん」
 「あら、可愛いっ!エクボ、久しぶりに見る気がするわ」
 「えっ?」
 「そんな風に笑うの、久しぶりじゃないの?ああ、小さい時を
思い出す。本当に可愛い子だったわ」
 嬉しそうに言う母に、増山は戸惑う。この年齢になって、母親から
そんな事を言われても照れるばかりである。
 ノックの音がして、中年の男性が入って来た。よく見ると、
理子の父の吉住宗次だった。
 「あっ、お義父さん」
 増山は慌てて立ち上がった。
 「ああ、そんな立たなくていいから。足が悪いと言うのに」
 「えっ?あら、おとうさんって、じゃぁ、理子ちゃんの?」
 母の博子は慌てて立つと、挨拶した。
 「どうも初めまして。雅春の母でございます。この度は、
わざわざお見舞い頂いて・・・」
 「いえいえ、こちらこそ、遅くなりまして申し訳ありません。
理子の父の吉住宗次です。理子が何も言わないものですから、
全く知らずにおりまして。つい先日、知り合いから聞いた
次第でして、恐縮です」
 「お義父さん、そんな、お見舞いに来てもらって、そう詫び
られても困ってしまいます。お仕事中なんじゃありませんか?
わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」
 増山は宗次にそう言った。
 「営業職だから、融通が利くんですよ。理子は、もう元気だって
言ってたが、どうですか?見た所は確かに元気そうだが」
 「お陰さまで元気です。もう、リハビリに入っているんですよ」
 「それはいい。まぁ、最初のうちは大変だろうが、
焦らずに頑張って下さい」
 「ありがとうございます」
 「あの・・・」
 と、博子が宗次に話しかけた。
 「あの、理子ちゃんの事なんですけど、申し訳ありません。
まだ高校生なのに、大事な娘さんを息子のお嫁さんに頂く
ことになりまして・・・」
 「あっ、いえ。その事はご主人とも色々話しをさせて貰い
まして。当人達の気持ちが固いので、仕方ありません。
仕方ないと言っても、息子さんに不満なんて全く無いですから。
立派な青年です。娘が若過ぎるという点以外では、なんの問題も
無い縁談だと思っています。逆に、うちは妻の方が色々ご迷惑を
おかけすると思うので、そちらの方が今から心配です。色々あると
思いますが、その事で娘を悪く思わないで頂けたらと思っています」
 宗次はそう言うと、頭を下げた。
 「あら、そんな事は心配なさらないで下さい。私達、本当に
理子ちゃんが大好きなんですよ。しつけの行き届いた、礼儀正しい
お嬢さんですね。それに、優しくて純粋で、ユーモアにも溢れていて。
礼儀正しいのに、妙にくだけていると申しますか親しみやすいと
申しますか。聡明だし、一緒にいると楽しいです。我が家では
人気者なんですよ」
 「そうおっしゃって頂けると、有難いです。可愛がられて
いるようで、安心しました」
 「ご心配はご尤もだと思います。でも、大丈夫ですから。
それより、うちの息子が、受け持ちの生徒さんであるにも関わらず、
恋心を抱いて我慢できずに恋人にしてしまって、本当に申し訳ないと
思ってるんですよ。私達も最初は本当に驚きました。でも、
理子ちゃんに実際にお会いして、息子の気持ちがわかりました。
理子ちゃんと付き合うようになってから、この息子は本当に
幸せそうに笑うんです。子供の時以来、滅多に見なくなった笑顔を
浮かべるんです。親馬鹿ですから、そんな息子を見て、反対なんてで
きません。逆に理子ちゃんには感謝しているくらいです。どうか、
そちら様でも息子ができたと思って、雅春を可愛がってやって下さい」
 「ありがとうございます。うちは娘しかおりませんから、
息子さんからも同じように言われて、嬉しく思いました。
今度の事で娘も寂しがってますから、早く良くなって下さい」
 宗次は丁寧に挨拶をして帰っていった。本当にわざわざ
見舞いに来てもらって恐縮だ。
 「感じがいい、人の良さそうなお父様ね」
 博子は宗次の事をそう言った。
 「うん。温厚な人だよ。話し好きで、世話好きなんだそうだ」
 「そうなの。そういう所は理子ちゃんと似てるかしら」
 「そうだなぁ。理子は基本はお父さんなんだろうな。温厚で
人と争うのが嫌いな所がよく似てる。ただ、理子はあれで結構、
激しくて、よく怒る。そういう所はお母さんに似たんじゃないかな。
外見も、両親を足して2で割ったような感じだし」
 「お正月に百人一首をした時に、負けて悔しがってたわね。
むくれちゃって、可愛かったわ」
 「ふっ、あんなの、本当に可愛いうちさ。彼女が本気で怒ったら、
俺は手も足も出ない。言いなりになるしかないんだ」
 「まぁ!そう言えば、聞いたわよ、紫から。理子ちゃんが最初に
来た日、あなた、彼女に怒られて、犬のように従順になったって!」
 増山は赤くなった。姉は母にまで、その話しをしたのか。
恥ずかしくなってきた。
 「姉貴も酷いよなぁ。弟を犬呼ばわりして・・・」
 「まぁ。この子ったら珍しく赤くなってるっ!可愛いこと。
これからは、そういう表情をたくさん見れるのね。本当に嬉しいわ」
 「母さん。大人になった息子に、それは無いんじゃないの?」
 「あら、いいじゃないの。親にとっては、子供はいつまで
経っても子供なの」
 博子は本当に嬉しそうな顔をしていた。増山はそんな母を見て、
心が温まった。暖かい家庭で、愛情深く育てて貰った。我が家へ来て、
この家族を目の前にする度に、理子は羨ましそうな顔をしていた。
彼女は愛に飢えている。愛に不信感を抱きながらも、求めてやまない。
 「母さん。さっき、理子のお父さんに言っていた母さんの言葉
を聞いて、俺、本当に嬉しかったよ。彼女は親の愛に飢えてる。
特に母親の。だから、これからは僕達を可愛がってくれたように、
理子も可愛がってやって欲しいんだ」
 息子の言葉に、母は暖かく微笑んだ。
 「勿論よ。お父さんに言ったように、お母さんも本当に
理子ちゃんが好きよ。あの子が時々寂しそうな顔をするのも、
ちゃんと気付いてるのよ。不憫に思うわ。あなたが選んで、
あなたが一番大事にしている女の子だもの。私達にとっても、
大事な存在よ。心配しないで」
 「母さん、ありがとう」
 増山は、改めて自分の母を素晴らしい女性だと思うのだった。
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