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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第4章 漣 第1回

2010.02.22  *Edit 

 あっと言う間に終わった夏は、あまりいつもと変わらぬ夏だった。
 ゆきと二人で1度だけ伊豆へ日帰りで行き、あとは恒例の、家族での
2泊3日のこれまた伊豆旅行だけで、あとは部活と図書室通いだ。
 ゆきとの騒動の後、一度増山からメールが来て凄くドキドキした
理子だったが、内容は東大のオープンキャンパスへ行くように、との事だけだった。
 増山に言われて、理子は東大のオープンキャンパスへ行ってみた。
自分が思っていたイメージとは随分違っていた事に驚き、ここで勉強してみたい
という思いが高まった。だがしかし、そうは言っても矢張り天下の東大である。
厳しい道のりである事は容易に想像がつく。自分にできるのだろうか?
そう思わずにはいられない。
 そういった自分の気持ちを増山にメールしてみた。増山からは、
“そう思うなら挑戦してみろ。応援するから”との返事がきた。
その道を通ってきた先生が応援してくれるなら、心強い。以前も言われたが、
要はやりきれるかどうか、なんだろう。駄目元でやってみるか。やって損は無い事だ。
こうして理子は、この夏、東大受験を決意したのだった。

 始業式の日、教室は増山との再会に喜ぶ女生徒達の歓声で賑わっていた。
増山は相変わらずクールだ。だが増山は、どうも自分に興味を持って接して
くる女子には冷たいが、そうでない女子には別段冷たくはないようだった。
 美輝やゆきを始めとする、自分に関心を寄せない女子には、進路の事で
親身に相談に乗ったりしているのだ。自分もその一人に過ぎない。
 「これから転校生を紹介する」
 出席を取った後に、増山がそう言った。その言葉に教室内は騒然とした。


 そう言えば、始業式の前に、誰かが机が一つ多いと言っていたのを
思い出した。そのせいだったのか。
 増山の言葉の後に、一人の男子が教室へ入ってきた。
 あれ?
 教壇に立って正面を向いた時に、理子は衝撃を受けた。
 教室内はざわめき立った。女子の小さな歓声が起こった。
 増山に促されて、男子は自己紹介をした。
 「枝本誠一です。以前、南中にいましたが、父の転勤で名古屋へ
転校しました。この夏、再びこちらに戻ってきました。南中の前は
東中にいたので、この中にも何人か知ってる人がいますが改めて、
よろしくです」
 枝本はそう言うと、爽やかに笑った。その笑顔を見て、
女子の間から嬌声が漏れた。
 理子は席が前から2番目なので、枝本は、最初は気付かない
ようだったが、教室内を見回した時に、理子と目が合い、驚愕の
表情を見せた。
 枝本は、理子が中1の時にずっと好きだった男子で、1年の終わりに
両想いになり、僅かな期間だが付き合っていた相手だった。
言ってみれば元彼だ。
 銀縁の眼鏡をかけていて、その眼鏡の奥の目がパッチリしており、
唇は赤く、眉はきりりとしていて、知的で端正な顔立ちをしていた。
当時は小柄だったが、今は随分と背が伸びたようで、スラっとしていて、
以前よりもカッコ良くなったようだ。
 理子は、その姿を見て胸がキュンとした。昔の思いが押し寄せて来る。
 枝本を好きだった日々。片思いが長かったので、切ない思いが続いた。
 理子が彼を好きになった時、彼には既に彼女がいた。学級委員長だった
枝本だったが、枝本は副委員長の女子と付き合い始めたのだった。それでも、
好きであることは止められなかった。彼と彼女はとても仲が良く、
二人の仲良しぶりを目の前で見ていたから、自分の思いが叶うとは思えなかった。
 ただ、見つめていられれば、それで良かった。いや、見つめていたかったのだ。
 そして時々、ほんの少しでも言葉を交わしたりすると、天にも昇るような
幸せな気持ちになった。
 辛かったのは、彼女との熱い現場を見る時くらいだ。内向的で目立たない
理子だっただけに、枝本の中で自分なんて全く存在感はないだろう、
と思っていた。だから、それ以上は望んでいなかったのだ。
 ところが、枝本は2学期の後半に彼女と別れた。そして、3学期になって
理子と同じ班になってから、二人は急速に接近した。だが、二人して妙に
天の邪鬼で素直になれない性格が災いし、互いに好きでありながら
疑心暗鬼になり、一喜一憂する日々を過ごし、結局、想いを明かし
あったのは3学期の終業式の日だった。
 枝本の学区内に新しい中学、南中ができ、2年から枝本は南中へ
通うことになっていた。その事は2月の後半には既に分かっていた事だ。
だから、4月からは離れ離れになる。もう会えない。それにも関わらず、
結局最後の日まで気持ちを伝えられなかった。
 日に日に親しくなっていく喜びと、別れの日が近づいて来る悲しみ。
その相反する気持ちの狭間の中で、過ごした日々だった。
 終業式の日、枝本から渡されたサイン帳に彼の想いが書かれていて、
それを読んだ理子は嬉しさと切なさで泣いた。そして、何て自分は愚か
だったのだろうと臆病だった自分を責めた。
 春の日差しが柔らかく、自分を包む空気そのものに幸せを感じた日だった。
あの時の、キラキラした柔らかな日差しが未だに映像として頭の中に
焼き付いている。あの日を思い出すと幸せな気持ちになってくるのだった。
 理子は帰宅後、枝本に電話をし、自分の気持ちを伝えた。そして、その後
二人は何度か会った。だが、結局は続かなかった。新しい学校の新しい
生活に枝本が夢中になり、理子との約束を忘れるようになり、理子の方が
耐えられなくなって別れの手紙を出して、それきりだった。
 それから約3年半になる。以来、一度も会ったことがない。
理子にとってみると、不完全燃焼の恋だった。まだ好きだったからだ。
 枝本は、廊下側の一番後ろの席になった。その席へ行く為に、枝本は
理子の横を通った。ドキリとする。
 どうしよう?
 それが理子の気持ちだった。すっきり別れた相手なら、こんなに
動揺しない。だが幾ら何度も約束を破られたとは言え、理子の方から
別れの手紙を出したのだ。しかも、返事はなく、それきりだった。
返事が無かった、その一点に全ての不安が凝縮している。
 枝本君は私の手紙を読んで、どう思ったんだろう?それがとても気に
なるのだった。何故そんなに気になるのかと言えば、その前の彼女との
別れ方とも関係している。枝本が副委員長だった彼女と別れたのは、
彼女の方から別れを告げたからだった。しかも彼女は、本当に
別れたかったわけではなく、引き止めてくれる事を期待していたのだった。
まさか本当に別れる事になるとは思っていなかったのだ。
 枝本は、彼女に試された事に腹を立て、それからと言うもの、まるで
恨みを晴らしでもするかのような仕打ちを彼女にし続けた。プライドの
高い彼だから、そのプライドを傷つけられて、酷く傷ついたのだろう。
 朝のホームルーム終了後、多くの人間が枝本の周囲に集まった。
南中で一緒だった生徒は懐かしそうに、多くの女子は異性としての興味で。
理子はその様子を自分の席でそっと見ていた。
 「結構、カッコいい子だね」
 ゆきが言った。
 「あの人、前に話した中1の時の子なんだ」
 「ええっ?」
 ゆきには枝本の事は1年の時に話してあった。初恋の事とか、
好きだった人の事とか、そう言った話題になった時に話したのだ。
 「凄い偶然だね・・・」
 ゆきは改めて枝本の方へ視線をやった。
 「じゃぁ、ちょっと気まずい?」
 「凄く気まずい・・・」
 これから、どんな顔をして顔を合わせたら良いのかわからない。
 「そっかぁ。あまり気にしないようにするしかないよ」
 「まぁね・・・」
 自然体でいるしかない。あとは相手の出方次第というところだろうか。

 枝本が転校してきてから、理子の周りが閑散となった。何故なら耕介が、
いつの間にか枝本と親しくなり、休み時間の殆どを枝本のそばで過ごす
ようになったからだ。
 枝本は理数系が得意だが、歴史も得意だった。小泉と同じである。
そのせいで、小泉とも仲良くなったし、歴史好きの耕介や茂木も、
枝本と色々と語り合うようになったようだ。どうも気が合うらしい。
 理子はお陰で読書に集中できると思ったが、ゆきは寂しそうである。
 最初のロングホームルームの日、2学期の学級委員の選出が行われた。
これに理子が選ばれてしまった。委員長に選ばれたのが耕介だった事も
ある。仲良しだからだ。それと、学級委員は担任との関わりもある為、
増山ファンの女子達が、先生のファンでない方が安心できるという
思惑もあった。
 一学期の時には、多くの女子が立候補し、結局、ジャンケンで決めた。
決まった女子は大喜びしたが、その後の皆からの冷遇は言わずと知れている。
関わりがあると言っても、時々雑用を頼まれる程度だ。その程度の
関わりで、集団の中での孤立は辛いものがある。
 だから二学期は、結局、皆が牽制し合うような形で、増山には興味の
ない部外者グループから選ぼうという流れになったようだ。理子には
彼氏がいる。安全パイだと、多くが思っていた。
 理子は複雑な思いだ。彼氏とは別れているし、自分も先生に憧れている
女子の一人だ。皆のように公言していないだけの事で。堂々と先生と
接触できるのは嬉しいが、これ以上、お近づきにはなりたくない思いも
ある。本気で好きになったらヤバイ相手である。
 先生は大人だ。おまけに教師だ。自分のような女子高生を相手にする
わけがない。あんなにカッコイイんだし、きっと大人の素敵な彼女が
いるに違いない。好きになっても辛くなるだけ。
 そう思うから、常に走り過ぎないようにセーブしてきた。なのに、
こうやって、また増山と接触しないとならないのか。
 増山の方へそっと視線をやった。特に変わった様子はない。理子の
名前が上がったからといって、何も感じてはいないように見える。
 そんな理子の視線に気づいたのか、増山が理子に視線を向けた。
そして目が合った瞬間、僅かに微笑んだのだった。多分、他の人間には
気づかれない程の微かな表情の変化だった。 
 理子は慌てて視線を逸らした。本当に、一瞬の出来事だった。
あの微笑みは何だったんだろう?でも、その一瞬が、物凄く幸せに
感じられた。心臓が大きな鼓動を立てていた。
 「じゃぁ、委員長は高田で、副は吉住で決まりな」
 増山の言葉に、また胸が高鳴る。
 「よろしくな~、理子」
 と耕介に言われた。
 だけど、考えてみたら2学期は文化祭と修学旅行がある。なんか、
色々大変そうだし、1学期よりも先生との関わりが多いのではないか。
 「ねぇねぇ、文化祭と修学旅行があるよ?」
 理子が耕介に言った。
 「あっ!!」
 と耕介は大きく叫んだ。今頃気づいたようだ。
 「失敗した~。引きうけなきゃ良かったー」
 両手で頭を抱える。大袈裟だ。
 「理子、後は頼んだ」
 「ちょっと、何言ってるのよ、もぉ」
 「おーおー、痴話喧嘩ですかぁ」
 茂木がそう声をかけてきた。
 「何だ!痴話げんかとは!」
 と、耕介が立腹したように言う。
 「そうよ。勘弁して」
 そう言うと、理子は事情を話した。
 「なんだ、そういう事か」
 「そういう事か、とは何だ!」
 「お前、そう怒ったってしょうがないじゃんか。今更だよ、今更。
引き受ける時にもっとよく考えなかったからだ」
 茂木が諭す。
 「理子だって、後から気付いたんだろう?」
 「そうなの。ほんと、後の祭りよね」
 なんだかんだと、忙しくなりそうだ。まぁ、この時しか
経験できない事だけれども。
 そういう話をひとしきりした後、理子はゆきと美輝と共に教室を
後にした。茶道部の部室へと向かう。
 学級委員の経験は初めてではない。中3の一学期に経験している。
その時にも修学旅行だったのだ。何故かそういう行事の時ばかりに当たる。
 「理子ちゃん、頑張って。私達応援してるから」
 ゆきと美輝が言った。
 「ありがとう」
 「ところで、さ。知ってる?理子ちゃんと高田君、一部で噂になってるの」
 「えー?」
 初耳だ。
 「なんで?一部って?」
 ゆきが言うには、本当に一部なんだそうだ。と言うのも、一部の女子が、
耕介と理子がとても仲良くて、休み時間もいつも一緒に喋ってるし、
本とかCDとかの貸し借りもしてるし、怪しいんじゃないか、と
言いだしたらしい。それに対して、多くの女子が、理子には彼氏
いるじゃーん、と取り合わなかった。だが、一部の女子は、最近二人が
一緒のところを見たことがない。本当に付き合ってるの?と疑問を
呈しているらしい。
 「茂木君が、『痴話げんか』って言ったじゃない?あれって、
そういう噂を聞いてるからだと思う」
 「えー?」
 「今回の委員も、二人をカップルと怪しむ人たちの陰謀かもよ」
 陰謀って、そんな大袈裟な。
 「理子ちゃんが、須田先輩ともう別れてるって知られるのも、
時間の問題かもしれないね」
 理子と須田が別れた事は、殆どの人間が知らない。別に、みんなに
別れましたって吹聴して回るような事でもないので、今までと
変わらずに過ごしている。
 新年度になってから、二人で一緒に帰ったのは、7月25日だけだ。
以前は時々二人の姿が見られたが、今は全く見て無い状況なんだから、
おかしいと思うのも無理はない。
 「誰かから聞かれたら、肯定してもいいのかな?」
 と、ゆきが心配そうに尋ねてきた。
 理子は頷いた。公言する事ではないが、隠す事でも無い。だが、
増山ファン達は、どう思うだろう。彼氏がいるから安全パイだと
踏んだんだろうに。

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~ Comment ~

Re: はじめまして>いき♂様 

いき♂さん♪

はじめまして。
OH林檎さんの所でお見かけしてから、私も通わせて
頂いてます。
ご訪問とコメント、ありがとうございます。
とても嬉しくて、大感謝です(^^)

> クロスステッチ 第一部、ここまで読みました。
ありがとうございます。
長いのに、よくぞここまで…。
途中で嫌にならなければ良いのですが(^_^;)

> > 何て自分は愚かだったのだろうと臆病だった自分を責めた
> 私は男ですし、理子のような経験はしていませんが、この一文にはとても共感しました。
> 学生時代の私は臆病だったなあ、と(^^;
共感して頂ける箇所があって良かったです。
それと、男性からみて、どう感じられるのか、とても興味が湧くので、
できれば是非、この後も読んで感想を頂けたら、と思います。

私も日ごろから臆病なタイプでして。
臆病な為に損した事って、後になって判るもので、
でも、後悔先に立たず、なんですよね。
色んな経験をして、少しずつ克服していくのでしょうか。

> 初コメから長々とすみません。
とんでも無いです。非常に有難いです。

> また続き、読みに伺います。
是非とも、よろしくお願いします。
私も遊びに行かせてもらいますね。

はじめまして 

こんばんは。
少し前からこちらにお邪魔していまして、
クロスステッチ 第一部、ここまで読みました。

自分の経験と照らし合わせ、とても懐かしく、
また微笑ましい部分、切ない部分など盛りだくさんで、
楽しんで拝読しております。

> 何て自分は愚かだったのだろうと臆病だった自分を責めた
私は男ですし、理子のような経験はしていませんが、この一文にはとても共感しました。
学生時代の私は臆病だったなあ、と(^^;

初コメから長々とすみません。
また続き、読みに伺います。
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