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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-27

2015.12.21  *Edit 

 結果発表は1時間後。
 楽屋に戻って待機していると、渡良瀬と真田がやってきた。
「芹歌ちゃんっ!素晴らしかったわよ!」
 渡良瀬が抱きついてきた。
「ありがとうございます」
 渡良瀬の肩越しに真田を見た。とても嬉しそうに目を輝かせている。
「二人が言ってた事がわかったわ、私。今日の演奏、リハとは比較にならないぐらい、
素晴らしかった。本当に十全以上だわ。よくやったわね」
 渡良瀬の感動が伝わって来て、喜びが湧きあがってくる。
「芹歌っ!」
 久美子と沙織が飛び込んで来た。
「あ、二人とも来てくれてたの?」
「勿論よ、当然じゃないの」
 今度は二人が渡良瀬に代わって抱きついてきた。
「凄かったよ、芹歌~~~」
 沙織は感極まって泣いている。久美子も目じりに涙を溜めていた。
「久美子……」
「凄い、良かったよ。感動しちゃった。芹歌がこんなに弾けるなんて。最初は
無理なんじゃないか、って思ってたんだ。ごめんね。だけど、素晴らしかった」
「ううん。私だってビックリしてる」
 みんなが感動して涙ぐむものだから、芹歌も涙が込み上げてくるのを感じたが、
グッと堪えた。
(あー、だけど……)
 視線はどうしても真田の方へ行く。
 この人と一番に抱きあいたかったのに……。
 こんなに人が集まってきてしまっては、もう無理だ。
 真田の方も、ヤレヤレと少し困ったような表情をしている。
 ノックがして片倉が入ってきた。
「あ、純哉君……」
 戸惑うような久美子の呼びかけに、純哉は照れたように笑って「やぁ」と
手を挙げた。そのまま芹歌の方へ歩を進める。
「芹歌ちゃん、凄かったよ。感動した」
「ありがとうございます」
「君ならやれると思ってたけど、あそこまで凄いとはね。これで君も、れっきとした
ピアニストだ。ね?幸也」
 片倉は振り返って真田に同意を求めた。
 真田は「ああ」と言いながら、大きく頷く。
「そう言えば、芹歌、ヨーロッパへ留学するって本当なの?」
 沙織に訊かれて、そう言えば皆の前で話した事がないのに気付き、それなのに
何故知ってるのかと疑問に思う。情報の発信源は久美子なんだろうとは思っているが。
ただ、この中で沙織だけが、真田との結婚を知らないようだ。
「うん。その予定。だけど、それより何より久美子でしょう。久美子こそ、
アメリカへ行くって本当なの?私、何にも聞いてないのよ?」
「ええー?久美子がアメリカぁ?やだー、そっちも私聞いてない。なんか酷くない?
二人して、私をのけ者にしてぇ」
 いきなり自分に振られて、久美子は目を丸くしたまま「あははは……」と
誤魔化すように笑った。
「あ、ごめんねぇ。芹歌のコンクールが終わったら言うつもりだったんだけど……。
芹歌はどうして知ってるの?」
「朱美ちゃんから聞いたの。私の後の朱美ちゃんの指導を頼もうかと思ってたから、
それを朱美ちゃんに言ったら、教えてくれたの。全く、ビックリしたわ」
「ああ、そうだったんだ。まぁね。色々考えてね。私自身、一度も海外経験が無いし。
もっと広い世界を知りたくなったの。芹歌の頑張りを見てたらさ」
 久美子が少し寂しげな笑みを浮かべたので、芹歌は胸が痛くなった。真田から
詳しくは聞いていないが、どうやら片倉と野本加奈子の事も少し影響はしているようだ。
その片倉も、やるせないような表情をして久美子を見ようとしない。
「あ~、なんか私だけ取り残されてるじゃなーい。立場が違うから仕方ないけど、
でも二人して同時に外国へ行かなくても。私、すっごく寂しいんだけど」
 沙織はベソをかくように顔を歪めた。
「沙織ちゃん。あなたはあなたで、自分の道を頑張ればいいことよ。二人を
応援してあげなきゃ。それに。私だっているんだから、いつでも遊びにいらっしゃいよ」
「センセー、ありがとうー」
 沙織は渡良瀬に抱きついた。
 高校教師として地道に自分の道を歩んでいると、羨ましくも思っていた沙織が、
こんな風に寂しがり屋の一面を見せるとは意外だった。
 再びノックの音がした。皆が一斉にドアの方へ視線をやると、開いた扉から
母の実花が神永に手を取られて入って来た。
(えっ?)
 目の前の光景が信じられない。
 車椅子に乗っている筈の彼女が、立って歩いているからだ。
「お……かあさん……」
 誰もが驚愕の目で見つめていた。
 実花は神永に手を引かれて、たどたどしい足取りだが足を動かして一歩一歩
踏みしめるように歩いて来た。皆なにも言えずに、その光景をジッと見つめている。
「芹歌。素晴らしかったわよ」
 芹歌の目の前までやってきた実花が、満面に笑みを浮かべてそう言った。
「あ、……お母さん、どうして、歩けるの?」
 実花は神永の方を見た。それにつられて芹歌も神永を見る。
「芹歌さん、素晴らしい演奏でした。凄く感動しましたよ、僕」
「あ、ありがとう……。だけど……」
 何が何だかサッパリ分からない。
「お母さんの足ですが、今日の日の為に、ずっと練習してたんですよ、お母さんは」
 神永が実花に向かって力強く頷いた。それに促されて実花が話しだす。
「私ね。もう大分前から、少しずつ歩く練習をしてたのよ」
「え?それって、どういう事?それなら、どうして何も言ってくれなかったの?」
「それは……、恥ずかしかったのよ。それに、本当に歩けるようになるか、
分からなかったし。もうずっと歩いてないんだから、足もすっかり萎えてるしね。
だから諦めてたんだけど、ゆう君に勧められてね」
 恥ずかしそうに頬を染めている。
「だけど、どうして私が知らないの?一緒に住んでるのに」
 狐にでも包まれたような思いがする。
「すみません。実花さんが、歩けるようになるまでは秘密にして、驚かせたいって
言うものですから」
 神永が申し訳無さそうに頭を下げた。
「最初はね。ゆう君がアロマオイルで足湯をして、マッサージとかしてくれてたの。
それで、頑張ってみないかって言われて、ちょっと始めてみたのよ。それで、
そのまま少しずつ訓練するようになったの」
 二人は芹歌のいない時に地道に訓練をしていたらしい。神永が音信不通だった時には、
須美子が手助けしていたそうだ。
「まだ、ほんの少ししか歩けないのよ?」
 芹歌は首を振って、母に抱きついた。
「お母さん、良かった。少しでも歩けるようになって……。頑張ってくれて、ありがとう」
 まだそれほど歩けなくても、歩こうと思って訓練を始めた事が何よりも嬉しい。
そういう気持ちになってくれたのが最大の進歩だと思う。
「芹歌……。今まで、ごめんね。ずっと苦しめ続けて来て」
「ううん……」
「今日の演奏……、本当に素晴らしかったわ。芹歌が、ここまで弾けるなんて、
正直思って無かったの。凄く、感動したのよ。胸に響いた。よく、頑張ったわね」
 ずっと足掻き続けてきて、将来に何の展望も抱けなかった。何度も母を恨み、
人生を呪った。だけど、それもやっと終わるんだ……。
 芹歌は神永が優しげな顔の中に寂しい翳を湛えながら、自分たちを見ているのに
気づいた。母がここまで立ち直り、歩く意志を持って頑張れたのは、この人のお陰だ。
この人は、芹歌が真田を選んでからも、変わらず実花に尽くしてくれていた。
胸が熱くなってくる。
「神永君……。ありがとう」
 母を抱きしめながら、芹歌は万感の思いで礼を述べる。
「いいえ……」
 神永は目を伏せた。その様が芹歌の胸に突き刺さる。
(ごめんなさい)
 彼に対しては、感謝と謝罪の言葉しか出て来ない。
「そろそろ結果発表よ……」
 渡良瀬のためらいがちな声が静かな楽屋の中に響いた。その声で、室内の
張りつめたような空気が流れだした。


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