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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-26

2015.12.20  *Edit 

 舞台袖に待機する。袖からそっと客席の方を伺うと、席はギッシリと埋まっていた。
(うわっ、凄い……)
 こんなに客席が埋まってる中で、一人で弾くのか……。何だか急に怖くなってきた。
足許から震えが上がって来る。
(やだ、どうしよう……)
「浅葱さん……」
 ビクッとして振り返る。原が微笑みを浮かべて立っていた。
「あ、原先生……」
「大丈夫かい?緊張してるみたいだね」
「あ、すみません。客席が一杯で、こんなの初めてで……」
 恥ずかしくて、うろたえた。
「そうか。ソロは君にとっては初めてだものね。だけど、真田君と一緒の時には、
いつだって超満員でしょう」
「はい、そうですけど……。伴奏は脇役だし」
「大丈夫。あなたならやれるよ。ソロの時は、いつも真田君とやってるつもりで
やりなさい。コンチェルトの時には、僕とオーケストラが一緒だ。一人じゃない」
 原の言葉に芹歌はハッとした。
「この間のオケリハ、凄く良かったけど、あれが本領じゃないんでしょう?あの後、
真田君が、『本番はもっと凄いですよ』と言ってきた。僕はそれを楽しみにしてるんだ」
(え?幸也さんが、そんな事を?)
「さぁ。気持ちを落ち着かせて。あなたなら、できる。大丈夫だ。あなたの音楽を
証明してらっしゃい」
 原のニコニコした顔が、優しかった父、庸介を思い出させた。なんだか、父が
乗り移ったような錯覚を覚える。みんなが芹歌を応援してくれている。期待してくれている。
 原の言葉が胸に沁みた。そして、真田の想い……。
――俺を、愛してる?
(愛してます)
――その想いを、音楽にぶつけてきてくれ。
 芹歌は大きく頷いた。
「原先生、ありがとうございます。頑張ります」
 アナウンスが入り、名前を呼ばれた。
 芹歌は大きく息をして、ピアノに向かって歩き出した。拍手の中、正面を向いて
お辞儀をする。目が自然に真田の所へ向く。薄暗い中でも、確かにそこにいると分かった。
 ピアノの椅子を調整し、息を整える。ショパン、華麗なる大ポロネーズ。
 ポロネーズとは、元々はポーランドの民族舞踊から発展したもので、3拍子だが、
ショパンのポロネーズは民族性を持ちながらも独自に展開されている。
 この曲は、アンダンテスピアナートと言う前奏とセットになって演奏される事が
多いが、今回は、ポローズのみだ。ト音で始まるファンファーレで序奏が始まり、
転調して変ホ長調の主部が現れる。明るく華やかな曲だ。
 芹歌はこの曲に、自分の想いをぶつけた。この華やかさは、艶やかな真田の
バイオリンと通じている気がする。速く細かなフレーズがキラキラと輝くようで、
とても魅力的だ。耳の底に真田のバイオリンが響いてくる。一緒に演奏した時間が蘇る。
 一度は諦めた二人の夢のような時間。それを再び手にする事ができて、どれだけ
充実した時間を過ごせた事だろう。すぐそこに、伸びやかな肢体を使って華麗に
弾く真田の姿が見える。二人で奏でる愛の音……。芹歌はそれに陶酔した。
 想いが軽やかに指を伝って鍵盤の上を転がり、跳ねる。深い想いが深い音として
ホールに響く。強い想いが毅然とした音となって主張する。どこまでも、深く強く、
そして優しく……。最後に思いきり歌いあげて鍵盤を離れた時、ピアノの音に代わって
大きな拍手が耳を襲った。
 急激に鼓動が高まった。気持ちが高揚している。十分に弾けた充実感が芹歌の
心を満たしている。芹歌は立ち上がって、客席に向かってお辞儀をした。
顔を上げると、満場の拍手なのが分かった。
(良かった……)
 ホッとした。自分の心をぶつける事ができた。聴いてくれた人達にも届いたと、
この拍手が教えてくれている。暫く止みそうも無い勢いが感じられた。だが芹歌は、
3回ほど礼をした後、椅子に座った。それと同時に拍手が収束し始めた。
 オーケストラのメンバーが入って来た。着席する様子を眺めながら芹歌は興奮した
息を整えた。いよいよオーケストラとのコラボレーションだ。ここが勝負どころだ。
 指揮者の原道隆が姿を現すと、会場から拍手が起きた。芹歌は立ち上がって
指揮者を迎える。原は芹歌の前で立ち止まると、手を差し出した。その手に手を添える。
「一緒に奏でましょう」
 その言葉に感動する。「はい」と答えて頷くと、再び椅子に座って準備を整える。
 チャイコフスキー、ピアノ協奏曲第1番変ロ短調。演奏時間約35分。
 準備が整った芹歌は、原に視線を向けて頷いた。それを受けて原が指揮棒を上げる。
 ホルンの序奏が始まった。そしてピアノ。雄大で印象的な始まりは心を掻き立てる。
オーケストラの掛けあいで繰り返される序奏の主題。これだけ印象的でありながら、
この後、このフレーズは使われない。
 ひと区切りついた後は、ピアノのソロ部分とオーケストラ部、そして競演……。
抒情的であり、ダイナミックであり、様々な展開を繰り返し、曲が進んで行く。
 全3楽章の3部構成の曲が、雄大さと繊細さと激しさをピアノとオーケストラが
共に掛けあうように奏でながら盛り上がっていくのが、とても気持ち良かった。
こんなに贅沢な時間は無い。オーケストラは素晴らしかった。そのオーケストラの
一員になったような気がした。互いに支え合い、盛り上げる。
 芹歌はこの時も、真田が共に弾いてくれているのを感じた。表情豊かな
バイオリンの音が時に芹歌を支え、時にリードし、作品世界の深い所まで連れて行く。
豪華絢爛な世界が芹歌を迎え入れてくれて、最高に楽しい。そうして、そのまま
終焉に向かって華麗に駆け抜ける。ピアノの音を助けるようにオーケストラの
豊かな音が聞こえ、芹歌は夢中で弾きあげた。速く激しいフレーズを一気に弾き切って、
オーケストラと共に終わった。
 それと同時に、激しい拍手が潮騒のように場内を包んだのだった。
 芹歌はチャイコフスキーの夢から覚めて、暫く呆然とした。割れんばかりの
拍手が演奏の成功を告げている。自分自身が感動して目じりに薄く涙が滲む。
「浅葱さんっ!」
 原に呼ばれた。立ち上がると抱きしめられた。
「よくやったね!素晴らしかったよっ。最高だ!」
「あ、ありがとうございます」
 背中をポンポンと軽く叩かれ、その後、コンサートマスターにも軽く抱擁された後に
握手を交わし、再び原と握手する。原は自分の事のように嬉しそうに高揚していた。
そして、手を取られて客席に向かって礼をする。
 芹歌は何も考えられなかった。夢から覚めても頭はまだ真っ白だ。ただ、歓声を
浴びている事がひたすら嬉しい。
 原と共に何度もお辞儀をしているうちに、客席の真田に気付いた。心から讃え、
心から喜んでいるのが伝わって来た。
(幸也さん、私、やったよ)
 心の中で、そう呼びかけた。二人の音楽を、しっかり弾ききれた。最高の瞬間だった。
これから先も、この舞台の上で、彼と一緒に生きていきたい。ここが私の生きる世界。
音楽を作り奏でられる事に、改めて感謝の気持ちが湧いてくるのだった。


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