ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第19章 銀木犀 第4回

2010.04.24  *Edit 

 おやつの後、勉強を見て貰って、理子は病院を後にした。来週の
日曜まで増山の顔を見れないと思うと、寂しかった。外へ出ると、
まだ明るいのに、既に秋の夕暮れを体に感じた。それが寂しさを
一層募らせる。何処かからか銀木犀の香りが微かに漂ってくる。
いい香りだ。この先この香りを嗅いだら、きっとこの年の、
この秋の出来ごとを思い出すことだろう。
 横浜駅から電車に乗り換えた時、理子は思わぬ人物と遭遇した。
 多田哲郎だ。
 中2の夏ごろから、高1の夏まで、ずっと片思いだった相手だ。
 「よぉ、理子!久しぶりじゃないか」
 「哲郎・・・」
 彼に彼女ができて、それを報告され、きっぱり諦めた高1の夏から、
同じ高校にいながら殆ど会う事が無かった。高校では、同じクラスには
一度もならなかったのと、何故かいつも、教室が遠かったのもある。
数えてみれば2年も会っていない。たまに、彼女と一緒に帰っている
姿を見かける程度だった。
 高校へ入学して、哲郎に彼女が出来るまでの間は、哲郎は教科書を
忘れると理子の所へ借りに来ていた。だから、理子も忘れた時には
たまに借りに行っていた。そういう時、休み時間が終わるまでよく
お喋りをしたものだ。哲郎はギャクの好きなよく喋る男で、中学で同じ
クラスで同じ班だった時は、毎日電話で1時間も喋っていた。
 哲郎には5つ年上の兄がいて、時々電話口に出ては取りついでくれて
いたが、毎日かかってくるものだから、「彼女からだぞー」と、
電話口の向こうでよく言われた。それを聞いて、理子は嬉しく
なったものだった。哲郎は「彼女じゃないよ」と必死に否定していて、
照れている様子が何となく伝わってきた。
 理子はパッと見、地味だ。大人しくしていると目立たないし、
顔立ちは整ってはいるものの、平凡な印象を受ける。理子と枝本が、
互いに互いの心を探りながら想いを伝えられずにいた時に、二人の
関係が周囲の噂になった。その噂は他のクラスにまで及んでいたようで、
哲郎も聞いていたそうだ。
 あの枝本の彼女って、どんな子?と思って、わざわざ理子達の
クラスまで見に来たらしい。そんな話しを、仲良くなってから
電話で聞いたのだ。その時に哲郎は、「その時は、正直なところ、
どこがいいんだろう?って思ったんだけど、今ならわかる」と言った。
その言葉を聞いた時、理子はとても嬉しくて、胸が高鳴った。既に
その時には哲郎の事が好きだったからだ。
 だが、それから間もなくして、ショックな事を言われた。
考えてみると、あれは秋だ。
 「俺、彼女ができたんだ。理子に一緒に喜んで貰いたくて、まだ
誰にも言って無いんだ。まず一番に理子に報告しようと思ってさ」
 暗闇の底に付き落とされた様な気分だったが、悟られぬように、
 「それは良かったねー。やったじゃん。おめでとう!」
 と、明るく言ったのだった。
 相手は、隣のクラスの女子で、小学5,6年生の時に理子と同じ
クラスだった子だ。地味で少し大人びた感じの痩せた女の子で、同じ
クラスだった時のいい印象は無い。あまり好きではない相手だったから、
ああいう子が好みなんだと思うと余計に悲しかった。
 それからは、哲郎とは少しずつ疎遠になる。同じ班でいる間は、
それ以降も毎日電話で話していた。
 「彼女とより理子との方が長電話」と笑いながら言っていた。だが、
その電話も、班が別々になったら無くなった。用事のある時にかかって
きたりもしたが、激減だ。更に翌年にはクラスが変わった。幸い、隣の
クラスだったので、理子の方からよく遊びに行った。
 それと、2年の時の担任と、班長・副班長だったメンバーでの
交歓会があって、副班長だった関係で理子もそのメンバーの一員
だった。定期的に会が催されていたので、クラスが変わっても
会えなくなる事は無かった。
 受験の時、哲郎も同じ高校を受験する事を知って、大喜びした。
また、同じクラスになれるかもしれない。そしたら、また哲郎と楽しい
時間を過ごせる、と思った。哲郎と彼女は、付き合い始めてから
1年くらいで別れていた。哲郎は彼女がいても、たまに理子と帰ったり、
廊下で仲良く話したりしていた為、噂になったりもした。彼女と
別れたのはそれが原因では無かったようだが、哲郎がフリーにな
った事を、内心ではひどく嬉しく思っていたのだった。
 朝霧高校へ入学し、最初のうちはよく互いの教室を行き来していた。
生憎、同じクラスにはならなかったが、登校時に一緒になる事は
よくあった。理子は、哲郎とのそう言うひと時が幸せだった。とても
気があって、話しも合い、喋り出せばきりが無い程、延々と続く。
そんな二人の間に、同じ中学出身の友人達が入って来るようになった。
 哲郎は落研に入る程、笑い話が好きで、明るく活発なので自然と
周囲に人が集まって来る。丸顔で、丸い眼鏡をかけていて、愛嬌の
ある顔をしていた。背も高い。中学の時に、身長を伸ばしたくて
バレー部に入っていた。念願通りに背が伸びて、その時も理子に
報告して一緒に喜んだ。
 中間テストも終わり、梅雨に入り、もうすぐ哲郎の誕生日が
やってくる。これまでプレゼントなんて一度もした事が無かったが、
今年はあげてみようかな、と思っていた矢先だ。
 「理子、聞いてくれ。俺、また彼女ができたんだ!」
 久しぶりにかかってきた電話で、そう言われた。
 また、こんな目に遭わされるとは。
 理子が哲郎を好きである事を知らないのだから、仕方が無い。
哲郎は、今時珍しい、話しの合う女らしくない女の友達だと理子の
事を思っている。だから、中学で彼女ができた時も、彼女の誕生日に
あげるプレゼントの相談をしたくらいだ。
 理子にとってみれば、たまったものではなかったが、理子の気持ちを
知っていれば、哲郎もそんな事はしなかっただろう。だが理子は、
気持ちを伝えて敬遠されるよりは、まだ友達でいられた方が良いと思って、
ずっと告白せずに友達で居続けたのだった。
 彼女の報告を受けて思う。私は永遠に、女友達のままなんだ。しかも、
学校やクラスが遠くなれば、そのまま疎遠になる程度の友達なんだ。
多分、私とはいつも馬鹿話で盛り上がってるから、異性に対する
気持ちなんて湧いてこないんだろう。
 もう、耐えられない。これ以上、こんな目には遭いたくない。
何時まで経っても女の子として見て貰えないのをわかっていて、
仲良くなんてしていられない。
 哲郎も、新しい環境にすっかり慣れて、理子との時間は減っていた。
教科書を借りに来る事も減っていた。たまに遊びに行くと、同じクラスの
生徒達と盛り上がっていて、入りにくくなっていた。
 潮時なのかもしれない。
 理子は哲郎への思いに踏ん切りを付ける為、最初で最後の誕生日
プレゼントを渡した。落研用の手ぬぐいだ。それを理子から渡された時、
哲郎は茹で蛸みたいに真っ赤になって、手刀を切って受け取った。
それから理子は、哲郎の許へは二度と行かなかった。文化祭の時にも、
落研は避けた。結局3年間、一度も行っていない。
 最初の年、文化祭が終わった後にメールが来た。「来なかったな」と
あった。理子は返事をしなかった。既に、須田先輩と付き合っていた。
メールを貰うと心は少し揺れたが、矢張り、クラスが違うと言うのは
こういう時にはありがたい。おまけに、一年は教室が半分ずつ、
一階と二階に分かれていて、哲郎は一階のクラスで理子は二階の
クラスだった。故意に行き来しなければ、顔を合わす事は滅多にない。
 哲郎の誕生日以来、そういう環境は諦めるのを助けてくれていた。須
田先輩に交際を申し込まれた時には、哲郎の事など全く思い起こす事も無
かった。文化祭の時には意識して落研を避けていたが、それ以外の時では、
理子の中での哲郎の存在は皆無に等しかった。
 その哲郎に、こんな風に電車の中で会おうとは。考えてみると、
修学旅行の時でさえ、見た記憶が無い。
 「元気してたぁ?」
 と、昔と全く変わらぬ瓢軽さだ。目の前にすると、矢張り少し
緊張して胸が高鳴る。
 理子は黙って頷いた。
 「すっげー久しぶりだよな。同じ学校にいるのに、全然、顔見ない」
 「そうだね。今、何組なの?」
 「3組。お前は?」
 「そうなんだ。私は10組。どうりで見ないわけだよね」
 やっぱり、クラスは遠く離れていた。理子と哲郎は、縁が無いのだろう。
そう思えてくる。
 「今日はどうした?電車で会うなんて奇遇だよな」
 「うん。ちょっと用事でね。哲郎は?」
 お互いに一人である。遊びに行ったとは思えない。
 「専門学校の見学会に」
 「専門学校?」
 哲郎の言葉に、理子はとても驚いた。何故哲郎が専門学校なんだ。
中学の時には、理子より成績は良かった筈だ。だから朝霧を受験する
時には驚いたくらいだったのに。
 「俺、調理師になろうと思ってさ」
 そう言って、はにかんだような笑みを浮かべた。
 哲郎が料理好きな事は、理子も承知している。
 同じ班になった時に、よく自分の弁当を作ってきているのを知った。
たまにおかずを貰ったりして、美味しかったのを思い出した。
だがまさか、進学せずに調理師とは。
 「昔から料理が好きだったのは知ってるけど、なんか勿体ない
気がする・・・。進学してからだって、出来るんじゃないの?」
 「俺、勉強、嫌いなんだ。高校へ入ってから、やる気がどんどん
薄れてきちゃってさ。入りたい大学も無いし、料理以外でやりたい事も
無い。だから、高いお金出して行ったって、無駄だろ?」
 そう言う哲郎を、理子は複雑な思いで見つめた。
 中学の時は学級委員長をやっていて、勉強もできて、みんなから
好かれていた。彼と同じクラスになり、最初に同じ班になったが為に、
理子は変われた。何でも率先して、リーダーシップを発揮し、哲郎が
作る波の上にいつの間にか理子は乗っかっているような感じだった。
 勉強にも、学級活動にも、全てにおいてやる気を増し、頑張って
これたのは、哲郎のお陰だ。同じ大学へ進学する事はなくても、
同じように大学生になるのだろうと、勝手に思っていた。こんなにも
早い段階で、全く違う道へと別れて行くことになるとは想像もしていなかった。
 存在を遠く感じた。なんだか寂しい。
 「彼女とは?」
 「続いてるよ。彼女もお前と同じように、勿体ないって言ってた。
女ってみんな同じ事言うのかな。お袋もだよ。兄貴は賛成してくれてるけど」
 「そっか。やりたい事があるなら、それが一番なのかな」
 「そうだろう?やりたい事だから打ち込めるし、頑張れるんだ。
お前はやっぱり大学受験?」
 「うん。そうなの」
 「英文科に行ってプロモーターになりたいって言ってたよな。
ロックミュージシャンを呼びたいって」
 「はははっ。その夢はとっくに断念しました。私、日本史の勉強をするの」
 「日本史?日本史か。それいいな。日本史なら俺もやりたいかも」
 中2の春、学校行事で静岡の登呂遺跡へ行き、勉強の成果を
研究発表する学年イベントがあった。哲郎と理子の班は、クラスの
代表になったのだ。毎日遅くまで頑張ったのを思い出す。その後も
グループで近くの空き地へと発掘に行き、縄文土器のかけらを
見つけて楽しんだりしていた。だから、哲郎も歴史には興味がある。
 「興味があるなら、調理師の勉強しながら趣味でやればいいじゃん」
 「そうだな。わかんない所があったら、理子に聞くかも。
そん時はよろしくな」
 「うん、勿論。哲郎も一人前の料理人になったら、御馳走してよ。
昔から哲郎の料理、好きだったんだから」
 「おうよ!」
  理子の言葉に、哲郎は胸を叩いた。
  その後二人は、下車駅へ着くまで取りとめのない話しをし、
電車を降りて別れた。
 「受験、頑張れよ!」
 「そっちこそ」
 哲郎との別れに、理子は、またひとつの終焉を迎えたのだと感じるのだった。
 銀木犀が微かに香っていた。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

Re: NoTitle>OH林檎 様 

OH林檎さん♪

いつまでも一緒にいられない。
別れの時期ですよね。
しかも、全く別の道を行くわけですし。

理子は段々大人の女性に成長していく感じですよね。
先生は、なんか理子の前だと情けない男に・・・w
外面と内面に随分と違いがあります。
病院では、学校じゃないって事で余計に緩んでるんでしょう^^

NoTitle 

ああ、なんか切ないーーー。
大人になっていく過渡期って
それまでの友達と
すごく仲良くなるか
疎遠になるか
の分かれ道でもある
んですよねーーー。
これでますます理子は大人に…。
で、先生は子供に…(笑)
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。