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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-23

2015.12.14  *Edit 

 神永の父親、神永友喜は小田原で漁師をしていて、地元の水産会社で事務を
していた菜々子と結婚したが、悠一郎が生まれて1年ほど経った頃に漁で怪我を
して漁師の仕事を続けられなくなった。
 元々が大酒飲みだったが、陽気な性格だったせいか、飲んで暴れるような事も
無かった友喜だったが、仕事が出来なくなってから、典型的な酒乱に変貌した。
 怪我の為に漁に出られなくなっても、組合の紹介で水産会社の下働きのような仕事を
していたが、海に出られないストレスで飲んだくれてはクダを巻き、仕事は疎かになり、
周囲に当たり散らすようになった。生計は殆ど、妻の菜々子の稼ぎに頼るようになり、
自身はパチンコやギャンブルに手を出し、責められれば暴力をふるう。
 健が小学校に入学し、悠一郎が4歳になった頃は、神永家では喧嘩が絶えなかったらしい。
菜々子が子どもの学費の為にと隠していた金を友喜が発見し、大ゲンカになった事も
あったと言う。毎日のように、飲んで暴れる大騒ぎな神永家は、近所では評判だった。
 そんな時、ある日を境に、ぱったりと静かになって、近所は不審に思ったそうだ。
子ども達に訊くと、「お母さんが出て行った」と言う。友喜自身も、「あいつは俺に
嫌気がさして、書置きを残して出て行ったんだ。もう、耐えられないんだとよ」と
周囲に言っていた。
 酒を飲むと暴れて、妻を殴る蹴ると痛い目に遭わせていた。あれじゃぁ、奥さんが
逃げても当然だ。むしろ、逃げないわけがない、と周囲は誰もがそう思ったらしい。
 警察は、多岐にわたる調査結果により、いつものような夫婦喧嘩がエスカレートし、
カッとした友喜が妻の菜々子を花瓶で殴った結果、死んでしまったものと結論づけた。
その後、床下に埋めて、妻は蒸発したと周囲に喧伝した。
 家は持ち家である。その後の経済状況や、ギャンブルと酒に明けくれた生活から見れば、
家を売っても良さそうなものなのに、最後まで売ろうとしなかったのは、そういう
理由があったからだろうと推測された。
 凶器の花瓶は桐箱に納められて、天袋の隅に置かれていた。血痕が残っていて、
被害者のものと一致した。花瓶には友喜と子ども達の指紋が残っていたが、
手の大きさからしても、この花瓶で子どもが母親を殴るのは不可能であり、凶行に
及んだのは友喜であると断定されたのだった。
 事件は被疑者死亡で書類送検されて終わった。
「ゆう君、ほんとに可哀想だったわね。お父さん、ずっとお酒とギャンブルばかり
だったそうだから。お兄さんも、そんな父親が嫌で、さっさと家を出たのに、結局、
満足な仕事に就けなくて、父親と同じような人生を送るようになったみたいよ。
そんな中で、真面目に勉強して大学も出て、福祉の仕事に就いて……。しかも、
あんなにいい子で。不憫な子よね……」
 家庭環境や生い立ちを知ると、そんな中で彼は一人で健気に生きてきたんだな、
とつくづく思う。だからこそ、芹歌や実花への思いも強かったんだろうと納得する。
これから彼はどうするのだろう。
「ねぇ、芹歌。真田さんとの事だけど」
「うん……」
 急に真田との話しになって、芹歌は緊張した。
「あなた、お教室も閉じちゃったし、どうあってもヨーロッパへ行っちゃうのよね?」
「ごめんなさい……」
「あの人、ステキな人だし、音楽的にも凄いわよね。いい人だと思うし。学生の時には、
あの人の後を追ってあなたが留学するの、楽しみにしてたわ。あの人に任せても
安心だって思ってたから。だけどねぇ……」
 実花はそう言って、溜息をついた。
「結婚となるとね。やっぱり話しは別な気がするの。ヨーロッパへ行くのは、
もう反対しないわ。元々、行く筈だったのが駄目になってしまったんだから。
だけど、結婚は、そう慌てなくてもいいんじゃない?もう少し、時間をかけても……」
「ありがとう。心配してくれて。お母さんの言う事も、一理あると思う。だけど今は、
コンクールに集中したいから、終わってからまた話すって事でいいかな」
「そうね。直前にする話しじゃないわね。私の今後の生活についても、相談しなきゃ
ならないし、全ては終わってからね」
「そう。全ては終わってから」
 芹歌は小さく笑って頷いた。
 母の心配は尤もだと思う。はたから見れば、容姿端麗な世界的なバイオリニスト
である30歳の男性と結婚して、女として幸せになれるのかと心配にもなるだろう。
 そう考えると、実花が本選に聴きに来ると言うのは、丁度良い機会なのかもしれない。
自分達の愛を分かって貰えるのではないか。
――すべてをピアノにぶつける。
 それこそが全てなのだと、改めて思う。

 コンクール当日。本選2日目だ。前日は下位4名の演奏だった。聴きに行った
渡良瀬からの情報によると、勝ち残っただけに其々素晴らしい演奏ではあったが、
上位に喰い込む程では無かったと言う。下位の中での順位争いで終わりそうだと
メールにあった。
 会場へは真田と共に向かった。渡良瀬は一足先に行っている。
「どう、調子の方は?」
 タクシーの中で繋がれた手に軽くキスされて、芹歌は赤くなる。
「大丈夫です。体調も、気持ちの方も」
 真田は芹歌の指先を軽く揉む。
「指先、少し冷たいんじゃないか?」
「いつもの事です。ずっと冷たいわけじゃないから、大丈夫ですよ、心配いりません」
「そうか。ならいいが……」
 繋がれた手が温かい。並んで座る心地良さ。こうしてずっと、二人で生きて行きたい。
その想いを、今日、ピアノにぶつける。
「今日、この後、お母さんが来るって言ってました。神永君と一緒に」
「え?彼と一緒に?」
「はい。でも、大丈夫です。いい機会だと思います。私も二人に聴いて欲しいから」
「そうだな。いい機会だな。お母さんは、去年の発表会以来だろ?」
「はい。きっと、驚くと思いますよ」
 芹歌は笑った。
「驚き過ぎて、いきなり走りだすかもな」
「あはは、それ、凄い面白い。ウケますよ」
 真田がこんな冗談を言うなんて、初めて聞いた。いつも神経質で気難しい所があるのに、
新しい発見をしたような気になる。
 タクシーが到着し、二人は会場へ入った。出場者専用の受付へ進む。二人は取り敢えず
そこで別れた。出場者達は、一度会議室に集合し、今日1日の段取りなどの説明を
聞いた後は、自分の出番が来るまでは自由だ。
 上位4人は芹歌を除いて全員が男子だった。そのうち二人が外国人。アーロンの他に
韓国人のリ・ギジュン。リ・ギジュンは東和音大に留学中だ。2次予選を3位で
通過している。4位通過は日本人男子で、畑地伸一。逍遙音学院4年。全員が
20代前半で芹歌より年下だ。
 下位から始まるので、4位の畑地はすぐに衣装に着替えて軽く音合わせをし、
本番に入る。9時にスタートだ。持ち時間1時間。演奏後、1時間の休憩が入る。
だから、1番手は9時、2番手は11時、3番手は13時、そして芹歌は15時に
スタートする。芹歌にとっては長丁場だ。この順番が吉と出るか凶と出るか。
 それに、間に1時間ずつの休憩が入るとは言え、オーケストラと指揮者への負担も
大きい。渡されたプログラムを見ると、後半ほど大曲で時間も長い。特に芹歌が弾く
チャイコフスキーはかなり激しい曲だ。
「へぇ~、浅葱さん、チャイコの1番をやるんですか。ソロも大ポロネーズ。
凄いですねぇ。体力的にハードでしょうに。ぶつけてきましたね」
 4位の畑地が声を掛けて来た。畑地はリストとモーツァルトのコンチェルトだ。
1位と4位だが、そんな順位などまるで気にしていない、むしろ小馬鹿にしたような
雰囲気が感じられた。
「最近、国内のコーンクールでありながら、国際コンクールは外国人ばっかり優勝して
腹が立ちますね。派手で目立つ演奏ばかりに偏重しがちで。日本人だってスケール的には
負けてても音楽性では引けを取らないのに」
 悔しそうな口ぶりだ。今回も外国人に持って行かれそうだと思っているのだろう。
「あなたもその年齢で、しかも女性でありながら随分と頑張りましたねぇ。
でも本選では、どうなる事か。スケールと言う点では、更に女性は不利ですもんねぇ」
 男の癖にイヤミなヤツだな、と思いながら、芹歌は笑顔で対応する。
「そうですね。早く済ませて楽になりたいんですけど、順番が最後じゃ、ね。それまで
リラックスしてゆっくり待つしかないのかな。畑地君はすぐよね。早く終わって羨ましい」
 わざとクスリと笑った。畑地の顔が微かに引きつる。
 フンッと内心鼻で嗤って、芹歌は会議室をさっさと出た。ホールのカフェで真田と
渡良瀬が待っている。
 カフェの中はまだ人は少なかったが、殆どの人間が真田をチラ見していた。
「お待たせしました」
「ああ、芹歌ちゃん。もう打合せは終わったのね。段取りはどんな感じ?」
 渡良瀬が気ぜわしい様子で訊いてきた。
 芹歌は貰ったタイムテーブル表を手渡しながら、ざっと説明した。
「先が長いわね。分かっていたことではあるけど、まだ6時間も先よ」
 3番手のアーロン・M・ラインズの終了予定が14時なので、その時間になったら、
楽屋に入ってメイクアップし、遅くとも10分前には袖で待機しないとならない。
 自分の前の参加者達の演奏を聴かないのであれば、14時までは外へ出て自由に
過ごしても構わない。人によっては近ければ自宅待機も可能だ。人の演奏を聴くのも、
それなりに疲れるものだ。この時間を利用して練習する者もいる。
 ラインズはどうするのだろう。リ・ギジュンは2番目なので、当然、このまま畑地の
演奏を聴くだろう。いや、客席で聴くとも限らないか。自分より先の人間の演奏を聴いて、
動揺したり影響されたりする事を避け、わざと聴かない人間も少なくない。
 どうしようか考えていたら、ホールを早足で抜けて行く背の高い男に気付いた。
ラインズだ。その後を、男性二人と女性一人が追うようにして歩いている。三人とも
外国人のようだ。
「あら、あれは、ラインズ?」
 渡良瀬も気付いた。
「どうやら、出番まで外へ出るようだな」
 入りまで3時間少々ある。どこへ行くのだろう。
「あの調子だと、近くのレッスン場だな」
「どうして分かるんですか?」
 真田を見ると、驚いた事にニヤついていた。


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