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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-22

2015.12.13  *Edit 

 最後まで弾き終えると、オーケストラ内から拍手が湧いた。原も拍手している。
「凄く良かったよ、浅葱さん」
「あ、ありがとうございます」
 立って周囲にお辞儀する。そして振り返って真田を見た。彼も満足した顔をして
手を叩いていたので、やっとホッとする。
「さすがに渡良瀬さんのお弟子さんだね。よくここまで作り上げて来たと感心したよ。
あとはね。本番では、もっと思いきりいってもいいから。オケの事は、あまり
気にしなくていい。こちらで合わせていくから。君のピアノは気持ちいいね。
一緒にやってると、どんどん盛り上がっていく感じがする。だから、本番では
もっと自分を解放して構わないからね」
「はいっ、ありがとうございました」
 芹歌は充実した気持ちで会場を後にした。

「芹歌ちゃん、とっても良かったわ。先生、ここまで来て凄く嬉しいわよ」
 帰り道に、渡良瀬が感動したように言う。
「先生、ありがとうございます。私の方こそ感謝してます」
 本当に、一人じゃとても無理だった。そもそも、卒業後もずっと見捨てずに
きてもらえた事が何よりも感謝だ。そうでなければ、とても挑戦なんてできなかった。
「当日が楽しみだな。原さん、君と一緒にやってると盛り上がって来るって言ってたが、
さすがだね。よく分かってる。今日は7割だったからな。本番で思いきりやったら、
腰抜かすかもしれないぞ」
「え?今日は7割だったの?」
 渡良瀬が目を丸くして驚いた。
「恵子先生、何を言ってるんですか。当たり前じゃないですか。なぁ、芹歌」
 芹歌は笑顔で頷いた。
「あら、まぁまぁ……。私、9割くらいだと思ってた。あれで7割?だとしたら、
本番はどうなるのかしら?だけど、リハとは言え、7割なんて抑え過ぎじゃなくて?」
「恵子先生は、いつもリハでは9割なんですか?」
 真田に問われて、「当然よ」と渡良瀬は答えた。
「本番に近いくらいにテンションを上げておかないと、本番で上げきれないじゃないの」
「なるほど。まぁ、その辺は人によるのかな。僕はいつも7割なんですよ。
だから一緒にやってる芹歌も7割癖がついちゃってるのかもしれません。
それが良いのか悪いのかは分かりませんが、僕達の間では良い結果をもたらしてます。
リハは7割、本番は十全以上で」
「十全以上?何なの?それは」
「言葉通りですよ。十全、つまり、万全、完全、それ以上を出すと言う事です。
完璧を目指すようじゃ、逆に自分で限界を作ってるようなものです。それに音楽は
生き物ですから。いつどう変化し、昇華するか分かりません。その為にも、リハでは
十分な余裕を持たせるんです。あえて伸びシロを作っておく。だから芹歌も本番で
それが出来たら、今日とは比較にならない程の音楽が生まれて来ますよ。今から
それが楽しみです」
「ええ?それって、凄い事じゃないの?だけど、そんな、上手くいくの?」
 渡良瀬はかえって不安を募らせるように、心配げに眉を寄せた。
「やるしかないですよ、先生。それに、今日が7割だったんだから本番は確実に
今日より良い演奏だって事です。それだけでも楽しみになりませんか」
「それはそうだけど……、芹歌ちゃんはどうなの?大丈夫そう?」
 芹歌は笑った。
「大丈夫です。真田さんが言うように、少なくとも今日よりは更に良くなると思いますよ。
なんせ7割だったんですから」
「あら。あなたがそんな風に自信を持って言うなんて、珍しいわね。昔から、
あがらない子だったけど、でも自信家ではなかったのに。真田君の影響かしら。
まぁ、いい事だけど」
 渡良瀬は呆れたような、ホッとしたような、そんな顔をして芹歌と真田の顔を見た。
 芹歌はあの日から自分の心が充足して強くなったと感じている。目の前の壁を
乗り越える事が、真田への愛の証しだと思うようになった。とても愛されているのを
感じる。この日も家まで送ってきて、別れ際に熱いキスを交わした。門柱の影で
抱きしめられる。
「いよいよだな」
「うん……」
「今日は本当に良かったよ。あとは本番で出し切るだけだ。ポロネーズの方も
楽しみにしてるから」
「ありがとう。……だけど、先生にはああ言ったけど、本番、大丈夫かな。
ソロはともかく、コンチェルトの方……」
 自分自身は弾ける自信はある。だが、協奏曲はソロではない。オーケストラとの
コラボレーションだ。自分ばかりが思いきり弾いて走ってしまうような事になったら、
との不安が若干あった。
「それは大丈夫だよ、きっと。今日の原さんの言葉でも分かっただろう?
本番は思いきりって。オケの方で合わすって。原さんはきっと分かってる。
今日のお前が抑えて弾いてたのをね。だから、本番では出し切れと促してきた。
相手はプロ中のプロなんだ。指揮者だけでなく、オーケストラもね。合わせるのは
朝飯前だよ。それに、思うにきっとオケの方もお前に影響されて、遥かに
良くなると思うな。審査員も会場も唸るに違いない」
 芹歌は温かな真田の胸の中で頷いた。
 最後の口づけを交わして別れた後、家へ入る。
「どうだった?今日のオケとのリハは……」
 母が心配げに問いかけて来た。
「うん。良かったと思う。原さんにも褒められた」
「あら、本当?私、原道隆、結構好きなのよ。ダンディでステキだし、
指揮を振る姿なんて、最高よね。あの人の指揮で演奏できるなんて、羨ましいわ」
 少女のように頬を染めて興奮している実花を見て、芹歌は微笑む。
「本番は、お母さん、会場へ行くわよ?」
「え?」
 以前よりも母親らしさを取り戻していた実花だが、車椅子だけに滅多に外出は
しないから、今度の本番も当然、来ないものと思っていただけに、芹歌はビックリした。
行くと言われても、車椅子の人間を連れて行くなら、それなりの前準備が必要だろう。
当事者である芹歌に、その負担は重い。
「折角の晴れ舞台じゃない。前のコンクールの時は6位入賞で残念だったけど、
今回は違うでしょう?2次突破の時点でトップだったんだから、優勝できるかも
しれないんだし。そんな時に母親が行かないって、可笑しいわよね?幾らいい歳した
大人だと言っても」
「それはそうかもしれないけど……」
 連れて行く方の身にもなって欲しい。演奏する事に集中したいのに。
「大丈夫よ。当日はね。ゆう君に連れて行ってもらうから」
「え?神永君に?」
 神永のレッスンは、昨日で最後だった。
「1年間、ありがとうございました。楽しかったです」
 彼はそう言って、深々とお辞儀をした。そして、いつもの通りに浅葱家で夕飯を摂り、
特に別れを惜しむでもなく、いつも通りに去っていった。芹歌には何だかそれが
凄く寂しかった。あまりにも呆気ない。
「ゆう君もね。本選は是非会場で聴きたいって言ってたからね。二人で行く事にしたの。
だから、あなたは私の心配をしなくていいわよ?」
「い、いつの間に、そんな話しになったの?」
「そうねぇ……。いつだったかしら。あなたが2次を突破した頃だったかしらねぇ」
 そんな前から……。だから昨日は、素っ気ない様子で帰っていったのか。
昨日が本当の別れでは無かったから。
「そう言えば、ゆう君のお母さんの事、大体片付いたみたいね。良かったわ。
これであの子も安心したでしょうね」
 難航していた白骨遺体の件が、取り敢えず、大体の解決を見るに至ったのだった。


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