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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-21

2015.12.11  *Edit 

 その日から、真田は練習後は必ず芹歌を家まで送るようになった。
芹歌は真田の貴重な時間を奪うようで遠慮したが、真田の方で譲らない。
「少しでも芹歌と一緒にいたいんだ。お前は違うのか?」
 甘い顔と声でそんな事を言われたら、断れるわけがない。それに芹歌だって、
少しでも一緒にいたいと思うのは同じだった。
「私、なんだか怖い……」
「どうして」
「だって……。こんな事、初めてだから、自分の心のやり場って言うか、
こんなに好きになるなんて……」
 思わず恥ずかしくて俯く。
「それなら、俺も少しは分かる。お前を好きな気持ちをずっと押さえつけて
きたからな。こんなに愛しくて、求める気持ちを抑えられない今が、怖いと
言えばそうかもしれないが、でも俺は、自分にこんな心があったって事の方が嬉しいかな」
「幸也さん……。それは私も、そうかも。でもずっと音楽だけで来たから、
音楽以外の事に心をこんなに奪われるなんて……」
 真田は握る手に力を込めた。
「じゃぁ、訊く。芹歌は、俺と音楽、どっちが大事だと思う?」
「ええ?」
 なんて意地悪な質問なんだろう。そんな事、考えた事が無い。
「そ、そんなの……、選べない……」
「だよな。俺も選べない」
「はぁ?じゃぁ、どうして訊いたの?」
 真剣に考えたのが馬鹿みたいじゃないか。
「例えて言うなら、音楽は空気で、芹歌は食事だな」
「はい?」
 分かる気がしないでもないが、食事に例えられたところにエロスが連想されて、
赤くなるのだった。
「空気は無くてはならないものだよな。無かったら死ぬ。自然にあって当然のもの。
食事も、しなくても大丈夫な時もあるものの、いつまでも食べないでいたら
栄養失調になって餓死する。だからこれも無かったら死ぬ。そして食事は、
心身の糧だ。良い食事ほど、良い精神と良い肉体と豊かな人生を作ってくれる。
お前は俺にとっては最高の食事なんだ。他は要らない。お前一人で全てを満たしてる。
飽きる事も決してないんだ」
「や、やだな、幸也さんったら。口が、上手すぎる……。いつからそんなに、
饒舌になったの?」
「え?そうか?ちゃんと言っとかないとさ。お前、おニブだからわかって
くれないかと思って」
「な、何よ、おニブってぇ」
 芹歌はむくれた。おニブなんて侮辱だ。
「はははっ、まぁ、いいじゃないか。そういう所が可愛いんだし。でも、躰は
鈍くないからさ。最高だよ?俺の芹歌」
 そう言って抱き寄せられて、躰の芯から熱くなる。
「もう、周囲に何を言われても、気にするな。俺の心はいつだってお前に向いてる。
こう言っちゃなんだけど、世間にも大勢ファンがいるからさ。妬まれる事が多いと思う。
だけど俺は全力でお前を守る。だからお前自身も心を強くもって欲しい。負けないでくれ」
 芹歌は頷いた。
「それから、俺を愛する心は、俺と一緒の時には遠慮しないで俺にぶつけて欲しい。
それ以外の時は、ピアノにぶつけるんだ。どちらにも、真っ直ぐに心を解放する事」
「え?ピアノに?」
「そうだ。自分の心をぶつけるんだよ。1次予選の前に、精神的に泥沼になった時、
酷かったけどピアノにぶつけてたろ。あれはあれで良かった。お前のピアノは
いつもサラッとし過ぎてたからな。ずっと心にフタをして感情を抑えて来たからだ。
でもあれから変わって来た。その後の変貌ぶりには感心してるが、まだまだ
進化していける筈だ。その為には、心を解放するしかない」
 心を解放……。言葉で言えば簡単に聞えるが、実際にやるとなると難しい課題だ。
「俺にとっても、それは言える。ずっと技巧に頼って来て、心は解放できずにいた。
お前と一緒に演奏する時だけ、自由に心が羽ばたいた。でも、まだまだだ。
俺達は今、目覚めの時なんだと思う。離れていた心がやっと一緒になって、
互いに共鳴してる。特にお前は、ずっと眠っていたからな。今が目覚めのチャンスだよ。
そして一緒に世界に行くんだ」
 目覚めの時……。確かにそうかもしれない。私はずっと眠っていた。暗い闇の中で、
自分の本来進むべき道を見失って。
「ありがとう。幸也さんって、やっぱり凄い人。ずっと憧れ続けてきて、ずっと
そばにいたかったけど、無理だって諦めてた。でも私、もう諦めない。一緒に行くから」
「ああ。一緒に行こう」
 もうブレない。動揺しない。この愛を信じて、自分の音楽を追求していく。
 本選のオケリハが始まった。二日目の夕方に渡良瀬と真田と共に会場へ入った。
「はじめまして。原道隆です。頑張りましょう」
「はい。よろしくお願いします」
 原は五十年配の、今が盛りの指揮者だ。世界の有名なオーケストラでも指揮を
とっている。エネルギッシュで尚且つ華麗なパフォーマンスが人気を博していた。
作る音も素晴らしい。
「あれ?真田君じゃないの?」
「どうも。お久しぶりです」
 二人は握手を交わした。
「渡良瀬さんも、お久しぶりですね。えーっと、先生の生徒さんなのかな?」
「ええ、ご無沙汰してます。私の愛弟子ですの。色々事情があって、今更の
コンクールなんですけど、自慢の生徒なので、よろしくお願いしますね」
「そうでしたか。それは楽しみだ。それで、真田君は?……あー、もしかして、
君の伴奏者だった人かな?去年の国芸の学内コンサートで評判だった……。
僕はあの時はボストンにいたから行けなかったけれど」
「そうなんです。ただの伴奏者でいさせるには勿体ない人なので、今回、
ピアニストとして自立する為にも、このコンクールに挑戦してもらってるんです」
「ふむ、ふむ。なるほどね。でも、それだけじゃないね?こうして付き添って
くるって事は……」
 原は冷やかすようにニヤニヤと笑った。
「ご想像にお任せします」
 真田はにこやかに微笑んで、原の言葉をかわした。芹歌は二人のやりとりに頬が染まる。
「そうかい。まぁ、いいでしょう。今後が楽しみだ。じゃぁ、やりましょうか」
 指揮者と聞くと神経質な人を連想しがちだが、原は陽気で朗らかで親しみやすかった。
「貰った録音で、オケの方の音は大体できてるから、安心して弾くといいよ」
 そう言われて、少し緊張がほぐれた。
「落ち着いて」
 真田が軽く芹歌の肩に手を置いた。芹歌は頷く。


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