ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-19

2015.12.07  *Edit 

「今日の演奏、自分でも分かってるよな」
 真田の部屋のソファに腰を沈めた時、向かい合わせに座った彼にそう言われた。
「俺と二人でやってる時より良く無かった。迷ってる風では無かったな。しきりに
一生懸命弾いてはいたが、一本調子だった。あの曲はテクニックだけでも弾きこなせれば
聴衆からは歓声を受けられる。だから、あんな演奏でも、最後まで弾きこなせば
『凄い』と思う人間は少なくないだろう。だが、俺の耳も審査員の耳も誤魔化せないぞ。
何より自分自身の耳もな」
 まさに耳に痛かった。
「1次予選、2次予選と、進むほどに良くなってる。と言うより、1次の時から
素晴らしい演奏ぶりなのに、何なんだ、今日のは。コンクール前に後退してるじゃないか。
恵子先生が、俺が来た事で良くなったと言ってたが、俺が来てあの程度なら、
俺は立つ瀬が無い思いになる」
「ごめんなさい……」
 立つ瀬が無いなんて言われたら、謝るしか無かった。あんな演奏になった原因は、
真田の事だが、真田が悪いのではない。結局は自分自身の心の問題だ。
 真田は小さく吐息をつくと、立ち上がって芹歌の隣に座った。そっと抱きしめて来た。
芹歌は僅かに硬くなる。
「悪かった。言い過ぎた。思うような結果が得られなかったからって、怒るのは
お門違いだよな……。ごめんな」
 芹歌は頭を振って、真田の首に両手を回した。
「芹歌?」
「ごめんなさい。あなたが怒っても当然よ?だって私、自分でも満足のいく演奏が
できなかったんだから……」
「だからって、責める俺も能が無い……。だけど、本当にどうしたんだろうな?」
「原因は……自分でわかってるの」
「どういう事だ?」
 芹歌は腕をほどいて真田から離れた。そばに置いたバックから、封筒と手袋を出す。
「それは……」
 真田は手袋を見て驚いた。
「それ、どうしたんだ。何でお前が持ってる?」
 かなり動揺しているのが見て取れる。
「その前に、こっちも見て?」
 芹歌は封筒の中身を見るように促した。真田は怪訝な顔をして封筒を受け取ると、
中身を出して、ウンザリしたような顔になった。
「何だよ、これは。どうして芹歌がこんな物を持ってるんだ?」
 怒り調子だ。弁解しようとしない事が、真実を語っているのかもしれない。
「昨日の帰りに、須山さんに渡されたの。大田さんから渡すように言われたって」
「何だ、それは。何故、彼女たちが?」
「わからない?もう、あなたが相手にしないからよ。でも、コンクールが終われば、
また元のようになるって言ってた。それから、私が帰った後、久美子と頻繁に逢ってるって。
元々そういう関係だったんだから、当然だって」
 真田の目が怒りに燃えている。
「それで、お前はそれを信じたのか」
「嘘だって思った。でも、その写真を見てショックを受けたのも本当よ。ショックを
受け無い方がおかしいでしょう?あなたの事が好きなんだから」
「そうだな。確かにそうだ。俺がお前だったら、やっぱりショックだ。信じていても」
「それで、その写真は一体どういう事なの?久美子と何があったの?そんな校内の
ベンチで、ラブシーンなんて有り得ないもの」
「はは、そうだな。芹歌の言う通りだ。それは、中村さんがいきなり抱きついてきたんだ。
純哉の事で打ち明け話をされて、泣きつかれた。俺も途方にくれたよ。泣きついてきた
後輩を、無下に引き離す事もできなくて。俺の事で泣きついてきたなら容赦なく
突き放すが、別の事だからさ。だが他人が見たら誤解するよな。悪かった。
お前に一言、言っておけば良かった」
 芹歌は首を振る。やっぱり、事情があったんだ。思った通りだ。だけど、それなら
野本加奈子は何故あんな事を?
「で、この手袋だが。どうして芹歌が持ってる?」
 芹歌は真田の目をジッと見た。後ろ暗さは感じられない。ただ不思議そうにしている。
「幸也さんは、この手袋をどこかに忘れて来たんだって自覚はあるの?」
「ああ……。気付いたのは今朝だけどな。コートのポケットに入れた筈なのに
無かったから。ただ、どこに忘れたのかは分からなかった」
「今朝はどうして遅刻したの?しかも、大幅に……」
「なんか俺、もしかして疑われてるのかな」
 真田の顔が少し不機嫌そうに歪んだ。だが芹歌は、どうして質問された事に素直に
答えてくれないんだと思う。
「じゃぁ、言う。夕べ、音楽家の野本加奈子がウチへ来たの」
「ええ?どうして彼女が?」
「それは、私の方が聞きたいです。その手袋、彼女が持ってきたのよ。あなたが
忘れて行ったって。本当なら真田家に届ける所だけど、敷居が高くてできないから
私にって。どういう事?一緒にあなたと仕事をしたいって言ってた。でも、
私のコンクールがあるからって断られたって。コンクールが終わったら、あなたを
解放しろなんて言われたのよ?私にはピアノ教室の先生がお似合いだからって。
それから、夕べは久美子に呼び出されて久美子の元へ行ったとも言ってた。
ここまで言われたら、気にするなって言う方が無理でしょう?散々、貶められて、
馬鹿にされて、凄く悔しかった……」
 ボロボロと涙がこぼれてきた。ずっと泣くまいと頑張って来たが、限界だった。
「あの女っ」
 真田は険しい顔で拳を握りしめている。
「ねぇ……、昨日、あの人の部屋へ行ったの?その後、どこへ行ったの?私には
言えない事なの?」
 真田は芹歌を見て、詫びるような顔になった。
「芹歌。昨日俺が行ったのは、純哉の所だ。純哉のマンションへ行ったんだよ。
中村さんの事で。そしたら、そこに野本加奈子がいた」
「え?どうして?」
「純哉は野本加奈子と一緒に仕事をしているうちに、抜き差しならない関係になってね。
その事を心配した中村さんが泣きついてきたんだ。お前の所に神永君の兄さんが
来たあの日、純哉の所にあの女がいたんだよ。だから、昨日も、また来てるのかって
思って部屋へ入ったんだが、純哉がいないって分かったのは、暫くしてからだった」
「それって、片倉先輩が留守の中、あの人がいたって事?」
「そういう事。途中で気付いて、すぐに部屋を出たが、誘惑された。勿論、俺は断ったよ。
仕事の依頼もね。あの女と一緒に仕事をする気は全くない。その理由としてお前の
コンクールの事を出してもいない。後ろから抱きついて来たが、振り払った。
もしかしたら、その時に手袋が落ちたか、抜き取られたかしたんだと思う。
俺は確かにポケットに入れたからな」
「じゃぁ、あの人はどうして私の事を……」
「さぁな。須山達と同じ穴の狢じゃないのか。お前が妬ましいのさ。俺が靡かないから」
「幸也さん……」
 真田は芹歌の涙を拭った。
「お前を泣かせるような事をするなんて、許せない。あの女どもっ」
「私……。ごめんなさい。疑いたく無かった。信じたいって。だけど、どうしても心が」
「馬鹿だな。夕べ、あの女が帰った後にでも、すぐにメールなり電話なり、
寄越せば良かったんだ。なぜ、そうしない。お前はいつもそうだ。一人で抱え込むなよ」
「ごめんなさい。でも、何だか聞きづらくて……。それに、それこそ、
信じて無いのか、って怒られそうな気がして……」
「そうか。そうかもな……。俺も悪いんだな。夕べはな。純哉のマンションを出た後、
純哉にメールをしたんだ。どう言う事だ?って。そしたらアイツ、実家にいてさ。
マンションに押しかけて居座ってるあの女から逃げたらしい。で、アイツの実家に
行ってたの。なんせ遠いから、日帰りできなくなって泊まってきたんだ。
戻って来るのも大変だったよ。想像以上に時間がかかって。そんな訳で遅刻した。
こんな事、手短に説明できないもんな」
 そうだったのか。そんな事があったとは。それにしても、野本加奈子には驚く。
確か離婚歴があった筈だ。年齢的にも、真田や片倉とは一回り近く上なのに。
そんな事は関係ないのか。
「芹歌……」
 強く抱きしめられた。
「悲しませて、心配させて、ごめん。だけどお前、相当俺を愛してるんだな」
「はい?」
 何で?いや、確かにその通りだとは思うが、それを本人が言うものか?


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。