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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-16

2015.12.02  *Edit 

「あの人さ。出て行ってくれないんだよ。すっかり居ついちゃってさ。
仕事に行くのに便利だとか言って……」
「な、なんだよ、それは。不法占拠か?」
「ははは、どうなんだろう。まぁ言ってみれば押し掛け女房、みたいな感じ?」
「馬鹿、何言ってるんだよ。お前、もうすぐ結婚するんだろうが」
「そうなんだよ。だから、このままじゃヤバイと思ってね」
 久美子の話しを思い出した。婚約者の久坂真弓から聞いたと言う話しだ。
「婚約者との結婚話、渋りだしてるって聞いたが」
「うん……、気乗りしないと言うか、面倒くさくなったと言うか。もう少し
フリーでいたくなったと言うか……」
「結婚したって、変わらず恋愛遊戯を続けるって言ってたじゃないか」
 片倉は膝に肘をついて、頭を抱えた。
「あの人に……結婚しないかって言われた」
 真田は言い知れぬ怒りが湧いてくるのを感じた。目の前の片倉の様子が、
あまりにも色恋にハマっただらしない少年のようだからだ。そして、そんな風に
したのが、あの女だからだ。割り切った付き合いなら、別にあの女が相手でも
構わない。だが、すっかり虜にされている。まるで奴隷のようだ。
「俺はよく知らないが、中村さんから聞いた話しによると、バツ2だって
言うじゃないか。しかも、元亭主たちはすっかり腑抜けにされてるって話しだ。
だから、中村さんが心配するのも、よくわかる」
「あ、あのさ。話しの腰を折るようで悪いんだけど、なんで久美ちゃんの事を
『中村さん』なんて言ってるの?」
 真田は思わず苦笑する。
「ああ、なんか変だよな?自分で言ってても、そう思う。だけど、もう、
芹歌以外の女を下の名前では呼べないんだよ。芹歌と約束したから」
「はぁ?」
「嫌だって言われたんだ。他の女を下の名前で呼ぶのをさ。じゃないと、
特別感を感じられないってね。まぁ、俺だって、あいつが俺以外の男を
下の名で呼んだら嫌だからな。気持ちはよくわかる。だから、まぁ、仕方が無い」
 プッと片倉が吹き出した。
「あっはっはっは!すっごい笑える……、クックック……」
 片倉が腹を抱えた。そんなに笑う事かよと思うが、さびれた顔をしていたのが
笑顔になって嬉しくも思う。
「そう言えば芹歌ちゃん、ユキの事を『幸也さん』って呼ぶようになったよね。
アレ、凄くいいよねぇ。なんか芹歌ちゃんに合ってるって言うか、何ての、
初々しい感じがたまらないよね。僕の婚約者なんか『純哉さん』って呼ぶけど、
あんまり可愛くないんだよ。そんな所もつまらなくなったんだよね」
「それなら考え直すいい機会じゃないのか?だからと言って、あの女と一緒に
なるのは反対だけどね。あんな年増と一緒になっても後々、後悔するだけだぞ」
「幸也は、あの人を知らないからそう思うんだ。彼女は凄いよ。音楽性も素晴らしいし、
女としても最高だ。だらしないのが玉にキズだけどね」
「そんなにいいのか」
「うん……。こうして離れていても、思い出すと抱きたくなる。一緒にいるとさ。
朝から晩まで抱き合って、トロトロになるんだよ」
 女遊びを知らない中高年の男なら理解できるセリフだが、これほどの遊び人である
片倉がここまで骨抜きにされるとは、相当なんだなと真田は思う。
「だけどお前……」
「わかってる。わかってるから逃げて来たんだ。このままじゃ飲み込まれると
思ったから。それでもいいって思う気持ちもあった。だから葛藤したよ」
「そうか。だけど、仕事はどうするんだ」
「それなんだよね。今後、仕事上であの人と全く関わらないなんてのは、
無理だろうって思うし。そうしたら、また元の木阿弥になりそうで不安なんだ」
「取り敢えず、暫くはあの女と一緒の仕事は避けるんだな。いずれ落ち着けば
平気になるんじゃないのかな。あの女の年齢を考えてみろよ。どんどん年を
取るんだぞ。それに、お前が駄目だったら、他の男に乗り換えるだろうしな」
 片倉は気落ちしたように肩を落とした。
「そう思うと、悲しいよ。あれだけ恋愛は遊びだと思っていたのに、このザマ
なんだからね。こんな気持ちになるとは思って無かった。そもそもさ。
幸也と芹歌ちゃんのせいでもあるんだ」
「何言ってるんだ。なんで俺達のせいなんだよ」
「君たち二人がさ。共に音楽を作り合えるパートナー同士でさ。愛し合ってるからだよ。
羨ましくなったんだよ、そういうの。僕には一生、縁のない事だって思ってたけど、
加奈子さんと一緒にやるようになって、あの人の音楽性に魂ごと惹かれちゃってさ。
だから誘われたら嬉しくて抱いたし、抱いてみたら離れられない程、凄くてさ……。
まるで極楽浄土のようだったよ」
 ここまで聞かされると、もう返す言葉が出て来ない。極楽浄土なのだとしたら、
そこから逃げてくるのは、さぞや大変な事だったんだろう。だから、逃げて来た後でも、
葛藤が続いている。
「俺と芹歌は公私ともに必要な存在だが、お前とあの女は違うと俺は思う。
音楽は別として、お前はあの女とのセックスに溺れているだけだ。体の関係なんて
一時的な事だぞ。音楽の上では尊敬してても、それと愛情は別だ。あの女は
若い才能を吸いつくして、必要が無くなったら捨てる。今までもこれからも、
それは変わらない。その証拠に、俺を誘惑してきたじゃないか。
お前を愛していない証拠だよ」
 片倉は寂しそうに笑った。
「確かに、そうだね……。君の言う通りだ。だけど、心は痛むよ。頭でわかっていても、
どうにもならないものなんだって、初めて知った気がするんだ」
「なぁ。中村さんとはどうなんだ。彼女はお前の事を凄く心配してたぞ。
相性もいいみたいだし、少なくともアイツはお前を好きだと思うけどな」
「加奈子さんと深い関係になる前までは、久美ちゃんの事、好きだったよ。
あの子とは体の相性も凄くいいんだ。一緒にいて楽しいしね。だからと言って、
彼女と結婚したいとかは思わないけど、今後も良い関係でいたいって思ってた。
だけどもう、駄目だね。僕は当分、女の子と恋愛遊戯を楽しむ気が起きそうにないし、
久美ちゃんは久美ちゃんで新年度に入ったら、アメリカへ行くとか言ってるし」
「アメリカぁ?」
「あれ、聞いてないの?」
「聞いて無いよ」
 真田は憮然とした。そんな話は初耳だ。
「そうなんだ……。いつ頃だったかな、そんな事を言い出したのは……。
確か、僕が加奈子さんと親密になった頃だったかな」
 真田はそれを聞いて、大きな溜息を一つついた。
(原因はお前なんじゃないか)
 結局のところ、失恋して外国へ行くって事か。だが、相手から逃げると言う点では、
片倉と同じことだな、と思う。
「なんで、アメリカなんだろうな」
「さぁ?武者修行に行くって言ってたよ。どうも芹歌ちゃんに刺激されたみたいだよ」
「はぁ?何だよ、また俺達のせいにするのかよ」
 片倉が薄い笑みを浮かべた。
「そうじゃないよ。久美ちゃんさ。本気になった芹歌ちゃんに対してさ、
怯えてるんだよ。危機感を覚えてるんだ。だから、このままじゃ駄目だって
思ったんだ。で、君と芹歌ちゃんがヨーロッパに行くなら、自分はアメリカって
思ったんじゃない?」
 なるほど。そう言われてみれば分からなくも無い。久美子は一介のピアノ教師で
伴奏者である芹歌に対し、ピアニストとして優越感を持っているのが感じられた。
だから、余計に芹歌を怖く感じるのだろう。
「だけど、彼女、お前と一緒にいたいと思ってるんじゃないのか?物凄く、
お前の事を心配してたんだぞ。お前の将来を」
「ああ、そうだね。その点は有難いって思ってる。だけど、彼女が心配なのは、
音楽家としての僕の将来だと思う。僕を好いてくれているのは確かだけど、
それでも一人で武者修行する覚悟を決めてるんだよ」
「二人では、奏で合えないのか?」
「できるけど、それは互いに望んでる音じゃない」
「そうか」
 それぞれが自分の道を自分の足で行くしかないのだろう。
「ところで、芹歌ちゃんの方はどうなの?本選の練習……」
「ああ……。まぁ、良い感じではある。2次予選の演奏は期待通りの上出来だった。
これなら優勝確実って思ったんだが」
 真田の言葉に、片倉が眉をひそめた。
「何?どうしたの?なんかある?」
「うーん……。芹歌が悪いんじゃない。ただ、予想外の強敵がいた」
「強敵?」
「ああ……」
 真田はアーロン・M・ラインズの事を話した。真田としては芹歌の方が
彼を上回っていると思うものの、評価するのは人間だ。審査員がどう評価するか、
一抹の不安が拭えない。
「そっかぁ……。まぁ、女子より男子の方が有利だよね、全体的に。
笛だって肺活量的に男子の方が断然有利だからね。そういう点で、バイオリンは
あまり影響ないよね」
「まぁな。でも今はバイオリンの話しじゃない」
「そうだけどさ。そんな事を言ってたらキリが無いよ。何より一番不安に思ってるのは
芹歌ちゃん自身じゃないの?君が不安に思ってたら、彼女は一層不安になる」
「ああ。わかってるんだけどな」
 自分自身の事ならば、そんな不安は悉く打ち砕く。だが他者の事となると、違った。
しかも芹歌なのだ。芹歌を信じていないとかの問題ではなく、ただただ心配なのだ。
こんなに、自分以外の人間を心配に思うのは初めての事だ。これまで他人なんて
眼中になく、全てが自分中心だったのだから。
「幸也、変わったね。そんな風に芹歌ちゃんを心配してる姿、なんだか凄くいいよ。
単純に俺様だった時と違って、複雑な感じでさ。いい味出してる。男ぶり、増したね」
「おい!なんだよ、いきなり……」
「え?喜んでくれないの?愛する僕に褒められたのに」
 ニンマリと笑みを浮かべる顔が妖艶だ。真田は、これでこそ純哉だと思う。
「ああ、すまない。嬉しいよ。俺の純哉……」
 ウインクしてやると、「ゲーー」と吐く真似をされて、二人で大笑いした。



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