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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-15

2015.11.30  *Edit 

 久美子が来て2日後の練習帰りに、真田は片倉のマンションへ行ってみた。
仕事でいないかもしれないと思ったが、インタフォンを押すとすぐに返事があった。
「俺だけど……」
「え?俺って誰?」
 ハスキーな女の声だった。どうやら、野本加奈子らしい。矢張り一緒に住んでいるのか?
重たくなった気持ちを振りはらうように、営業声に変える。
「あ、真田ですが」
「やー、真田君?ちょっと待ってね。今開けるから」
 明るい声と同時に、扉が開く。真田は少し躊躇したが、中へ入った。片倉の部屋へつき、
ドアホンを押すと、野本加奈子が出て来た。
「いらっしゃい、久しぶりね。さ、入って」
 まるで自分の家のような態度だ。腹が立つが取り敢えずは顔には出さない。
「お邪魔します」
 中へ入ってみると、久美子の言葉に納得だ。片倉の部屋とは思えないほど、
散らかっている。まさに若い男の部屋らしい有り様だ。だが、片倉には当てはまらない
様相だった。
 加奈子は足でソファー回りの物を蹴飛ばしてスペースを作ると、「座って」と
にこやかに微笑みかけて来た。だが、その姿に面食らう。片倉のものと思われる
Tシャツを着ているだけだった。下着も着けていないようで、胸と下草がぼんやり
透けて見えている。
 加奈子は唖然としている真田を嘲笑うように妖艶な笑みを浮かべた。
「今お茶を淹れるから、とにかく座ったら?」
 そう言って、立ちつくす真田の横をすり抜けた。
 真田は気を持ち直して、空けられたスペースに腰を下ろす。周囲を見渡すと、
散らかっているのは主に楽譜だった。手に取って見ると、オーケストラ用だ。
加奈子のものらしい。思わず周囲に散らばっている譜面を片っ端から手に取ると、
振られている番号順に並べ替える。
「あら、ありがとう。助かるわ」
「いえ……」
 こういうのは苦手なのだ。片倉ほどではないが、揃い物であるならば、揃って無いと
気持ちが悪い。そう思って、ハタと気付いた。
「純哉は?」
「純ちゃんは留守よ」
 加奈子はコトリとテーブルの上にコップを置く。揺れた瞳が絡め取るように
真田に向けられている。
 真田は立ち上がった。
「あら、どうしたの?」
「帰ります」
「ちょっと、折角来たのに?もう少し、いいんじゃない?」
「いえ。純哉に用があって来たので、出直します」
 真田が散らばった床の隙間を探して足を運んでいると、背後から加奈子が抱きついてきた。
「ちょっと待ちなさいよ。少し、私と話していかない?」
 背中に柔らかな女の体を感じた。真田はそれを振り払う。
「やめて下さい。一体、どういう料簡なんです」
 振り向くと、加奈子が呆れたように軽く万歳のポーズをした。
「真田君が、こんなにお堅い人だとは思わなかったわ」
 肩を竦める。
「お堅いんじゃないですよ。興味が無いだけだ」
「まぁ。言ってくれるわね。だけど芸術家はもっと貪欲じゃないと駄目よ。
えっと、浅葱芹歌さんって言ったかしら?あなたのパートナー……」
 芹歌の名前を出されて、思わず顔がきつくなる。
「彼女が何か」
「あんなお嬢ちゃんを相手に満足してるようじゃ、駄目よ。ドイツでは、もっと
大人の女性を相手にしてたんでしょう?それなのに、あんなお子チャマでよく
満足できるわね。日本の男はロリコン趣味が多くて参るわ」
「何が言いたいのかわかりませんね。僕を誘っても無駄ですよ。あなたとは
公私ともに付き合う気はありませんから」
「あら残念。結局のところ、あなたって臆病なのね。新しい事に挑戦できないなんて、
人生を無駄にしてるわよ?」
「そうですか。僕はただ、新しい事に挑戦しないのではなくて、あなたとは
関わりたく無いだけなんですけどね。じゃぁ、これで失礼します」
 真田はそそくさと玄関まで歩くと、靴を履いて外へ出た。外の空気を吸って
途端に気分が良くなる。部屋の中は空気が淀んでいた。
 それにしても、一体片倉はどうしたんだ。直接訪ねてくるんじゃなかったと反省した。
携帯を取り出し、メールをする。連絡が上手く取れれば良いがと思っていたら、
予想外にすぐに返信が来た。中身を見て驚いた。彼は今、実家にいるらしい。

 我ながらマメだと思う。
 片倉の実家に到着した時は、夜の7時を過ぎていた。これから行くと連絡していた事も
あって、片倉家では夕飯のもてなしを受けた。
「まぁ、あの真田幸也さんと逢えるなんて!」
 一家揃って大喜びだ。サインを求められたので快くサインした。肝心な片倉はと言えば、
以前より少し痩せて、やつれた印象だった。
「やぁ、良く来てくれたね」
 照れ笑いを浮かべたが、少しぎこちない。とりあえず、何も訊かずに家族と共に
夕飯を摂った後、片倉の部屋へ入った。
「おい、一体、どうなってるんだ?お前」
 真田は勧められた椅子に座った。8畳の洋室の中は整然としている。片倉は
ベッドの上に腰かけて、長い足をくんだ。
「ごめん、ユキ……」
「久美子が、あ、いや、中村さんが俺の所に来たんだ。お前とあの女の事を心配して
泣きつかれたんで、俺も心配になってマンションに行ったんだが……」
「あー、それはごめんね。幸也には言っておくんだった。だけど、行って、
どうだった?彼女……」
 不安な面持ちで上目づかいに訊いてくる。片倉らしくない。
「嬉々として迎えられたよ。素っ裸にTシャツ一枚で。で、誘惑された。
なんだ、あの女は。欲求不満の淫乱女だな」
「そうだったんだ。だけど加奈子さん、ユキの事、気に入ってるんだよね。
一緒に仕事したいってずっと言ってる」
「はっ、こっちはごめんだね。その旨はしっかり伝えて来た。だけど、訪問した時、
お前が留守だって言わずに、俺を上げたんだぞ。部屋の散らかりようにたまげたよ。
中村さんから聞いていたが、女のくせに何だあのだらしなさは。楽譜が散らばってたんで、
思わず拾って番号順に揃えてる時に、お前の留守に気付いたんだ。お前がいれば、
少なくとも譜面がバラバラに散らかってる筈、無いだろうからな」
 片倉の顔が嬉しそうに笑った。
「あの人、僕がどんなに揃えてあげても、気付くとバラバラになってるんだよね。
それ以外でも、凄い散らかし魔」
「俺は嘆かわしいよ。お前の綺麗な部屋が汚くされてるのが。それで、どうして
お前はここに居るんだ?いつからいつまで居るんだ?」
「僕さ……。逃げて来たんだよね」
「どうして」
「……あの人が、あまりに魅力的だから怖くなって」
 微かに頬を染めている。少年のような有り様に、真田は唖然とした。


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