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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第19章 銀木犀 第3回

2010.04.23  *Edit 

 「だけど理子ちゃんの彼氏が、あんな大人の男の人とはね。
珍しいんじゃない?」
 「そうだろうとは思います。高校生ですからね」
 「あんなカッコイイ人、よくゲットできたね。理子ちゃんって、
そんなに積極的だったっけ?」
 「いいえ、全然。臆病者です、私は。だから、ラッキーだったと
しか言いようがないです。どういうわけか、あの人も私を好きに
なってくれていたんです。今でも信じられないです」
 「へぇ~、なんか羨ましいなぁ。でも、イイ男だけに、もてるでしょ。
心配じゃない?」
 「あまり、心配してないです」
 「えー?どうしてぇ?病院でも凄いわよ。理子ちゃんは日曜しか
来ないから知らないでしょうけど、もう本当、争奪戦って感じよ。
みんなが増山さんの世話をしたがって。患者さんとナースって、
カップルになる確率、結構高いのよ。奥さんが看護婦さんって男の人の
多くは、入院中に知り合って、熱心に世話をして貰って好きになったって
パターンが多いの。平気なの?」
 「あの人ちょっと、特殊な人なので」
 「特殊な人?それって、どういう意味なの?」
 「子供の時からモテ過ぎて、女性に興味が無いんですよ。そんな中で、
何故か私だけ好きになってくれたんです。どうして私?って不思議です
けどね。まぁだから、女性にかまわれるのはいつもの事だから、別に
それを嬉しいとも何とも思わない人なので、看護師さんに世話して
もらっても、何も感じて無い筈ですよ。浮気の心配が、全然無い人です」
 「そうは言っても、男の人よ」
 佐野の言葉に、理子は笑った。増山の事は、みんな理解できないだろう。
一般論が通用しない人間だ。
 「信じてますから」
 「そう。まぁ、信じられなかったら付き合えないよね」
 「そういう事です」
 「あのさ。変な事かもしれないけど、聞いていいかな?」
 佐野が、遠慮勝ちに言う。
 「何ですか?」
 「私が午前中に行った時の二人のやり取りを聞いて、不思議に思った
んだけど。二人の関係って、もしかして周囲の人達は知らないの?」
 「彼の家族と、私の父と、彼の一部の友人だけが知ってます」
 「じゃぁ、理子ちゃんのお母さんは知らないわけ?秘密にしてるの?
友達にも?」
 「私は高校生で、彼は先生だし。そうなると、あまり大っぴらには
できないじゃないですか」
 「確かにそうかもしれないけど、一体、どうやって知り合ったの?」
 「先生が話しちゃったから、仕方ないので言いますけど、この事だ
けは、誰にも言わないで下さい。大好きな先輩だから話すんですから、
お願いしますね」
 佐野は頷いた。
 「先生は、私の担任の先生なんです」
 「ええっ?担任の先生?」
 驚愕の表情を浮かべる。誰もが同じだ。担任と生徒と聞けば驚いて当然だ。
 「じゃ、じゃぁ、増山さんは、自分の受け持ちの女生徒を好きに
なったってことなの?」
 「そういう事になりますよね。うちの学校、教え子と結婚したって
先生が二人もいるから、滅多に無いことではないんでしょうけど、
それでも珍しいですよね。しかも、ああいう人が。まぁ、そういうわけ
なんで、秘密の交際なんです。私が卒業するまでは、普通の恋人同士の
ように大っぴらにデートしたり、友達に彼氏の話しをしたりとか、
当たり前の事ができないんです」
 「それは、可哀そうに・・・」
 理子は寂しげに笑った。
 「いつから付き合ってるの?」
 「去年の、ちょうど今ごろです」
 「えっ?じゃぁ、そんな状況が、もう1年も続いてるの?しかも
卒業まで、まだ半年近くあるじゃない」
 「そうなんですよ。だから、先生も『隠すのがもう疲れた』って。
それで、先輩に話しちゃったみたいですよ」
 「理子ちゃんは、卒業後はどうするの?進学?」
 「進学です。だから今は受験生なんです。辛い時期です」
 「そっか~。少なくとも受験が終わる前に知られちゃったら、まずい
よね。本当に大変だね。私、絶対に誰にも話さないから、心配しないで」
 「ありがとう、先輩。私が先輩の事を信用してると先生も思ったから
話したんだと思うの」
 「そうなんだ。今は大変だけど、頑張って。もうすぐだもん」
 佐野にそう言われて、理子は嬉しかった。理子は、友人の誰にも
言えずにきて、正直寂しくてしょうがなかった。片思いの時には、
理子はこれまでも友達には話せないできた。だが両思いの時は違う。
仲良しの友達には色々と話したくなる。色んな思いを聞いて貰いたいものだ。
 本当は、ゆきに話しても構わないのだ。大親友だ。絶対に口外する事は
無い。だが、同じ学校の先生が相手となると、口外はしなくても、何かと
気になるだろう。それが態度にも自然と出てしまわないとは限らない。
用心に越した事は無い。ただ恋の喜びを語れない事が、思いのほか
ストレスが溜まると言う事を、今回の恋で初めて知った。
 佐野との食事が終わって、病室へと戻ると、増山は眠っていた。今日は
陽気がいい。気持ち良くて眠くなってしまったのだろう。初めて病室へ
来た時には、顔色も悪くて苦痛を浮かべた寝顔で痛々しかったが、今は
心地良さそうに、すやすやと健やかに眠っている。
 可愛い寝顔だった。睫毛は思ったほど長くは無かった。濃くも無い。
だが、目を閉じたその顔は、お人形のように可愛い。柔らかい髪が少し
乱れて額にかかっている様が、色気を感じさせる。薄めの唇が微かに
開いていて、理子を誘う。
 この綺麗な顔で、甘く切ない、色っぽい目で見つめられて近づいて来たら、
もう、悩殺ものである。体が震え、顔を正視し続ける事ができず、自然と
目を閉じるしかない。慄(おのの)いて、されるがままになってしまう。
だが今は、目を閉じている。
 じっと見つめる。ずっと見ていたい。どれだけ見ていても、飽きる事は
無いだろう。増山は静かに眠っているというのに、理子はその存在が
気になってしょうがない。
 そんな時間がどれだけ過ぎただろう。増山の目がゆっくりと開いた。
奥二重気味の目が、パッチリした二重になっていて、眠そうな表情で
理子を見た。少し虚ろな感じが色気に満ちていた。思わず熱い口づけを
交わしたくなるような表情だ。
 「理子・・・」
 増山は理子の名を呼ぶと、左手を差し出した。理子はその手を握った。
 「ごめん・・・。寝ちゃったみたいだな・・・」
 「ううん。気持ち良さそうに、眠ってましたよ。寝顔が可愛くて、
つい見惚れちゃいました」
 「先輩との食事、どうだった?楽しかったかい?」
 「はい。久しぶりだったし」
 理子は佐野先輩との会話の内容を話した。
 「そうか。いい人みたいだな。君との会話を聞いてる時にも、そう思ったが。
・・・俺、夢を見てたよ。凄くいい夢だった」
 まだ夢見心地なんだろうか。
 「君を、抱いている夢だ。俺の腕の中で、君は恍惚としてた」
 そう言って理子を見る増山の目が甘い。理子を欲しているのが伝わって
くる。理子は顔が赤くなるのを感じた。体も熱くなってくる。そんな
目で見つめられると、疼いてくる。
 二人は暫く互いに熱い目で、見つめ合った。増山は、握っていた手を
引っ張って、理子を近くへと引き寄せ、唇を重ね合わせた。理子は、
繋がりたい思いが高まって来るのを感じた。このまま時が止まって
しまったらと思わずにはいられない。
 唇を話した後、増山は言った。
 「左手しか使えないのが悲しいよ。この両手で、君の体に触れたい。
君を感じたい・・・」
 「なら、・・・早く良くなって・・・」
 理子は甘い声でそう言った。理子の言葉に、増山は頷いた。
 「俺も、早く良くなりたい。だけど・・・、治っても、もう、
卒業までは君を抱かないつもりだ」
 増山の言葉に理子は驚く。確かに、これから毎週、増山の家を訪れても、
勉強に集中して変な事はしないと約束してはいるが。
 「どうして、そんなに驚く?俺には無理だとか、もしかして思ってる?」
 理子はそれを聞いて、少し微笑んだ。
 「だって先生、堪え性が無いから」
 「俺だって、いざって時には、ちゃんと我慢するさ。俺たちにとっては、
これからが正念場だろう?もう10月も半ばだ。退院する時には11月に
なってしまう。君も知っての通り、俺はしつこいからな。愛し始めたら、
止めどが無い。君に余計な時間を使わせてしまう。戻って来るにも
時間がかかるだろうし」
 「それで、・・・平気なの?」
 「平気じゃないよ。・・・さっき見たような夢を、また見れたらな。
夢の中でだけでも、君を抱きたい」
 「でも、そんな夢を見たら、一層、現実にもしたくならない?」
 「なるだろうな。実際、今、とってもしたくてしょうがなくなってるし。
・・・良かったら、この間の時みたいに、また俺の上に乗ってくれないかな」
 理子はゲンコで、増山の頭を軽く小突いた。
 「痛いぞっ。暴力反対」
 「あら。それは私の台詞ですよ。私の方こそ、何度、ゲンコを喰らったか」
 「江戸の敵を長崎で、か?だからって、動けない俺に、ひどくないか?」
 「先生が、お下劣な事をおっしゃるからです。もう少し場所を
弁(わきま)えた方がいいですよ」
 「いいじゃないか。二人きりなんだし」
 「いつ誰が来るか、わからないじゃないですか。それに先生のストレートな
物言いには、いつも恥ずかしくなっちゃいます」
 「君はいつまで経っても、変わらずにウブだよな。思い返したら、
物凄ーく、恥ずかしい姿をたくさん俺の前に晒してきてるのに」
 「止めて下さい、そんな言い方」
 理子は真っ赤になった。
 「君は俺に、君の体の隅々まで、見せて、触らせて、舐めさせたくせに」
 「先生、日本語間違ってますよ。私がさせたんじゃなくて、先生が
したんでしょうに」
 理子はそう言うと、立ちあがった。増山は慌てた。
 「理子、ごめん。俺が悪かった。言い過ぎた。だから、まだ帰らないで
くれないか」
 理子はゆっくりと、増山の方へ顔を向けた。その顔はまだ赤かった。
 「今さっき言ったような事をまた口にしたら、もう二度とここへは
来ませんから」
 理子は毅然とした態度でそう言うと、病室を出た。
 顔がまだ赤い。体も熱かった。少し冷まそうと思い、外へ出た。
 全く、増山には困ったものだ。悪ふざけが過ぎる。大人としての分別は
持ってはいるが、時にそこから逸脱する。大人の男だけに、扱いに困惑する。
ストレスが溜まっているのかもしれない。自分達の関係は、本当に
ストレスが溜まる。普通の恋人同士であったなら、もう少し自然に
付き合えるような気がしてならない。
 外に出るといい日和だった。思いきり深呼吸をしたら、微かに
いい香りが鼻についた。どこにあるのだろう?周囲を見回したが
見当たらない。銀木犀の香りだ。金木犀は香りが強く、甘い香りが
するが、銀木犀の方は金木犀ほど強く無いし、その香りも金木犀ほど
甘くは無く、高貴な感じがする。理子は銀木犀が好きだ。銀木犀の
香りを嗅ぐと、秋の深まりが始まるのを感じる。秋は理子の好きな季節だ。
 好きな香りを嗅いで、理子の心も少しずつ凪いできた。冷静にならなければ、
と思う。今は辛い時期ではあるが、この時間も過ぎ去ってしまえば取り
戻すことができない貴重な時間だ。勉強の時間も、増山との時間も、
理子にとっては大切な時間なのだ。
 病室に戻った。増山はぼんやりと窓の外を見ていた。戻って来た理子に
すぐに気付いて、起き上がる。心配そうな顔をしていた。理子はそんな
増山に微笑んだ。
 「理子、さっきはごめん」
 「もう、あんな事は言わないで下さい。幾ら欲求不満だからって、
酷いですよ。私は女子高生なんですから。からかうにしたって、
限度ってものがあります」
 「わかった。もう言わないよ」
 「先生は、私が立ちあがった時、帰ると思ったんですか?」
 「だって、君は怒るといつも席を立って帰ろうとしてきたじゃないか」
 「帰らないでくれと懇願するくせに、怒らせるような事を
おっしゃるんですね」
 「意地悪だな。でも、君の言う通りだ。つくづく自分を馬鹿だと思うよ」
 「先生、ここは病院ですよ。先生の部屋じゃないの。この間の音
楽準備室みたいに、鍵閉めてってわけにもいかいないし。そもそも、
あれだって、今後は止めて下さいね。幾ら二人きりとは言え、公共の
場所なんですから。私、危険な事はしたくないです」
 「わかった。君の言い分が皆正しいよ。いい年をした大人なのに、
俺の方が子供みたいだよな」
 「それじゃぁ、おやつにしましょうか?今、お茶を淹れますね」
 「おー、やったー。お楽しみのおやつだ」
 子供のような笑顔になる。
 子供なら子供でもいいのに。男にならなければ。
 そんな風に思いながら、理子はお茶を淹れた。
 増山は、理子の淹れたお茶を飲みながら、美味しそうにミニどら焼きを
口に入れる。
 「美味しいですか?」
 「ああ、とっても美味しい。さっきは1つしか食べれなかったから、
今は本当に嬉しいよ」
 「先生、本当にお好きですね、甘い物が」
 「そうだな。まぁ、美味しい物なら何でもオッケーなんだけどな。
理子が作ってくれたから、尚更美味いんだよ。君って、上手だね」
 理子は笑った。
 「私、お菓子作るの、苦手なんですよ」
 その言葉に増山は目を丸くして驚いた。
 「なんで?こんなに美味いのに」
 「私、粉ものって、駄目なんです。感覚で料理する人間なので、
きっちり計量しなきゃならない粉もののお菓子は肌に合わなくて。
わざわざ秤を使って、1グラム単位で計るのが、もう、イライラ
しちゃうんですよ」
 「へぇ~、そうなんだ。それはちょっと意外だな。平たく言えば、
大雑把って事なのかな」
 「そうです。大雑把なんです。どら焼きは、小豆なんて神経使わないし、
皮だって、きっちり計る必要ないですから。ホットケーキの延長みたいな
ものだし。多少の幅が利くものなら、問題ないんです」
 「成る程。俺は、君が作りたいものを作って食べさせてくれれば、それで
十分満足だから。多分君の事だから、失敗作は持ってこないだろうしね」
 「それはちょっと違います。私、失敗なんてしませんから。失敗する
ようなものは、最初から作りません。」
 「おお、負けず嫌いが出た」
 増山がそう言って笑った。
 「粉もの嫌いの君が、来週はどんなおやつを作ってきてくれるのかな?
わくわくするよ」
 そう言われると、ちょっとプレッシャーを感じる。本当に、来週は何を
作ってこようかと迷うのだった。
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