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小説・目覚めのセレナーデ
第四章・春は燦めき(最終章)


目覚めのセレナーデ 4-09

2015.11.20  *Edit 

 麻貴江は結局、幸也には逆らえないのだろう。親子でありながら、立場が逆転して
いるような印象を受けた。幸也の強引さに押し切られたように、二人の件は了承された。
 だが、浅葱家では、こうはいかない。
「結婚して、ヨーロッパへ?」
 実花は険しい顔をして、二人を睨みつけた。
「はい。コンクールが終わったら、向こうで一緒に活動していきます。芹歌さんとは、音楽上
のパートナーである事は勿論、人生においても一生のパートナーになって欲しいんです」
「真田さん。あなた、一体、何を言ってるの?あなた達、元々そういう関係でも
なかった筈でしょう。だから、ずっと向こうへ行きっぱなしで、芹歌は打ち捨て
られていたんじゃない。それを今頃になって……。おかしいじゃないの」
「今までの件に関しては、僕は詫びるしかありません。申し訳ありませんでした。
ですが、これまでの年月があったからこそ、芹歌さんは僕にとって最も大切な存在
だったと気づく事ができたんです。芹歌さんと一緒に生きていきたいんです。だから、
結婚させて下さい」
 真田は深々と頭を下げた。そんな真田を実花は冷ややかな目で見ている。
「私はね。芹歌のピアノは素晴らしいと思ってますけど、でも、今やあなたは世界の
真田幸也でしょう?そんなあなたと今の芹歌では、つり合いが取れない。差があり過ぎる。
その事で、世間から馬鹿にされるのは芹歌でしょうね。国内でだけのコンビならまだしも、
ヨーロッパなんてクラシックの本場で、芹歌が通用するとは思えない。もっと素晴らしい
伴奏者が名乗りを上げて来るでしょうし、そんな所で肩身の狭い思いをして、結局それが
原因で二人の中に亀裂が入る可能性の方が大きい気がしてならないの。一時の感情で、
一生の事を簡単に決めて欲しくないわ」
 実花は、芹歌が思っていたよりも冷静な話しぶりだった。
「お母さんのおっしゃる事もわかります。ですが、今コンクールに参加しているのは、
芹歌さんにそういう肩身の狭い思いをさせない為でもあるんです。彼女が優勝すれば、
彼女のピアニストとしての地位も高まります。それに、僕が守ります。それから、
もっと素晴らしい伴奏者の話しですが、この8年、向こうにずっといて、それこそ
色んなピアニストに伴奏をしてもらいました。みなさん、それぞれ素晴らしかったですが、
僕と合う人は生憎ひとりもいませんでした。僕にとっての最高の伴奏者は芹歌さんしか
いないと言う事を思い知らされた8年でもあったんです。だから大丈夫です。ご心配には
及びません」
 確信に満ちた力強い声だ。
「相変わらずの自信家なのね。芹歌が山際で優勝できると思ってるの?そりゃぁ、
学生の時だったら可能性はあったかもしれないわ。だけど卒業して5年も経ってるのよ?
一介のピアノ教師が優勝できるレベルじゃないでしょう。1次予選は通ったし、
最近の練習ぶりを見てると入賞はできるんじゃないかとは思うけど、優勝なんて……」
 どこか嘲るような笑みを浮かべた母を見て、芹歌は少し傷ついた。そんな芹歌の心を
悟ったように、真田がそっと芹歌の肩に手を置いた。
「お母さん。僕は彼女が優勝できなくて傷つくことになるのを承知で、コンクールを
受けさせるような事はしませんよ。渡良瀬教授も同じです。優勝できると思ったから、
参加を勧めたんです。世界の真田とおっしゃって下さいましたよね?それなら、
その僕の確信を信じて貰えませんか。この真田幸也が、絶対に優勝できると言って
いるんです。だから、彼女は優勝します」
 真田家でも彼の自信家ぶりには驚いたが、ここでは更に驚嘆する思いだ。だが、
ここまで言ってくれる真田に、芹歌は胸が熱くなった。ここまで私の事を信じて
くれている、と思うと、もう本当に後には引けない思いになってくる。
 実花の方はここまで言われて呆気に取られていた。目を暫くの間パチパチとさせた。
「そ、そこまで言って下さるのは、有難いけれど……。だけど芹歌。あなたが
ヨーロッパへ行ってしまったら、お母さんはどうしたらいいの?この家に一人
取り残されて、どうやって生きていけばいいって言うの?こんな体なのに」
 矢張り、その話しになったかと、芹歌の心は重くなった。結局、行きつくところは
そこなのだ。
「その事に関しては、これから追々、話し合っていくしかないと思うの。お互いに
とって良い方法を」
「お互いにとって良い方法なんて、あるの?そんなの、詭弁じゃない?結局、
お母さんを捨てて、真田さんと外国へ行っちゃうつもりなんでしょう?」
「お母さん。そんなに簡単に決めつけないで下さい。よく考えれば、方法はあると
思います。ですが、僕はお母さんさえ良ければ、お母さんも一緒に向こうで暮らしても
良いと思ってるんです」
「え?私も一緒に?」
 考えてもみなかったのだろう。目を丸くしている。
「そうです。母一人子一人なんですから、当然ではないですか?お母さんは幸い、
語学も堪能だし、ご夫婦で何度もヨーロッパを旅行されてきましたから見知らぬ
土地と言う程でもありません。僕達が仕事で演奏する時だって、一人で家で
留守番なんてさせませんよ?一緒に会場に来て頂いて、鑑賞してもらいます。
寂しい思いはさせません。ですから、そんなに深く心配する必要はないんです」
「あ、あの……、だけど……」
 突然の話しに、頭が追いついて行かないようだ。芹歌は優しく母に声をかける。
「お母さん。お母さんの今後の事は、ちゃんと話し合いましょう。お母さんなりの
考えや希望も聞いて、その上で良いように決めましょうよ。だけどその前に、
私たちの結婚と渡欧を許して欲しいの。私、幸也さんと一生を送りたいの。
この人じゃなきゃ、駄目なの。だから……」
 実花は少し同情するような、憐れむような目を向けた。
「芹歌……。芹歌の気持ちはわかったけれど、お母さんはね。芹歌にはお父さんの
ような、誠実な人がいいって思ってた。例えば、ゆう君のような。真田さんは確かに
いい人だと思うわよ。こんな私もヨーロッパに連れていくって言うんだから。でも、
こう言っちゃ悪いけど、家柄的にもつり合いが取れない気がするし、何より派手で
遊び人じゃないの。苦労するのが目に見えてる気がしてならないのよ」
 芹歌は思わず苦笑する。確かに母親としては当然の心配だろう。そして、同じように
芹歌自身も以前は思っていたのだから。
「すみません、お母さん。そんな心配をさせてしまって、僕の不徳の致すところですね。
家柄の件は、全く心配いらないです。うちはそんなのを振りかざす家じゃないですし、
両親とも僕達の結婚と渡欧は了解してくれました。お母さんも一緒にヨーロッパへ
行くかもしれないって事も了解してくれてます」
「ええ?そうなんですか?でも、真田さん、ご長男じゃ無かった?よくお母様が
了解なさったわね」
「長男ですが、こういう職業なので世界中を回りますからね。世間一般並の長男への
期待は早くから持って無いんです。僕が活躍する事だけを願ってくれてます。だから、
僕が、僕にとって必要なんだと訴えれば、殆どの事は受け入れてくれます。その代り、
弟の方が後継ぎとして何かと期待されてるので、可哀想なくらいですよ」
 なるほど。だから麻貴江は幸也の言いなりなんだな、と芹歌は改めて感心した。
「それから、派手で遊び人、との事ですが。これに関しては、ちょっと心外です。
僕はお母さんが思われてるような遊び人じゃないですよ?華やかな世界にいるから、
そう見えるだけです。まぁ、多少、女性関係はありましたが、既に卒業しました。
今後一切、そういう事は無いです。芹歌さんさえいてくれれば、他はいりませんから」
 実花は困ったように、溜息をついた。
「はぁ。まぁ、ねぇ。男はみんな、そう言うわよね……」
 音楽の事は信じられるが、男としては信じきれない、そんなところなのだろう。
「なんだか、頭が混乱してきちゃったわ。気が抜けたと言うか……」
 実花は疲れたような口ぶりだ。
「お母さん。今すぐじゃなくて構いません。月末には2次予選、そして3月末には
本選が控えてます。僕達は今、そちらに集中しなくてはならないので。終わってから
話すのでは遅すぎると思って、今こうしてお話ししていますが、コンクールの本選に
入る頃までに結論を出して頂ければと思います。ただ、コンクールが終わるまでは、
彼女の心を乱すようなマイナスな発言はされないように、お願いします」
 再び頭を深々と下げた真田に、実花は「わかりました。とりあえずはそういう事で」
と返事をした。
 何はともあれ、ひと山越えたと感じ、芹歌は大きく安堵した。



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