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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-29

2015.11.04  *Edit 

「君は、そんなんだから芹歌ちゃんと上手くいかないんだよ」
「心外な言葉だな」
 あれからずっと、芹歌とは逢っていない。渡良瀬教授の家で、最後に芹歌
があんな風に出るとは思ってもみなかった。自分を引き止める為に追いかけて
きたんだろうに、最後に突き放してきた。
「なんでもっと、彼女を理解してやらないんだよ」
「どうせ俺は、女の気持ちのわからない無粋な男だよ。だから、女は嫌いなんだ。
面倒くさいったらない」
 片倉は呆れかえったように、ソファにのけ反った。
「自分ばかりを押し通して、相手を理解しようとしない。それって、男女の
関係ないと思うよ」
 声音がどこか批判的だ。
「そうだな。思うに俺には、お前の婚約者のような女が一番似合ってるかもな」
「はぁ??何言ってるんだよ」
「俺様の俺には、ああいう従順な女が合ってるって言ってるのさ。俺はお前みたいに
派手な遊び人じゃないしな。まぁ、時々、手がかからなそうな女と浮気する程度だ」
「はっ。全く自分に都合のいい事ばっかり言うんだな。じゃあ、あげようか?と
言いたい所だけど、生憎彼女はこの春俺と結婚する事に決まってるからね。
今更チャラにはできない。類は友を呼ぶって言うからさ、彼女の友達でも
紹介してもらう?それとも、お母さんに頼んで相応しい女と見合いさせてもらったら?」
 暫く互いに気難しい顔で睨み合った。先に視線を逸らせたのは真田だった。
「ねぇ、ユキ……。女を面倒くさいって思うのはいいけど、芹歌ちゃんの事は別だよ?
彼女の事まで面倒くさいと思ったら、おしまいだよ。わかってる?」
「じゃぁ、おしまいなのかもな」
「おい!」
 真田は力ない目で片倉を見る。
「あいつの鈍さは解ってる。まぁ、時々それを忘れてつい、あれこれ要求して
しまうんだけどな。もっと察してくれと思う事が多いんだ。だけど、それはまだ
いいんだ。それより何より、あいつの俺に対する気持ちが、よく解らない。
あいつは本当に俺が好きなのかな?俺があまりに強引だから引きずられてる
だけなのかもしれない、そんな風に思えるんだよ」
 真田は渡良瀬家での顛末を片倉に語った。
「冷めた目をして、『どうぞお帰り下さい』だぞ。呆然としたよ」
 片倉はそれを聞いて、呆れたように首を振りながら吐息を漏らした。
「全く、どっちもどっちだな。不器用者同士の、不毛なやりとり……」
 不毛だとは真田も自覚している。不毛過ぎる。だからウンザリするのだ。
「だけどさ。彼女、調子良くないみたいじゃない。恵子先生がこぼしてたよ。
それは君も聞いてるんじゃないの?」
「ああ……」
 だからこそ、ジレンマなのだ。もう1週間あまりで1次予選だと言うのに、
得意なバッハですら音の切れが悪いらしい。ベートーベンに至っては、
かなり乱れているとの話しだった。
「助けてあげないの?」
「どうやって」
「それ、僕に訊くの?」
「……」
「このままじゃ、元の木阿弥だよ。くだらない事でやり合ってないでさ。
なんでもっと、気持ちのままに行動しないんだろうね。僕が君なら、もう、
毎日毎日、彼女のそばで彼女に尽くすよ。思いきり愛して可愛がって……」
 真田は思わず片倉を睨んだ。
「ほらほら。その気持ち。それが大切だよ。独占欲が強いくせに、しっかり
つかまえてないんだから、呆れるよ?そんなんだから、『お帰り下さい』なんて
言われちゃうんだよ。全くもって、情けない」
「そうは言うけどな……」
 と言いかけた所で、携帯が鳴った。
「あれ?幸也の?」
「ああ……」
 一体何事かと出てみると、渡良瀬だった。
「真田君?」
「はい、そうですが」
 声が慌てている。何かあったようだ。
「今どこにいるの?こっちに来て欲しいんだけど」
「え?今、片倉のマンションなんですが」
「ええ?校内じゃなかったの?てっきりレッスン室にいるのかと」
「恵子先生、どうしたんですか?何かあったんですか」
「あのね。芹歌ちゃんが使ってるレッスン室にね。変な男が来てるのよ」
「変な男?」
 真田の胸が急にざわつく。
「あのね。神永君のお兄さんなんだけど、胡散臭い男なの。私、これから
授業があって。だから、あなたに来て欲しかったんだけど……」
「わかりました。これからすぐに行きますから」
 真田は相手の返事を待たずに切ると、立ち上がった。
「どうしたの?恵子先生、何て?」
「話してる暇がない。悪いが車を出してくれないか」
「わかった」
 二人は素早く身支度を済ませ、マンションの階下にある駐車場へ降りた。
「目的地は大学だよね?」
「ああ。恵子先生が言うのには、神永って奴の兄が、芹歌の所に来てるらしい」
「え?神永君って、お兄さんがいたの?」
「知らない。俺も初めて聞いたよ。だけど、恵子先生は、胡散臭い男だと言っていた。
あの先生は結構、鋭いから、きっと正しいと思う」
「じゃぁ、急がないとね」
「ああ」
 片倉のマンションは大学に近い。車なら10分の場所だ。だが今の真田には、
その10分が長く感じた。片倉は大学の校内まで車を入れて、真田を下ろす。
「僕は駐車場に止めてから行くから」
「ああ、頼む」
 真田は芹歌のレッスン室を目指して走った。何も無ければ良いのだが、と
気持ちが逸る。怪我はもう治っているとは言え、以前のようにはいかなくて、
もどかしかった。
 レッスン棟の中に入って奥まで進むと、廊下の先に芹歌がいた。中肉中背の男が
そばに立っている。それを見て、少しだけ安堵した。レッスン室の中では
なかったからだ。防音個室の中で男と二人となったら、何が起きるかわかったものでは無い。
「芹歌っ」
 少し大きな声で呼びかけた。芹歌が気付いてこちらを見た。真田の姿を認めて、
安堵の表情を浮かべた。
「どうした?」
 真田が走り寄って声をかけると、傍にいた男が「おや、あなたは真田さんだ」と
言ったので、男の方へ顔を向けた。男は神永悠一郎に似ていたが、目つきが鋭い、
抜け目のなさそうな印象を受けた。
「あなたは、どなたですか?」
 真田は上がった息を静めるように、呼吸を大きくとった。
「僕は神永健と言います。芹歌さんとお付き合いさせてもらってる悠一郎の兄です」
 引っ掛かる物言いに一瞬カッとなったが、真田は自身の波立った心を理性で押さえた。
「そのお兄さんが、彼女にどんな用が」
「いえね。弟がここ最近、掴まらないので、どこにいるのか尋ねに来たんですよ」
 神永健の言葉に真田は芹歌の方へ顔を向けると、芹歌は「知らないの」と言った。
「彼女は知らないと言ってますが」
 渡良瀬の連絡から10分以上経っている。それだけの用事なら、とっくに済んでて
良い筈だ。それなのに、まだいると言うのはどういう料簡なのか。
「ええ。それは、さっきから何度も聞いてます。だけど、どこか心当たりは無いのかな。
いないと困るんですよ」
「困るとは?」
 健はうすら笑いを浮かべた。
「いえね。あいつに金を貸してるんですよ。僕は今、失業中なんでなけなしの金です。
すぐに返して貰わないと困るんだ」
(金がらみか)
 こういうトラブルの元は大抵が金だ。だが、金が絡むと始末が悪い。
「あなたは困るかもしれないが、この人には関係ない。知らないと言ってる以上、
これ以上は無駄でしょう。帰ったらどうです?彼女も暇人じゃないんだ」
「いやぁ~、そんな事は無いですよ」
 健は下から睨め上げるように真田を見た。
「関係なくは無いです。だって、芹歌さんは弟の恋人でしょう?悠一郎はお母さんにも
気にいられて、この分でいくと浅葱家の婿になりそうじゃないですか。それなら、
悠一郎に代わって金を返してくれもいいんじゃないですかね」
 弟の恋人と言う言葉が真田の胸に突き刺さった。
「それにね。あいつは、あんな澄ました顔をしてるが、実はとんでもない奴なんですよ。
そろそろ時効だから言いますが、あいつは母親を殺したんですよ」
 へらへら笑いながら言っている言葉に真実味が感じられない。だが衝撃的だった。
「そんな事、嘘っ。お母さんは蒸発したんだって、神永君言ってたし」
 芹歌が興奮して叫ぶように言った。
 健は嘲笑うような顔つきだ。
「まぁそりゃ、普通はそのまま信じるよね。でも僕は知ってる。兄だから。
当時、悠一郎は4歳だったからね。本人自身も、もしかしたら覚えてないかも
しれない。恐ろしくて記憶を封印して、蒸発したんだと思い込んでるのかもしれない。
だけど、そんな秘密を持った男なんだよね。時効になってもさ。こんな事、周囲に
知られたくないでしょう。あっ、あなたのお母さんが知ったら、凄いショック
受けるかもしれないねぇ」
 厭らしい笑みを見て、真田は吐き気を催した。芹歌はビクビクと身を竦めている。
「それで、金を寄越せと言ってるのかな?」
「さすがに真田さん。話しが早い。このお嬢さんには、なかなか話しが通じなくて」
「話しが通じたとしても、金を出す謂われは無いでしょう。この人は悠一郎君の
恋人じゃない。僕の婚約者なんだから」
 野良犬を見下げるように、健を見た。健は鋭い目つきで見返して来る。
「ほぉ~。それはいつの間に。この人と悠一郎は確かに付き合っていた筈。
僕、見ましたよ?二人が仲良くデートして、いちゃついてる所。キスなんかも、
してましたよねぇ」
 芹歌を責めるような目で見た。真田は怒りが湧いてくるのを感じた。手が微かに震える。
「それは過去の話しでしょう。今は僕の婚約者だ。それに、仮に悠一郎君と
恋人関係にあっても、彼女が彼の借金を返す義務はない。夫婦じゃないんだ。
他人なんだから」
 真田は怒りを押さえるように、低い声で言った。
「他人……。それはそうだ。だけど、真田さん。婚約者を強調してるけど、
その婚約者の過去の交友関係や、その相手の秘密とか、世間にばらまかれて
困りませんか?あなたの社会的地位や名声に傷が付くんじゃないのかなぁ」
 卑劣な奴だ。真田の怒りのボルテージが上がっていく。
「50万でいいですよ。本当は100万貸してるんだけど、せめて半分でも
回収できれば当座はしのげる。都合して貰えませんかね」
 人の弱みにつけこんで、こうやって金を絞り取っていくのだろう。そんな事に
頭や労力を使うなら、真面目に働けと思うが、この類の人間には通用しないに違いない。
「1円だって払う義務は無い。世間にばら撒きたきゃ、そうすればいい。
こちらは痛くも痒くも何ともない」
 真田はこれでもかと言うくらい、威圧的に相手を睨んだ。こんなチンピラ風情に
負けるつもりはない。
「あんたねぇ……」
 まだ因縁をつけて来ようとする相手に真田はキッパリと告げた。
「警察、呼びますよ?これ以上しつこくするなら」
 健はグッと言葉につまった。目が僅かに揺れている。動揺しているようだ。
そこへ、片倉がやってきた。
「芹歌ちゃん、大丈夫?誰?この人……」
 汚物でも見るような嫌悪感まるだしの表情だ。今にも冷酷に排除しそうな目をしている。
こういう時の片倉は、まるで悪魔のように見える。
 その視線にやられたのかはわからないが、神永健は「ふん」と言って、
逃げるように小走りでその場を去って行った。それを見て真田はホッとした。
「あいつが、神永君のお兄さん?悪そうなヤツだね」
 片倉にはひと目でどんな人間なのか解ったようだ。


                         4.春は燦めき へつづく。。。

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~ Comment ~

Re: 嫌な奴。>千菊丸様 

千菊丸さん♪

ほんと、嫌な奴ですね~。

嫌な奴、第一号の山口さんが御退場されたと思いきや、
また新たに嫌な奴第二号が登場……

爽やかで純粋そうな神永君に、こんな兄がいたとは!
この後、どうなるんでしょか……。

嫌な奴。 

神永健・・見るからに堅気の人間ではなさそうだし、文章だけでも嫌な奴だと解ります。
弟に金の無心をすることにも飽き足らず、芹歌にも脅迫するなんて・・しかも随分と手慣れていますし。
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