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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-26

2015.10.30  *Edit 

 翌日から芹歌は渡良瀬の家へ通い出した。大学が冬休みの間は渡良瀬の所で
レッスンだった。この日は芹歌が到着して間もなく、真田もやってきた。
「あ?どうしてですか?」
 芹歌が不思議そうに尋ねると、真田は不服そうに眉間をスジだてた。
「どうしても、こうしてもないだろう。俺がいなくてどうする」
 しかめっ面で言われた内容が、どうも理解できないのだった。
「だって、コンクールに出るのは私だし、私はピアノだし、ゆ、幸也さんは
バイオリンだから……」
「なんだ、その、『ゆ、幸也さん』とは。いちいち、どもるな」
「はい?」
(支離滅裂だ……)
 二人のやりとりに渡良瀬が吹きだした。
「もうもう、何を言い合ってるの?二人とも。なんか漫才かコントみたいよ?」
「それなら、完全にボケは芹歌ですね」
 真田はイヤミな顔でそう言った。
「酷い!ちゃんと解るように言ってくれない、あなたが悪いんじゃない」
 思わず文句が出た。
「この程度で解らない、お前が悪い」
「どうしてそんなに口が悪いの?」
「これで悪いなんて言うなら、お前今後生きるのに苦労するぞ」
「はぁ?」
 何なんだ。これを酷いと言わなければ何と言うんだ。芹歌は憤慨した。
「もうやめなさい、二人とも。喧嘩しに来たの?真田君も、芹歌ちゃんをからかって
遊ぶのはやめなさい」
(からかって遊ぶだぁ?これがぁ?)
 恵子先生の認識は間違っていると思う。
「芹歌があまりだからですよ」
「あまりって……」
(まだ言うのか)
 このままじゃ、怒りが心頭に達しそうだ。
「ピアノの練習にバイオリンは不要だって、それはそうだろう。だけど俺は、
ハイオリンを弾きに来たわけじゃない。お前に協力するって言っただろう?
俺のアドバイスや俺の励ましは必要ないって事か。俺が傍にいるのは、邪魔だと言うのか」
 睨みつけられて、芹歌は思わずビクリとした。
 芹歌が何も言えずにいると、真田は僅かに目を伏せて、
「恵子先生、すみませんでした。お邪魔しました」と言って、踵を返して部屋を出て行った。
(え?やだ、どうして?)
 芹歌は慌てて追いかける。
「待って。待って、幸也さん!待ってったらっ」
 芹歌は思いきり走ると、真田の腕を掴んだ。
「待ってよっ」
 真田は腕を掴まれて立ち止まったが、芹歌の方は見ない。そんな真田を芹歌は
見上げた。怒りに満ちた顔をしている。
「ど、どうして帰っちゃうの?」
「俺がいる意味、ないんだろう?お前には」
 視線は相変わらず余所を向いたままだ。
「そんな事、言って無いし」
「確かにな。だが、言ったも同然だ。最初から、お前は俺が来た事を不思議そうに
してたじゃないか。仮にそれはアリだとしても、それでも俺に会って少しは
嬉しそうな顔をしたって良さそうなものなのに、ただ不思議がってただけだ。
おまけに、バイオリンだから来るのはおかしいような言い草だもんな。全く持って
呆れると言うか、お前には失望する」
 芹歌は掴んでいた手を離した。何故自分がここまで責められるのか解らない。
不思議に思ったから不思議そうな顔をした。嬉しそうな顔をしなかったのかどうかは、
自分には解らないが、それより何よりまずは驚いたのだから、しょうがないではないか。
自分はここにレッスンに来てるのだ。真田に逢いに来たのではない。
 それに、『失望する』とは何だ。この人の俺様は今に始まった事ではないが、
この言葉はないだろう。失望するとは、言ってみれば何かを期待して、それが
外れたと言う事だ。何を期待していたのかは知らないが、勝手に期待して勝手に
失望して腹を立てられても困惑するし、迷惑だ。
「そうですか。わかりました。どうぞお帰り下さい」
 芹歌は回れ右をして歩き出す。もう、やってられない。
「おいっ!」
 構わず、渡良瀬がいるレッスン室へ戻った。真田の方も追いかけては来なかった。
「先生、すみません。お騒がせしちゃって」
「いいのよ。それで真田君は?」
 笑みを含んだ顔で尋ねられた。
「帰ったみたいですよ」
「あらっ。いいの?帰しちゃって」
「だって、それが本人の意思なら仕方ないじゃないですか」
 淡々としている芹歌に、呆れたように渡良瀬は溜息をついた。
「全くねぇ。あなた達、不毛よ。でもまぁ、原因は真田君にあるかしらね。
芹歌ちゃんの事はとっくに解ってるでしょうにね。今からこんなんで、大丈夫?
結婚するんでしょう?」
 その言葉に、芹歌はハァ~っと息が洩れる。あの人と音楽の上でパートナーを
組む事は何の躊躇いもない。社会的なステージの差はあるが、それを埋める為に
コンクールに挑戦するのだから。だが、プライベートでのパートナーとしてはどうなのか?
 あの人に惹かれる最大の理由は、矢張り音楽だろう。だが、人間として、
男としてはどうなのか?ワガママで傲慢で女遊びが激しくて、こういう人と
一緒になって果たして幸せになれるのだろうか?音楽の上で最高のパートナーだからと
言って、プライベートでまでパートナーになる必要も無いのではないか?
 互いに肌を合わせて夢のような瞬間を過ごしたが、それはそれ、これはこれ、
なのではないかと、あれから時々思うのだった。
「先生……。私、結婚は考え直した方がいいのかなって、ちょっと思ってて……」
「ええ?何言ってるのよ、今更。ね、ね……。私の言った事、気にする事ないのよ?」
 渡良瀬は焦ったように、顔を引きつらせている。
「あ、すみません。先生に言われたからって訳じゃありません。この間から、
ちょっとそう思うようになってきて。だって、真田さん、強引だから。なんかつい
流れで受けてしまった気がするんですよね。一生の事ですから、本来ならもっと
時間をかけて考える事じゃないですか?恋人としての付き合いが長いわけでもないのに、
こんなに急に決めちゃう方が、おかしいって気付いたと言うか……」
 そうだ。愛してるだの、本気だのと言われて、1週間後に結ばれて、それと同時に
プロポーズだったのだ。その時も急だとは思ったが、結局のところ、渡欧する事と
コンクールで優勝すると言う事を同時に迫られて、全てがワンセットで了解させられて
しまったような気がする。
 あまりにも慌ただしくて、結婚について真剣に考える間もなかったと思う。
まるで当然のように流されてしまった。
「だけどそれじゃぁ、渡欧はどうするの?真田君は結婚して、向こうで一緒に
暮らすつもりなんじゃないの?」
「そうですね。でも、結婚しなくても一緒に渡欧すればいいし、演奏活動を共にしても、
生活まで共にする必要もありませんよね」
 芹歌は言葉に出してみて、自分の心が冷静になってきたと感じた。そもそも、
最初にヨーロッパへ留学する事になった時に、そう思っていた筈だ。共に演奏する事を
夢見ていたが、暮らしを共にする事など全く思っても無かった。
(私ったら、何を浮かれていたんだろう)
 学内コンサートでの競演が、あまりに気持ち良くて高揚し過ぎていたのだろう。
おまけに、その直後の事件でセンチメンタルな気持ちに傾いていたに違いない。
冷静になってみれば、私たちは音楽以外では相性は悪いんだと改めて気付いた思いだ。
「ねぇ、芹歌ちゃん。ちょっとヤケになってない?」
 渡良瀬の心配そうな顔に、芹歌は微笑んだ。
「なってません。逆に冷静になれました。私ちょっと、のぼせ過ぎてたみたい」
「そう。なら、もうこれ以上言うのも時間の無駄ね。練習、始めましょうか」
 渡良瀬はピアノの方へ向き直った。

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