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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第19章 銀木犀 第2回

2010.04.22  *Edit 

 「ところで、勉強の方はどうなの?進んでる?」
 「はい。それなりに。自分では集中できてると思います」
 「土曜日は図書館で?」
 「はい。図書館はいいですね。家より集中できるかも」
 「そうか。まぁ、あのお母さんの何時来るかわからないドッキリの
心配がないもんな」
 「そうなんです。あとは、図書館の何とも言えない、あの静謐な
感じ。たまりません」
 「ちゃんと、暗くなる前に帰ってるんだろうな」
 「勿論です。でもこれからはどんどん日が暮れるのが早くなるから、
長くいられないですよね」
増山は、悩ましげな顔をして言った。
 「俺、凄く心配なんだ。暗い夜道を歩かせたくない。今はまだ、
学校も真っすぐ帰宅すれば暗くなる事は無いからいいが、大学へ入った
時の事を考えると、今から心配になっちゃうんだよ」
 そんな増山に、理子は思わず笑ってしまった。
 「先生、ちょっと心配性過ぎませんか?」
 「君はちょっと無防備過ぎる。だから今から心配なんだ。なんだか俺、
君のお母さんの気持ちがわかるような気がしてきたよ。門限とか厳しい
のも、親とすれば当たり前だよな」
 「親の心配も、先生の心配もわかりますけど、そんな事を言って
いたら、生きていけないですよ」
 「理子、そんな顔をしないでくれよ。俺はただ、心配なだけなんだ」
 「こういう時、男っていいなって思いますね。行動の制限が少ないん
だもの。女性の方が危険な目に遭う確率は高いから仕方ないですけど、
そもそも、そう言う点からして、女ってつまらないって思うし。
肉体的にも社会的にも弱いのが気に入らないです」
 理子は喋っているうちに興奮してきて、口調が激しくなった。
 「俺、怒られてるんだろうか・・・」
 増山の言葉に、理子はハッとした。
 「ごめんなさい。全然、怒って無いですから」
 「君は、女に生れてきたくなかった?」
 理子を見つめる増山の目に、ドキリとした。寂しさと恋しさの両方を
ない交ぜにしたような、何とも言えない感情を湛えていた。
 「女が弱い立場であることを気に入らないのは確かです。正直言って、
あの家庭で育って、男だったら良かったのにと思った事は何度もあります。
でも、先生と出会ってからは違います。女で良かったです。だって、
先生はゲイじゃないし」
 その言葉に、増山は笑った。
 「ごめん。なんか俺、情けないな。君が珍しく憤って興奮してる
ものだから、つい。でも、君の憤りも尤もだ。尤もなんだが、現実は
まだまだ女性には厳しい。だから君も余計に憤るんだろうが、俺が
望むのは、まずは自分の安全を第一に考えて欲しいと言う事だ。
君に何かあったら、俺は自分を保てる自信が無い。君は、君のものだが、
俺のものでもあるんだ。わかるだろう?俺の言いたい事・・・」
 理子は頬を染めて、コクリと頷いた。
 「やっぱり新居は絶対に駅の近くだな。それとセキュリティがしっかり
している所。これだけは譲れない」
 「先生。その事はもう少し先の事なんだから、今は早く治す事に専念
して下さい。でないと、私、寂しくて仕方ありません」
 「何故?確かに学校では毎日顔を見れるけど、お預けのような状況じゃ
ないか。毎週、うちへ来いと言っても、君は来てくれないし。俺に
とっては、今の方がずっと満ち足りてるけどな」
 増山の言い分もわかる。毎週、こうして二人で親密な時間を過ごせる
のは、理子にとっても凄く嬉しくて幸せだ。増山の体が不自由な分、
肉体の交わりに溺れる事も無い。穏やかだが、熱い時間が流れてゆく。
それがとても心地良い。
 「でも、その足じゃ、退院してもすぐに学校へは来れそうもないじゃ
ないですか。このままずっと、私は毎週日曜日に先生の許に通わないと
いけないの?勿論、通うのが嫌なわけじゃないですよ。通えるものなら
通いたいですけど・・・」
 「わかってる。俺達にとってのXデーが、刻々と迫ってるんだ。いつ
までも君に心配かけられないし、早く良くなって、全力でサポートしたい。
ただ、退院するまでの、この日曜日のひとときは、俺にとっては至福の
時なんだ。君が来てくれなかったら、寂しくてたまらなかったと思う。
だから、感謝してるよ」
 「なら、頑張って早く良くなって下さいね。やっぱり元気な姿が
一番好きですから」
 増山との親密な時は、理子にとっては甘い蜜であり、誘惑でもあった。
だから、できることなら、ずっとそこにいたい。満喫していたい。
だが現実はそれが許されない。だからその反動で辛くなる。来春に
なったら、本当にこの日々から解放されるのだろうか。不安でたま
らない。普通の大学ではないのだ。模試の結果は上々ではあるが、
それでも不安は募るばかりだ。
 「先生。ちょっと、見てもらいたい所があるんですけど・・・」
 理子はそう言いながら、鞄から勉強道具を出した。普段、増山から
直接受験勉強を教わる事は無いので、いい機会だった。本当なら、
それこそ毎週増山の許へ通って直接指導してもらいたいところなのだが、
どうしても二人きりになると怪しい雰囲気になって流されてしまいかねない。
 増山の教え方は上手かった。とても要領を得ていてわかりやすい。
日本史以外教わった事が無いわけだが、他の教科を教わっていると、
増山の頭の良さをつくづく実感する。以前『俺が教えてやる』と力強く
言われたが、それも頷ける。それに、矢張り他とは変わった出題形式の
東大に受かった人だけに、押さえるべきポイントを丁寧に指導された。
これまで頑なに増山から教わる事を拒否してきたが、ここへ来てそれは
失敗だったんじゃないかとの思いが生まれて来た。
 勉強がひと段落した時に増山が言った。
 「なぁ、理子。良かったら俺が退院してからも、毎週ウチヘ来ないか?」
 理子はその言葉に驚いて、増山の顔を見つめた。
 「別に、君の今の勉強状況が心配だから言ってるわけじゃない。
だけど、日に日に迫ってくる事に、不安が増してるんじゃないか
?一人でやるより、俺が見てやった方が少しは自信がつくんじゃないかと
思うんだが、どうだろう」
 理子は増山の問いかけに即答できずにいた。喜ばしい提案ではあるが、
本当にいいのだろうか。
 「心配しなくても、変な事はしないから。俺も勉強を見る事に集中するよ。
だから最後の山を二人で乗り越えよう」
 「じゃぁ、おやつを持参して伺わせてもらいます」
 「おおっ!ラッキー。楽しみが増えた」
 増山はそう言って嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、理子は嬉しい反面、
一抹の不安が湧く。そんな理子の心を敏感に感じ取ったのか、増山が言った。
 「大丈夫だよ。もし駄目そうなら、止めればいいんだから」
 その言葉に理子は頷いた。増山の言う通りだ。やる前に不安に
思っても仕方が無い。一緒に勉強する事がマイナスのようなら、
その時は止めれば済む事だ。
 「昼食ですよ~」
 ノックと共に佐野が昼食を持って入って来た。
 「あっ、先輩。すみません」
 理子は慌てて立ちあがると、トレイを佐野から受け取った。
 「増山さん、もしかして食べさせて貰うんですか?」
 佐野がからかうような笑顔でそう言った。
 その言葉に増山は照れたように横を向いた。
 あら、照れてる、と理子は驚いた。古川も言っていたが、普段恥じらう
事なんて滅多に無い人なのだ。先週だって、平気で友人の前で食べさせて
貰って嬉しそうな顔をしていたのに。
 「増山さん、最近は左手を使って一人で食べてるのよ」
 と、佐野が理子に言った。
 そうだったのか。それを知っている看護師に言われたので、恥ずかしく
なったのだろう。理子はクスッと笑った。
 「理子ちゃんはお昼ご飯、どうするの?」
 「先生に食べさせてから、一人で上の食堂へ食べに行きます」
 理子は増山の方をチラッと見やって、『食べさせて』の言葉を
気持ち強調して言った。
 「先生?・・・ああ、そう言えば増山さんって学校の先生でしたね。
理子ちゃん、もし良かったら、一緒にご飯食べない?」
 「えっ?いいんですか?」
 「うん。ナースセンターにいるから、終わったら声かけてくれる?」
 「わかりました」
 佐野が病室を去った後、理子は笑いながら椅子に座った。
増山はまだ恥ずかしそうな顔をしている。
 「センセー、最近は一人で食べてるんだ~」
 理子はからかうような調子で言った。
 「だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいだろう」
 照れ隠しなのか、憮然とした顔で言った。
 「それはそうですよね。先生の気持ち、よくわかります。
じゃぁ、どうぞ。召し上がって」
 と、理子は言った。増山はそんな理子の顔を暫く見つめてから言った。
 「食べさせてくれないの?」
 「あら。だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいでしょう?」
 「君の前では、恥ずかしくなんか無いよ。君に食べさせて貰いたいんだ。
だから、お願い。食べさせて」
 理子はからかってもう少し楽しむつもりだったのだが、増山に真面目な
顔をしてそう言われたので、逆に赤くなってしまった。
 「左手で食べるんだから、本当は大変なんだ。でも、いつまでも
家族や看護師さんにやって貰うのは恥ずかしいから、我慢して頑張って
左で食べてる。だが、君の前でまで、そこまで我慢する必要は無いだろう?
日曜日の昼食だけなんだし。弱みを見せてもいいって、この間君は
言ったよな。あの言葉を聞いて、俺は君の前では我慢するのを止めようと
思ったんだ。だから、お願いします」
 増山の目は、甘えさせてくれと訴えていた。甘く切なげで、胸が
キュンとする。まるで愛し子のようだ。こんな目で見つめられて
頼まれたら、嫌とは言えない。
 「わかりました。先生、赤ちゃんみたいですね」
 「いいじゃないか。将来の予行演習になるんじゃないか」
 その言葉に赤くなる。先生の赤ちゃん・・・。結婚すれば、いつか
授かるんだ。だが、まだまだ遠い先の事だろう。
 増山の食事が終わって片づけた後、理子は病室を後にしてナース
センターへ向かった。ナースセンターには5,6人のナースがいて、
理子が行くとみんなが理子を見たのでドキッとした。ぶしつけに見る
者もいれば、さりげなく観察している者もいる。増山の恋人と聞いて、
興味津々なのだろう。
 「あっ、理子ちゃん。終わったの?」
 「はい」
 二人は連れ立って、上の階にある食堂へ向かった。院内の食堂は、
職員も見舞客も皆が利用する。それぞれ注文したものを持って、
空いた席へと落ち着いた。
 「まさか、ここで理子ちゃんと再会するとは思ってなかった」
 「私もです」
 佐野の家庭は母子家庭だ。母一人子一人である。父親を早くに亡くし、
母親が苦労して育てて来たのである。そういう家庭の中で、佐野は明るく
朗らかに育っていた。だが、そういう家庭環境にあるからこそ、早く
自立して母を助けなければとの思いが強く、看護の道を選んだのだった。
 とてもしっかりした頼りになる先輩で、理子は在学中、この先輩が
大好きだった。
 「さっき、みんな凄い目で理子ちゃんの事を見てたでしょ」
 「はい。まぁ、仕方ないです」
 「まぁ、そうだよね。あんな素敵な人って、滅多にいないし。だから
彼女がいないわけが無いだろうって皆噂してたけど、平日は家族以外は
誰も見えないし、土曜だって、同じ学校の男の先生が見えるだけだしね。
でもって、唯一日曜日に訪ねてくるのは、妙に若い女の子で、おまけに
ほぼ一日、病室にいるじゃない?一体、どういう子なんだろうって
思っていたら恋人だと聞かされて、皆仰天」
 「あんな素敵な人の恋人が、私のような女の子なんで、皆さん納得
できないんじゃないですか?」
 「ふふふ・・・。まぁ、女って、みんなそうじゃない?飛びぬけた
美人だったらともかく、そうで無ければ大抵は、どうしてあんな女が?
って思うものよ。自分の事を棚に上げてね」
 その言葉に理子は笑う。確かにそうだ。増山のような男性なら、
恋人もきっとかなりの美人に違いないと、誰もが思うだろう。
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~ Comment ~

Re: こんばんは>ヒロハル様 

ヒロハル先生♪

ご訪問&コメント、ありがとうございます。
非常に嬉しいです。
先生のブログはとても参考になります。

プロを目指されてる方に読んで頂けるのは
光栄ですが、またとても恥ずかしくもあります。
拙い作品ですが、何か伝わるものが少しでもあれば
しあわせでございます。

今後ともよろしくお願い致します。

Re: NoTitl>OH林檎 様 

OH林檎 さん♪

いつもありがとうございます。

甘えんぼの先生、可愛いですよね。
ギュッとしてチュッってしたくなっちゃいます。

理子に怒られて、すっかり犬になっちゃってますねぇw

こんばんは 

こんばんは。
三流自作小説劇場のヒロハルと申します。
最近、よく遊びに来ていただいているので、
ご挨拶をと思いまして・・・・・・・。

現在、私のほうは連載を休業しておりますが、
また近々再開しますので、その節はよろしくお願い致します。

narinariさんの作品もまた読ませていただこうと思っています。
ではまた。

NoTitle 

先生、どんどん甘えたな感じになってきてますね。
それもまた萌えます(笑)
次回、楽しみにしてますv-345
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