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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-22

2015.10.23  *Edit 


 正月の休み明け、ハワイから戻って来た久美子は純哉の話しに息を飲んだ。
「芹歌が山際に?」
 ハワイの土産を持って純哉の部屋を訪ねた。純哉は正月中も実家には帰らず、
一人あくせくと作曲活動に勤しんでいたらしい。そう聞いていたから、ハワイアンの
雰囲気を分けてあげようと、パイナップルワインとそれに合う料理を持参したのだ。
 二人でワインを空けながら、今年の活動はどうするか互いに話しているうちに、
真田の話しになった。学内コンサート後の事件で足に怪我を負ったが、もう大分
良いらしい。だが、仕事も春までは特に入れて無いし、その間、芹歌ちゃんの
コンクールの応援をするんだって、と純哉が言い出して、何それ?と突っ込んだら
出て来た話しだった。
「幸也の勧めだよ」
 純哉はなんでもないような口ぶりで、料理をつついている。
「どうして?だってもう、寸前だし、そもそも、もうコンクールなんて年齢でも
ないじゃない」
「年齢制限、超えて無いよ」
「それはそうだけど、普通は、もう出ない年齢よ」
「普通はね。でも芹歌ちゃん、普通じゃないし」
「純哉くんの言ってる意味、わからない」
 純哉は暫く黙って久美子を見つめた。その瞳があまりにも無感情に見えて、
久美子はたじろいだ。どうして、そんな目で見るのか。
「ねぇ、久美ちゃん。あの二人、とうとうね。結ばれたんだよね」
「え?」
「暮れも暮れ。大晦日の日に、やっと。全くもって焦れったかったけど、僕もこれで
一安心。と言っても、これからが騒動だろうけど。ま、既にコンクールに参加するって
事で騒動が起き始めてはいるけどね」
 久美子は純哉の言っている事がよく理解できずに、ただ動揺した。
(結ばれた?あの二人が?)
 真田の想いについては、純哉から聞いていた。芹歌だって、内心では真田を慕って
いたに違いないとは思った。でも結局、二人が結ばれる事は無いような気がして
いたのだ。コンサート後の事件で、二人が互いに庇い合って怪我をした所を見て、
互いの想いを改めて知った気がしたが、それでも結ばれるには障害が多すぎる。
特に芹歌には縛りが多すぎた。芹歌の性格を考えると、きっと自分の心の奥底の
気持ちにフタをして、気付かないように目を背けるか、気付いても封印するんじゃ
ないか、そう思っていた。
 それに、結ばれたとして、それがコンクールと何の関係があると言うのだろう。
 久美子は首を振った。矢張り理解できない。
「真田さんと芹歌が結ばれたって、だって芹歌には神永君がいるじゃない」
「そうだね」
「そうだね、って。どうするの?」
「別れるんじゃないの?」
「そんなっ。そんな簡単な事?」
 声が裏返った。どうして私はこんな声を出してるんだろう。何を興奮してるんだろう。
 神永は、芹歌と付き合い始める前に、その想いを久美子に打ち明けていた。
芹歌に迷惑がられているようで辛いと、久美子に助けを求めて来ていたのだ。
的確なアドバイスは出来なかったが、どこか守ってあげたいような雰囲気もあって
久美子は彼の気持ちに寄り添うようにしていた。それだけに、簡単に彼を
切り捨てるような事をして欲しくない。
「やっぱり、久美ちゃんにはショックだった?」
 純哉が憐れむような顔で見ている。その事に久美子は少し胸が痛んだ。
「ショックはショックよ。でも、純哉君が思ってるのとは、ちょっと違う。
真田さんに対しては、最初から何の期待も抱いてなかったんだし」
「そう。じゃぁ、芹歌ちゃんがコンクールを受けるって事?」
「そう、それよ」
 久美子はやっと肝心な話題に戻ったと、少しホッとした。
「大雑把に言うとね。幸也は春にまた、ヨーロッパへ戻るつもりでいるらしい」
「ええ?日本に拠点を移したんじゃなかったの?」
「最初はそのつもりだったらしいけど、まぁ、気が変わったんだね。それで、
芹歌ちゃんを連れて行きたいわけだ。結婚してね」
 久美子は口が震えた。結婚?あの真田が?芹歌と?
 驚愕のあまり声を発せないでいる久美子に、純哉は更に言葉を続けた。
「その為にはさ。ただのピアノ講師で伴奏者じゃなく、世間的に認められた
ピアニストとしての肩書きを持たないと、周囲の軋轢がきつくなるだろうって思った。
なんと言っても、真田幸也の公私に渡るパートナーとなる訳だからね。周囲から
妬まれるのは必須でしょ。だから、その風当たりが少しでも軽くなるように
ピアニストとして自立させたい、それが幸也がコンクール参加を勧めた理由。
だから、優勝して貰わないとならないんだ」
「ゆ、優勝?山際に?今から?」
 もう、呆れるばかりだ。参加する事だけでも驚きなのに、優勝とは。
(芹歌には無理……)
 芹歌のピアノの腕が良いのは知っている。テクニック的には自分を勝っていると
思う。情緒的にも優れている。音も美しい。だが、ソロにおいての芹歌の音楽作りは、
大人しくて主張感が薄い。インパクトに欠ける。要するに、個性が薄いのだ。
それが、伴奏やアンサンブルとなると豹変する。自由自在に相手に合わし、
更にコラボによって新しい音楽を作り出す。どうしてソロでそれが出来ないのかと、
ずっと訝しんできたが、それが芹歌のピアノなんだと理解している。逆に自分は
芹歌のようなコラボはできない。結局、向き不向きなんだろうと思っている。
「まぁ、芹歌ちゃんなら予選は楽勝でしょう」
 久美子は頷いた。テクニックは折り紙付きだから、確かに予選は通過すると思う。
本選だって、入賞くらいはできるかもしれない。だが、優勝は……。
「芹歌は、真田さんの勧めに従ったって事なのよね?」
「そうだよ。お正月に、二人で恵子先生の所へ行ったって。恵子先生は大喜びしてるよ」
 恵子先生の所へ二人で……。そう聞くと、二人の仲は短期間のうちにしっかり
結ばれたようだ。いつも喧嘩ばっかりしていた二人なのに。
「ねぇ、それで純哉君はどう思ってるの?芹歌が優勝できると思う?」
 久美子の問いに、純哉は「勿論だよ」と自信たっぷりな様子で答えた。
「久美ちゃんは思って無いの?」
 逆に不思議そうに問い返された。
「私は、優勝して欲しいとは思ってるけど、ちょっと無理なんじゃないかって」
「どうして?」
「だって、卒業してからもう5年よ?学生の時のような勢いはとっくにないし、
まして、自宅でピアノを教える傍らで伴奏の仕事をしてたのよ?そんな状況で
いきなり国際コンクールだなんて……。他の子達と意識も違えば練習量だって違うし。」
 自分だって、今、山際に挑戦するとして優勝できるか自信が無い。
「大丈夫だよ。そこは久美ちゃんが心配しなくても。恵子先生と幸也が付いてるんだから」
 純哉の呑気そうな笑顔を見て、少しイラッときた。こういう時の能天気ぶりは、
イライラを加速させるだけだと思う。
「そんな事言うけど、もし優勝しなかったら、どうするの?渡欧はやめるの?」
「さぁ~。その辺は聞いて無い。幸也自身は、全く考えて無いみたいだね。
優勝して一緒に渡欧って決めてるみたいだよ。あいつ、自信家だしね」
「真田さんが自信家なのは知ってる。でも芹歌は違うでしょ?」
「そうだね。芹歌ちゃんは幸也とは正反対な感じだもんねぇ。でもあの子は芯が
強いし、決めた以上はやるんじゃない?こう言っちゃなんだけど、みんな
芹歌ちゃんの事を、見くびってると思う。幸也もそう思ってるから、挑戦
させるんだよ。周囲に彼女の本当の実力を知らしめるために」
(本当の実力……)
 そう言われて、久美子は自分の足許が揺らぐのを感じた。確かに芹歌には
力がある。でもずっとそれを発揮できないでいた。発揮できないのも才能の
うちだと思っていた。そう思う事でソリストとして活躍している自分に優越感を
感じていたんだと思う。もし、芹歌が、本当の実力を発揮することができたとしたら、
あっという間に自分は越されてしまうだろう。そう思うと怖い。
「久美ちゃん……」
 純哉が久美子を抱き寄せた。
「純哉くん……」
 そっと純哉を見上げる。
「芹歌ちゃんは芹歌ちゃん。久美ちゃんは久美ちゃん。比較するもんじゃないよ。
コンクールは甲乙つけるものだけど、本来の芸術は甲乙なんてつけられるものじゃ
ない。それぞれの良さがあるんだし、活躍する場も、同じようで違うだろう?
君は君で、これをひとつの刺激と捉えて身を引き締めて成長していけばいいんだよ」
 純哉は敏感に、久美子が感じた恐れを汲みとった上で、こうして励まして
くれている。突き離す冷たさと包み込む暖かさと、両方を兼ね備えているが、
究極的には自己中だ。
「芹歌ちゃんは今、飛び立とうとしてる。幸也の愛を得て。そして、幸也もまた
同じなんだ。芹歌ちゃんを得て、共に飛躍を目指してる。きっと新しい世界が
始まるよ。正直僕は羨ましいんだ」
 久美子は腕を純哉の体に巻き付けた。恋愛を遊びと捉えている自由人である
純哉が、二人で作る世界を羨ましがっている。どうあがいても、自分には
得られない世界だからなのだろうか。でもそれは、本当は求めれば得られるもの
なのではないかと久美子は思う。ただ、純哉が求めないだけなんだ。本人は
それがわかっていないんだと思うと、そんな純哉が哀れに思え、そんな純哉を
好きになり始めている自分も、哀れだと思うのだった。

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