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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-18

2015.10.16  *Edit 

 ヨーロッパへ戻る?何で?引き払ってきたんじゃなかったのか。
ずっと、いや少なくとも暫くは、日本を拠点にするんだって……。
「ど、どうして、ですか……?」
 かろうじて出した声は、呟くような小さい声だった。
「お前も感じてたと思うが、思うように弾けなくて逃げ帰って来てたんだ。
だけど、それは間違いだったと気付いた。だから……」
「だから?やっぱり先輩は、私を使い捨てるんですね。片倉先輩に言われたんです。
あなたのリハビリに付き合って欲しいって。でも私、その時に思ったの。
リハビリが終わったら、今度こそ使い捨てられるんじゃないか、って。
やっぱり、思った通りだった!!」
「芹歌、それは違う」
「何が違うって言うの?母が言った通りだわ。先輩は、自分が演奏家として
成功する為に、私を利用したのよ」
 芹歌の目から涙がこぼれてきた。悔しい。悔しくて仕方が無い。結局、私は所詮、
ただの伴奏者なんだ。脇役で引き立て役なんだ。それでもいいとずっと思ってきたが、
山口が愚弄したように、他の人達だって、真田だって、きっと本心では愚弄してるんだ。
侮ってるんだ。
 真田の手が伸びて来て、泣いている芹歌を抱きしめた。
「やめて!離して!」
「芹歌、そうじゃないんだ。話しを聞いてくれ」
「いやっ」
 思いきり首を振る。真田の手に力が入った。
「俺は、お前を使い捨てになんかしやしない。そう言っただろう?俺のパートナーは
ずっと芹歌だけだ。お前以外にはいないんだよ」
「じゃぁ、どうして……」
「お前を置いて、一人では行かない。お前も一緒に行くんだ。ヨーロッパに」
 息が詰まった。
(あ、どうしよう……。また息が)
 芹歌の体が硬くなった事に気付いたのか、真田が抱いていた手を緩めて芹歌を見た。
「おい、芹歌!大丈夫か、しっかりしろ」
 慌てて背中を摩りだす。
「ゆっくり息を吐くんだ。吐け。吐く事に集中しろ」
 言われて、そっと息を吐く事に集中した。
「そうだ。ゆっくり吐け。吐ききれば、自然に吸える」
 すー、、、はぁーーーー、、、すー、、はぁーーー……。
 何とか、息が戻って来た。何でこんなことで呼吸がと思う。
 真田が心配げに見守っている。その顔を見て、いきなり胸がキュンとした。
舞台の上で、何度も真田にときめいたが、それ以外でこんなに胸が高鳴るとは。
 互いの視線が絡み合った。
(あ、どうしよう)
 そう思った時、顔が近付いて来て、唇が重なった。思わず緊張したが、真田の
薄い唇は強引に芹歌の唇を割った。吐息が混じり合う。何度も何度も狂おしげに
啄ばまれ、芹歌は体から首にかけて血潮が駆け上って来るのを感じた。
 長い口づけが終わった後、ギュッと抱きしめられ頭を撫でられた。
はぁっと息をついた。
「大丈夫か?」
 息をついた芹歌が心配になったのだろう。芹歌は黙って頷いた。
「これで三度目だけど……、お前を愛してる……。だから、お前を連れてヨーロッパに
行きたい。置いてなんか、いかない。使い捨てなんか絶対にしない」
 絶対に離さないと言わんばかりに、真田は強く抱きしめて来た。
(なんて強引な人なんだ)
 自分の気持ちばかり押しつけて。でも、ちっとも不愉快じゃない。むしろ、嬉しいと
思っている自分がいる。だけど……。
「先輩は……狡い……。どうして、今になって……」
 そうだ。何故今頃になってこんな事を。今頃、愛してるなんて言われても、
どうしたら良いのか解らない。父が亡くなってから5年もの間、ずっと一人で
頑張って来た。真田から連絡があった事はない。せめて、何か励ましや慰めの
言葉でもあったらと思うのに。
「先輩の想いは、きっと気の迷いよ。長い外国生活で心が疲れただけ。
私を愛してるなんて気持ちは、一時の錯覚だと思います」
 真田は体を離して芹歌を凝視した。その内心を探るように瞳が揺れている。
「俺の気持ちを、まだ疑ってるのか?」
「いいえ。そうじゃなくて。先輩自身が、わかってないだけよ。じゃなきゃ、
どうして今ごろ?学内コンサートの演奏は、凄く良かった。私も感動しました。
だからそれで……」
「違うっ!」
 真田の怒鳴るような声に、芹歌はビクッと震えた。
「この間、病院で言っただろ。ずっと前からだって。今に始まった想いじゃないっ」
 吐き捨てるような言い方に、芹歌はカッとなった。
「ならっ。どうして?どうしてずっと、私は放っておかれたの?父が亡くなった時、
全ての希望が失われたように思えて、絶望した。それでも、母を放っておくことは
できないし、生きていかなきゃならなかった。ずっと、音信不通だったじゃない。
何にも言ってきてくれなかったじゃない。私の事なんか忘れて、向こうで音楽に
没頭してたんでしょう?スランプに陥って日本に戻って来た途端、私を必要と
するなんて、虫が良すぎる。そう思わないの?それで、今になって、愛してる、
だなんて可笑しいよ。信じられるわけないじゃないっ」
 真田は芹歌の勢いに蹴押されでもしたように、力を無くした。
「俺、馬鹿だよな……」
 嘲るように呟きだった。
「学生の時……、お前と組んで、一緒にやる度にお前に惹かれてた。だけど、
認めたく無かったんだ。お前とやると、物凄く高揚して性的欲求が高まって、
でも、お前を抱く訳にはいかないから、他の女を代わりに抱いてた。留学する時、
寂しかったよ。早くお前も来てくれる事を待ち望んでたんだ。だけど、お父さんが
事故に遭って、来れなくなった事を知った時、俺も絶望したんだよ。だから……、
逢うのが怖かった。逃げた。現実から。それでも、落ち着いたら来るんじゃ
ないかって馬鹿みたいな希望を抱いて、待ってたんだ、お前を……。それなのに……。
もっと早く気付いて、もっと早く帰ってくれば良かったんだよな。おまけに、
折角帰ってきたと言うのに、俺は相変わらず、お前の代わりに他の女を……。
だから、純哉に『馬鹿ユキ』って言われたよ。本当にそう思う。お前の言う事はもっともだ」
 力無い真田の言葉に、芹歌の頭は混乱した。出逢った時からの長い年月の
出来事が蘇る。その時々の気持ちも混ざって。だが自分の心を何より重く
しているのは、苦闘の5年間、ずっと放っておかれたという事実だった。
「なぁ、芹歌。ずっとお前を放っておいて悪かったって思ってる。だけど
俺だって辛かったんだ。スランプだったからお前を必要としたんじゃない。
ずっと、最初からお前が必要だったんだ。ただ、それに気付いたのが遅かった
だけなんだ……。今更と言われても仕方が無い。だけど、今更だからと言って
口を噤んで隠す事はできなかったんだ。」
 芹歌は涙が込み上げてきて、ヒックヒックとしゃくりあげた。
 過去の様々な思いが錯綜する。希望と絶望と苦闘と孤独と。そして諦観。
もう二度と二人の人生が交わる事は無いと思っていたのに。
 気付くのが遅かっただけ、か。そう言われても、もっと早くに気付いて
欲しかったと思う。そして、そう思う自分の気持ちに戸惑うのだった。
「芹歌……。どうして泣く」
 真田がそっと芹歌の肩を抱いた。
「だって……。先輩、ほんとに狡い……。私、どうしたらいいか、わからない……」
「これまでの事や、お母さんの事、その他諸々の心配ごとの全てを忘れて、
お前の気持ちを聞かせてくれ」
 せつなげな声が耳元で囁いた。
「私の気持ち?」
「そうだ。俺はやっと、お前を愛していると言う事に気付いた。これからもずっと、
二人で音楽を作っていきたいと、強く切望している。お前はどうなんだ?」
 芹歌はしゃくりあげながら、真田の言葉に胸を熱くしていた。
「私……、私、よくわからない……って言うか、上手く言葉に……」
 軽く抱いていた真田の手が、芹歌の体を包み込むように抱きしめた。
「分かった。純哉が言ってた。じゃぁ、ひとつずつ質問する」
 真田の言葉が穏やかになってきた。深く響く声が心地良く感じる。
「俺が、他の女を抱いてる事、どう思ってる?全く気にして無い?」
 なんでいきなり、そんな質問なんだ。そう思いながら、芹歌は首を振った。
「気にしてるって事か?」
 コクリと頷く。
「ま、前は、気にしないようにしてた。でも今は……。イヤ……」
 抱きしめる手に力が入って、心臓の鼓動が跳ね上がった。
「じゃぁ……、ロスマリンの後、お前にキスしたら、口を固く結んだよな。
俺を拒んだのか?」
 え?また、何でそんな事……。変な質問だと思う。
 芹歌は首を振った。
「違うのか?」
 驚いている。何故と思う。
「拒んだってわけじゃなくて……。ビックリして。だって、今までそんな事、
無かったじゃないですか。心臓が……口から、出そうなくらいドキドキして……、それで」
「ええ?なんだ、それは。心臓が口から出るわけないじゃないか」
「そ、そうですけど、でも、その時はホントにそう感じて……」
 ハァッと小さな溜息が芹歌の耳をくすぐった。
「じゃ、じゃあさ」
 真田は、気を取り直したように再び質問した。
「俺と、こうしてるの、嫌か?」
 ドキリとして、キューっと胸が締め付けられた。
「嫌か?」
 芹歌は首を振る。
「い、嫌じゃない。……けど……」
「けど?」
「あ、頭が真っ白になりそう……。心臓が……、壊れそうな気が……」
「そうか……。ありがとう。俺も、同じだよ」
 真田はそっと顔を離し、芹歌の唇を塞いだ。

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