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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-16

2015.10.12  *Edit 


 暮れも押し詰まり、大晦日を迎えた。
 あれから神永は毎日やってきているが、芹歌は意識して二人きりにならないように
していた。そんな芹歌を神永は恨めしげに見ている。母がいても、二人の関係を
告げれば、もう少しベタベタしたスキンシップをしても多分咎められないだろう。
だが、神永は実花に二人の事を告げて無いようだ。その事は芹歌にとっても有難かった。
 婿養子にしたいなんて言っているくらいだから、言えば喜ぶに違いないし、
今よりももっと家族のように扱われるだろうと想像がつくのに、そこは弁えているの
だろうか。それとも、煮え切らない芹歌の態度を心配してなのか。
 昼を過ぎた頃、真田からメールが来た。珍しい事だった。一体、何事だろう?
ドキドキしながらメールを開く。

 “大事な話しがあるから、これから来て欲しい。
  片倉が車で迎えに行く。
  国芸の音楽関係者の忘年会で、芹歌も連れて
  くるように言われたから、
  と言う事になっている。
  話しを合わせて、出てきてくれ“

(何、これ?)
 一体、どういう事だろう。話しの意味がよく解らない。国芸の忘年会に参加しろって
事なのだろうか?そこで、真田さんも含めた皆から、大事な話しがあるって事?
それに、来いって言われても、場所が書かれて無い。
 首を傾げていたら、「どうしたんですか?」と神永が問いかけて来た。その隣に
座っている実花も、怪訝そうな顔をした。目の前には香り豊かなほうじ茶が、
早く飲んでくれとばかりに白い湯気をたてている。
「あ、あのね。なんか、国芸の関係者で忘年会があるみたいでね。来るようにって
メールが……」
「ええ?今から?」
 実花が飲もうとしていた湯のみを置いた。
「うん。そうみたい」
「やだ、そういうの、何で早くに言ってこないのかしらね?しかも、大晦日!
あそこの人達って、やっぱり変な人ばかりなのね」
 苦々しい顔で言った。実花は芹歌が国芸に通ってる時から、芸術家だけに変人が
多いだの、常識から外れてる、等々言っていた。
「誰からのメールですか」
 神永の視線が何故か鋭い。ドキッとする。
「うん、片倉さんから。片倉さんが、これから迎えに来るって」
「あらまぁまぁ。拒否権、無いの?びっくりだわ。じゃぁ芹歌、さっさと支度しないと」
 実花が急きたてた。
「でもあの、いいの?行っても……」
「当たり前じゃないの。大学側から呼び出されたら断れないでしょ。しかも、
片倉さんが迎えにくるんだから」
 何だか少し、後ろめたい気がした。
「あの人も参加されるんですか?真田さん、でしたっけ」
 ドキリとする。神永の問いに実花の目も一瞬、鋭くなった。
「さぁ?聞いてないけど、まだ怪我も治って無いでしょうから無理じゃないのかな」
 芹歌の答えに、実花が頷いた。
「そうよね。真田さんは無理でしょう。足を怪我してるんだし。治るまで、まだ
時間がかかると思うわよ?」
 神永はまだ信じられないような顔つきだったが、実花が急きたてるのを機に
芹歌は自室へ着替えに入った。
 それにしても、大事な話しって、何だろう?それに、どこへ連れて行かれるのか。
 着替えが終わるのとほぼ同時に、玄関のチャイムが鳴った。
「こんにちは。すみません、こんな年の瀬に、いきなり……」
 片倉は小憎らしいくらい、スッキリと決まっていた。上品で、派手すぎず、
うっとりする程の男ぶりだ。
「あら、いらっしゃい、片倉君。相変わらず、ステキなのねぇ」
 実花は頬を染めて、うっとりしている。
 片倉は傍らにいる神永に声をかけた。
「君も来ていたんだね。それなら安心だ。お母さんが寂しくない」
 にこやかな片倉に対し、神永の表情は硬かった。
「あの、真田さんも参加されるんですか?」
 余程、気になるらしい。片倉はほんの少しだけ片眉を上げた。
「幸也は行かないよ。まだ足の怪我が治ってないし、自宅療養に入ったけど、
安静にって言われてるからね」
「そうですか……」
 少しだけ、ホッとしたように顔を緩めた。
「神永君……、ごめんね。後を、お任せしちゃってもいいかな?」
 神永はやっと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お母さんの事はご心配なく」
「そうよ。お陰でゆう君、ひとり占めにできて、私は嬉しいわ」
 本気で言っているようだ。芹歌は苦笑した。
「じゃぁ。帰りもお送りしますから、ご心配なく」
 芹歌は片倉について、家を出た。
 家の前に、小型の青のプジョー車が止まっていた。片倉は助手席のドアを開けて、
「さぁ、どうぞ」とにっこり笑った。まるで、王子のようだ。
「あ、ありがとうございます」
 なんだか照れる。この人の車に乗るのは初めてだった。中はシンプルで、余計な物が
置いて無かった。
「なんか、ごめんね、いきなり呼びだしちゃって」
 車を走りだしてすぐに、片倉が言った。
「あの……。真田さんからのメール、内容がよく解らなかったんですけど……」
「えーー?」
 前を向いたまま、驚いている。
「あいつ、一体、どんなメール送ったのかな。ね、良かったらちょっと、読んでみて」
 言われて、芹歌は携帯を出すと、メールを読んだ。
「あれれ?ねぇ、芹歌ちゃん。内容がよく解らないって、どういう事?要点だけ
簡潔に書かれてて、解りやすいって思うんだけど……」
「はい?」
 芹歌は戸惑った。もしかして、私って著しく読解力が低い?
「あー」
 突然、片倉が変な声を出した。
「はい?え?何ですか?どうしたんですか?」
「なんかさ。僕、今、ピンと来た、君の事……」
「え?どういう事ですか?」
 全く解らない。元々不思議な人だが、一層そう思う。
「君ってさ。言葉だと本当に伝わりにくいよね。でも、読譜能力は凄いんだよね。
演奏してる時の読みも鋭くて深い。なのに、どうして言葉だと伝わらないのかな……。
それが、君の特徴と言うか特色と言うか。君ってそういう人なんだよね」
 返す言葉がない。それって言ってみれば矢張り読解力が低いって事よね?
言葉だと通じないって?頭悪いって言われてるのだろうか?もしかして、とても
失礼な事を言われてる?侮辱されてるの?
「あのー。もしかして、けなされてるんでしょうか?」
 この人も、真田のように意地悪な人だったんだと認識した。天才は大概にして
正直だ。何の意図も無く、真実を突きつける。天使の顔して、平気で悪魔のような
事を言うのだ。
「いやいや、そうじゃないの。ごめんね、変な事を言って」
 納得いかないが、追求しないことにした。
「あのそれで、質問してもいいですか?」
「はいはい、どうぞ。どこが分からなかったのかな?」
「これから、どこへ行くんでしょう」
「ああ、なるほど。それについては、書いて無かったもんね。えーとね。某所」
「はい~?」
 なんだ、某所、とは。答えになって無い。
「行けばわかるよ。後は?」
 一瞬、言葉に詰まる。
「あ、あの……、えーと……、国芸の忘年会って?話しって皆さんからあるんですか?」
「ブワハッハッハ!」
 いきなり片倉が吹きだすようにして笑いだした。
「えー?なんで笑うんですか?」
「いやだって、可笑しいから。アッハッハッハツ!」
 芹歌は憮然となる。何がそんなに可笑しいのか解らないし、可笑しいからって、
そこまで笑う事もないじゃないかと思う。
「せ、芹歌ちゃん、面白すぎ。それ、狙って無いよねぇ?」
「はぁ?そんな訳、ないじゃないですか」
「あっはっは……、だよねぇ……。あー、面白すぎて涙出そう……」
(そっちは面白くても、こっちは面白くない)
 そう思って、窓の外を見た。
(あれ?この道……)
「ごめん、芹歌ちゃん……。えっとね。芹歌ちゃんね、読み間違えてるね、内容を。
国芸の忘年会って言うのは、嘘なの。君が出かける口実」
「ええ?嘘なんですか?」
「そうだよ。話しを合わせて、ってあったでしょ?幸也からの呼び出しって
言ったら、出して貰えないかもしれないでしょう。だから、話しを作ったの。
話しがあるのは、幸也からだよ。だから、これから行くのは幸也の所」
「あ、あの、先輩から話しがあるって言うのは、理解してました。ただ、国芸の
人達も一緒なのかと思っちゃって。こんな日に忘年会ってのも変だし、一体、
何なんだろうって」
「なるほどね。半分くらいは理解してくれてたのね」
「半分くらいって……」
(馬鹿にされてるのかな、やっぱり……)
 よくわからないが、少なくとも真田とは言葉による意思の疎通が良くないとは
思っている。今に始まった事ではない。真田は激し過ぎるせいか、発する言葉も
過激だ。グサグサと痛いところを突くし、感情の起伏も激しい。だから多分、
敵が多い気がする。人から誤解されやすいタイプだと思う。
 同じ天才でも、片倉は違う。この人も、グサグサと突いては来るが、相手の
反応に敏感だし、周囲への気配りもあり、底抜けに明るいせいか許せてしまう。
まるで無邪気な少年のようだ。
 車が停止した。
 見覚えのある道を走っていた筈だ。そこは真田家の門前だった。


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