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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-15

2015.10.11  *Edit 


 28日の日曜日に、神永はやってきた。この日から冬休みだ。いつもと様子は
変わらないように見える。
「大掃除、まだ残ってますか?」
 少しは手伝いたいから、残しておいて欲しいと言っていたので、窓ふきをしないで
おいた。窓はやりにくいから、背の高い男性にやってもらうと助かるからだ。
 嬉々として窓ふきに取り掛かっている。実花はその姿を嬉しそうに見つめている。
「やっぱり、いいわね。男性が家にいるって。何かと頼もしいと言うか」
 それは確かにそう思う。それに神永は、何でも嫌がらずにテキバキとこなすから、
見ていて気持ちがいい。
「芹歌さん、傷の方はどうですか?もう、大分いい?」
 掃除が終わり、ホッと一息している。
「ええ。まぁね。完全無欠とまではいかないけど。触ったりすると少し痛いくらい」
「じゃぁ、ピアノ、どうですか?まだ駄目?」
「うーん、そろそろ弾けそうかな。激しいのは無理だけど」
 芹歌は笑った。そろそろ弾いてみようと思っていたところだった。
「じゃぁ、ちょっと弾いてくれませんか?僕、聴きたいです」
「え?」
 何となく躊躇われた。どうしてだろう。躊躇う原因は怪我ではない。気持ちだ。
「どうしたんですか?」
「あ……、うん」
「芹歌、弾いてあげたら?そろそろいいんじゃないの?指がなまるわよ?」
 実花が横から口を挟んで来た。
「じゃぁ、お母さんも聴く?」
 実花は首を振った。
「私、ちょっと見たいテレビがあるのよ。時代劇の……。あなた達には退屈で
しょうから、ちょうどいいじゃない。ついでにゆう君、少しうちでピアノの
練習もするといいわ」
 そう言って、テレビを点けた。
「ほら、芹歌さん」
 明るい顔で催促されて、仕方なく付き合う事にする。
 二人はレッスン室に入った。
「あ、ここの大掃除も終わってるのかな?」
「ええ。須美子さんがやってくれたの。私も手伝ったけど……。じゃぁ、何を弾く?」
 振り向いたら抱きしめられた。
「神永君……」
 芹歌は慌てた。
「芹歌さん……」
 唇が近づき、重なった。舌が入って来て、芹歌は神永の胸を押した。
「芹歌さん……、どうしたんですか」
「そ、それは、私のセリフよ。一体、どうしたの?」
 神永は挑むような目で芹歌を見ている。
「いけませんか?」
「あ、当たり前じゃない。ここは、レッスン室よ?向こうにはお母さんもいるんだし」
「それじゃぁ、場所を変えますか?ホテルにでも行く?」
 芹歌は目を剥く。
「何言ってるのよ」
 神永は、まるで何かを探るような目をして芹歌を見ている。猜疑心が垣間見える。
矢張り、真田との事が原因か。
「芹歌さんの方こそ、おかしくないですか?いくらレッスン室だからって、そこまで
嫌がる事、無いじゃないですか。恋人同士らしくない」
(恋人同士?)
 言われてみて、自分達はそういう関係なのかと改めて認識した思いだった。そして、
今更それに気付くなんてと、自分が滑稽に思えてくる。
「あの人が原因ですか?」
 刺すような目だ。
「あの人?」
「真田さんですよ。僕、気付いてましたよ。あのコンサートよりもずっと前に。
僕がここへ出入りしている事を、あの人が怒った時に。ああ、この人は芹歌さんが
好きなんだって」
「え?」
 どうして真田さんが怒った事を知っているのだろう。
「片倉さんのフルートを聴きに、東和音大まで久美子さんと行った時、そこに現れた
真田さんから怒られたんですよ。でもその時に、芹歌さんがあの人に、僕と
付き合ってるような事を言ったって知って、嬉しかった。だから僕はその足で、
ここへ来た。そして、公民館へ行ったんです」
 ああ、あの日の事か。他人行儀になっていた神永が突然現れて、傷ついている
私を慰めてくれたんだ。一緒に海へ行って、告白された日。海が、空が、
富士山が綺麗だった。そして、神永も……。
「ごめんなさい」
 芹歌は思わず謝った。
「どうして、謝るんです?」
 芹歌は首を振る。自分で自分が解らなくなってきた。
「とりあえず、今日はもう、ここを出ましょう?」
「嫌だ。一緒にいたい。3人で過ごすのも、お母さんと2人で過ごすのも好きです。
だけど何より、芹歌さんと2人で過ごす時間も欲しいんです」
 神永は再び抱きしめて来た。
「芹歌さん、ずっとこうしていたい。ずっと……」
 芹歌は諦めて神永の胸に顔を寄せた。清潔な石鹸の匂いがする。男の一人暮らし
なのに、本当にマメなんだなと思う。そして、思い出した。先日の昼間の事を。
「神永君……。この間、一人で散歩に出た時にね。あなたのお兄さんに会ったんだけど」
 神永の体がビクッとした。ゆっくり体が離れる。
 見上げたら、恐れるような顔をしている。
「どうしたの?」
「あ……、あの……」
 声がかすれている。
「それって、誰の事ですか?」
「誰って、私の方こそ知りたいわ。あなたにお兄さんがいたなんて……」
 神永の反応を訝しく思う。
「あ、すみません。その、詳しく聞かせて貰えませんか。何処で、どんな男と会ったのか」
 益々おかしい。矢張り、兄はいないのか。あれは、単なる他人の空似で、
騙りだったとでも言うのだろうか。
「神永健って名乗ってた。年は私と同じくらいかしら。顔は、あなたとよく似てたわよ?
小田原に住んでたけど、会社が倒産したから、こっちで仕事に就く為に出て来たって。
おまけに、私のフルネームも、母の事も知っていて、弟がお世話になってますって
言ったわ」
 神永は芹歌の話しを聞くうちに、どんどん表情が硬くなっていった。
「ねぇ。あなたのお兄さんなんでしょう?」
 芹歌が訊ねると、神永は小さく頷いた。
「どうして、教えてくれなかったの?いきなり声を掛けられて、びっくりした。
だって神永君の口ぶりじゃ、一人っ子で天涯孤独って感じだったんだもの。
まさか、お兄さんがいるなんて……」
「すみません……」
 神永は目を伏せた。
「あの……、あまり仲の良い兄弟じゃ無かったから。それに、父が死んだ時、
兄は家を出てて一緒に住んでなかったし、それ以降も一緒に住んだ事はないんです。
もう、お互いに、別々の道を歩いてて、兄弟だけど接点は殆ど無かったから」
 見るからに嫌そうな雰囲気だ。兄に対して良い感情を持って無いように思う。
縁を切ったも同然のような関係だったから、言わなかったと言う事なのか。
「それでも、ちゃんと言ってて欲しかったわ。そういう事は隠して欲しくない。
まぁ、赤の他人だから、内輪の事は喋らないものでしょうけど、でも、母なんて、
あなたが天涯孤独だと思うからこそ、肩入れしてたわけだし……」
 なんだか、説教臭い事を言っていると思う。
「すみません……。本当に」
「お兄さん、また来るって言ってた。母にも挨拶したいって」
「え?それは。やめてください。って言うか、来ても会わないで下さい」
「どうして?」
「それは……」
 顔を強張らせている。どこか逡巡しているような様子だ。
「とにかく、あの人とは関わらない方がいいんです。会社が倒産したって言って
ましたよね?それなら失業中と言う事です。きっと金をせびられる……」
 悔しそうな、憤るような、そんな表情をしている。
「あの……、もしかして、お金を無心されてるの?」
 恐る恐る訊ねると、片倉は首を振った。
「いいえ。でもそのうちに、されると思います。だから。それに、そうでなかったと
しても、僕はあの人と今後も付き合う気は無いんです。関わりたくない。
だから、芹歌さんも」
 懇願するような目に、芹歌は「わかった」と頷いた。
 母親が蒸発し、父親の手で育てられた兄弟。その父親も亡くなって二人だけなのに、
まるで嫌悪するような様子を見ていると、それほどの事があったのかと思ってしまう。
一体何があったのか、興味はあるが本人が言わない限り詮索するのはやめようと思った。


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