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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-14

2015.10.09  *Edit 


 芹歌は後ろ髪が引かれるような想いで退院した。
 結局、あれ以来真田の病室を訪れていない。
 翌日の新聞に事件の事が大々的に掲載されて驚いた。しかも、舞台の上で
抱きしめられた時の写真がスポーツ紙を飾っていた。あの写真を見て、当日
現場にいなかった母と神永は機嫌が良くない。それに、母が言うには真田の
母親である麻貴江も相当怒っているらしく、特に事件に巻き込んだ芹歌に対して
怒りを燃やしているそうだ。それを聞いて、一層見舞う気持ちが萎えてしまった。
 麻貴江の気持ちは良くわかる。結局、芹歌と関わらなければ巻き込まれる事は
無かったのだから。あれでもし、真田の演奏家生命が断ち切られたりでもしていたら、
一生大きな悔恨を抱いて生きて行く事になっただろう。
 入院中、色んな人が見舞いに来てくれた。大学関係者も来たし、合唱団の理事長も
詫びに来た。久美子や沙織、片倉、教室の生徒達も保護者と共に何人かやってきた。
そういう中には、芹歌と真田の関係を知りたがる人間もいた。芹歌はそれには、
ただ笑ってやり過ごした。三日間、あまり動く事無く退屈に過ごし、退院したものの、
まだ腕が痛くて満足にピアノが弾けない。何よりそれが一番辛かった。もし、
本当に弾けなくなっていたら、死ぬ事を考えるかもしれないと、改めて思うのだった。
「あまり閉じこもってても、良くないわよ」
 母にそう言われた。一番、そう言われてきていた人に言われて苦笑する。
母の世話は須美子がやってくれているし、芹歌自身まだ体のあちこちも痛いから
家の役にはたたない。リハビリも兼ねて、少し散歩くらいはしようと、芹歌は
コートを着て帽子を被り、外へ出た。歩いて十分ほどの所に噴水のある公園がある。
今は冬だから噴水は止まっているが、周辺の憩いの場として昼間はそれなりに人がいる。
 外はすっかり冬の装いだ。まだ残った銀杏の葉が道路の上を彩っているが、
なんだか見苦しい。クリスマスが終わると、もう街は正月ムードになる。この時期は
何故か寂しいと感じてしまうのは、矢張り父が亡くなってからか。
 大きな支柱を失ってしまった気がした。母にとっても自分にとっても父は大きな
存在だったのだ。もう小さい子どもではなくても、それでも父の存在があったからこそ、
安心して自分の好きな事に打ち込めたと思う。
 真田の事を思い出す。
 愛してると言われた。
 本気だとも……。
 未だに信じられない思いだ。病院で本気だと言われた時には、死ぬかと思った。
いきなり息が止まって、苦しくなった。看護師さんが『過呼吸みたい』と言ってるのを
聞いた時、なんで自分が過呼吸?と思いながらも、このままでいったら失神すると
感じて恐ろしくなった。
 看護師さんのお陰で何とか呼吸が戻って来たが、すぐに自分の病室に戻された。
(私、先輩に何も言って無い)
 でも……。
 神永の顔が浮かんだ。ショックを受けたようだった。その顔を見た時、胸が痛んだ。
「浅葱さん……」
 背後からいきなり声を掛けられた。男の声だ。ビクリとして、そっと振り返ると、
自分と同じくらいの年格好の男が立っていた。
「浅葱芹歌さん、ですよね?」
 笑顔で尋ねられた。知らない人間だが、どこかで見たような、誰かに似てるような、
そんな気がした。
「あ、あの……」
 比較的整った顔立ちをしており、人相は悪くない。だが知らない男にフルネームで
呼ばれたら自然と警戒する。まさか、マスコミの人間か?
 男はにこやかに一歩前に踏みだして、「弟がいつも、お世話になっているみたいで」
と言った。
(弟?)
 一体、誰の事だ。
「あ、すみません、申し遅れまして。私は神永健と言います。悠一郎の兄です」
「えっ?」
 言われて、なるほどと思った。誰かに似てると言うのは神永だったんだ。細面で
優しげな顔をした神永とは違い、兄の方は少し顔がゴツく、眉毛がキリリとしている分、
キツそうに見える。
 だが、兄がいるなんて聞いていない。高校生の時に父親が亡くなって天涯孤独だと
言っていた筈だ。だが目の前の男は確かに似ている。一体、どういう事だ。
「あ、あの……。本当にお兄さんなんですか?ご兄弟がいるとは聞いてないんですけど」
 芹歌の言葉に、神永健は、酷く驚いた顔をした。
「え?そうなんですか?あいつ……。何で言って無いんだ」
「あの……」
「ああ、すみません。弟とは別々に暮らしてましてね。僕は最近、こっちに出て
来たんです。前は小田原にいましてね。そこで働いてたんですが、会社が倒産して
しまったので、都会の方が仕事があるだろうと思いまして……」
 それでは失業中と言う事か。
「あのじゃぁ、今はどちらに?」
「弟のアバートに厄介になろうかと思ってたんですが、友人のアパートの方に
住まわせて貰ってます。家賃を半分払ってくれると逆に助かるって言われまして」
 そう言って笑った顔は神永とよく似ている。
「あの、それで?」
 一体、何の用なのだろう。こんな場所で声を掛けてくるなんて。
 もう少し歩けば公園に辿りつくが、まだ住宅街の中である。
「ああ、すみません。弟の家を訪ねて来たんですが、いないんですよ。最近、
浅葱さんのお宅にお邪魔する事が多いと聞いていたものですから、こちらに来てみたら、
ちょうど、あなたが歩いてる所に遭遇して」
 暮れとは言っても、まだ仕事の人間が多い。仕事納めまでは、1,2日ある。
昼間に訪ねて行っても、いなくて当然ではないだろうか。少し不審に感じた。
「弟さんなら、今日は仕事ですよ」
「え?まだ休みじゃないんですか?」
「ええ……」
「あー、そうだったのか。うっかりしてたな。もう休みだと思ってました」
 困ったようにポリポリと頭を掻いている。
「すみません、私、もう行かないと」
 別にただの散歩だったから、急いでもいないのだが、このままここで、この人に
付き合っているつもりはない。本当なら神永の兄なら、もう少し色々と話しても
良さそうだが、神永本人から何も聞かされていない兄と言う存在がいきなり
登場しても、ただ不審に思うばかりだ。
「ああ、すみません。お引きとめしちゃって。またそのうち、ご挨拶に伺わせて
貰います。弟がお世話になってるんですから、お母さんの方にも挨拶して
おかいないと、失礼ですものね」
 神永健はそう言うと、ペコリと頭を下げて踵を返した。スタスタと足早に
歩いて行く。
(何だったんだろう)
 それにしても、兄がいるってどうして言ってくれてないんだろう。しかも、
まるで一人っ子のような口ぶりだった。何か言えないような事情があるのか?
ふとそう思った。


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