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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-10

2015.10.02  *Edit 

(殴られる)
 そう思って、両腕で顔を庇った。その途端、鳩尾に拳が入った。途端に気絶しそうな程の
痛みを覚えた。急に息苦しくなって、ゴホゴホと咳き込む。膝の力が抜ける。その拍子に、
衿首を掴まれた手が首に食い込み、呼吸困難になった。
「貴様、やめろ!その手を離せっ」
 山口の背後から男の声が聞えた。真田だった。
 真田は背後から山口の手を掴んで捩じ上げた。芹歌は息が楽になって思いきり呼吸を
したが、腹が痛くて力が入らない。
「なんだ、お前は。そっちこそ離せ!」
 山口が身を翻して、残った方の手で真田を殴ろうとした。
「やめてっ!」
 芹歌が止めに入ろうとしたら、蹴りあげられた。
「芹歌に何をする!!」
 真田が山口に殴りかかった。
「や、やめてぇ……。真田さんも……」
「何言ってるんだ。やらなきゃ、やられるだろうが」
 真田は倒れた山口に更に殴りかかる。
「だめ……。だって、手が。手が傷ついたら……」
 演奏家にとって、何より大事な手だ。万一、何かあったら取り返しがつかない。
「大丈夫だ。そんなヘマしやしない」
 山口は細い割にはしぶとかった。起きあがって体制を整えると、ポケットから刃物を
取り出した。
「ひっ……」
 思わず顔が引きつる。そんなものを持ってきているとは。
「ちょうどいい……。二人とも音楽なんかできなくしてやるよ。二度と舞台に立てない
ようにな」
 蛇のような目で見据えられて、芹歌は背中に寒気を感じた。
(この人は本気だ)
 芹歌はゴクリと唾を飲んだ。
 芹歌は這うようにして真田の傍へ行った。
「せ、先輩……」
「大丈夫だ。危ないからお前は下がってろ」
「でも……」
 山口が刃物を持った手を突き出してきた。真田はそれを身軽に交わす。だが山口は
執拗だった。交わされるなら狙うのも無駄と思ったのか、刃物を持った手を、
メチャクチャに振りまわした。真田はそれを避けながらも、目測を付けにくそうだ。
バランスを少し崩した所で、ナイフの先が太ももをかすった、痛みでそのまま転ぶ。
「あっ!」
 芹歌は急いで山口の足に飛びついた。
「やめて!」
 山口はバランスを崩してのけ反り、芹歌の上に倒れ込んで来た。ドスンと仰向けに
倒れる。芹歌は腰を打った。
「こいつ!」
 山口はすぐに反転して、芹歌にナイフを突き出してきた。それを真田が背後から
羽交い締めにした。
「やめろっ!離せ!」
 凄い勢いで暴れていた。
「いい加減にしろっ!」
 芹歌は早く誰かが助けに来てくれないかと思ったが、意に反して誰も来ない。
 山口は羽交い締めにされた腕を何度も上下させて、肘で真田の腕を攻撃している。
その度に、真田が苦悶の表情を浮かべた。このままでは、真田の腕がやられてしまう。
芹歌は起きようとしたが、それに気付いたように山口が蹴って来た。それが顎に入った。
「芹歌っ!」
 一瞬、力が抜けたのだろう。山口が羽交い締めからすっぽりと抜けて、そのまま芹歌に
ナイフを突き刺そうとした。真田がその間に入って、芹歌の上に覆いかぶさる。
(駄目!このままじゃ、先輩が刺されちゃう)
 芹歌は渾身の力を振り絞って、真田ごと横へ転がった。その瞬間、芹歌の左二の腕に
ナイフが掠った。
「あっつっ……」
「芹歌っ!!」
「こいつっ!」
 山口は尚もナイフを向けて来た。今度は真田の上になっている芹歌の背中に刺さり
そうになり、真田が横に転がって、素早く身を起こして山口の鳩尾めがけて拳を入れた。
だが、山口の突き出したナイフが太ももに刺さった。
「先輩っ!」
 山口が尻もちをついた時、「早く!こっちです、早く!」との声が聞え、ざわざわと
人が駆けつけてくる気配がした。パトカーのサイレンの音が聞こえる。警官達だった。
逃げた沙織が通報したらしい。山口は取り押さえられた。
「あ……、先輩……」
 真田が力無く片膝をつく様を見て、涙がこぼれて来た。
 真田は振り向くと、傷ついた足を引きずって芹歌の傍に来た。
「大丈夫か?腕を切られたな。血が出てる」
 目を剥いている。唇がわなないていた。
「大丈夫ですか?今、救急車を呼んでるからね」
 警官がそばへ寄って来た。
「芹歌!先輩!」
「沙織……」
 沙織は傷だらけの二人の姿を見て、口に手をやった。
「ごめんね、ごめんね、先に逃げ出しちゃって……。でもとにかく警察呼ばなきゃと
思って。なかなか来てくれないから、凄い焦って。ごめんね……」
 沙織が泣いて謝っている。
「ううん。警察呼んでくれて良かった。それに、沙織も無事で……」
 だが、真田に怪我を負わせてしまった……。
「先輩、ごめんなさい、私のせいで……」
 涙がとめどなくこぼれる。
「何言ってるんだっ」
「だって……。腕は?腕は大丈夫?指も……」
「俺は大丈夫だよ。それより、お前の腕の方が心配だ。ごめんな、守りきれなくて」
 芹歌は首を振る。
 傍にいた警官が、「もう二人とも喋らないように」と言った。芹歌の腕と真田の足を
止血しながら、これ以上興奮すると良くないから安静に、と注意する。
 そんな事を言われても、感情が涙と一緒に溢れて来る。そんな芹歌を、真田が優しく
抱きしめた。
「そんなに、泣くな……」
「だって……」
「なんでそんなに泣くんだよ」
「だって……」
 真田が芹歌の髪を撫でながら、「泣きたいのは俺の方なのに」とせつなげに言った。
「先輩……」
 芹歌は、泣きながらその胸に顔を埋めた。

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