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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-09

2015.09.30  *Edit 


 楽屋には、久美子と沙織が押し掛けて来た。
「おめでとう、芹歌!素晴らしかったわよ」
「ありがとう……」
 なんだか照れる。
「練習の時とは、全く違ったわね。練習も良かったけれど、本番の素晴らしさと言ったら
無かったわ」
 久美子の目が輝いていた。
「私もビックリした。学生の時も、二人のコンビは、凄くいいって思ってたけど、
何か今日は感動しちゃった。伴奏って侮れないわね」
 沙織も興奮している。
「それにしても、終わった時、真田さんに抱きしめられてたわね。あれにも驚いたわよ」
「そうそう、ほんとビックリ~。あんなの、初めてじゃない?」
「うん……。私もビックリした……」
 思い出すと頬が熱くなる。
「客席の一般ファンは凄かったわよ。キーキー言ってた。やめてぇーとか」
「え?そうなの?」
「そーそー。結構、長い時間だったもんね。『早く離れてー』とか叫んでたよね」
「あはは……。そうなんだ。私もちょっと恥ずかしくて、早く離れてーって思ってたけど」
「あら!」
 久美子が責めるような顔になった。
「なんて勿体ない事を言うのよ。私なら、ずっとこうしていてーって叫んでる」
「久美子、凄い度胸。ファンの子達から、カミソリとか送られてくるかもしれないのに」
 沙織の言葉に、芹歌は「ええ?」と怯んだ。
「何言ってるのよ。真田さんほどの男なんだから、そのくらいの覚悟はしてるわよ。
あー、それにしても凄く良かったな。あ、私、行って来ようかな、真田さんの所に」
 久美子は慌ててバックを掴むと、「じゃぁね」と出て行った。その慌ただしさに
沙織と二人、唖然とする。
「何あれ。全く久美子ったら、節操が無いわね。きっと、この後の事を狙ってるのよ」
 厭らしい物を見るような目つきになり、芹歌は胸がキュッと締め付けられるような
痛みを感じた。沙織は直接言葉には出してないが、そこには暗黙の了解がある。
 演奏後の真田の性癖だ。素晴らしい演奏をした後ほど、顕著な性癖。
「国芸で教えるようになってから、事務の人とか研究生の人とかを相手にしてるん
ですってね。そういう所は相変わらずよね、真田さん」
 ずっと、当たり前のように見過ごしてきた。所詮遊びだし、ああいう人には必要な
事なんだろうと。片倉だって同じような事をしている。何でも無い事だった。今までは。
 それなのに、何故今になって、胸が締め付けられるんだろう。この後、真田が久美子か、
または別の女性を抱くのかと思うだけで、体の中がザワザワしてきて気持ち悪さを覚える。
「芹歌、どうしたの?大丈夫」
 沙織に声を掛けられてハッとした。
「あ、ごめん。大丈夫って?」
「なんか、固まってるような顔してたから。疲れたのかな?」
「うん。さすがにね」
 芹歌は着替えて、帰る身支度を整えた。
「それにしても、このドレス素敵。色がいいわよね」
 シルクサテンの光沢があって、沙織が言う通り素敵だ。舞台の上は夢だ。その夢を
飾るのに相応しい装いだったと思う。夢を見させてくれた真田には感謝だ。
 持ってきた衣装と2着分になってしまった為、結構荷物が大きくなった。
沙織が「疲れてるだろうから、持ってあげる」と言って、衣装ケースを持ってくれた。
有難い。
「この後、打ち上げとか無いの?」
 言われて気付いた。そう言えば、そんな話、まるで聞いていなかった。
 楽屋口まで行くと、真田が何人かに囲まれていた。その中に、久美子や須山、
大田もいた。芹歌はそんな真田に一瞥くれると、外へ出た。
「いいの?声かけなくて」
「うん……」
 何となく躊躇われた。それに、彼女達と一緒の所を見たくない。
 一歩外へ出ると、寒かった。思いの外、冷え込んでいるようだ。裏口のせいか、
人も殆どおらず閑散としている。本当に、さっきまでの出来事は夢だったと思えてくる。
いつまでも夢の世界で生きるわけにもいかない。現実に戻らなければ。
「これから、どうする?久しぶりだし、一緒にご飯食べたいな」
「うん。そうだね。でも一端帰って荷物を置きたいかも。邪魔じゃない?」
「そうだね」
 疲れたから、外に出たらタクシーでも呼ぼうかなと考えながら歩いていたら、
「浅葱さん!」と自分を呼ぶ声が聞えた。男の声だ。振り返って驚いた。
山口岳が立っていた。
「山口さん……」
「知ってる人?」沙織が囁くように訊ねたので、頷いた。
「合唱団の、指揮者……」
「え?どうして?辞めたんじゃなかったの?」
「辞めたわよ」
 そうやり取りしている間に、山口はすぐそばまでやってきた。
「あの……、山口さん。お久しぶりですね」
 とりあえず、そう言う。だが、山口はそれには答えなかった。
「浅葱さん。酷いじゃないですか」
 眼鏡の奥の目が、いやに鋭い。沙織は怯えたように芹歌の後ろに隠れた。
「あの、酷いって、どう言う事ですか?」
「合唱団の事ですよ。あなたのお陰で滅茶苦茶だ」
 投げ捨てるような言い方だ。
「はぁ?おっしゃってる意味がよく分からないんですけど」
「はっ!とぼけてもらっちゃ、困ります。あなたが辞めてから、団はボロボロだ。
そもそも、人がどんどん抜けてって、まるで歯が折れた櫛のようになってしまった」
 この人は、一体何を言ってるんだ。芹歌のせいだと言いたいのか。
「理事長が、あなたに戻って来て欲しいと頼んだそうですね。でもあなたは断った。
まぁ、私とやりあったから頭を下げて戻りたく無かったんでしょうが、だからって
酷いじゃないですか。残ってる団員をそそのかして辞めさせるなんて」
「山口さん。変な事を言わないで下さい。私、そそのかすなんてしてませんよ」
「ほぉ。でも、団員達は、あなたのピアノじゃなきゃ嫌だと言って、辞めていったん
ですよ。僕の指揮じゃなく、あなたのピアノじゃないと歌えないって。どういう事
ですかね、これは。全く持って理解しがたい」
 芹歌に隠れるようにしていた沙織が、「あなたの指導に問題があるからじゃない!」
と叫んだ。芹歌は手をあげて、沙織をけん制したが、山口の顔がヒクヒクと痙攣した。
「そういう風に、あちこちに吹聴されてたんですね。これではっきりした。僕は3月で
お払い箱だそうです。新年度は更新しない意向だと言われました。それも、あなたの
差し金でしょう。僕がいなくなったら、あなたは大手を振って戻ってくるんでしょうね。
クリスマスの公演も中止になりましたよ。人数が減り過ぎてできなくなってしまった。
みんな、あなたのせいだ……」
 山口が、下から睨めつけるように芹歌を見た。陰鬱な目をしている。恨みがこもって
いるのを感じた。その目つきのまま、ジリジリと迫って来る。
「え?何?やだ?」
 背後で沙織が震えた。芹歌も足が震えてくるのを感じた。このまま後ろを向いて
走りだしたい気持ちに襲われたが、後ろを向いたと同時に背後から襲われそうな
気がして怖かった。
「山口さん。落ち着いて下さい。私、団に戻る気は全くありませんから」
 山口は薄笑いを浮かべた。不気味な笑いだ。
「そんな事、もう僕には関係ない。ただ、あなたが目ざわりなだけだ。たかが伴奏の
癖に、出しゃばりやがって……」
 沙織が突然、芹歌から離れて逃げ出した。山口がそれを止めようとしたので、
芹歌は山口の服を掴んだ。その拍子に、山口の腕が飛んできて、芹歌を突き飛ばした。
「きゃっ!」
 バランスを崩して尻もちをつく。そんな芹歌を山口が仁王立ちになって見おろしてきた。
「思い知らせてやるっ。二度と舞台に立てないように」
 山口が芹歌の髪を掴んで引っ張った。
「いやっ!やめて!!」
(痛いっ!)
 髪を掴んだまま引きずられそうになって、相手の手を両手で掴んだ。
「離せっ、こらぁっ!!」
 山口は腕を上下させた。痛くてたまらない。
「やめて!」
 山口が急に、手を離したので芹歌は地面に崩れ落ちた。だが、すぐに衿首を掴まれた。
「お前のせいで、俺の評判は地に落ちた。どうしてくれるんだ!お前のせいで!」
 山口が拳を挙げた。

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~ Comment ~

Re: うっわぁ~>千菊丸さま。 

千菊丸さん♪

山口さん、ほんと困った人ですよね。
こういう人、時々いますよね。遭遇したくないってか、
関わりたく無いですけど……。

芹歌、大丈夫でしょうかね???>作者が言うのもオカシイけど(^_^;)

うっわぁ~ 

山口さん、逆恨みもいいところ!
自分が作曲した変てこりん合唱曲の所為で団員達が離れていったのに、それを芹歌の所為にするなんて・・どうしようもない男ですね。
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