ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第19章 銀木犀 第1回

2010.04.21  *Edit 

 理子は翌週の、日曜日も病院へ行った。
 これまでは、学校へ行けば必ず増山の顔を見る事ができたのに、
それが無くなって平日は寂しい限りだった。イベントも終わって
受験色が濃くなった事もあり、まさに灰色の学校生活と言った感じだ。
そんな中で、日曜日だけが唯一、心が潤う一日だった。
 1週間ぶりに会うと、増山の体が着実に回復しているのがよくわかる。
肋骨の方も大分良くなったようで、息をするのが楽になったようだ。
一番時間がかかりそうなのが足で、治ってからもリハビリが必要な為、
病院へ通わねばならない。本人は、体がなまってしょうがないと
こぼしている。肋骨が良くなったので、一人で起き上がることは
できるようになったが、動くのにはまだ人の手助けが必要だった。
 「今日のお土産は?」
 顔を合わせた第一声がこれだった。なんだか、子供みたいだ。
理子はそんな増山に笑顔を向けた。
 「さて。今日のお土産は何でしょう?」
 「君はいつもそうやって、勿体つけるよな」
 「だって、まるで餌を欲しがる犬みたいなんですもの。お預けを
したくなるじゃないですか」
 「犬はひどいなぁ」
 「でも、初めてここへ来た日の帰りに、お義姉さんもおっしゃって
ましたよ。まるで犬みたいに従順になったって」 
 「姉貴のヤツ・・・」
 「まぁ、まぁ、そんな怖い顔をしないで。感じる事はみんな
一緒って事ですよ。こんな体なんで、お回りは無理でしょうから、
お手をしたら、お土産を出してあげましょうか」
 理子の言葉に増山は目を剥き、そして、睨んだ。
 「ちょっと、悪乗りが過ぎないかぁ・・・?」
 かなり低い声で、唸るようにそう言った。
 「嫌なら、別に構いません。受験生だというのに、
わざわざ貴重な時間を割いて作ってきたんですけど。
残念ですね。家で家族と食べますね」
 「もしかして君、毎週こうやって俺をおちょくる気?」
 「あら、おちょくるなんて。私は至って真面目なんですけど」
 理子は笑顔でそう言う。
 「わかったよ・・・。やるよ」
 増山は小さな声で呟くように言った。
 その言葉を聞いた理子は、増山のそばに座ると、増山を抱きしめた。
額と額をくっつけて言う。
 「可愛い人。私が貴方に、本気でそんな事をさせるわけがないじゃない」
 「いいよ。するよ。・・・君が望むなら、なんでも・・・する」
 二人は熱い口づけを交わした。
 唇を離した後、増山が「さぁ・・・」と、催促した。甘い顔をしている。
「やぁね。もう、いいから。先生があまりにも可愛いから、ついからかった
だけよ。大好きな人に、そんな事をさせられるわけが無いじゃない」
 「本当に、いいの?」
 「当たり前でしょ。さぁ、お楽しみのお土産ですよ」
 理子はそう言うと、カバンの中から箱を出して蓋を開けた。
中には小さなどら焼きが入っていた。
 「おおっ!」
 と、増山は嬉しそうに感嘆の声を上げた。
 「今、ちょっと食べたいな。1個だけ、駄目かな」
 「どうぞ。1個だけね。あとは3時のお茶の時に」
 増山は嬉々とした表情で、箱の中からミニどら焼きを手に取ると、
口へと運んだ。小さいので一口で入る。モグモグしながら、
「美味い」と言った。
 週に1度だけの逢瀬だが、増山のこんな姿を見れるのが
理子には嬉しかった。
 「これって、もしかして餡も自分で?」
 「そうですよ。市販のものだと甘過ぎるし、いまいち口に合わなくて。
別に小豆を煮るのにたいした手間なんてかからないですしね」
 「凄い!」
 「どら焼きは、餡を漉さなくていいから楽で助かります。
こし餡だとちょっと、手間がかかるかな」
 「だけど、日曜のたびに朝からおやつを作って出てくるのに、
お母さんは変に思って無いか?」
 「そうですよね。一応、家族の分も置いて出てくるんですけど、
不思議に思ってるんじゃないのかな」 
 「大丈夫か?」
 「大丈夫じゃないですか。気分転換と言う事で。やらなくなっても、
それはそれで、面倒になったんだろうって思うだろうし。私、
気まぐれな所があるので、きっと今回もそうなんだろうって
思ってくれるんじゃないでしょうか」
 「理子って、そういう所は大らかと言うか、呑気だよな」
 「そうですね。この前も話しましたけど、私って生来は呑気者なんです」
 「もう一個、食べてもいいかな・・・」
 「止めといた方がいいですよ。あと2時間で昼食ですし。後のお楽しみと
言う事で。それに、あまり動かないのに食べてばかりいたら、太りますよ」
 「それは、心配してるんだ。確実に筋肉は落ちてるみたいだし。
一応これでも平日は間食をしないようにしてるんだぜ」
 そう話している時に、ノックと共に看護師が入って来た。
 「トイレ、大丈夫ですかぁ~?」
 二人の様子を窺うような表情だった。前回に来た時の看護師とは
違っていた。若い看護師である。理子と目が合い、驚愕の表情を浮かべた。
 「あらっ?もしかして、理子ちゃん?」
 「えっ?あっ・・・佐野先輩?」
 佐野先輩は理子の中学の時の合唱部の2つ上の先輩である。
背が高く、丸顔で目が大きく、明るく朗らかで誰にも優しい人だったので、
憧れの先輩だった。
 「あら~、奇遇だね」
 「先輩こそ、どうしてここに?看護師さんになったんですか?」
 「まだなの。まだ見習い。実習でここの病院に来てるの」
 理子は驚いた。佐野先輩が看護師を目指していたとは。
 「そうだったんですか。すごくビックリしました。ここにいるのも、
看護師さんを目指しているのも」
 「そうだよねー。あっ、でも、佐和ちゃんから聞いてない?
実習先で会った事があるんだよ」
 中学の3年間同じクラスだった、近所の仲良しの佐和子の
事である。佐和子は看護学科のある私立の高校に通っていて、
頻繁に現場へ実習に出ていた。
 「いえ、聞いてないです。最近、会って無いし・・・」
 佐和子は実習で何かと忙しく、ここ最近は全く会っていなかった。
この間、増山の事でメールしたのはかなり久しぶりの事だった。
 「そうなんだ。でも、元気そうだね」
 「先輩こそ」
 「ところで、その、理子ちゃんがどうしてここに?
もしかして、親戚とか?」
 理子は戸惑い、増山の方を見た。
 「先週の日曜日も来てたんだってね。今週も来たから、
ナース達が噂してるの。一体、どういう関係なんだろう、って。
それで、実習生の私が偵察を申し渡されて・・・・」
 すまなそうに言う。
 「先輩は、いつからここに?」
 「月曜からなの。来週の日曜日で終わり」
 「じゃぁ、来週も会えますね」
 「理子ちゃんは、日曜日だけ来るの?」
 「はい。平日は学校があるし。土曜は用事があるので」
 「看護師さんって・・・」
 と、二人の話しの間に増山が割って入って来た。
 「患者さんの噂とか、絶えないの?」
 「その、噂って言うか、患者さんの話しは結構します。ただ、
内容は患者さんによって違うんです。その、増山さんは素敵な
人だから、やっぱり、女性の多い職場ですから皆気になるみたいで」
 その言葉には納得である。どこへ行っても女性から熱い視線を浴びる。
男性の少ない職場の場合、数少ない男性の争奪戦になる事が多い。
ナースの場合、ドクターだが、患者もその中に含まれる。ナースと
患者がカップルになることも珍しく無い。そういう所へ、増山の
ような男が入院してくれば、目の色が変わるのも当然だろう。
 「佐野さん・・・、でしたよね?」
 「はい」
 「あなたは、僕達の関係をどう思います?どういう風に見えますか」
 「私は先週はいなかったので、よくわかりません。二人が一緒の所を
見るのも今が初めてですし。先週いた看護師さん達が言うには、
午前中から来てて、お昼のお世話をして夕方帰っていったって。
妹さんかと尋ねたら否定したけど、じゃぁ、どういう関係なんだろうって
気になったそうで。女の子が、男性の病室で朝から夕方までずっと
いるなんて、不思議だって」
 そう言えばあの日も、頻繁に看護師が様子を見に来ていた。
ちょっと頻繁過ぎないかと思ったが、そういう理由からだったのか。
 「親戚なんですよ。日曜くらいは、家族の方達を休ませてあげたいと
思って、私が来てるの。昔からカッコイイお兄ちゃんで憧れてたから。
・・・って言ったら、信じて貰えるのかな」
 理子が笑顔でそう言った。増山は苦笑する。
 「まぁ、いいさ。いいじゃないか、本当の事を言ったって」
 増山の言葉に、理子は驚いた。
 「いいんですか?」
 「どうせ、誰も来ないんだし。熊田先生が土曜日に来るだけだ。万
が一、熊田先生の耳に入ったところで、その時はその時だよ。
あの先生なら信用できる。口も堅いし」
 熊田先生は理子が一年の時の担任だ。確かに、増山が言う通り、
信用できる先生だと理子も思う。
 二人の会話を前に、佐野は戸惑いの表情を浮かべていた。
 「実は僕達、付き合ってるんですよ。恋人同士なんです」
 「えっ?増山さんって、理子の彼氏なんですか?」
 佐野は目を丸くして言った。
 「そうなんです。だからこうして毎週、日曜日に来てもらって
るんです。僕が寂しくて。だから家族も僕達に遠慮して夕方まで
来ないんですよ」
 佐野は驚きのあまり、言葉が出ないといった風情だった。
 「あ、あの、それを他の看護師たちにも話していいって
事なんですよね?」
 佐野は慌てたように言った。
 「はい。気になって頻繁に様子を見に来られるのなら、いっそ、
ちゃんと知ってもらっておいた方が、看護師さん達も安心でしょう」
 増山に笑顔で言われて、佐野は赤くなった。
 「理子ちゃんって、確か私より2こ下だったよね・・・?」
 理子は頷く。
 「じゃぁ、まだ高校生なんだよね。3年生か。それで、
こんな素敵な大人の男性と交際してるんだ」
 「うん。いつも、妹?って聞かれちゃうんだけどね」
 「そっかぁ・・・。増山さん、すみません。わざわざ
プライベートの事を詮索しちゃって」
 「いや、いいですよ。まだ暫くはお世話になるんだし。
他の看護師さん達によろしく言っておいて下さい」
 「わかりました。じゃぁ、とりあえずこれで失礼します。
また、昼食の時に伺いますね」
 佐野はそう言うと、理子に手を振って出て行った。
 「先生。本当に良かったんですか?」
 理子は心配になって、増山に問うた。
 「俺もう、隠してるのに疲れた・・・」
 本当に疲れたように言う。
 「そんなぁ・・・」
 「ここは学校から離れた病院なんだし、俺達が同じ学校の担任と
教え子だと知る人もいないんだし。だから、いいじゃないか。
恋人同士だって事くらい知られても。幾ら親戚の憧れのお兄ちゃんで
あっても、朝から夕方まで若い女の子が男の病室にいるのは不自然だよ。
関係を疑われて、変な噂でも立った方が困るだろう?」
 「それはそうかもしれませんが・・・」
 「こんな時で無いと、俺は君に甘えられない。恋人同士なんだから、
べたべたしてて当たり前だろう?コソコソしないで済むんだよ。
疲れる事はしたくないんだ。療養中だしな」
 「わかりました。先生がそうおっしゃるなら。・・・と言っても、
既に話しちゃった後だから、どうにもできませんけどね」
 「良かった。君は度胸がいいから、こういう時、助かるよ」
 「どういう意味ですか?度胸がいいって」
 「済んでしまった事を、あれこれいつまでも気にしないって事さ。
後は野となれ山となれって感じだろう。なったらなったで、しょうがない。
その時はその時って、割り切りがいい」
 「あの、そうおっしゃいますけど、私だって、結構、後々まで
気にしますよ?割り切れない事、多いですけど・・・」
 「まぁ人間だから、そういう時もあるさ。でも、概(おおむ)ね、
サバサバしてるじゃないか」
 増山に笑顔でそう言われて、理子も返す言葉が見つからない。
自分じゃ案外、わからないものだ。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。