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小説・目覚めのセレナーデ
第三章・冬は峻烈


目覚めのセレナーデ 3-02

2015.09.18  *Edit 


「なんて無様なんだ」
 見舞いに来た片倉の第一声がそれだ。
「悪かったな。それよりお前、仕事は大丈夫なのか?」
「人の心配より、自分の心配したらどう?大丈夫だから来てるんだろうが」
「それもそうだな」
 陽気な片倉には、いつも笑いを誘われる。
「いちごを持ってきたよ。高級だから甘いよ。……あれ?可愛い花だね」
「ああ……。それは、芹歌が持ってきてくれたんだ。笑えるぞ、花瓶ごとだ」
「へぇ~。そうなんだ。そう言えば、彼女とのレッスン中に倒れたんだってね。
救急車も一緒に乗って来たそうじゃないか。大変だっただろうね、彼女も」
「迷惑をかけてしまったよ」
 全くの不本意だ。
「そうだね。予兆は無かったの?」
「そうだな。たまに痛いと感じてはいたが、そのくらい誰にでもある事だと思ってた」
「はぁ~~っ」
 片倉は呆れたように、大きな息を吐いた。
「何て言うか、君がここまで愚かだとは思って無かったよ。頭のいい人間ほど、
肝心な所ではアホなんだよな」
 真田は憮然とする。なんでそうまで言われなきゃならないんだ。
「幸也さぁ。なんで帰国したんだよ。何の為に帰って来たんだよ」
 珍しく片倉の顔が笑っていない。一番訊かれたくない事だった。片倉はそう察して
いたから今まで訊かずにいてくれた。ドイツを去る時にも訊かれたし、帰国後も何度も
色んな人間から訊かれた。その度にお茶を濁すような事しか言って来なかった。
「やっと訊いてくれたな」
 訊かれたく無かった癖に、一方でコイツには訊いて欲しい気持ちもあったようだ。
「馬鹿言うな。訊くなと無言で訴えてたじゃないか」
 やっぱり、察してくれていた。真田の頬に軽く笑みが浮かぶ。
「俺、お前といるとさ。自分はもしかしてゲイかもしれないって思うんだよな」
「はぁ?何言ってるんだよ、こんな時に。馬鹿ユキ。いい加減にしないと怒るよ」
「いやだって。まるで長年連れ添った妻みたいに、よく察してくれるし、笑わせて
くれるし、何より居心地がいいもんだからさ。これは愛なのかもしれない、なんて
思ったりするんだよ。それにお前、俺に逢うと、すっごく嬉しそうな顔してくれるしな」
 片倉は珍獣でも見るような目つきで、「ホント手に負えない……」と嘆かわしい
ような声を出した。
「女なんて、面倒くさいばかりだ。所詮、女と男は別の生き物。互いに理解なんて
出来ないのさ。同性愛者ではないが、同性しか愛せない気持ち、最近分かる気が
してきたんだよ」
 本当にそう思う。
「バイの場合はさ。生殖本能は女で満たし、精神的に本当に愛するのは男なんだと思う。
俺は、もしかしたら、そっちなのかもしれない」
「やめてくれよ。変な事を言うなよ。正直に言えば、俺だって君を愛してるよ。
人として、芸術家として、男としても。でも、同性愛とか、その類でない事は確かだ。
ユキさぁ。何か血迷ってないか?もっと自分の心の奥をよく見つめた方がいい。
何の為に帰国したのか。何を求めているのか」
 片倉の真剣な顔に、真田は唇を噛んだ。
「よく見つめたさ。その結果が、これだよ。見つめ過ぎて、考え過ぎて、胸が痛くなって、
後悔して、でもって、本当に胃がやられてしまった……」
 真田は芹歌が持ってきた花に目をやる。そこに芹歌がいるようで、心が僅かに
癒される気がした。学内コンサート、ちゃんと出来るだろうか。ろくに練習できずに
来たのに。
「芹歌ちゃん、昨日今日と森田さんのリサイタルだよ」
「そうか」
 男性のバイオリニストだ。少し心が痛む。一昨日見舞いに来た時に、毎日来ると
言っていたのに、昨日は来なかったし、今日も来ていない。この時期は忙しいから
仕事があるんだろうと思っていたが、案の定だ。それなら、毎日来るなんて言わなきゃ
いいのに、妙な屁理屈を並べていたなと、呆れる。彼女は昔から、そういう変わった
所があった。要するに素直じゃないんだ。
「君、昔はさ。彼女が他の男と組むと烈火の如く怒ってたじゃない。それなのに
今はそんな事は無いんだってね」
 真田は鼻で嗤った。
「そんな事、例えしたくてもできないよ。彼女は仕事でやってるんだ。それを妨害
するような真似はできない。プロとして当然じゃないか」
「まぁ、確かにね。でも僕、彼女と何度か組んだ時、幸也の気持ちが少し分かった気がしたよ」
「どういう意味だ?」
「演奏終了後に、彼女を抱きたくなった」
「おい!」
 思わず怒りが湧いて来て、身を乗り出した。
「きっと、森田さんも同じだと思うよ」
 拳に力が入る。顔が怒りに燃えてる気がした。
「まさか、お前……」
 片倉は笑った。
「やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ。芹歌ちゃんは幸也のものだ。手は出せないよ。
多分、業界内の多くが同じように思ってるだろうから、芹歌ちゃんは安全だよ」
 真田の拳の力が緩んだ。だが、まだ怒りが納まらない。
「ユキ……。やっと本心が出たよ。分かってる?今の自分を」
 真田は驚いて片倉を見た。
「人は案外、自分の事ほど分からないものなんだね。事あるごとに『俺の芹歌』と言って
おきながら、8年近くも離れたままで、いい加減、我慢できなくなって帰って
きたんだろう?彼女と離れている事でスランプが深刻化してきた。そこから脱したくて、
彼女を求めて帰ってきた。それなのに、やってる事は行く前と同じ事。そんな事を
してるから、他の男に取られちゃうんだよ」
 手が震えた。
「業界の連中はね。凡そを察してるせいか、芹歌ちゃんに手を出すヤツはいない。
彼女も音楽にしか興味無くて異性がつけ入る隙も全然無いしね。だけど、思わぬ所に
伏兵がいたね」
 片倉が言っているのは、神永の事だろう。
「学内コンサートの練習。惨憺たる内容らしいじゃない。久美ちゃんから聞いたよ。
そこでちゃんとやっていれば、きっと芹歌ちゃんの気持ちもガッチリ掴めて、
こんな事にはなっていなかったんだろうに」
「こんな事って?」
 声に力が入らない。
「あの、神永君に取られるって事だよ。君が彼女とのセッションで感じているのと
同じ物を、彼女も感じてるんだよ。二人でしか紡ぎだせない感覚を十分知っている。
だから、やればやる程、君とは離れらなくなる。それなのに君ったら、墓穴掘るような
事ばっかりだ。だから、馬鹿ユキって言ったのさ。彼女の状況をよく理解してないだろう。
彼女自身も限界に来てたんだ。お母さんの事で。支えを欲してた」
 言われて思い出した。最初に真田のレッスン室に来た時の芹歌の様子を。支えないと
崩れてしまいそうな脆さを感じた。雰囲気も変わり、苦労したんだなと思ったのだった。
その事を、もっと汲んでやるべきだったのか。自分の事しか見えて無かった。
昔からそうだ。だからこうやって後悔するハメになるんだ。
「どうする、幸也……」
 厳しい目で問いかけられた。
「わからない……。だが今は、学内コンサートに全力を注ぐ。それしかない」
 そうだ。今は何より、そこへ集中するしかない。

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