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小説・目覚めのセレナーデ
第二章・秋は戯れ


目覚めのセレナーデ 2-21

2015.09.02  *Edit 


 あんな事を言い出したのは、神永が原因なんだろうか。実花は明らかに、
真田じゃなく神永の方が良いようだ。
 キッチンに入ると、ちょうど片づけが終わった所だった。
「休まれましたか?」
 温かな笑顔だ。こちらの迷惑なんて眼中にないのか。なんだか苛ついた。
「神永君。色々やってもらって悪いんだけど、もう帰って貰えないかな?」
 神永のエプロンをたたんでいる手の動きが遅くなった。目を伏せた顔が少し
強張っている。
「すみません。いつまでも……。芹歌さんのお役に立ちたかったものですから。
それと、少し話があって」
「話し?」
 何なのだろう。母の前では話せない話しと言うことなのだろうか。
「分かった。どんな話しなの?」
 芹歌はとりあえず、目の前の椅子に座った。神永も芹歌の近くの椅子に座った。
「あの……、昼間の話しなんですが」
「昼間の話し?」
「お母さんが言っていた事です」
 芹歌は内心ドキリとしたが、素知らぬ風を装った。
「なんだったかしらね……」
 神永は意を決したように、芹歌を真っ直ぐに見て「婿養子の件です」と言った。
あまりの直截的な物言いに、芹歌は目を剥く。
「まさか、本気で受け取って無いわよね?」
「じゃぁ芹歌さんは、お母さんが冗談でおっしゃったって言うんですか」
「な、何言ってるのよ。本気じゃないに決まってるじゃない。あなたまさか、婿養子に
なりたいとかって言い出すんじゃないでしょうね?」
 顔も口調もきつくなる。とんでもない話しだ。
「あ、いえ。そうじゃないんです。そうじゃないんですけど、何て言ったらいいのかな。
浅葱さんの事、お母さんだったらいいなって思ってるので、あんな風に言われて、
凄く嬉しかったんです。早くに親を亡くしてるから、ここで過ごす時間が楽しくて、
だからついご好意に甘えてしまって。芹歌さんにとっては迷惑なのかもしれないけど、
僕、役に立ててるとは思うんです。だから……」
「役に立ってるって言うか、凄く助かってる。神永君には感謝してる。最初はビックリ
したけどね。ただね。婿養子になんて、母が言い出すとは思ってなかった。あまりに、
唐突でしょう?いくら神永君の事が気に入ってるからって。寂しいから、傍にいて
欲しいんだとは思うのよ。ずっと傍にいてもらいたいが為に思いついたんじゃないかな。
だけど、勝手じゃない?人の気も知らないで」
「芹歌さんにとっては、迷惑な話なんですか?」
 悲しそうな目で見つめられた。そんな顔をされたら、肯定できないじゃないか。
「僕は……。正直、嬉しかったです。勿論、あまりに唐突な話しだからビックリ
しましたけどね。それほど気に入って貰えてるんだって。肉親の愛情を知らずに育ったから、
尚更なんです。ずっと愛されてきた芹歌さんには、分かって貰えないでしょうけど」
 神永の背後に見えるシンク回りが小ざっぱりしている。水気もきちんと拭き取って
あるようで、彼の几帳面さが窺える。きっと子どもの頃から、全て自分でやって
きたのだろう。そうして、大人になってからは介護の仕事につき、人の役に立ってきた。
寂しさがそうさせるのだろうか?人の役に立つ事で満たされない心を埋めようと
しているのか。もしそうであるならば、こんな所で一銭の得にもならない事をするより、
仕事でした方が良いんじゃないのか。
「神永君。いきなりだけど、どうして転職したの?」
「え?それこそ、どうしていきなりそんな事を訊くんですか?」
 全く無関係な話題を持ち出されたと思ったようだ。訝しげな顔をしている。
「うん……。人の役に立ちたいと思ってるなら、そういう仕事をしてたのに、どうして
転職したのかな、って思ったんだけど」
「ああ……。そういう事ですか」
 目を逸らして力無く肩を落とした。僅かに苦痛の色が滲んでいる。言いたく無い事を
訊いてしまったか。
「確かに、人の役に立つ仕事がしたくて、福祉を学んで介護の仕事をしてました。
転職したのは、……職場で色々トラブルがあって、もう無理だ、やっていけないって
限界を感じたからです。精神的に一杯一杯になってしまったんです。だけど、
ここでの事は、単に人の役に立ちたいって気持ちじゃなくて、芹歌さんの役に
立ちたかったからです。それで、お母さんにあんな風に言われて、余計に嬉しくなって、
浮かれてしまって。すみませんでした。芹歌さんの迷惑も考えずに、僕一人で勝手に……」
 神永は唐突に立ち上がると、「失礼しました」と一礼した。
「え?ちょっと……」
 無愛想な顔でカバンを持って出て行こうとしている神永の後を慌てて追った。
「ちょっと神永君。どうしたのよ、急に」
「さっき、もう帰って欲しいって言ったじゃないですか。だから帰ります」
 話しがしたいと言い出したのは、そっちじゃないか。それとも、話しはこれで
終わりと言う事なのか。なんだか急な態度の豹変に芹歌は戸惑った。そんな芹歌の
戸惑いなどお構い無く、神永は靴を履くと、振り返りもせずに出て行ったのだった。

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