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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第18章 玉虫色 第6回

2010.04.20  *Edit 

 「あら?もう帰えられたんですか?」
 戻って来た理子がそう言った。
 「うん。ごめんな。一人で食事に行かせて」
 「いえ、全然。だって、どうせ私しかいないし・・・」
 理子はベッドのそばの椅子に腰かけた。
 「楽しかったですか?」
 「ああ。色々話せて楽しかったよ」
 「良かったですね」
 増山が本当に楽しそうな顔をしているので、理子は安心した。
友人の古川は、本当に面白い人だ。あの人には、増山も何でも話せるようだ。
 増山にとって初めての女性だと言う、彰子を紹介された時には、
さすがの理子も驚いた。確かに話しには聞いてはいたが、まさかここへ
現われて紹介されるとは思ってもいなかった。増山は、彼女には好意を
持ってはいたが、結局愛せなかったと以前言っていた。確かに、増山の
苦手な華美な雰囲気の女性とは違って、知的で地味な感じだった。
 「理子は、彼らと会って、緊張した?」
 「そうですね。突然だったので。でも日曜日だから、こういう事も
あるんでしょうね」
 「彰子の事、どう思った?」
 増山の目を見て、少し不安げな感じがするのは気のせいだろうか。
 「どうって言われても・・・。先生があんな風に紹介されるから、
どう対応したらいいのか困りました」
 「そうか。でも君は、顔色一つ変えずに、余裕かましてたじゃないか」
 「余裕って・・・。じゃぁ、違う態度の方が良かったですか?
もっとビックリすれば良かったんでしょうか?」
 「普通の女の子なら、ビックリしたり恥ずかしがったりするんじゃないのか?」
 「すみません。普通の女の子じゃなくて」
 「いや、いいさ。それより、どう思った?彼女の事」
 「いやに気にされますね。どんな答えを先生は期待されてるんでしょうね」
 「期待なんかしてないよ。君がどう思ったのかを知りたいだけだ。
いちいち絡まないで教えてくれないか」
 「難しい質問をされるからです。知的な感じの人ですよね。でも、
どこか寂しそうな印象を受けました」
 「寂しそうか。確かにな。それで、やっぱり全然、嫉妬は
しなかったのか?」
 「期待してないとか言いながら、やっぱり、そういう答えを期待
されてるんじゃないですか」
 理子は軽く、増山を睨んだ。
 「だから、期待なんてしてないって。ちょっと聞いてみただけだよ。
それで、他には?」
 「あの人は、まだ先生の事が好きなのかな。私に嫉妬してるのが伝わって
きました。優しい、いい人のようだから、ちょっと申し訳ないような
気持ちになりました」
 「そうか。やっぱり君は敏感だな」
 増山は溜息を吐くように、そう言った。
 「先生も酷な事をされますよね。先生だって、感じてたんでしょう?
なのに、随分とあけすけに色々とおっしゃってましたよね」
 「いいのさ、あれで。彰子も頭のいい、敏感な女だ。俺の真意を
汲み取ってくれてると思う」
 それはそうかもしれない。だが、同じ女性として、その心を思うと
胸が痛い。見込みが無い事をはっきりと示された時の心の痛みは、
理子も経験しているからよくわかる。
 「ところで、話が変わるんだが・・・」
 「はい。何でしょう?」
 「石坂先生の事なんだ」
 その言葉に、理子はドキリとした。
 「どうかしましたか?」
 「あれから、どう?何か、言われた?」
 増山は心配そうに訊ねて来た。
 「この間、私がここへ来た日に言われました」
 「何て」
 「私に対して、興味の段階を越えて、ひとつの想いになって
しまっている、って」
 「何だって?職員室でか?」
 「はい」
 「そもそも、何でそんな話しになったんだ」
 「文化祭の合唱のソロの話しからですよ。あの時、校長の握手が
きっかけで、みんなが握手を求めてきたじゃないですか。あの話しに
なって、あの時は僕もしたかったのに出来なくて残念だったって」
 「何で、そんな事を言い出すんだ。本気なのか」
 「本気みたいですよ。私が自分との事を考えてくれるのなら、
妻とは別居するっておっしゃいました」
 理子の言葉に、増山の顔は蒼白になった。
 「頭が、変になったんじゃないのか?あの先生は」
 「私も、同じように思いました。どうしてそこまで考えるように
なるのか不思議です。しかも、職員室ですよ。あの時の職員室は、
先生の事で女生徒達が大勢詰めかけていたので、騒然としてたんです。
諸星先生も校長室でしたし。だから、誰も私達の事に気付かない状態だったんですよね」
増山が戦慄きながら言った。 
 「それで君は、どうしたの?」
 理子は笑って言った。
 「畏れるに足りません。しっかり撃退しておきましたから、
大丈夫ですよ、心配されなくても」
 「どういう意味だい?」
 「あの先生は、結局のところ臆病者です。少しずつ小出しにしながら、
私の気を引こうとするけど、行動には絶対に移せない。相手の気持ちや
覚悟を確認してからでないと駄目なんですよ。まぁ、そういう人で
良かったですけどね。渕田君みたいに直接行動に出て来られたら大迷惑だし。
だから、しっかり引導を渡しておきましたから。最後には『君には数学以外
では勝てないみたいだね』ですって。情けない人ですよね。笑っちゃいます」
 増山は理子の話しに唖然とした。『数学以外では勝てない』か。
その言葉は、それだけ理子を思っている事の証しじゃないか。
理子に惚れた人間は、結局は、みんなそうやって、理子には勝てなくなるのだ。
まさに惚れた弱みだ。それなのに理子は、石坂を『情けない人』呼ばわりだ。
増山は石坂に同情した。
 「どうしたんですか?心配ないですよ?まさかまた、焼きもち?」
 「いや・・・。君の言葉を聞いて安心した。だが、君の言い様(よう)を聞いて、
なんだか石坂先生が可哀そうになってきちゃってね」
 「あら。先生にしては、珍しい事をおっしゃるんですね」
 理子は、ここまで言えば、増山も嫉妬したりしないだろうと踏んで
言ったのだった。どうやら功を奏したらしい。
 「同じ男として、同情したのさ。それだけだよ」
 「先生。私、もしかして石坂先生は、奥さんと上手くいってないの
かしらと思ってお訊きしたんです。そうしたら、上手く言ってるって。
愛情はこれまでと変わらないのに、そこに君が入り込んできたって。
不思議に思いました。奥さんを愛しているのに、そこへ他の女性が
入り込んでくるって、どういう事?って。石坂先生がおっしゃるには、
多分、奥さんが全てでは無いからなんだろうって。結婚された時から
全てでは無かったそうです。この人となら穏やかな家庭を築いて
いけると思って一緒になったんだそうです。だから、時々心が寄り道を
してしまうって・・・。結婚の形って、人それぞれだとは思いますけど、
その話しを聞いて、私はちょっと悲しくなりました」
 「そうか。まぁ、どういう気持ちで結婚を決意するのかは、
人それぞれだからなぁ。配偶者が全てではなくたって、寄り道をしない
人間もたくさんいる。逆に、最初は全てであっても、時間の経過と共に、
そうでなくなる場合も数多い。こればっかりはな」
 「先生は?」
 理子は射すような目で、真っすぐに増山を見つめて言った。
 「俺は、最初から最後まで、君が全てだ。君も同じだと信じてる」
 その言葉に、理子は嬉しそうに笑った。そして、「良かった」と言うと、
増山の胸の上に頭を乗せてきた。増山はそんな理子の頭を優しく撫でた。
たまらなく愛おしい。体が不自由なのが恨めしいが、そのお陰で、
こういう時間を理子と持てているのだ。幸福な時間だった。全てを忘れて、
この時間だけを満喫したいと、心から思うのだった。
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