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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第3章 夏 第2回

2010.02.22  *Edit 

 その日、理子は朝から図書室でゆきを待っていた。八月に入った、
朝からカンカン照りの熱い日で、いつもの通り、図書室で一緒に勉強を
する約束の日だった。
 だが、約束の時間になってもゆきが来ない。かれこれ1時間になる。
一体どうしたんだろう?理子はゆきの携帯へ電話をかけたが出なかった。
家の電話へもかけてみたが、やっぱり出ない。まさか、忘れてる?でも
前回一緒に勉強して別れる時に、ちゃんと今日の日付を確認した。
ほんの三日前だ。
 もしかしたら、寝坊して、今頃はこっちへ向かっているのかもしれない。
そう思って、理子は一人で勉強しながらゆきを待った。だが、それから
再び1時間経ってもやってこない。電話をするが、矢張り出ない。
理子は悲しくなってきた。
 図書室は静かだった。何故かこの日は図書委員もいなくて、
司書の先生が一人、整理室で仕事をしていた。
 どうしようか。帰ろうか。でも、忘れていたとしても、気づいたら来るに
違いない。そう思うものの、少し涙が出てきた。なんで、こんな事で泣けて
くるのかな。彼氏にすっぽかされたのとは違うのに。
 その時、ガラッと図書室のドアが開いた。理子はゆきだと思って、
嬉しげに立ち上がってドアの方を見たら、増山が入ってきたのだった。
思いもかけない人物の登場に呆然とした。


 増山の方も、立ちあがって自分を見ている理子に気づいて驚愕した。
 「り・・・」
 と言って増山は口を噤んだ。司書の松嶋の存在に気づいたからだ。
隣の部屋にいるとは言っても、気をつけないといけない。
 増山は黙って理子の方へと歩を進めた。途中、隣の整理室にいる松嶋に
軽く会釈をした。
 理子は、とりあえず座った。増山が自分の方へと歩いてくる。胸が高鳴った。
 増山は理子の前の席に座ると、
 「今日は、どうしたんだ?」
 と訊ねた。
 理子は俯く。突然登場した増山に、胸が高鳴って理性が飛んでしまいそうだった。
 増山は答えない理子に溜息をついた。
 そこへ、司書の松嶋がやってきた。
 「吉住さん、ずっと最上さんを待ってるんですよ」
 「最上を待ってる?」
 増山は不思議そうな顔をした。
 松嶋が続けた。
 「2人は部活の無い日は、よくここで一緒に勉強をしてるんです。
去年の夏休みもそうでした。今日も約束してたようなんですけど、
最上さん来なくて。電話を何度かけても出ないようだし・・・」
 増山は理子を見た。俯いたままだ。
 「それで、何時から待ってるんです?」
 「9時からです」
 今はもう12時だ。3時間も待ってたのか。
 「お昼はいつも、どうしてるんです?」
 増山は松嶋に向かって訊いた。
 「2人でお弁当を食べてます」
 「持参してきてるんですね?」
 「ええ」
 増山は理子に向って言った。
 「吉住、弁当持って職員室まで来い。いいな」
 そう言い置いて出ていった。
 理子は顔を上げた。一体、どういう事だろう?松嶋の方を見る。
 松嶋は優しく微笑んでいた。
 「いってらっしゃい」
 「でも、もし、ゆきちゃんが来たら・・・」
「大丈夫よ。その時は私がちゃんと伝えてあげるから。勉強道具は
そのままにしておくといいわ」
 松嶋はそう言うと、整理室の方へと戻って行った。
 理子は、この展開が信じられない。もしかして、一緒にお昼を
 食べるのかしら。
 先生と?
 うわっ、どうしよう?
 理子は持参した弁当を持つと、恐々した気持ちで職員室へと向かった。
 職員室には、増山しかいなかった。
 「失礼します・・・」
 何となく小声になる。
 「おお」
 と増山が返事をした。
 辺りを見回す理子に、
 「今日は部活の先生以外は俺しかいないんだ」
 と言った。
 「まっ、ここへ座れ」
 と、隣の席の椅子を促された。
 「お前は俺の受け持ちだから。見捨ててはおけない」
 この台詞、理子にはイマイチよく解らなかった。「見捨ててはおけない」って、
どういう意味で言っているのだろう?放っておけないという意味だろうか。
 「お前、よく3時間も待ったな。呆れるぞ」
 自分を見る増山の視線をまともに受けれず、理子は俯いた。
 「だって・・・」
 「相手が誰でも、そうやって長時間待つのか?」
 「誰でもってわけではないですけど、待つと思います」
 「馬鹿だと思う」
 増山は無下に言った。
 「馬鹿って・・・」
 「人が好すぎる。人が好いにも程があるってもんだ」
 「だって。連絡つかないんですよ。心配じゃないですか。もしかして、
今こっちに向かってる途中なのかもしれないって思ったら、やっぱり帰れないし」
 「もし向かっているとしてもだ。遅刻してるんだ。まずはメールなり電話なり
してくるだろうが。それが無いって事は、完全に忘れてるんだ」
 理子の目から涙が溢れて来た。
 「おーい、何泣いてんだよ」
 増山が困った顔をした。
 「あぁ、参ったな。そんな事で泣くな。お前らもしかして、レズだちかぁ?」
 理子は頭を振った。
 「すみません・・・。泣くつもりなんて全然無いのに、涙が勝手に・・・」
 涙が勝手に出てくる。これには当の理子も困惑した。なんで出てくるんだろう?
「長時間待つ」って言葉と「完全に忘れてる」の言葉に反応してしまったのかもしれない。
 中1の時にずっと好きだった彼とのデートで、長い時間待っても来なくて、
電話をしたら忘れられていた事とリンクしてしまったのかもしれない。今でも
あの時の事を思い出すと、無性に悲しくなってくるのだった。
 やっぱり私は、待つんだな。待つ女なんだ。なんて思っていると、
更に悲しくなってくる。先生が言う通り、馬鹿なのかもしれない。
 「あのなぁ。今日会えなかったからって、一生会えないわけじゃないだろう。
次の約束だってしてるんだろう?」
 「はい・・・」
 「だったら、泣くんじゃない。俺を困らせないでくれないか」
 「私が泣いたら、先生困るんですか?」
 ベソをかきながら訊いた。
 「困る。まるで俺が泣かせたみたいじゃないか」
 「でも、誰もいませんよ」
 「誰かがいる、いないの問題じゃない。俺の気持ちの問題だ。目の前で
女子高生が泣いてて、いい気分でいられるかぁ?」
 「そういう人も、いるんじゃないですか?」
 「お前、そうやって茶化すのか。なら、もう大丈夫だな」
 増山と話していると、何故だか茶化したくなってくる。天の邪鬼的気質が
頭角を現そうとする。困ったものだ。だが、気持ちは少し軽くなっていた。
 「先生が私の事を、馬鹿なんて言うからですよ」
 涙を拭きながら理子が言った。
 「思った事を正直に言ったまでだ」
 「じゃぁ、先生は待たないんですか?」
 「待つ事は待つ。だが、5分オーバーが限界だな。連絡が無かったら、
5分待って帰る」
 「薄情じゃないですか?」
 「そんな事は無いだろう。今は携帯の世の中だ。遅れるなら遅れるで、
連絡してこない方が悪いんだ」
 確かにそうかもしれない。
 「泣き終わったんなら、メシ食おうぜ」
 増山はそう言うと、自分の鞄から弁当の包みを出した。
 「そう言えば、お前彼氏がいるんだってな」
 唐突な増山の言葉に、理子は卵焼きを口へ運ぶ手が途中で止まった。
なんでいきなり、何の脈絡もなくそういう話が出てくるんだろう。
「彼氏とのデートでも、いつも待たされて泣いてるのか?」
 なるほど。そういう事か。いきなりで驚いた。
 「彼氏、いませんよ」
 その言葉に増山が理子の方を向いた。大口開けているところだったので、
ぎょっとした。これだから食事中の会話は嫌だ。まして相手が増山じゃ、
余計に緊張する。
 「生徒会長の彼女だって聞いたが」
 はぁっ、と大きくため息をつく。「生徒会長の彼女」か。なんで生徒会長の
彼女が有名になるんだろう。たかが生徒会長じゃないか。生徒会長の彼女なんて、
珍しくもなんともないだろうに。
 「じゃぁ、そういう事にしておいてください」
 面倒くさくなって、理子はそう言った。
 「なんだよ、それは」
 「先生は、誰から聞いたんですか?」
 「石坂先生だ」
 石坂先生?あの数学の?そう言えば、理数系の須田先輩は石坂先生の
授業を受けているけど・・・。
 「お前が熱心にわからない所を聞きにくる事に気を良くしてる。
その事でお前の話になった時に、石坂先生が言ったんだ。生徒達の間でも
結構有名だって言ってたぞ」
 「はぁ。なんか、そうみたいですね」
 「そうみたいってのは、どういう意味だ」
 「有名らしい、って事です。私自身は有名だって事は知らないので」
 「そうなのか」
 「この間も言われたんですよ。知らない男子から、『生徒会長の彼女でしょ。
有名だよ』って。私からすると、何で知ってるんだろう?って感じなんですよね。
しかも、今更って感じだし」
 「いつから付き合ってるんだ?」
 「去年の、9月頃かなぁ」
 「じゃぁ、もうすぐ1年か」
 「今はもう、彼氏でも彼女でも無いですから」
 理子は面倒くさそうに言った。
 「それは、別れたって事なのか?」
 「そういう事です。なのに、まだ『生徒会長の彼女』とか
言われるんだもん。たまんない」
 理子はそう言うと卵焼きを口に放り込んだ。
 「生徒会長はまぁ、有名だからな。学校内では」
 「それはそうでしょうけど、だからって彼女まで何で?そもそも、
この4月から、全然一緒に帰ったりとか会ったりとかしてないんですよ。
人前で二人でいる姿なんて見せて無いのになぁ」
 「一度そういうレッテルを貼られたら、いつまでも付いて回るもんなんだよ」
 そういうものなのか。ならこの先も、ずっと?別れた事を公言でもしない限り?
 「いつ別れた?」
 「7月25日」
 「終業式の日か」
 「そうです。まぁ実質、4月からって感じですね。全然会ってなかったもん」
 「それでお前は平気だったのか?」
 「平気でした」
 理子は淡々と答えた。事実だし。
 「お前って、淡泊なんだな」
 「私、腕白じゃないですよ」
 「淡泊だよ。全く・・・」
 ついつい、おちゃらけてしまう。
 「最上を3時間も待って泣くようなヤツとは思えないな」
 「はぁ、確かに言われてみればそうですね」
 「何感心してんだよ。自分の事だろうが」
 「だって、本当にそう思うんですもん。人間って複雑ですよね」
 「まぁ、そりゃそうだが・・・」
 増山は呆れ顔だった。
 「複雑って言えば、私、歴史の研究本とか見てよく思う事があるんですよ」
 「なんだ?」
 歴史の話と聞いて、増山の目が輝いた。
 「歴史上の人物を考察する時、こういう事をする人間だから、
こういう人物に違いないとか、こういう事をする人物だからこそ、
こんな事はしないに違いないとか、妙に断定的な物言いの人、少なく
ないですよね。歴史の謎を解く上で、史実には記載されていない行動を
推測する時によくある事ですけど、もっとよく検証すれば、人って凄い
矛盾だらけですよね。なのに、こんな矛盾はあり得ない、みたいな
言い方するのが理解できなくて。同じ人間でも、今までの行動からは
推測つかないような事をしたりするし」
 理子が普段思っている事を言ってみた。過去の事なんだから、
本当のところはわかりっこないのに、断定的な書き方が結構多い事に
、腹が立ったりするのだった。
 「なるほど。理子の言う事は尤もだな。俺は、その考えに賛成だ。
そういう書き方をする人は、多くの資料の中から自分の説に都合の良い
箇所だけを引用する人が多いんだ。理子がそう思うなら、それでいい。
お前が言うように、人間は複雑だ。推し量るのは難しい」
 増山にそう言われて、理子は嬉しかった。同じように考える人がいるんだ、
と思うと力を得たような気がしてくる。
 「理子ちゃん!」
 突然呼ばれた。ゆきの声だ。
 入口の方を振り返ると、思った通り、ゆきがいた。
 「ゆきちゃん!」
 「ごめん、ごめんねー。本当にごめんねー」
 ゆきはそう言いながら、理子の方へと走り寄ってきた。
 二人は抱き合った。
 「ごめん、忘れてたの。でもって、気付いて電話しようとしたら、
携帯のバッテリー切れちゃって」
 「家の電話にもかけたんだけど」
 「ごめん、気が付かなかった。家族でテレビ見てたんで・・・
本当にごめんね」
 やっぱり、忘れてたんだ。でも、しょうがないよね。思い出して、
こうして来てくれた。
 「良かったな」
 と、増山が言った。
 「先生・・・」
 「こいつときたら、最上が来なくて泣いてたんだぞ」
 増山が笑みを浮かべながら言った。
 「えっ?本当?ごめんねぇ~」
 ゆきが涙声になってきた。
 「もう、先生、余計なことを言わないで下さいよ」
 「本当のことだろうが。俺、正直者なんで」
 「先生、意地悪なんだから」
 「馬鹿言うなよー。慰めてやってたじゃないか」
 「慰めて貰った記憶、ないですけど。逆に泣かされたような」
 「誤解されるような事を言うのは、やめてくれ。お前が勝手に
泣いたんじゃないか」
 「わかりましたよ。お世話さまでした。さぁ、ゆきちゃん、行こう?」
 理子はゆきを促して、職員室を出た。やれやれ、やっと先生から
解放された。
 「なんか、先生と理子ちゃん、仲いい感じしたんだけど」
 「えっ?」
 ゆきの言葉にドキッとした。
 「あんな風に女子と話してる先生、見たこと無いよ」
 ああ、確かに。いつも女子にはつっけんどんだもんな。
 そうか。
 そう思って、理子にはわかったような気がした。
 「あの先生は、私を女子だと思ってないんだよ。だからじゃない?」
 「ええー?そんな事ないでしょ?理子ちゃんはれっきとした女の子だよ。可愛いし」
 そう言われると照れる。可愛いなんて言われたことが無い。
 「可愛いとか可愛くないとか、そういう問題じゃなくてさ。私って
男子が好きになるようなものばかりが好きじゃない?歴史以外でも。
親にも性格が男みたいってよく言われるし。だから、話してても女臭くないから
話しやすいんじゃないかなーって思うわけ」
 「理子ちゃんは十分女の子らしいと思うけど、確かにサッパリしてるし、
男子と気が合うから、そのせいなのかもしれないね」
 そうそう。そのせいよ。きっとそうに違いない、と理子は思うのだった。
これで、先生の態度も納得だ。
 でも、それはそれで、ちょっと寂しいような気がするのは、何故なんだろう?

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