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小説・目覚めのセレナーデ
第二章・秋は戯れ


目覚めのセレナーデ 2-11

2015.08.16  *Edit 


 あれから5日ほど経った頃、芹歌から連絡があった。今日これから逢う事になっている。
返事はその時に、と言われた。
 果たして彼女は受けてくれるだろうか。
 いや、受けるに決まっている。
 あの時は、突然の事でもあり、また母親の意外な横やりで彼女も動揺していたが、
冷静になれば、やりたいと思うだろう。あの日のトリオの事を思いだせば、きっとやろうと
思う筈だ。
 大学のレッスン室。
 昔2人でよく練習した部屋ではない。あの時は学生用のレッスン室だったが、今回は
真田専用の部屋だ。学生用の簡素なレッスン室と違い、ソファとテーブルがある。
テーブルの上には、クリスマス用の候補曲を数曲選んで用意してある。あれこれ試した上で、
互いにピッタリくるものを選ぶつもりだ。
 芹歌は時間通りにやってきた。
 レッスン室のドアの前に立つ姿が見えたので、真田は自ら扉を開いた。
「やぁ……」
「こんにちは」
 互いに顔を見合わせたまま、暫く立ちつくしていた。
 懐かしい顔。やっとこうして、まともに見れる。発表会の時にも思ったが、大人っぽく
なっている。片倉が『昔より雰囲気がある』と意味深そうに口にしていたが、確かにそう思う。
以前は、子どもっぽい無邪気さが感じられた。今は深い湖のような、神秘的に近い雰囲気が
ある。苦労したからなのだろうと真田は推測した。
「まずは、入って……」
 真田は芹歌を促した。芹歌は黙って部屋の様子を見ながら中へ入った。
「レッスン室に応接セットがある……」
「ああ。職員やゲスト用にはあるんだそうだ。俺もちょっと驚いた」
「出世したって事ですね」
 芹歌は振り返った。昔見た幼さが若干残っている笑顔だ。その顔を見て、真田の胸の鼓動が
急に高鳴った。懐かしさが込み上げて、理解しがたい感情が自分を満たそうとしている。
思わず彼女のそばへ足を踏み出そうとして、何とか踏みとどまった。
 真田がソファに座ると芹歌はピアノの椅子に腰かけた。
「こっちに来ないのか?」
「ここでいいです」
「……」
 沈黙が流れる。
 本当なら積もる話が山ほどある筈なのに、何を言ったら良いのか分からない。話しの
きっかけでもあればと思うのに、何も思い浮かばない。
「私、自信がありません……」
 芹歌が真田から視線を外して、ぽつりと言った。
「もう、ずっと……」
 支えないと流されてしまいそうな、なんとか一人で踏ん張っているような、そんな雰囲気だ。
「芹歌……。自信が無いって言うのは、どういう意味で言ってる?伴奏者としてなのか、
それとも俺の伴奏をする事が、なのか」
 逸らしていた視線が、戻った。もどかしさのような物を、その瞳に感じた。
「どちらも、です」
「じゃぁ、訊く。初めて俺と組むように恵子先生から言われた時、お前は自信があったのか?」
 不意打ちを喰らったように、瞳が揺れた。そして苦虫を潰すような顔になった。
「先輩、狡い質問ですね。あの時は、何も分からなかったから。怖いもの知らず
だったんですよ。それに、先輩は有名だったけど、まだ学生だったし。でも今は
違うじゃないですか。あまりにも、私とかけ離れ過ぎちゃってて。私はただのピアノ教室の
先生に過ぎないのに、真田幸也の伴奏なんて……。世間が許してくれないですよ?」
「はっはっは、馬鹿だな、お前は。何が世間だよ。決めるのは俺だ。俺の伴奏者なんだから。
世間の言う事なんて関係ない」
 芹歌は睨むような目になった。
「伴奏者としても、自信が無いなんてのもな。よく言えたもんだ。お前、それを仕事に
してるんだろうが。本数はそう多くないみたいだが、それでも金を貰ってやってるんだ。
自信が無いなんて台詞、ソリストにも聴衆にも失礼な言葉だと思わないのか。自信が
無いなら、今後一切、伴奏の仕事は止めて、ピアノの先生だけに専念するんだな」
 真田はわざと冷たい目を向けた。それを受けて、芹歌は歯ぎしりせんばかりに口を
キュッと結んでいる。
 怒れ、怒れ。闘志を湧かせろ。そして俺に向かって来い。
 真田はかつての、戦いのような2人の時間を思い出す。
 大人しそうな顔をしていて、芹歌は案外、負けず嫌いだ。ソロではノンビリ弾いている
癖に、アンサンブルとなると隠れていた闘志をメラメラと燃やして来る。それも、
この俺にまでだ。生意気な奴と思う真田の方も、更に負けまいと闘志を燃やし、
それが良い意味で相乗効果をもたらしていたと思う。
「どうした。何も言えないのか?不利になると口を噤む所は、昔と変わらないな」
「先輩だって、そういう意地の悪い所、相変わらずですよ」
「何を言う。俺はお前の為に言っている」
「せ、先輩だって……、この間のリサイタル、……酷かったですよ」
 真田は思わず目を剥いた。今この時に、その台詞か。
 だが、矢張り彼女には分かったんだ。
「ご、ごめんなさい……。つい……」
 呆然としている真田を見て、言ってはいけない事を言ってしまったと思ったようだ。
 真田は小さく笑って首を振った。


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