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小説・目覚めのセレナーデ
第二章・秋は戯れ


目覚めのセレナーデ 2-08

2015.08.10  *Edit 


 夏の花が勢いを無くした様子に秋の到来が感じられる。そうは言ってもまだまだ
残暑は厳しかったが、夕方になると気温が下がって少し過ごしやすくなってきたようだ。
 久しぶりの日本の夏は異常に暑かった。帰国した時はジメジメした梅雨の最中だったし、
帰る時期を間違えたかなと思うばかりだ。帰って来たものの、避暑の為にまた
ヨーロッパへ飛びたい気分だった。
 この夏の間、音楽関係の講演や学生の指導、10月から始まる大学の授業の打合せ
以外では、殆ど大学か家のレッスン室で練習していた。それ以外では合間を見て、
片倉のリサイタルや友人のリサイタルに出かけた。
 片倉の伴奏を担当している久美子のピアノを久しぶりに聴いたが、学生時代よりも
大分洗練されていて悪くは無かった。超絶技巧で速吹きの片倉にも、よく合わせていたと
思う。さすがにプロのピアニストとしてリサイタルを重ねているだけある。客から金を
取って聴かせるという行為は、何より演奏家を成長させる。
 だが。
 伴奏者としての評価は、矢張り芹歌の方が上だと真田は思った。
 芹歌の一番の長所は、矢張り、その耳と音楽センスだろう。テクニックも申し分ない。
音楽家は耳が良くて当たり前だし、絶対音感を所持している者が多いが、音感だけでは
計れないものがある。音色だ。芹歌は音色が齎す音楽効果に対するセンスがピカイチだと
思う。僅かな音色の差をしっかりと聴き分け、その音色に合った伴奏を提供してくる。
だからソリストは彼女とやると他の人間とやるよりも、ずっと気持ち良く演奏できるのだ。
 渡良瀬教授から紹介されて、最初に合わせた時は、まだまだ未熟者だと思った。
何と言ってもまだ1年生でもある。ただ、その割にテクニックはしっかりしてるし、
耳が良いのはすぐに分かった。だが、思う音色をすぐさま提供出来る程の力はまだ
付いていなかった。
 だから随分と厳しく当たったが、彼女も負けてはいなかった。1年生の癖に、
この真田幸也に対して、未熟な点をズバズバと指摘してきた。担当の教授ですら
言わない事を言ってくるのだ。あなただって、あそこが悪い、ここが悪いと突かれて、
何て嫌な女なんだと、どれほど思ったかしれない。
 そんな事を繰り返して行くうちに、互いに言わなくても分かるようになっていた。
特に芹歌の成長は著しかった。芹歌が成長すればするほど、そのメリットが真田に
跳ね返ってくる。真田自身も、彼女の伴奏で演奏する事が楽しくて、気持ち良くなった。
 この間のピアノ発表会。
 片倉から、その日にある事を聞いた。
「本当は、逢いたいんだろうに……」
 そうなのだろうか?
「恵子先生がさ。良かったら来て下さいって言ってくれてさ。勿論、ユキも一緒に」
 ためらう心があった。だからなのだろう。素直に逢いたいと認められないのだ。
 その時は「考えさせてくれ」と答えたが、矢張り彼女の事が気になって、それで彼女の
家を訪れたのだが、あの神永悠一郎という男の存在が真田の心を惑わせた。彼の存在が
一層気になって、「発表会、行く事にした」と片倉に連絡したのだった。
 発表会の「幻想即興曲」を聴いた時、彼女は完全に過去に踏みとどまったままなのだと
悟った。視線が自然に、前方の客席に座っている母親に行った。彼女は娘のピアノを
聴いてどう思っているのだろう。学生時代、芹歌のピアノに惚れこんでいた筈だ。
あまり主張しない分、誰の耳にも心地良く聴こえるピアノに。
 最後に挨拶して欲しいと渡良瀬に頼まれて、良い機会だと思って快諾した。ついでに、
片倉もいる事だからアンサンブルをやって欲しいとも言われ、こちらは片倉の方が即答した。
曲は片倉がその場で決めて、まさにぶっつけ本番だった。彼女ならやれるだろうと
思ったし、真田自身、彼女がどう合わせてくるか知りたかった。
 結果は期待以上だったと言ってもいい。ソロでは燻った印象だったが、トリオになった
途端、輝きだした。真田のいつもの合図をしっかり捉え、絶妙のタイミングで
入ってきた時には、思わず笑みがこぼれた。いつものアイツだ。
 渡良瀬のところでアンサンブルをやっているとの事だから、トリオはやり慣れて
いるのだろうが、片倉と真田のコラボに参加したのは初めてだ。事前の打ち合わせも
なく、殆どアドリブのような2人に、ぴったりと息を合わせ、更にアンサンブルの
良さを引き立てる演奏には舌を巻いた。
 瞬時に意図を察して最適な答えを出して来る、その特技が健在であることが何より
嬉しかった。そして終わった時には、久しぶりの充実した燃焼感が味わえた事に
歓喜していた。ここ数年、自身の演奏でずっとわだかまっていたモノが弾(はじ)き
飛ばされたような、そんな気分だった。
 挨拶の時に、彼女の手を取った。何年ぶりだろう。こんな風に舞台の上で彼女の手を
取ってお辞儀をするのは。
 お辞儀をしながら真田は思った。この手を離したくないと。


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