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小説・目覚めのセレナーデ
第二章・秋は戯れ


目覚めのセレナーデ 2-06

2015.08.07  *Edit 


 真田の方は、或る意味、後が無いような状況だった。コンクールを目指していると
言うのに、伴奏の成り手がいないのだから。彼の煩さは学内外でも有名だった。
それに、傲慢な性格が仇になって、彼の成功を祈らない者も少なくない。誰が協力して
やるか、と思われていた。だから、新参者であっても芹歌に降りられたら困るのだった。
それにも関わらず容赦ない。目指すコンクールの為に、パートナーに頑張って貰わなければ
困るからなんだろうとは思ったが、芹歌はよくついていったと思う。
 ある日、二人の練習が終わった時、帰り際に真田に食事に誘われた。遅い時間だったから、
芹歌も一緒なのだろうと思ったら、久美子だけだった。
「芹歌は?」と訪ねたら、「練習後は顔も見たくないんだ」と言われて驚いた。
 連れて行かれたレストランは有名なホテルにあるレストランで、食後に
「部屋を取ってあるから」と言われて、当然のように連れていかれ、当たり前のように
抱かれた。あまりの自然な成り行きに、久美子は何の違和感もなく受け入れてしまっていた。
「このまま泊まっていっていいから」
 そう言い残して、真田は深夜に一人で帰っていった。
 真田に抱かれた事に喜びを感じていたが、一方で良く分からない複雑な感情も芽生えていた。
何となく、芹歌に悪い気がしたのだ。この頃はもう、二人の息は大分合うようになって
いたので、何かしらの心の繋がりが生まれているのではないか、と思っていたからだ。
 その後、真田とは何度も寝たが、彼は寝たからと言って、その相手を特別扱いする事は
無かった。要するに特定の“彼女”と言う存在を作らない。真田にとって、女は慰み者に
過ぎなかった。それを良しとして割り切る相手とは何度も寝るが、そうでない相手は
容赦なく切り捨てる。束縛を嫌う所は純哉と同じだし、自分とも同じだから久美子は
気にしなかったが、心の奥底で特別な存在になりたい願望があったと思う。
 だからこそ、今回の件は気になるのだ。幾ら元パートナーとは言え、もう8年近く、
二人は組んでいない。学生の時は、真田と組みたがる相手はいなかったが、今の彼なら
引っ張りダコだろうし、幾らでも選べるだろうに、何故、芹歌なのか。彼女が自分のように
社会的に認められたピアニストであるなら、まだ理解できるが、そうではない。
伴奏の仕事をしてはいるが、本数的には少ない方だ。本職はピアノ講師だろう。
 今現在、天才フルーティストである純哉の伴奏をしている自分に、全く声が掛らなかった
事が、些か気に入らないとも言えた。在学中から、女としての自分に興味を持っては
くれてても、ピアニストとしても伴奏者としても、全く眼中に無いようだったから、
今回も名前が浮かびもしなかったのかもしれないが、帰国早々のリサイタルの後、
久しぶりに肌を重ね合わせたって言うのにと、少々恨み節にもなってしまう。
 純哉はソファに腰かけると、テーブルの上に置いてあるキャンディを口の中に放り込んだ。
その口許がいやらしいと思う。
 久美子はその隣に座った。
「ねぇ、純哉君。どうして、今更、芹歌なの?彼女、凄くブランクがあるじゃない」
「そうだねー。だけど、この間のトリオ、凄い良かったじゃない。彼女の実力は、
何度か組んでるから知ってるけど、いくら簡単な曲とは言え、全くのぶっつけ本番で
あれだけやれるんだから、やっぱり凄いよね~」
 キャンディをペチャペチャしながら、天使のような笑顔を浮かべている。
「それは、あたしもそう思うけど、そもそも、どうして来たの?芹歌も全くの不意打ちって
顔してたわよね。あたしも凄い驚いた。純哉君、何にも教えてくれてなかったし」
「あー、そうだったっけ?」
 明らかにとぼけている。
「だけど久美ちゃん、芹歌ちゃんからクリスマスの話し、全然聞いて無かったんだね」
「聞いてると思ったの?」
「うん。だから話したんだけど……」
 なんだ、それじゃぁ、話さなきゃ良かったと思っているのか?
「そんなに、しょっちゅう連絡を取り合ってるわけじゃないし、何でもかんでも
話すわけじゃないわよ。純哉君と真田さんだって、そうでしょう?」
「ああ、確かに」
 ニヤリと笑った。なんだか、小憎らしい笑顔だ。
「もしかして久美ちゃんさぁ。芹歌ちゃんに妬いてるの?」
「え?」
 ニヤニヤしながら、覗きこんで来た。色濃い瞳が妖しげに光っている。
「そんなわけないじゃない」
「でもさぁ。久美ちゃんって、幸也が好きでしょ」
「そ、そんなの、当たり前じゃない。彼を好きな人、私だけじゃないでしょ」
「ふぅ~ん、そう来たか。まぁ、周知の事ではあるよね」
「それで、どうして発表会に?」
「あれ、まだその話題?」
「いけない?気になるんだもの」
「う~ん、そうだなぁ。あれはさ。僕が誘ったの」
「え?純哉君が?どうして?」
「だってさ。幸也が彼女の事を気にしてるみたいだったから」
「気にしてる?芹歌の事を?」
 いきなりモヤモヤとしたものに襲われた気がした。
「だって、そんなの、おかしくない?ずっと音信不通みたいだったでしょ?芹歌の話しや
様子からしたら、もう全然関係ないって感じだったし」
「そうみたいだね。その辺はさ。僕にもよく分からない。2人が連絡を全く取り合って
無かったって事は事実なんだ」
「じゃぁ、なんで今更?」
「なんでなんだろうね。はたから見たら、ホントになんで今更?って思うよね。だけど、
気にしている事は確かなんだ。この間のリサイタルの時、楽屋に芹歌ちゃんが来るのを
待ってたんだよ。それなのに来なくて、ガッカリしてた」
「え?何それ……」
 思いも寄らない純哉の言葉に、久美子はひどく驚いた。待っていたって、どういう事?
そんなに、彼女の事を気にしてるって……。
「あの日、久しぶりの再会を祝したのかどうかは別として、アイツと寝たんだよね。
荒れて無かった?」
 久美子はジロリと純哉を見た。
「久しぶりだったから……。『やっぱり女は日本人の方がいい』なんて言ってたけど」
「あはは。それは僕も聞いた事がある。ヨーロッパはさ。空気が乾燥しているせいか、
女の肌も乾燥してて、20代後半でもうカサカサで肌さわりが悪いってね。そういう点、
湿度の高い日本の女は、肌がきめ細やかで潤いがあって肌触りは最高だって」
 なるほど。外国でも女は抱き放題だったと言うわけだ。あの腕とルックスだったら、
確かに不自由はしないだろう。
 あの晩はどうだったのだろうと、改めて思い出してみる。純哉が言うほど荒れては
いなかったとは思う。ただ、不機嫌そうではあった。真田の不機嫌は今に始まった
事じゃない。些細な過失で機嫌が悪くなるので、周囲からは原因が分からない。
「うーん、やっぱり、分からないかな。荒れてるって感じでは無かった。相変わらずの
仏頂面で不機嫌な態度……。いつもそうじゃない?」
「へぇ、あいつ、女を抱く時でも仏頂面なんだ。そんなんで、つまらなくないの?」
 面白そうな顔で突っ込まれて、返事に窮す。
「ねぇ……。じゃぁさぁ。仏頂面の幸也と、いっぱい奉仕しちゃう僕とさ。久美ちゃんは
どっちが好き?」
 肩に腕が伸びて来て、裸の胸に抱き寄せられた。ぷっくりした唇が久美子の頬に
軽く触れた。それだけで、そそられる。
「やだわ……。純哉君に、……決まってるじゃない」
 撫でるように唇が頬を這い、首筋へと移動する。躰が敏感になってゆく。唇から
洩れる吐息が甘くて、うっとりした。
「今この瞬間は、幸也のこと、忘れて……」
 そう囁く声に、久美子は黙って頷いた。

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