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小説・目覚めのセレナーデ
第一章・夏は暁


目覚めのセレナーデ 1-23

2015.07.26  *Edit 


 午後1時に昼食タイムを終え、全員が会場に入った。関係者も続々と受付を済ませて
中へ入って来て、午前中よりも一層、賑やかになってきた。出番が近い子どもたちは
持参してきた華やかな衣装に既に着替えている。その後に続く子ども達とで更衣室も
賑やかだろう。そんな慌ただしさも、開演の1時半には静まり、発表会は時間通りに
始まった。
 午後2時をもうすぐ時計の針が到達しようかという頃、真田は会場の受付前に到着した。
片倉も一緒だ。
「真田君!……純ちゃんも……」
「恵子先生、お久しぶりです」
 出迎えた渡良瀬恵子に、真田は深々とお辞儀をした。
「まぁ、すっかり立派になったわね。貫禄がついたと言うか」
 渡良瀬はまるで久しぶりに会う愛息子を見るような目で、感慨深げに真田を見た。
「先生は、相変わらず若くてお綺麗です」
「あらやだわ、真田君。そういう所は相変わらずね」
「恵子センセ」
「あ、純ちゃんもいらっしゃい。忙しいのによく来てくれたわね」
「いえいえ。呼んでもらって嬉しいですよ。今回初めてだし。これまでも呼んで
欲しかったなぁ」
「ごめんなさいね。あなたは毎年この時期になると東和の合宿に呼ばれたり
してるでしょう。立て続けも大変かと思ってね」
「そんな遠慮はいりませんよ。今年も参加してきましたが、僕の体力はちょっとや
そっとでは衰えませんからね」
「そうですよ、先生。純哉は馬や牛以上ですから、もっとこき使ってやって下さい」
「はいはい、じゃぁそのうち、私がやってるアンサンブルの会に参加して
もらおうかしらね?」
「それは光栄です。是非」
「何ですか?それは。恵子先生、本業以外でも何かやってらっしゃるんですか?」
 真田はにこやかだが本心が読みにくい渡良瀬に訊ねた。
「趣味のひとつよ。ピアノが好きな人や子ども達にね。アンサンブルの楽しさを
教えてあげたくて、年に1,2回、我が家のサロンで開いてるの」
「ピアノの他に、何の楽器です?フルートと……?」
「その時に都合の良い演奏家次第なんだけど、ファゴット、バイオリン、
チェロって所かしら。一応、トリオでやってるの。あまり多くでやっても
ピアノの生徒達が大変でしょ?」
「ああ、なるほど。じゃぁ、参加者はみんな先生のお弟子さん達?」
「違うのよ~。私の弟子たちの教え子が対象。孫弟子ね」
「じゃぁ、子どもが多いんですね?」
「そういう事になるかしら。でも、大人も大歓迎よ。芹歌ちゃんの所からは、
朱美ちゃんと、小学生の千代子ちゃんが毎年参加してるけど、今度、大人の男性も
参加するみたい」
 真田の眉がピクリと動いた。
「大人の男性?」
「そう。60年配の春田さんって、独学でずっとやってきた人がいてね。
かなり酷いんだけど、アンサンブルをやれば少し音楽性が良くなるわね。
あと、神永君って20代の男の子。彼も今年はきっと参加してくれるんじゃないかしら」
 20代の男?もしや、その男ってのは……。
「とにかく、中に入って。男性陣の出番は最後の方だから、お楽しみに」
 渡良瀬は目の前の扉をそっと開けた。
 客席はかなり埋まっていた。だが、後の方は空いている。
 日本人は教室などでは後から席が埋まって行く傾向が強いが、こういう場合は
我が子を少しでも近くで観たいのか、前の方から埋まって行く。音楽と言う
観点からいくと、前は音響的には好ましくない。一番後の方が遥かに良い。
 だが、今回は子どもの発表会である。後ろまで音が届く程弾ける子どもはそういない。
 真田と片倉は一番後の真ん中の席に腰を下ろした。ここなら、舞台袖にいる
芹歌からも見えないだろうし、最後に演奏するであろう舞台からも見えないに違いない。
 舞台の上では、小さい男児が弾いていた。弾いている曲とタッチから察するに、
まだ始めて間もない印象だ。だが、小柄で手が小さい割に、しっかりした指を
持ってるようだ。それにあまりあがってないのか、堂々と弾いていた。
「あの子、結構、いいじゃない。まだ初心者っぽいけど、しっかりしてる。可愛いし」
「おいおい、可愛いは関係ないだろう」
 弾き終わると、お辞儀をしてさっさと舞台袖に引っ込んだ。その様子がどこか
笑いを誘う。客席の反応もそれに準じているようだ。
「あの子はえーっと、鶴田勇気君、小1だって。小さいねぇ。幼稚園生にしか見えない」
「ちょっとやんちゃそうだな。芹歌も苦労してるんだろうな」
「ピアノの先生は大変だと思うよ。人気楽器だけに、習う子が多いだろうからね。
多ければ多いほど、扱いが難しい子に当たる確率が高くなる。久美ちゃんから
聞いたんだけど、何でも懇意にしてる楽器店から、癖のある子を紹介されるんだって。
ほんとに大変そうだよ」
「お前だって、教えてるじゃないか」
「僕の所は、ピアノほどじゃない。それに、ピアノほど小さい子はいないよ」
 確かにそうかもしれない。
「だけどさ。フルートやバイオリンは習い始めは煩くてかわないけど、そういう点、
ピアノはいいよね。煩いと言ってもこっちとは比較にならない」
「そうだな。ギーギー、ピーピー、耐えられないもんな」
「そうそう」
 前半は矢張り退屈だった。
 発表会だけに、皆そこそこ弾けているし、芹歌の指導は良いのだろうと思う。
汚い音を奏でる生徒はいなかった。
「みんな子どもの割に、音は綺麗だねぇ。さすが芹歌ちゃん」
 片倉の言葉に頷いた。
 真田はピアノを聴きながらも、目は客席の上を走っていた。
「いた……」
 思わず呟くと片倉が「誰?」と問い返してきた。
「いや……」
 見つけたのは、あの男だ。驚いた事に、車椅子に乗った芹歌の母親の隣に座っている。
時々、二人で談笑している様子が伺えた。舞台に近い場所の為、そこは比較的明るかった。
「いたって、誰のこと?」
 片倉が尚も突っ込んできたので、「芹歌のお母さんが来てる」と言った。
「え?ほんとに?どこどこ?」
「ステージから5列目くらいの場所で、真ん中よりに車椅子があるのが見えるだろ」
「え?あ、本当だ。あの人が?」
「ああ」
「芹歌ちゃんのお母さんって、引きこもってるって聞いてたけど……」
 片倉が耳元に口を寄せて小声で言った。さっきからそうして、顔を寄せ合って話している。
「俺もそう聞いてる。だから驚いたんだ」
 芹歌を縛り付けている筈の母親が、こうして会場に来ている。しかも、あの男と
楽しそうだ。親しい間柄としか思えないような雰囲気だ。
「なんかさ。隣の男と親しげに話してるね。とても引きこもりには見えないな。
どういう事かな。親戚とか?」
 片倉も同じように疑問に感じたようだ。
 全く、何から何まで、一体どうなっているんだと思うばかりだ。5年も留守にしていた
ツケがここに来て払わされていると言う事なのだろうか。
(俺は……待っていると伝えた筈なのに……)
 この間、片倉に、芹歌は待たせてるなんて思って無い、そもそも待ってると
思って無いと言われた事が胸の底に重石をつけたように沈んでいる。
 2週間と少し前、真田は思い切って浅葱家を訪ねた。世間はお盆休みに入った頃だ。
真田自身も久々に帰国した事もあって、親戚の家へ両親と共に行くよう言われていたが、
そんな辛気臭い場所へ出て行くのは気が進まなかった。どうせ、両親が親戚中に
自慢しまくり、弾いて聞かせろだの、サインだの写真だのを求められるだけである。
 別の用事もあった為、浅葱家を訪れたのは夜の8時近くになってしまった。
何の連絡もしていないし、何となくインタフォンを押せずに玄関前を暫くうろうろと
していたら、中から人が現れた。芹歌が夕刊でも取りに来たのかと思い、ドキリとして
塀に隠れて様子を伺っていたら若い男と二人だった。


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