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小説・目覚めのセレナーデ
第一章・夏は暁


目覚めのセレナーデ 1-22

2015.07.24  *Edit 


 リハーサルが終わり、皆で控室へ移動する。そこには軽食が用意されていた。
芹歌の恩師である、国芸の教授、渡良瀬恵子も手伝いに来ていた。気配りに長けていて、
皆にあれこれと世話を焼いている。
 芹歌は神永を促して、母と共に渡良瀬の所へ移動した。
「先生。今日はありがとうございます」
「あら、いいのよ~。こういう事は人手が幾らあっても足りないくらいなんだから」
「あの……、母です。先生……」
 渡良瀬は目を見開いて実花を見た。
「あら……、お母様……」
 実花は落ち着いて挨拶した。
「渡良瀬先生、ご無沙汰しております。娘がいつもお世話になっておりまして、
ありがとうございます」
 車椅子ではあるものの、従来の母のような態度に芹歌は少し驚いた。神永に甘えて
ばかりいる最近の実花とも違った、すっかり元通りになったのではないかと思う程の
対応ぶりだ。
「いえ……。あの、回復されてきてらっしゃるようで、良かったですわ」
 渡良瀬は戸惑うような笑みを浮かべていた。これまでの事を思えば、どう対応したら
良いのか分からないのだろう。渡良瀬ほどの人物でも、困惑するようだ。
「今日はあの、ここにいる悠一郎君に勧められて、思い切って来たんですが、
良かったです。この後の本番が楽しみで」
 言われて神永が頭を下げた。
「そう言えば、さっきのリハーサルで弾いてらっしゃったわね。芹歌ちゃんの
生徒さんなのね」
「神永悠一郎と言います。よろしくお願いします」
「なかなかのイケメンさんね。背も高いし。ピアノも良かったわ~」
「あ、ありがとうございます」
 渡良瀬は少しの間、感心したような眼差しを神永に向けていたが、
「たくさん食べてね」と言って、他の生徒達の方へと移って行った。
 その姿を見ながら「あの先生は相変わらずな感じね」と実花が言う。
「相変わらずって、どういう意味なんですか?」
 神永が不思議そうに訊いた。
「親切で優しい反面、クールで素っ気ない……」
「え?そうなんですか?」
 芹歌は密かに微笑んだ。母の言う事は的を射ている。そして、そんな渡良瀬の事を
しっかり覚えている。
 今日ここへ来た時には一体どうなる事かと思ったが、実花は今ではすっかり落ち着き、
本来の姿を取り戻しつつあると感じる。喜ばしい事だとは思うが、それが神永の
せいなのだと思うと矢張り複雑な気がする。
「さぁ、ゆう君、何か食べないとね。力が出ないわよ?」
「はい。浅葱さんも一緒に食べましょう」
 二人で笑顔を交わしてる姿は、子離れ親離れができない親子のように見えた。

「先生、あの人、カッコいい人ですねー」
 全員の自己紹介が終わって暫くした頃に、朱美が芹歌の元にやってきた。目が輝いている。
「先生のお母さんと、凄く仲良しな感じですけど、もしかして先生の彼氏だったり
するんですか?」
 その言葉に、思わずブッと吹きだした。
「やだ、やめて。ただの生徒さんよ。本人も言ってたけど、私が伴奏を担当してる
合唱団の団員さんなのよ。どういう訳か、母のお気に入り……」
 困った感を思いきり出しながら言った。
「えー?そうなんですかぁ?でも、これからは分かりませんよねぇ?」
 冷やかすような目つきだ。これだからJKは、と思う。
「将を射んと欲すれば、まず馬からって言うじゃない」
 背後から久美子が入って来た。
「あ、久美子さん。そうですよね、そうですそうです、ソレですよ」
「ちょっと止めてよ、二人とも。変な事を言わないで?」
 芹歌にとっては心外だった。そんな事を微塵も思った事はない。
「でも先生、やっぱりネックは男だったって事じゃないんですか?」
 朱美の言葉に「何それ?」と久美子が問うた。朱美は先日芹歌に言ったのと
同じ事を言った。
「なるほどねー。朱美ちゃん、なかなか慧眼じゃない」
「でしょー?」
「あの時は、春田さんのようなダンディな小父様が良いのかと思ってたけど、
年寄りより若い方が良かったって事ですね。分かる気はしますけど」
「ちょっと朱美ちゃん、それは失礼よ」
 久美子が睨みつけた。
「ごめんなさーい」
 はぁ~っと息が洩れる。全く勝手な事ばかり言ってくれる。だが芹歌の中の
何かに訴えてくるものがあった。胸の中の何かを引っ掻かれるような、妙な違和感。
それが何なのかは分からないが、そのうちにハッキリしてくるのだろうか。
「じゃぁ、先生。神永さんでしたっけ。私アタックしちゃってもいいですか?」
「ええ?なんでそうなるの?」
「だって、カッコいいんだもん。先生の彼氏でも無ければ候補でも無いって言うなら、
私が立候補しちゃう~」
「あら駄目よ、朱美ちゃん。あなたは受験があるでしょう。それに十代よ。
二十代の大人の男は相手しないって。犯罪になっちゃうからね。だから私が頂くわ」
「はい~?」
 久美子の言葉に芹歌は更に目を丸くした。
「おや、どうしたんです?」
 春田が声を掛けて来た。
「あら春田さん。先ほどのリハーサル、良かったですよ。上達されましたね」
 久美子がにこやかに微笑みかけた。
「あ~、いや~、ありがとうございます。先生のお陰です。なんだか褒められて
嬉しいなぁ。しかも若くて綺麗な女性だし……」
 照れたように笑って、鼻の下が完全に伸びている。
「今も~。春田さん、良くなりましたよねーって、話してた所なんですよ」
 朱美が更に続けた。
 何故ここで、そろって春田をヨイショしているのか芹歌には理解できない。
「いやぁ……、ははは……」
 春田は完全にのぼせているようだ。
「二人とも、そんなに春田さんをヨイショしないで。春田さん、ここで気持ち良く
なって、全てを忘れて好き勝手に弾いたりしたら、駄目ですよ?あくまでも冷静にね。
その結果が褒められた訳なんですから」
 芹歌はあえて厳しめに告げた。
「あ、はい。分かりました。先生はやっぱり厳しいなぁ。若くて綺麗なのにねぇ。
もうちょっと優しかったらなぁ……」
「はぁ?何を言ってるんですか~。幼稚園生を相手にするように扱われたいんですか?」
「いえいえ、そんな。すみません……」
 春田は居たたまれないようにスゴスゴと退散した。
「あーあー。先生、ホント、厳しい。ってか、冷たい?もしかして、神永さんにも、
そんな感じなんですかぁ?」 
「何言ってるの。春田さんの為を思って言った事よ?」
「芹歌はね。昔から男には冷たいのよ~」
「ちょっと久美子ったら」
「えー、そうなんですかぁ?」
 もう勝手に2人でやってくれ。そう思って芹歌はその場を離れた。
 あの2人は似ているのかもしれない。見ていると良いコンビと言う気がしてくる。
芹歌自身、ああいう異性に関係した話は苦手だった。男に厳しい訳でも冷たい訳でも
ない。ただ、色ごとめいた事が苦手なだけだ。
「浅葱先生」
 楽器店の店長、浜口左千夫がすぐそばに立っていた。
「あ、浜口さん。今日はありがとうございます」
 いつも利用している楽器店だが、この浜口から生徒をよく紹介される。
今回の出席者の何人かも浜口経由だ。
「今年はいつになく、和気あいあいとした雰囲気ですね」
「そうですか?」
「ええ。皆さん其々個性的なのに、妙に調和が取れていると言うか、去年よりも
リラックスした感じですよ」
 そう言われてみれば、確かに和やかだとは思う。
 去年は何故か、皆其々に疑心暗鬼と言うか、周囲に対して警戒しているような
雰囲気が漂っていたように思う。メンバーが毎年大きく入れ替わる訳ではない。
年を追うごとに子ども達は成長しているし、親も同じだ。だからその分、周囲と
和合しやすくなったと言う事なのだろうか?こんな時しか顔を合わせないのだから、
よそよそしくて当たり前だと思うのに、今年は浜口の言う通り違う印象だ。
「それと、お母さん。良かったですね。良くなられてるみたいで」
「え?」
 浜口は嬉しそうに母の方を見ている。
「発表会に来られたの、初めてですよね?ずっと引きこもりだったとは思えないくらい、
自然に笑ってらっしゃる」
 浜口に言われて改めて実花の方へ目をやると、他の保護者たちと和やかそうに
会話していた。しかも、傍に神永がいなかった。
(あら、どこへ?)
 部屋の中を見回すと、前の方のドアの付近で、春田と久美子、それに朱美に
囲まれていた。こちらも楽しそうに談話している様子だ。参加者は子どもの方が
圧倒的に多いから、自然な流れと言えるだろうが、意外な気がした。
「この調子なら、浅葱さん、もう少し仕事できそうじゃないですか?」
「え、仕事ですか?また、どなたか生徒さんを?」
 また問題児が来るのかな?と思わず少し身がまえた。
「あ、いえ、そうじゃなくて。10月から、音高、音大の受験コースをうちで
開講するんで、良かったら担当してもらえないかと思いましてね」
「受験コースを?」
「はい。受験に関して、うちでトータルサポートして行くつもりです。なので、
浅葱さんには、ピアノ指導を中心にやってもらいますけど、サポート全体の指導にも
参加して欲しいんです」
「私……ちょっと……」
「何故ですか?突然だとは思います。僕も、お母さんの事があるから駄目かな、と
思ってましたから。でも、今の様子を見る限り、合唱団の仕事以外で定期的に
もう1日くらい外で仕事しても良いんじゃないですか?」
 そうか。
 現在、火曜日だけは、ほぼ必ず外へ出ている。それ以外の外出は不定期だ。
客観的に見れば、出無さ過ぎと感じるだろう。自分でも言われてそう思う。
 だが、芹歌にとっては心そそる話しではなかった。どうせ外へもっと出れるのなら、
伴奏の仕事を増やしたい。受験生の指導なんて神経がすり減るだけで疲れる一方だ。
「浜口さん。折角ですが、遠慮しておきます。この後、合唱団の方の合唱祭が
迫ってますから練習日も増えますし」
「浅葱さん、そんなにすぐに結論出されなくてもいいじゃないですか。一度、
お母さんと相談されてみてはどうですか?折角、外へ打って出られるチャンスなのに」
 確かに、決まった曜日に出る仕事なら、否が応でも外出できる。そうやって
既成事実を積み上げていけば良いではないか、そう言いたいのかもしれない。
「ね?とにかく、考えてみて下さい」
 浜口はそう言って、席を離れた。


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