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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第18章 玉虫色 第3回

2010.04.17  *Edit 

 学校が終わると、理子は大急ぎで帰宅して、私服に着替えた。
 「お母さん、出かけてきます。ちょっと佐和子と色々話したい事があって」
 「今から?受験勉強があるっていうのに、いいの?」
 「大丈夫だから。もしかしたら、帰るのが7時を過ぎちゃうかもしれないけど」
 「なるべく早く帰ってきなさいよ。いいわね」
 「わかった」
 理子はそう言って、家を出た。佐和子の家は近いので、行き来する
のに5分ほどしか、かからない。遠くの友達の家なら絶対に反対される
のはわかっているので、佐和子を利用させてもらったのだった。
 急いで自転車に乗り、駅へと向かった。総合医療センターは、
横浜駅から市営地下鉄に乗り換える。駅に着いたら、下校途中の
朝霧の生徒が沢山いる事に気付いた。知った顔が無いか、チェック
して、目立たないように車両に乗り込んだ。電車通学の者は多いが、
遊びに出るのでなければ、横浜駅まで行く者はいない。
 横浜駅に出れば、人混みの中に埋もれて、そうそう目立たないだろう。
辺りに気を使いながら、地下鉄乗り場へと急ぐ。目的の駅で降りて、
そこから病院まで歩いた。10分少々だ。この病院へは昔、祖父が
入院した時に見舞いに行った事があるので、概(おおむ)ね覚えていた。
横浜は理子の出身地で、5歳まで住んでいたし、祖父母も住んでいる
事もあって、大体のところへは行ける自信がある。一度行けば、まず
9割は覚えていた。方向感覚に優れているので、迷子になった事は一度も無い。
 病院に到着した。時間はちょうど、5時だった。大きな病院なので、
さすがに勝手がわからない。入院病棟の受付で尋ねると。親切に教えてくれた。
 該当病棟の6階へ行った。エレベーターのドアが開いて、目の前が
ナースセンターで受付けだった。受付で名前を書かないとならない。
理子は迷った。ここで正直に書いたら、後から来た先生方に見つけられ
てしまうかもしれない。色々悩んだ末、名字の違う従姉妹の名を書いた。
看護師に病室を訊ねたら、「今は面会は・・・」と言われた。
 途方に暮れていたら、紫に声をかけられた。
 「理子!」
 「お義姉さん!」
 理子は、紫の懐へ飛び込んだ。
 「まさか、今日来るとは思って無かったわよ」
 「すみません。いてもたってもいられなくて。とにかく、顔だけ
でも見ないと落ち着かないんです」
 「学校が終わってから来たの?家の方は?」
 「制服で来るのはまずいと思って、一端家へ帰ったんです。母には
、適当に言ってきました」
 「嘘をついたのね」
 「はい。仕方ないです」
 「マーにはまだ、あなたに話した事を言って無いの。
だから、驚くわね、きっと」
 紫はそう言うと、理子を病室まで案内した。
 607号室だった。一人部屋である。
 理子は紫に促されて、そっと病室のドアを開けた。
 部屋の真ん中にあるベッドに、増山はいた。右手、右足を包帯で
ぐるぐる巻きにされて、吊るされていた。静かに近寄って見ると、
増山は頭に包帯を巻かれ、右頬にも絆創膏が貼られていた。布団の
中で苦悶の表情を浮かべている。顔色が良く無い。
 理子はその姿を見て、涙をポロポロと零した。こんなにも傷ついて
いるとは思っていなかった。あの、強くて逞しい先生が、こんな
姿になっているなんて。
増山は、どうやら眠っているようだ。理子は、ベッドのそばに置いて
ある椅子に座って、手を伸ばしてそっと増山の左頬に触れた。
ちょっとかさついている感じがした。左手を取った。手の甲に黒子が
3つある。その黒子に、理子は口づけた。
理子は暫く、増山の手を握っていた。可哀そうに。何て痛々しい
姿なんだろう。涙が止まらない。肋骨を折った事は聞いていたが、
腕や足まで骨折しているなんて。満身創痍ではないか。どんなに
痛いことだろう。それに、骨折しているのは右である。顔も右頬を
怪我している。右側を下にして倒れて下敷きになったのだろう。
この先、さぞや不自由に違いない。
やがて立ち上がると、顔を近づけて増山の唇にそっと唇を重ねた。
顔を上げた時、増山が目を開いた。
 「先生・・・」
 「理子!」
 増山は驚いていた。
 「どうして、・・・ここに?」
 「お義姉さんから聞いたの」
 理子の言葉に、増山は首を姉の方へと向けた。その目は睨んでいる。
 「あたしが理子だったら、耐えられないから」
 紫も弟を睨みつけて、そう言った。
 「先生、怒らないで。はっきり言って、私に秘密にしようとした
先生に、私の方が怒ってるんだから」
 理子は泣きながら訴えた。 
 「お前・・・、家の、方は、・・・大丈夫、なのか?」
 増山は苦しそうに言った。
 「大丈夫よ」
 「まさか・・・、学校を、サボって、来たん、じゃ、ない、だろう、な・・・」
 「そんなわけ、ないじゃない。ちゃんと最後までいました。制服じゃ
まずいだろうから、一端帰宅して着替えてきたの。家には適当に言って
出て来たから、心配しないで」
 理子の言葉に、増山は安堵の息を吐いた。色々言いたいが、息を
するだけでも痛くて苦しい。
 「お義姉さん、先生、とても痛くて苦しそう・・・」
 理子は紫の方を振り返って言った。
 「そうね。それでも一応、痛み止めの注射はして貰ってあるのよ。
腕も足も骨折してるから、そうでないと相当の痛みだろうから。
それでも肋骨の方は、大きく息をしたり喋ると肺が膨らむから、
刺激されて痛むのよ」
 見るからに辛そうで、どうにもしてやれないのが悲しかった。
 「もう、・・・帰れ。遅くなると、いけない」
 増山が理子にそう言った。
 理子は、増山を見た。切なげな顔をしていた。本当はもっと居て
欲しいが、帰りが遅くなるのは心配でたまらない。そんな想いが
伝わってくる表情をしていた。
 増山の怪我の程度はわかった。時間が経てば治るだろう。だが、
頭の包帯と顔色の悪さを見ると、そちらの方が心配になってくる。
まだ、そばに居たい。できるなら、ずっとそばについていたい。
でも、それは無理だ。
 「また、来ます。日曜日に」
 理子がそう言うと、増山は「駄目だ」と言った。それを聞いて
理子は増山を睨みつけた。
 「今朝、学校へ行って斎藤先生から先生の事を聞かされて、驚きました。
休み時間にお義姉さんに電話して、もっと驚いたわ。私も来ちゃ駄目だって
聞いて。どうして私をのけ者にするの?私の事を心配してくれるのは嬉しい
けど、だからって、私を部外者にしないで。今日、職員室で先生方と色々
話したの。先生達は土曜日に来るって言ってました。だから、私は土曜日は
来ません。その変わりに日曜日に来ます。それを駄目だって言うなら、
私今日は帰りませんから。ずっと、ここにいますから」
 理子は強い口調で、そう言った。
 「勉強は?どうするんだ?」
 「ここでします。勉強なんて、しようと思えばどこでもできます」
 増山は軽く笑った。
 「先生は、この間言ったでしょ。いつでも逢いたい時に逢ってくれるって。
なのに、来るな、なんて酷いわ。嘘つき。嘘つきは嫌いよ」
 「わかったよ。・・・来たきゃ、来ればいい」
 増山は軽く溜息を吐いた。
 「駄目よ、そんな言い方は」
 との理子の言葉に増山は驚いた。
 「先生、本当は私に来て欲しいんでしょ?なら、来て下さいって言わないと」
 理子は本気で怒っていた。増山の心配はわかる。だが、恋人のこう言う
状況の時に、来ないでいられるだろうか?こんな状態で勉強しろと
言われても無理だ。もしこれが逆の立場だったら、増山なら理子が
何と言おうが来るだろう。
 増山はいつも理子を守ってくれる。こんな体になっても、まだ守ろうと
してくれている。だが、理子はそこまでされる程、弱い存在では無いし、
周囲の目を顧みないで行動するような馬鹿でも無いつもりだ。
 「理子、おまえ・・・」
 「いつも強がってるけど、たまには弱みを見せたっていいのよ。
あなたの取柄は正直な所でしょう?肝心な所で強がってどうするの?」
 「酷い事を、言うな・・・」
 「それはお互い様じゃないかしら。先生は私の保護者なの?私は先生に
守られるだけの存在なの?私は一体、あなたの何なの?」
 理子は増山を強い思いで見つめた。ここまで言って通じないような
人では無い筈だ。
 「お前は、俺の、・・・最愛の女性だ」
 やるせない目をして、増山はそう言った。
 「子供ではないのね?一人の女なのね?」
 理子は畳みかけるように言った。
 増山はその言葉に頷く。
 「なら、言うべき言葉は、わかってるわね?」
 理子は勝ち誇った目をして笑った。増山は少し照れくさそうに言った。
 「また、・・・来て下さい。・・・君に、逢いたいから・・・」
 その言葉を聞くと、理子はにっこり笑って身を屈めると、増山に口づけた。
 「日曜日に来ます。それまで、我慢してね」
 そう言って優しく微笑んだ。その微笑みに、増山も微笑み返した。
 「姉さん、彼女を、送ってやって、くれないか?」
 事の成り行きに驚いていた紫は、弟の言葉で我に返った。
 「そうね。その方がいいわね」
 「でも、先生を一人にして大丈夫なんですか?」
 「大丈夫よ。ここは完全看護だから」
 理子は紫に促されて、病室を出た。出る時に振り返って増山を見ると、
目が合った。恋人らしい、甘い目をしている。それが理子には嬉しかった。
理子は手を振って病室を後にした。
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