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小説・月と星の間<完>
11.天使(最終章)


月と星の間 11.天使 ⑤

2015.03.16  *Edit 

「そうかそうか、なるほど。晴明は、ネグリジェ姿の蕗子さんを描いてたって
訳なんだな。なるほど、なるほど~」
 秘密を知って、この上なく楽しいと言わんばかりの顔で小野は頷いていた。
 蕗子はまさに、穴があったら入りたい気分だった。
「だけど蕗子さん。気にする事はないよ。そんな事、言われなきゃ誰も
思わないから。俺だって、まさかネグリジェとは思わなかった。
可愛らしいドレス姿じゃないか。妖精のようでもある。
喜んでいればいいんだよ、ガハハ」
 いちいちガハハと笑って、全てを笑いで流してしまうんだ、この人は。
と改めて思った。でも、こうして絵となって、一般に公開されてしまっている以上、
気にしても仕方が無い。
「それにしても、驚いたでしょう。その為にずっと隠してきてたわけだけどね。
アトリエで見た時、ホント俺も驚いたんだ。これは凄い事になるってね。
で、完成品を見て、案の定だ。晴明はこれを機に大成していくこと間違いなしだ。
だけど、実行委員の木田さんがさぁ。君に逢った時にはドキドキしたよ。
今にも君に言いそうだったんだから。内緒だって前もって言っておいたのに」
 そうだったのか。妙に変な感じだと思ったのはそのせいだったのか。
しきりに小野が、木田の言葉の先を封じ込めるようにして、更に余計な事を
言わせない為だったのだろう、白川教授がそうそうに帰宅を促していたのは。
「そう言えば、白川教授は?」
 蕗子は周囲を見回した。
「教授はどこかで、お偉いさんと話をしてるみたいだ。晴明の代わりに、
色々説明とか解説とか、してくれてるんだよね」
「蕗ちゃんっ」
 財前達が声をかけて来た。
「素晴らしい作品だね。大成功、おめでとうございます」
 財前に握手を求められ、晴明は照れ笑いを浮かべながら応えた。
「ありがとうございます。それから何かとお世話になっています」
「いやいや。まぁ、色々あったけどね。それはそれ。今日はいいものを
見せてもらって、喜んでいるんだ。心が洗われるような、美しい絵ばかりだ」
「本当に、とっても素敵です。蕗子さんが特に綺麗で、感動しました」
 波絵が目を輝かせていた。
「ねぇ、波絵ちゃん」
 蕗子が訊ねる。
「あの、天使が着てる服って、何に見える?何だと思う?」
「ちょっと、蕗子さーん」
 晴明が呆れたように口を挟んで来た。だが波絵は何でそんな事を訊くんだと、
不思議そうな顔して即答した。
「お姫様ドレスじゃないんですか?」
「はい?」
 蕗子は意外な答えに目が点になった。
「あ、あの……、お姫様ドレスって、もっとこう、ゴージャスな感じじゃない?」
「あ、言われればそうかもですね。じゃぁ、妖精さんドレス?
あと、ジュリエットドレスとか……」
 返す気力を無くした。
「ほら、見ろ」
 晴明が勝ち誇ったような顔をした。悔しくなってきて、キッと睨み返す。
「ガハハハッ、面白い!こいつは愉快だぁ~。ねぇ、君。波絵ちゃん?って
言ったかな。俺は晴明の親友で、やっぱり絵描きなんだ。君可愛いよねぇ。
良かったら俺のモデルになってくれないかな」
「ええー?」
 突然の事に、本人を始め、誰もが驚いた。
「おい、俊司、お前一体……」
 何を考えてるんだ、と言おうとしたのだろうが、それより先に波絵が、
「それって、新手のナンパですか?」と言った。
「とんでもない。真面目に言ってるんだよー」
 いつになく、ガハハが無いと蕗子は思った。
 波絵は少し首を傾げて考えた後に言った。
「蕗子さんより美しく描いてくれるなら、いいですよ」
 にっこり笑っている。
「そんなの、当然だよっ。君の方がずっと美しい!ガハハ」
 二人は手を取り合って会場を後にした。その姿をみんな唖然と見送った。
「なんなんだ、あれは」
 財前の顔が理解できないと言っていた。
「さぁ……」
 蕗子はそう答えるしかない。
「俊司はまだ分かるけど、……彼女ってああいう人だったの?」
 晴明に問いかけられたが、蕗子は首をかしげるしかない。
 原田が突然言った。
「きっと、あれですよ。ひと目ぼれってやつ。互いに相通じるものがあるって、
ピンときたんじゃないですか?俺、あの二人の取り合わせ、アリだと思います」
「何言ってるんだよ。波絵ちゃんの事はともかく、阿部さんのご友人は、
初対面だろう?知らない人に対して失礼じゃないか」
 財前が叱るように言ったが、原田は「いや、これは直感ですよ」と言って譲らない。
「でも、そうなのかもしれない……」
 蕗子は呟くように言い、晴明を見た。蕗子の視線を受けて晴明は頷いた。
「そうだね。そうかもしれない。きっと、ピンときたんだ。僕たちのように」
 恋はいつ訪れるかわからない。そして、理屈ではないのだ。小野の人柄を
思えば、波絵の相手として不足はないと思う。波絵自身も優しくしっかり者だ。
きっと幸せになれる。
「だけど、『君の方が美しい!』って言うのには反対だなぁ。俊司のヤツ、
蕗子さんの前でよく、あんな事が言えたもんだ。蕗子さんの方が
遥かに美しいっていうのに!」
 晴明が本気で文句を言っている。
「まぁまぁ」と蕗子は宥めた。全くもって子供っぽい。こういう所は小野も同じだ。
 翌日の新聞の文化面に、晴明の個展の記事が写真入りで大きく
取り上げられていた。特に、蕗子を描いたあの絵が絶賛を浴びていた。
 『風景画家の新境地』とのタイトルで、アメリカで評価された作品から、
更に進化した風景と人物の描写が、深く心を打つ、と手放しの批評だった。
 この、新聞の記事もあるのだろう。連日多くの人間が足を運び、
土日に至っては長蛇の列ができる程の大盛況だった。
 だが一方で、『夜しか描けない画家』との悪意が感じられる批評が載った
雑誌もあった。晴明はそういう記事は全く気にしていなかった。どう感じようが
受けての自由。ただ、自分にとっては自信作なんだから、褒められるのは
当然だ、と半ば威張るように笑った。
「たださ。あの作品群をさ。ポストカードとかクリアファイルとか、そういうグッズに
して売り出したいって話しが来てね。それはちょっとねぇ。大きなスポンサーが
付いてると、そういうの断れないんだけど、今回は身うち主催のような
ものだからね。断れて良かった」
 もう、そんな話しが来てるんだと、蕗子は驚いた。
「だけど、売れたら大学側だって儲かるから嬉しいんじゃないの?」
「まぁね。そこが泣きどころ。でも君、考えてもご覧よ。多くの人が、
君を描いた絵のクリアファイルを使用したり、ポストカードを持ってたりするんだよ?
どうよ。ある意味、君はアイドルみたいな扱いになるよね。でも僕は、
それは許せない。多くの人間が、君の絵を持つなんて、考えただけで耐えられない」
 心底嫌そうな顔で言っている。蕗子も言われて、確かにそれは
嫌だと思った。勿論、晴明とは違った意味で。
「あの作品群は、僕にとっては魂の絵だから、誰にも売れない。
手放せない。本当は、絵は描き上がった時点で、もう作家の物では
なくなるんだけどね……」
 晴明は少し寂しそうに笑った。
「ただ、あれも画集として出版する事に決まったよ。来年の春に出版
される予定だよ。みんなが蕗子さんを持つ事に抵抗があるけど、仕方が無いね」
「もう、晴明さんったら。多くの人が晴明さんの絵をいいって思って
くれてるんだから、もっと感謝しなくちゃ。幾ら芸術家とは言え、
独りよがりは良くないと思うわよ」
「分かってるさ。こうして世間の評判が高いと、自分自身のモチベーションも
更に高まって、一層良い作品を描きたくなるしね。だから、凄く感謝は
してるんだ。ただ、例え絵だとしても、君を手放すのが悲しいだけさ」
 そんな風に言われると、女冥利につきるのかもしれない。


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