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小説・月と星の間<完>
11.天使(最終章)


月と星の間 11.天使 ➂

2015.03.10  *Edit 

 晴明の体は順調に回復し、予定通り、二週間で退院した。外傷は殆ど
良くなっていて、内臓の方も機能を完全に回復していた。ただ、回復したと
言うだけで、元通りになった訳では無く、また体力も落ちているので無理は
しないよう注意された。
 長時間立ってはいられない。完治するにはまだ二週間くらいはかかるだろう。
絵を描く時も座って無いと痛くなるし、授業の時も同じだ。
 晴明は、毎日無理のない程度に筋力トレーニングをした。
元々知らず知らずのうちに多くを歩いていたから脚力もあったし、畑仕事や
薪割りもしていたから腕力もあった。それが、腕も足も筋力が落ちて前より
細くなってしまっていた。
 体力をつけないと、絵を描くにもすぐに疲れてしまう。それが最も困る事だった。
「あまり無理しちゃ駄目よ」
「うん。だけど、もどかしい」
「本当なら、入院しててもいいくらいなのよ?それを自宅療養にして
もらってるんだから、無理したら病院帰りになっちゃうでしょう?
我慢しないと。徐々に少しずつよ」
「そうだな。わかってはいるんだよ。だけど、あれだね。足の傷はすっかり
治ってるのに、体の力が戻って来ないっていうのは変な感じがする。
自分の体なのに」
「内臓を怪我したんだから、しょうがないわ。目に見えないだけに様子が
わからないんだから、確かにもどかしいとは思うけどね」
 本人のもどかしさは、そばで見ている方でも分かる気がした。
病気では無い証拠に顔色は良いのだ。なのに、病人のように力が出ない。
事情を知らない人が見たら、軟弱者と言いそうだ。それでも徐々に力を
付けていた。個展を控えているだけに、のんびりした気持ちには
なれないのだろう。
「ねぇ。温泉にでも行きましょうよ。箱根ならすぐだし」
 蕗子は提案した。
「それはいいね。でも、君の方の仕事は大丈夫なの?」
「休みの日くらいあるじゃない」
 二人はそれから、休日のたびに箱根へ出かけた。出かける度に
紅葉が進んでいくのが気持ち良く、スケッチブックを持参している晴明は、
目を輝かしてスケッチしていた。固形の水彩絵の具も持参しているので、
紅葉の変化がよく分かる。
「蕗子さんも、絵を描くんだね」
 意外そうに言われた。今回は蕗子もスケッチブックを持参していた。
蕗子が描くのは風景ではなく、珍しい意匠や建築物だった。
自然の面白い形状の物もスケッチする。
「私だって、絵ぐらい描くわよ。画家じゃないけど、デザインするには、
まずはスケッチじゃない」
「それはそうなんだけど、君の場合は、全て頭とパソコンだと思ってた」
「いつもそうとは限りません」
 本当は、画家である晴明の前で、例えスケッチとは言え絵を描くのが
恥ずかしかったから、見せて来なかっただけだ。
「ふ~ん……。新しい発見ができて、嬉しいよ」
 晴明は笑顔でそう言った。
「あんまり見ないでね。恥ずかしいし。アドバイスとかも要らないから」
 ちょっとつっけんどんに言う。
「恥ずかしがる事なんか無いのにな。君は君で、それでいいんだよ。
それに、アドバイスなんてする訳が無い。自分の生徒なわけじゃなし。
そもそも君だって建築家としてプロなんだからね。プロの描くものに
あれこれ言える筋合いなんて無いよ」
 尤もな事だった。それに蕗子の描く絵は人に見せる為のものではなく、
あくまでも仕事の延長だった。
 十二月に入る頃には、晴明の体の調子もかなり良くなって、
小さな丘陵なら登れるようになっていた。
「いよいよ作品も仕上がるし、あとは会場の準備とか些末な事に
追われそうだから、こうして紅葉の中で君を愛せるのは最高のひとときだよ」
 久しぶりだった。晴明自身は、ずっと求める心があって、蕗子にちょっかいを
出していたのだが、蕗子がそれを断っていた。どう考えても良くないだろう。
早く直さなきゃならないと言うのに。
 湯上りの、ほんのりと色づいた肌が、晴明の唇を受けて震えた。
この人はいつもそっと口づけながら、愛おしむように、ゆっくりと愛撫を
重ねていく。壊れそうな陶器でも扱うような丁寧さだ。時にもどかしさを
感じもするが、そのもどかしさが、一層の高みへと蕗子を連れていくのだった。
「ああ……っ」
 晴明の手で押し開かれ、その舌が入って来る。快感が痺れとなって
全身が脈打ち震える。晴明のものが入って来た時には、
体の血管の全てが快感を訴えていると思うほどだった。
「蕗子さん……」
 唇が重なり、手が重なり、指が絡んだ。甘い吐息が混じりあい、
深い想いが互いを包んだ。
 この人を失わずにすんで、本当に良かったと思う。
「凄く綺麗だ……」
 蕗子の白い体に、周囲の樹々の紅葉が照り返していた。蕗子は
二人の間に漂っている紅葉の光を見て、蓼科のステンドガラスを思い出した。
あれを、これから手がける建物に取り入れたいと思った。勿論、自分達の家にも……。
 何度も極みに達し、晴明の広い胸に抱かれて蕗子はまどろむ。
既に空には星が瞬き、月が二人を照らしていた。夢の世界にいるような、
ロマンティックな心地だった。
「個展が終わったら……、お墓参りに行きましょう。里美さんの……」
「いいの?」
 晴明の声に僅かだが躊躇いが感じられた。
「あなたが瀕死の状態にあった時、そばに里美さんがいるのを感じたの。
……里美さんは、私にとっては超えられない存在だった。妹でありながら
愛する事を止められなかった、それほどの存在だった筈なのに、
その愛を忘れて今は私を愛してる。凄く嬉しかったけれど、いつか、
この恋も冷める時が来るんじゃないか、そう思ったら、結局、最後に
いつまでも存在するのは里美さんなんじゃないかって……」
 晴明は、蕗子を強く抱きしめた。
「馬鹿な事を言うな。そんなわけないじゃないか」
「でも、結局、血のつながりには勝てないような気がしたのよ」
「蕗子さん。君の言う事もわからなくはない。でも、結局、妹は妹なんだよ。
それ以上でも以下でもないんだ。僕ひとりが、こうして生き残って
幸せになって、里美にはすまないって思うよ。それでも僕は、君と
生きていきたいんだよ。冷める時なんか、来やしない。来る筈が無い」
「ありがとう。私もそう思いたい。ううん、思ってる。だからね。
負けないって思ったのよ。絶対に渡さないって。あなたを誰にも渡したくない。
私ひとりで独占したい。その為には、里美さんを追い出すしかなかった。
だから、強引にひとりで帰ってもらった。ごめんなさい、でも渡したくないの、
帰って、って。酷い事してるって思ったけど、仕方ないよね。だから、
里美さんの墓前で、お詫びして、それからお礼を言いたいのよ」
 自分が里美だったら、矢張りきっと去っただろう。晴明の人生は、
まだまだこれからなのだ。やっとこれから花が咲く。でもきっと、
ひとりで寂しいに違いない。だから、奪ってしまってごめんなさい。
でも、必ず幸せになります。彼を幸せにします。ずっと見守ってて下さい。
そう伝えたかった。
「ありがとう……。君の気持ちが嬉しいよ。誰にも渡したくないなんて
言葉を君から聞けるなんてね。僕も里美の墓前で詫びるよ。
あの時の里美の寂しそうな顔……。でもきっと、里美も僕の幸せを
望んでくれてるんだと思う。だから、里美は分かってくれる筈だ」
 蕗子は頷いた。二人で幸せになる事。それが何よりの供養だと思うのだった。

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