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小説・月と星の間<完>
11.天使(最終章)


月と星の間 11.天使 ②

2015.03.09  *Edit 

 翌日の夕方、蕗子が病室へ行くと、小野と白川教授、それと中年の男性が
二人病室にいて、晴明と共に談笑していた。
「あ、蕗子さん」
 蕗子に気付いた白川教授が嬉しそうに微笑んだ。
「あの……?」
 晴明の表情がとても明るくて、嬉しそうだ。顔色も良いが、こんな風に
大勢で大丈夫なのだろうか。少し心配になった。
「ああ、この人が……」
 見知らぬ中年男性の一人が顔を輝かせて蕗子を見て何か言おうとしたのを
小野が遮った。
「蕗子さん。こちらは、個展の実行委員の間中さんと木田さんだよ。
今、みんなでアトリエに行ってきたんだ。で、予想以上の出来だったんで、
個展は予定通りに開催する事になった」
「え?本当に?良かった……」
 蕗子は紹介された二人と挨拶を交わし、安堵した。
「いや~、素晴らしかったです。予想以上の出来に、驚きました。
あれらの絵を発表できないとなっては残念過ぎる。だから阿部君には、
早く良くなってもらって、しっかり完成して貰わないと。本人も大丈夫だと
自信を持って言ってるので、我々はそれに賭ける事にしました」
 とても感動している様子を見て、蕗子も喜ばしかった。既にこんなに
期待されている。これほど嬉しい事は無い。
「ありがとうございます」
 蕗子は深々と頭を下げた。
「それにしても……」
 と、顔をあげた蕗子をまじまじと見ている。その視線には、憧憬のような色が
含まれているように感じた。
「木田さん」
 小野の鋭い声が飛んできた。
「あ、これは失敬。いや、綺麗な方だから、つい見惚れてしまいました」
 蕗子は相手の言動にたじろいだ。白川からも初対面なのに綺麗と言われて
驚いたが、そもそも、他人からあからさまに綺麗だと言われた事など無かった。
自分でそうだと自覚もしていないだけに、言われてもぴんとこないのだった。
どう反応したら良いのか困るばかりだ。
「皆さん、そろそろ失礼しましょう。阿部君も疲れるだろうから」
 白川教授の落ち着いた声に促され、実行委員の二人は白川と共に
帰って行った。蕗子は挨拶をして見送ったものの、何だか釈然としない
思いが残った。それは決して不愉快な感情ではないのだが、うやむやに
された何かがあるような、そんな感じだ。
 不思議に思いながら晴明の傍へ行くと、小野と二人で微笑みを交わしている。
「どうかした?」
 蕗子が訊くと、二人はその笑顔のままで蕗子の方を見た。何故かドキリとする。
「取り敢えず、上手くいったんで喜んでたんだよ」
 晴明がそう言った。
「蕗子さん。俺も今回見せて貰ってね。本当に良かったよ。改めて、晴明の
才能と心を知らされた気がする。感激してるんだ。君も完成したものを見たら、
きっと凄く感動して、涙を流す事、受けあいだ。ガハハ」
 小野は「飯食ってくるから」と言って、出ていった。気を利かせたのだろう。
蕗子は呆気に取られたが、すぐに気を取り直して晴明の前に座った。
「なんだか皆、楽しそう。良かったわね、個展……」
「うん。今回はこれまでで最も自信があるんだよ。だから、絶対に開催させたい。
見て貰って良かったよ。いい手ごたえを得られて、益々やる気が出て来た」
 晴明の顔が、きりりと引き締まった。
(素敵……)
 思わずそう呟いてしまいそうになった。
「どうした?」
「ううん」
 暫く黙って見つめあった。その眼差しに、愛が溢れていると感じた。
「事故にあった時……」
 晴明が突然話しだした。
「なんだか不思議な感じがしたんだ。なんで、事故なんかに遭ってるんだろうって。
でもって、やばいなって思った。死にたくないって思ったよ。
それで意識が途絶えたわけだけど。……ずっと彷徨ってた気がする。
暗くて長い夢を見ていたような。……皮肉だよな。
まさか自分が、里美と同じように交通事故で死ぬなんて。
折角、君と出逢って一緒になれたのに。里美が死んだ時……、後を追いたかった。
自分も死にたいって思ったんだよ。だから……、君と出逢って無かったら、
きっと……、やっと死ねるって思ったかもしれない。でも、今は違う。
今は生きたい。君と共に……。だけど……凄く苦しくてね。過去の辛かった記憶が
夥(おびただ)しく僕を襲って来たんだ。……本当に……生きているのが辛くて……、
これからもこの辛さが……ずっと続いていくような……そんな錯覚を
覚えるほどの……勢いだった……。楽になりたい。そう切に願ったよ。
……もう、いい、もう楽にさせてくれって。全てを忘れて……真っ白になりたい……。
そう思ったら……。誰かが……手を伸ばしてきた気がして。
手を出そうと見たら……里美だった……。多分……。一緒に行こうって。
楽になれるって……。やっと一緒になれるんだ……、ここなら、誰にも、
何も言われないって……言うんだよ……。幸せに、なりたかった……。
幸せにしてやりたかった……。だから……。行ってやらないと、
……いけないのかなって……思ったんだよ……。そしたら、そしたら……。
君の声が、聞えた。……僕を、必死に呼ぶ、君の声が。……行くな、
行っちゃ駄目だって。……里美が……物凄く悲しい顔をして、僕を見てた。
……一緒にいた時は笑っていたのに……。寂しそうで。……凄く、寂しそうで……。
僕は……辛くて、苦しくて……、どうしたらいいのか、わからなくて……。
でも僕は……、僕は……君と生きたい……。そう思った瞬間……、
悲しくて辛くて淀んだ闇を、君が……、払った……。ああ、僕の天使って……。
笑わないでくれよ?……ほんとに天使、だったんだから……。
君が僕の手を……強く握って、光の方へ引っ張ってくれた。
……どんどん、息が楽になって……、苦しみから、解放された……。
目が覚めた時、目の前に君の顔があって、心底ホッとした。……戻って来たんだって。
……感謝してるよ。ずっと僕のそばで、僕に呼びかけてくれていたんだってね。
それを聞いて、……ああ、そういう事だったんだって、納得した。
君のお陰だよ。本当に、ありがとう……」
 蕗子の頬を涙が濡らしていた。
「私の方こそ……、ありがとう。頑張って逝かないでくれて。
……あなたのそばにね。里美さんがいるのを感じたわ。あなたを
連れていこうとしてるって思った。あなたは今にも一緒にいってしまいそうな状態で。
でも、そんなの、許せない。絶対に逝かせない。絶対に里美さんに
渡さないって思った。……私ね。最初は弱気だったの。
こうなってしまったのも、もしかしたら天罰なのかもとも思った。
でも、小野さんと教授に叱られた。小野さんに、天使なんだから、
死神なんか跳ね返すくらい心を強く持て、って言われたの。
いつも天使って言われて、こそばゆかったけれど、その時ほど
身に沁みた事ってなかった。そうだ、私は晴明さんの天使なんだから、
絶対に守らなきゃって。強くならなきゃって。だから、二人のお陰だと思ってる。
そうでなかったら私、里美さんに負けてたかもしれない」
「そうか……。俊司が、そんな事を……。ほんとに感謝しなきゃな。教授にも」
「晴明さんは、本当に良い理解者を持ったわね。肉親の情愛には
恵まれなかったけれど、それ以上の恩愛を受けてると思うわよ?
大切にしていかないといけないわね」
 晴明はにっこりと微笑んだ。
「なんだか君……、お母さんみたいだな」
「あらっ」
 心外な事を言われて、蕗子は少しむくれた。涙も止まる。
「さぁ、お母さん!帰ろうか!遅くなると明日にさわるよっ」
 突然、病室の扉が開いて、小野がそう言いながら入って来た。
「はい?」
 なんだ、お母さんとは。さては、話を聞いていたな?思わず蕗子が睨みつけると、
小野はガハハと笑って、「さぁさぁ」と蕗子を急きたてるのだった。


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