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小説・月と星の間<完>
11.天使(最終章)


月と星の間 11.天使 ①

2015.03.06  *Edit 

 晴明は翌日の午後に、集中治療室から一般病棟に移った。
 一般病棟に移る時に、一度目を覚ました。「蕗子さん……」と呟くように
言った晴明は、とてもせつなそうに蕗子を見た。そんな晴明の手を蕗子は
握り静かに微笑むと、安心したように再び眠りに落ちたのだった。
「良かったよ、本当に」
 小野と白川は、心から安堵した顔で、蕗子の手を握った。
「お二人とも、本当にありがとうございました。小野さんと先生が
いらっしゃらなかったら、私達、勝てなかったかもしれません。
心を強く持てたのは、お二人のお陰です」
「いやいや、君が頑張ったからだよ。僕たちは少しは手助けしたかもしれないが、
それでも君の愛の力が強かったからだ。本当に嬉しいよ」
「そうだよ。ただ俺は、今回は凄く役立ったと自負してるよ。あとで晴明に
礼を要求してやらないとな。ガハハ」
 この人の、この底抜けな感じの明るさには、本当に救われる思いがする。
晴明もきっと同じだろう。だから、この人と親友になったんだと思う。
「相変わらず図々しいね、君は」
 白川が優しげに突っ込んだ。なんだか、面白い取り合わせに思える。仄々とした。
「ああ、そうそう、蕗子さん。晴明も一般病棟に移った事だし、
君は明日からいつも通りに仕事に出るといいよ。忙しいんでしょう。
君がいない間は、俺がいるから。教授と違って俺は講師だから、結構、
時間あるからね。心配いらないよ」
「あの、でも、講師とは言っても授業を持ってらっしゃるわけだし……」
「それはね。仕方ないでしょう。ここだって看護師さんはいるんだから、
ずっと付き添う事は無いよ。でも、抜けるのは授業の間だけだよ。終われば、
また戻ってくる。君が来るまで、晴明のそばにいてやるよ。
晴明も喜ぶだろう。ガハハ」
 あっけにとられて、二の句が継げなかった。
「あ、そうだ。まだあったよ。病院から帰る時には、タクシーを使う事。
一人の時には、くれぐれも用心する事。晴明が入院中に君に何かあったら、
俺、申し訳がたたないからね」
「あ、あの、ありがとうございます。でも、そんなに……」
「だめだめ」
 小野は人差し指を立てて左右に振った。
「油断は禁物。もし何かあったら、すぐに俺に電話して。いいね?」
「は、はい」
 晴明の変わりにボディガードにでもなったような意気ごみを感じて、蕗子は笑った。
 その日の晩、晴明はやっと目覚めた。
 蕗子の顔を見て、安堵したように微笑んだ。
「僕……、車に轢かれた……」
 大した出来ごとでもないような、軽い口調だ。
「そうね」
 蕗子も軽く相槌をうつ。
「生きてるの?」
「生きてるみたいよ?痛いでしょ?」
「うん……。痛いよ」
「暫くは安静にしてないとね」
 蕗子が優しく言うと、晴明は小さく頷いた。
「あ、教授と俊司……」
「今ごろ、気付いたか」
 蕗子の背後に立っていた。
「すまない……。迷惑かけた」
「全くだ。早く良くなれ。暫くは安静だ。色々言いたい事はあるだろうが、
もう少し元気になってからだな。明日から蕗子さんが仕事の間は、
俺がそばにいてやるから、安心しろ」
「えー?お前がぁ」
「そんな嬉しそうに言うな。遠慮はいらん、ガハハ」
 蕗子はその晩も病院に泊まり、翌朝、小野に任せて病院を出、一端帰宅して
シャワーを浴びてから出勤した。晴明の事故の事は既に電話で連絡してある。
「蕗ちゃん、大変だったね。御苦労さま。助かって良かった」
「はい。お陰さまで。ありがとうございます」
「仕事の事は気にするな。適当に自分で調整して、なるべく病院に行くといい。
やることさえやってあれば、会社に時間を拘束されてなくてもいい。
合間に様子を見に行っても、全然構わないからな」
 財前の気遣いが有難い。この人についてきて本当に良かったと思うばかりだ。
この先、何があっても、この事務所を支え、盛り立てていこうと思う。
 保土ヶ谷の施主にも、心配してもらったので、無事に助かった事を
連絡しておいた。こちらも喜んでくれた。こういう時、他人の善意が身に沁みる。
「蕗子さん、あたし達に手伝える事があったら、言って下さいね」
「そうだよ。仕事も分担できるものは分担していいから遠慮せずにね」
「ありがとう」
「だけど、個展の方、大丈夫かい。暫く入院だろうからね。そうでなくても
スケジュール的に厳しかったみたいだし」
 財前に言われて、はたと気付いた。生きるか死ぬかで、それどころでは
無かったが、命が助かり容体が安定してくると、現実の問題が頭をもたげてくる。
 仕事が終わって病院に行き、小野と顔を合わせた時に訊いてみた。
「その件は、多分大丈夫だと思うよ。昼間に晴明の様子がいい時にさ。
少し話したんだが、本人が言うには、大分出来ているって話しなんだ。
入院は二週間くらいになるらしい。それからでも、まだ一カ月はあるしね。
間に合うと本人は言ってる。俺はそれを信じるよ。教授もその意向だ。
だけど、大学側がね。万一間に合わなかったら困るって言ってるんだよね。
それで、本人のアトリエを見せて貰う事になった」
「アトリエを?いつですか?」
「明日。俺と教授と大学側の実行委員の人間二人で。晴明から初台の
家の鍵を預かったんで、明日の昼間、ちょっと行って来るよ」
 蕗子はよく分からず、首を捻った。
「あの……、私も一緒に行って立ち合った方がいいんでしょう?」
「いや、それには及ばない。それに、晴明がね。君には見せないで
くれって言ってるんだ」
「ええ?」
 蕗子は驚いた。見せたくないと言っていたが、ここに来てまでまだ
そんな事を言っているなんて。
「本番まで君には秘密だって、元々言ってたでしょう。いくらこういう
状況だからって、今ここで君に見られたら意味無いじゃないか。大丈夫。
俺がちゃんと責任持つから」
 仕方が無い。別に、完成前にどうしても見たいと思っているわけじゃない。
こういう事は作家の意志を尊重すべき事だとは思っている。出来る前から
見せたい人、見せたくない人、色々だろう。本人の意を汲むしかない。
 病室へ入ると、晴明は目を瞑っていた。穏やかな顔でホッとした。
 蕗子は部屋の中を見まわす。状態が状態なので一人部屋だ。
ちょうど空いていた。目を凝らして隅々まで見、それから晴明の周囲をジッと見た。
(大丈夫だ……)
 何の問題も無いように見えて、蕗子は安心して晴明の傍に腰かけた。
その瞬間に、晴明の目が静かに開かれた。
「どうしたの?」
 晴明が不思議そうに、そう言った。
「え?どうしたのって?」
「部屋へ入って来て、すぐにそこに座らなかったね……。なんで?」
 目を瞑っていたのに、分かったのか。
「眠ってたんじゃなかったの?」
「眠ってたよ。でも、君が入って来た瞬間、目が覚めた。あ、蕗子さんが来たって、
すぐに分かったよ。早くここへ来てほしかったのに、……なかなか来ないからさ」
 蕗子は薄く笑みを浮かべた。芸術家だから五感が敏感なのか。それとも、
こういう特別な時だからなのか。
「ごめんなさい。なんか、感無量?仕事を終えて、またあなたに逢えて、
あなたの無事な姿を見たら嬉しくて、暫く足が動かなかったの」
「それだけ?」
「他に何があるの?」
「いや……」
 この人はもしかして、何かを感じているのだろうか。
「それより具合はどう?」
「うん。悪くはないよ。ちょっと呼吸に難ありな感じがあるけどね。肺を少し
痛めてるって医者が言ってた。でもすぐに良くなるから心配いらないって」
 肺と聞いて、心なしか気持ちが重くなる。
「心配かけて、悪かった。こんな事になるなんてね」
「そうね。凄く心配した。でも無事で良かったわ」
 晴明が手を伸ばしてきたので、蕗子は握った。
「手が無事で良かったよ。車に轢かれた時、何よりそれが心配だったんだ。
これでも庇って転んだんだ」
「よく、咄嗟にできたわね」
「自分でもそう思う。あと……死にたくないって思った」
 晴明はそう言って、ジッと蕗子を見つめた。その目を見て、蕗子は自分の目が
濡れて来るのを感じた。
「良かった……、本当に良かった」
 蕗子は全てに感謝していた。この人を生かしてくれた全てのことに。


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