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小説・月と星の間<完>
10.唯一


月と星の間 10.唯一 ⑤

2015.02.27  *Edit 

 二日後の事だった。
 連休なので事務所の一般業務は休みだが、クライアントの都合で
仕事になることが多い。この日もそうで、蕗子は保土ヶ谷区のA邸に訪れていた。
 この日は朝から霧雨に近い、細かい雨が降っていた。連休だと言うのに
生憎の天気だった。晴明の方は大学祭で学生たちの展示のサポートを
しに行っていた。
「こんな天気のせいか、寒いですねぇ」
 施主の主人の方が外を見て呟くように言った。部屋には電気ストーブが
点いていた。古い日本家屋のせいか、隙間風が入って来るようで、
こういう日は底冷えがすると言う。それに部屋の中が暗くなるので
照明が点いていた。
 新しい屋敷では、採光も断熱もしっかりしていて、尚且つ通気性の良い
住みやすい家になるだろう。
 日が暮れて来た。打合せを終えて帰り支度をし始めた時、カバンの中の
携帯が鳴った。慌てて取り出してディスプレイを見ると未登録の知らない番号だ。
(誰かしら?)
「ちょっと、失礼します」
 席を立ち、離れた場所に移動してボタンを押した。
「はい……」
「あ、もしもし?小野です。晴明の友人の。蕗子さん?」
「あ、小野さん。蕗子ですけど、どうかしたんですか」
 蕗子は電話の相手が慌てた様子である事に、胸騒ぎがした。何かあったのか。
「蕗子さん、君は今どこにいる?」
「えっ?横浜の保土ヶ谷ですけど……」
「ああ……」
 小野は消沈したような声を出した。
「どうかしたんですか?小野さん!」
「ああ、すまない。晴明が交通事故に遭ったんだ。重体なんだよ」
「ええっ?」
(交通事故……、重体?重体って、どういう事?)
 ニュースでよく聞く言葉だが、身近で遭遇した事が無かったので『重体』と
言うのがどういう状況を現しているのか、よく分からなかった。
「とにかく、今すぐ病院に来るんだ。……間に合えばいいが」
「え?間に合えばいいって、どういう事なんですか?」
「……出血が多くて危険な状況なんだ。とにかく急いで」
 蕗子は呆然とした。病院の名を告げられて電話は切れた。
(どうしよう……。どうしよう、どうしよう)
 頭が混乱する。
「どうかされたんですか?」
 蕗子の様子に施主が声をかけて来た。
「あ、あの……、夫が事故に遭ったみたいで、重体だって……」
「なんですって?それならすぐに行かないと!」
 呆然と震えている蕗子に、施主はタクシーを呼んでくれた。施主が運転手に
事情を話してくれたお陰で、運転手がより早く到着するように臨機応変に
ルート選択をしてくれたので、一時間ほどで病院に到着した。
 病院は休日で休みだった。救急の方へ行くように言われて、
そこへ駆け込むと小野と白川教授がいた。
「あ、蕗子さんっ」
「小野さん、教授……」
 二人の顔を交互に見る。まだ落胆していないその顔を見て、
取り敢えず間に合ったようだと思った。
「今、手術中なんだよ。予想よりも出血してるみたいで危険だって」
 小野は電話で話していたのと同じ事を蕗子に言った。
「一体、……どういう事なんですか?どんな事故だったんですか」
 蕗子は肩で息をしながら問うた。
「蕗子さんが帰る前に帰宅しておきたいって晴明が言って、大学を出たんだ。
で、大学の近くの交差点でね。見通しが良いとは言えないけど、
特別悪い所でも無い。いつもは渡る人間が多いが、今日はこんな天気だし、
寒いしで、学際の方も人出が少なくてね。だからなのか、乗用車が信号が
変わると同時に曲がって突っ込んで来たんだよ。晴明は、タイミングが悪かった。
信号を渡ってる途中で点滅したから、急いで渡ろうとしたらしいんだけど、
走りかけてコケたみたいなんだ。目撃者の証言なんだけどね。足を
引きずってる感じで歩いてて、途中から走ろうとしたみたいだけど
失敗したみたいでコケていた、ってね。雨は一時止んでたんたけど、
また少し前からパラパラと来てね。薄暗くて運転手はよく見えなかったらしい。
曲がった目の前に晴明がいて、急いでブレーキを踏んだけど間に
合わなかったって……。足を怪我していたせいなんだろうな。
普段のあいつなら、こんな事にはならなかったと思う。ああ見えて、
身のこなしは軽いからな……」
(ああ……)
 ショックだった。足の怪我さえ無かったら……。それは私のせいだ。
あの時、父に刺されるような事がなかったなら……。蕗子はドロリとした
鉛でも飲みこんだように、胸が重たくなるのを感じた。
「周辺に何人か目撃者がいて、すぐに救急車と警察に連絡してくれた。
左足に外傷を負っていて、結構出血してる。それと内臓もやられてて、
そこからも出血してるんだ。手術はその処置の為にしてる」
「ゆ、輸血は?」
「病院で用意したのだけでは足りなかったから、俺と教授がした。
今のところは、足りてるみたいだけど……」
 蕗子はくらっとして、近くにある椅子に倒れ込むようにして座った。
「蕗子さん!大丈夫か」
 小野と白川教授が蕗子の肩に手をかけた。
 蕗子は頷きながら、手で顔を覆った。


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