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小説・月と星の間<完>
10.唯一


月と星の間 10.唯一 ➂

2015.02.23  *Edit 

 揉み合っているうちに、晴明が体のバランスを崩した。その拍子に
広志のナイフが晴明の胸に向かってきた。晴明は急いで避けたが、
そのナイフは晴明の左の太腿にズブリと刺さったのだった。
 広志はそれを引き抜こうとしたが、晴明はそれを阻止して体を転がした。
「やめて!!」
 蕗子は叫ぶと、慌てて晴明に駆け寄り、その身をかばった。
「お父さん、もうやめて!もし、晴明さんが死んだら、一生お父さんを許さない。
絶対に許さないっ。親子の縁を切るからねっ」
 蕗子は必死の形相で広志を睨んだ。こんな事をする父親を許せない。
「あんたなんか、お父さんじゃない!父親なんかじゃない!大嫌いよっ」
「蕗子……」
 背後から晴明に肩を掴まれた。
「晴明さんっ、大丈夫?しっかりして」
「大丈夫。たいしたこと無いから。……それよりお父さん。もう、これで
終わりにしてくれませんか?この事は無かった事にしますから」
 晴明の言葉に蕗子は驚愕した。
「何を言ってるの?こんな事されたのに」
「どってことないよ。所詮、カッターナイフだ。それより、この程度で
大騒ぎしたって、誰も得はしない。お父さんだって人生を棒に振りかねない……」
「そんなのっ、自業自得じゃない!」
 晴明はふっと笑った。
「いつも冷静な君らしくないな。お父さんだけの問題じゃないだろ?君にだって
振りかかって来る事なんだ。僕は、それから君を守りたいだけだ」
「わ、わかったわ。わかったから……」
 蕗子は泣きながら晴明にしがみついた。
 広志は呆然と二人を見ていたが、晴明に「帰って下さい」と促されると、
小さく頷いてよろよろと立ち上がり出ていった。
 耳元に溜息交じりの息がかかって、蕗子は晴明から体を離した。
「足が痛い……。手当して欲しいな」
 子供みたいな言い方だ。
「もう。晴明さんったら……。私、これでも血が苦手なのよ?怪我の
手当てなんて、した事が無いのに」
「ええ~?ほんとにぃ?」
 晴明は不安げな声を出した。顔も困ったような顔をしている。
「病院で手当てをしてもらった方が良く無くて?」
「だけど、そしたら状況を訊かれるよ?傷害事件と思われたら困るじゃないか」
 それはそうだ。蕗子は事務所に置いてある救急箱を取りに立った。
その間に、晴明は傷口を押さえながらナイフをそっと抜いて、ズボンを脱いだ。
「歯が折れて無くて良かったよ。刺さった深さも三センチくらいだ」
 抜いたナイフを見せられて、確かに三センチくらいまでが血濡れていた。
「こんな物で、『死んでくれ』なんて、お父さんも、相当いかれてたんだな」
 晴明は痛みに顔を歪めながら笑った。
 蕗子は傷口を消毒した。
「ねぇ。傷口は一センチくらいだけど、三センチって結構深いと思うわよ。
血、止まるかしら?心配だわ。やっぱり、病院に行きましょう。ついうっかり
刺さっちゃったって言えばいいわよ」
「だけど……」
「だけど、じゃないの」
 蕗子は止血の為に患部にガーゼを強く押し当てて、その上から
包帯を巻いた。傷口を見た感じでは、血が溢れて来る感じは無かったから、
大量出血の心配はないだろう。
 バッグから携帯を出すと、近くでやっている外科を探した。幸い、
まだやっている病院があった。そこへ電話をしてからタクシーを呼んだ。
「蕗子さん。ズボンどうしよう?まさか、幾ら夜だからって、このままで外へ出るのは」
 男なんだから、そのくらいいいじゃないと思いつつ、確かに恥ずかしいだろうとも
思ったので、蕗子はデスクの引き出しから常備している膝かけを出した。
「これを巻けばいいわ。どうせ病院で治療を受けるのにズボンは邪魔だしね」
「なんだか、これはこれで恥ずかしいな。マキシスカートみたいだ」
「文句、言わない」
 と言ったが、目にすると笑いそうになった。
 歩くのに肩を貸した。
「痛い?」
「まぁね。ズキズキするよ。参ったね」
「ごめんなさい。私のせいで……」
 晴明は蕗子の肩を強く抱いた。
「元はと言えば、僕のせいだろ。それより、君が無事で良かった」
 その件については、同感だった。迎えに来て貰う事になっていて良かった。
まさか、父が終業後を狙って事務所に押し掛けてくるとは思って無かった。
夏のあの時、蕗子が去った後、我に返ってくれたものと思っていたのに。
 晴明との事を反対するのは理解できる。それは仕方のない事と思っている。
だけど、それと娘をレイプするのとは別の話だ。
 あの時は、お父さんはきっと自分を見失っていたんだ。その後で、
自分を取り戻せば、自己嫌悪に落ちて反省するに違いない、そう思っていた。
それなのに、まだ妄執に囚われていたとは。
「お父さんが、こんな事をするなんて……」
「そうだけど……、もう終わりだよ、多分。お父さんも、これで目が覚めると思う」
「そうだといいけど、まだ心配だわ」
 二人はタクシーに乗って、近くの病院へ行った。怪我をした状況を案の定
訊かれたが、蕗子の仕事中に、ナイフを手にしていると言うのにじゃれついて、
揉み合っているうちに、うっかり刺さってしまったと、晴明が恥ずかしそうに
医師に行った。
「要するに、いちゃついていたってわけですね?」
 疑い深そうな目で言われて蕗子は内心狼狽したが、晴明は一層照れた
顔をして、「そういう事なんです……、すみません」と言った。
「まぁ、傷口を見ると、ナイフは垂直に刺さって、捻りも何も無いから
良かったですね。それにしても、いい歳をして、何をやってるんでしょうねぇ」
「いやぁ~、お恥ずかしいです。なんせ、新婚なものですから。彼女の方が
仕事が忙しくて、なかなか構って貰えないものですから、つい、こう、
いたずらしちゃったんですよね。家でも時々やっちゃうんですよ。その時は
彼女が包丁を持ってたりする時もあるんで、注意はしてるんですけどねぇ」
「ちょっと御主人。それは危険だから、絶対にやめるように」
「はぁ、すみません。気をつけます」
 晴明はヘラヘラと笑いながら、頭を下げた。蕗子は恥ずかしくて何も言えなかった。
 帰りのタクシーで文句を言った。
「もう。幾らなんでも、じゃない?私恥ずかしかったわ」
「あはははは。でも、効果があっただろう?普段からそんな事してて、
それでとうとう……って思ってくれたよ」
「だからって……」
「いいじゃないか。終わり良ければ全て良し。もうこれからは、刃物を持った
状態でじゃれつきません!あははは」
 蕗子は呆れながらも、こんな風に笑い話にしてくれた晴明の思いやりが嬉しかった。


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