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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第18章 玉虫色 第1回

2010.04.15  *Edit 

 文化祭の日、増山からメールが来ると思っていたのに、結局来なかった。
 夏休みが終わってからは、互いに毎日のメールは控えている。
我慢しているわけではないが、毎日顔を合わせているし、学校が始
まって忙しくもあるので、無理はしない。理子もこの日は全てが終わった
脱力からか、酷く疲れたので、マメにメールチェックしながらも、
自分の方からメールはしなかった。
 理子は朝5時に起きるので、夜は10時に寝る。寝る時間に
なってもメールは来ていなかったので、就寝した。理子の生活
スケジュールを増山はしっかり把握している。この時間に来て
無いと言う事は、今日はもう来ないと言うことだ。ちょっと
ガッカリしたが仕方が無い。増山も事後処理等で忙しいのかもしれない。
 翌日は振替え休日だった。去年は枝本と映画に行き、そこで
増山が女の人と一緒にいるのを目撃したのだった。彼女だと
ショックを受けた。あれからちょうど一年になるのか。振り返って
みると、何だか早く感じた。好きになったら辛くなると、必死に
踏みこらえていた時だ。あの時に枝本との間で揺れたが、自分の
心に正直に進んで良かったと、今は思っている。そんな事を思い
出しながら、理子は一日勉強で過ごした。
 翌朝、いつも通りに登校した。文化祭の名残がまだ残っていて、
クラスメイト達は興奮していた。上映したフィルムの評判が
良かったこともあった。あのフィルムはDVDに落として、
全員に記念に配られる事になった。各人の手元に残るのである。
 始業の鐘が鳴った。きっちりしている増山は、鐘が鳴ってから
1分以内に教室へやってくるのに、何故か今日は遅い。どうし
たんだろう?もしかして、休み?増山は赴任してから一度も
休んだ事は無かった。来るのが遅い事に皆が気付き出して、
教室内はざわついた。
 やがて、5分過ぎた頃に副担任の斎藤がやってきた。これで、
増山は休みらしいと皆は推測した。
 「え~・・・」
 と、斎藤は教壇に立つと、皆を見回してから言いにくそうに言った。
 「増山先生はお休みです。一昨日、某駅で事故があった事はみんな
テレビで知ってると思うが、あの事故現場に、帰宅途中の増山先生が
いて、巻き込まれて怪我をしてしまった。命に別条は無いんだが、
1カ月程入院する事になりました」
 斎藤の話しに、一同は驚愕して大騒ぎになった。理子は驚きの
あまり、何も言えずに蒼白になった。
 一昨日の事故の事を、理子はあまりよく知らなかった。最近は
テレビを殆ど見ないからだ。昨日の朝刊の地方版に出ていたが、
ざっと見ただけだった。
 一昨日の夜7時過ぎに、某駅で人身事故があった。飛び込み
自殺だった。飛び込んだ人間は列車の前ではなく、列車が入って
きて勢いがまだ衰えぬ中、車体に突っ込み、跳ね返ったのだった。
駅は多くの人で混みあっていた。その跳ね返った体が電車を待って
混雑している人混みにぶつかり、周囲はパニック状態になったのだった。
 跳ね返って来た人間を避けようと、多くの人間が後先を考えずに
後へ思いきり引いた。そして、そのままドミノ倒しのように後の
人間に雪崩れ込んだ。場所が階段の近くだった事もあり、電車が
入って来た事で慌てて掛け登ってきた人の波までも押し返し、
多くの人が倒れ、下敷きになったのだった。
 増山はその時、階段の半ば下の方にいた。これだけの人混み
だから、どうせこの電車には乗れまいと、のんびりした歩調で
昇っていたら、いきなり上から人が雪崩のように倒れこんできて、
避ける間もなく押され、階段下まで滑るように落ち、下敷きに
なったのだった。頭を強く打ち、気絶した。多くの人間が、
周辺の病院へ救急車で運ばれた。増山も、目覚めた時には
病院のベッドの上だった。
 理子は体が震えてくるのをどうしようも出来なかった。一昨日の夜、
何度も増山からのメールをチェックしていた。あの時既に増山は
事故に遭って、病院にいたのだ。何も知らなかった。どうして
自分の所に何も連絡が来ないのだろう?一昨日の晩はともかく、
昨日は連絡があってもいい筈だ。
 「増山先生は、どこの病院に入院されてるんですか?」
 生徒の一人が訊ねた。その言葉に理子は耳に神経を集中した。
 「増山先生のたっての頼みでね。教えられないんだ」
 ええー!?そんなー、と、皆が不平を言う。
 「どうして教えて貰えないんですか?僕達、お見舞いに行きたいです」
 そうだ、そうだと次々に声が上がる。
 「ちょっと遠い病院でね。先生は君達の勉強の妨げになりたくない
と言っている。一か月すれば退院するんだし、そうしたらすぐにでも
登校するから、それまで頑張ってくれ、との事だ。手紙とか、見舞い
の品があるようなら、こっちで預かって渡すから」
 斎藤の言葉に、皆はまだ納得できないでいた。
 「不満だろうが、君達が見舞いに行ったら、増山先生の療養の
邪魔になるだろう?暫くは面会謝絶の絶対安静なんだ。肋骨が
折れたようでね。苦しくてお喋りなんかできないらしい。だから
我慢するように」
 斎藤はそう言うと、出席を取り始めた。教室のざわめきは
静まらない。理子は泣きたい気分だった。涙を堪えるのがやっとだ。
命に別条は無いとは言いながら、肋骨が折れていて、苦しくて
話せないなんて。他に悪い所は無いのだろうか。気になって
仕方が無い。逢いたい。顔を見たい。無事な姿を見たい。
 1時間目の授業は気もそぞろだった。クラス内も落ち着かない。
みんな、ボソボソヒソヒソと話しをしている。どこの病院なんだろう
としきりに皆気にしていた。涙ぐんでいる女子が何人もいた。普段
無関心を装っているだけに、理子は涙ぐむことさえできない。
 1時間目が終わって休み時間になった時、校舎の外へ出て紫に
電話をかけた。
 「もしもし?理子なの?」
 紫の声が聞こえて来た。
 「お義姉さん、一体、どういう事なんですか?どうして連絡して
くれないんですか?」
 「聞いたのね?だけどあなた、今どこにいるの?」
 「学校です。1時間目が終わったので・・・」
 「そう。先生に聞いたでしょ?そういう事だから」
 紫の言い方を冷たく感じた。
 「そういう事って、どういう事なんですか?」
 「病院へは来るなって言って無かったかな」
 紫の言葉にショックを受けた。
 「私も、なんですか?」
 理子は涙が込み上げてくるのを感じた。
 「そうよ。だってあなたは今大事な時じゃない。病院へ出向いて
いる暇なんて無い筈よ」
 「そんな・・・・」
 「理子。命に別条は無いんだから、そう心配しないで勉強に励んで
頂戴。マーもそれを望んでるんだから」
 「そんな事を言われても無理です。頭では理解できても、心が
言う事を聞いてくれません」
 理子の言葉に、電話の向こうで紫が溜息を吐いた。
 紫も、理子を不憫に思う。弟は事故の時に頭を打って、かなり長い間
意識が無かった。家族に連絡があったのは、事故が起きてから随分と
時間が経っていて、夜の11時近かった。怪我人が多過ぎて、搬送に
時間が掛り、同時に意識不明者の身元を確認するのにも時間が
かかったからだ。
 家でも母が心配していた。そんなに遅くまで何の連絡もして
こない事は未だかつて一度も無い。紫が帰宅したのは9時頃だった。
父はそれから間もなく帰って来たが、息子が帰っていないのを心配した。
だから電話がかかってきて事の次第を聞かされた時には、皆、
茫然自失状態だった。
 急いで全員で病院へと駆けつけた。もう、真夜中に近い。だが、
病院は搬送されてきた人達とその家族で大騒ぎだった。病室へ行くと、
弟はまだ目覚めていなかった。意識が戻らない事が心配だった。
医者が言うには、他に、腕と足と肋骨を骨折しているらしい。
命に別条は無いが、頭の方は詳しく検査してみないとわからないと
言われ、家族はいきなりの不幸に言葉も出なかった。
 正直な所、その時には理子の事など全く頭に浮かんで来なかった。
意識の戻らない、青い顔をした弟を見ていると、悲しみが溢れて来た。
両親も苦悶の表情を浮かべていた。
 その晩は全員で付き添った。翌朝、意識が戻ったので、取りあえず
皆ホッとした。だが、本人の意識は混濁していた。昨日の事だが、
一日検査に明けくれたのだった。一通りの検査が終わった夕方になって、
本人の意識はかなり回復していた。その時に、学校への連絡を頼まれた。
みんな、あまりの出来ごとに学校の事など眼中に無かったのだ。
文化祭の振替え休日で良かった。そうでなかったら無断欠勤に
なるところだった。
 その時に、弟は言ったのだ。生徒達には病院の名前は教えないで
くれと。勿論、理子にも、と。その時になって、やっと皆は理子の
存在を思い出した。だが、思い出したら、今度は弟の言葉が理解
できない。何故、理子にも教えないのだ。
 「文化祭も終わって、これからが大事な時だから」
 と、弟は言う。だが、こんな状況で集中して勉強できると
言うのだろうか。
 弟は息も絶え絶えだった。肋骨が折れているので、呼吸を
するたびに痛いらしく、その為に深く呼吸ができないらしい。
だから、話すのもしんどそうだ。
 「来ると言ったって、遠いじゃないか。土日だって、誰が
来るかわからないのに」
 理子の身を心配しての事だった。誰にも言えない恋だから、
こういう時だって堂々と出入りさせられない。重篤な怪我や
病気ならいざしらず、検査結果待ちではあるが、通常なら
一カ月で退院できる。
 「そうは言っても、理子は納得するかしら?マーだったら
どうなの?自分が理子の立場だったら、そう言われて納得できるの?」
 と紫は言った。紫の言葉に弟は苦悶の表情を浮かべた。
 紫は考える。弟に言われて、理子にも来ないように言ったが、
電話の向こうで理子は泣いている。もし自分が理子だったら、
とても耐えられないし、矢張り勉強どころではないだろう。
 「理子。よく聞いて。病院は総合医療センターよ。来るに
しても、絶対に無理をしないで。周囲の事をよく考えるのよ。
そうでないと、これから先、結婚どころじゃなくなるわよ」
 「わかりました。お義姉さん、ありがとう・・・」
 理子は携帯を閉じると、涙を拭った。泣いた事を皆に気付かれ
ないように、教室へは時間ギリギリに入った。授業を受けながら
考える。いつ行こうかと。本当なら、学校を早退したいくらいだが、
矢張りそれはまずいだろう。だから、今日、学校が終わったら直行
しようかとも思ったが、制服姿はまずいかもしれない。
 増山が高校教師である事は、入院しているうちにすぐに周囲に
知れるだろう。多くの女生徒が見舞いに来るならまだしも、
あれだけのイイ男なのに理子しか見舞いに来ないとなれば、理子の
存在を疑われるだろう。女子高生である事を知られないように
しないといけないと思った。その為には私服で行くしかない。
 紫が教えてくれた病院は、学校からも、自宅からも、1時間
ちょっとかかる場所だ。一旦帰宅して着替えてから行くとなると、
病院へは5時頃に到着する事になる。帰りも1時間かかるわけだから、
少ししかいられない。だが、それでも顔を見たい。
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