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小説・月と星の間<完>
8.婚姻


月と星の間 8.婚姻 ①

2015.01.26  *Edit 

 晴明の話しが終わる頃には、空が白みかけていた。夏の朝は早い。
もう夜が明けようとしている。
 この隣にあるアトリエで、この景色を見ながら晴明は毎晩絵を
描いていたんだ。まだ暗い上方の空に残っている星は、ただ輝いているだけだ。
人間はそこから、色んな事を読みとろうとしてきた。
 星の運行を測り、そこから規則性、法則性を見つけ出しては運命を占ったり、
ただ心のままに見つめて、自分の中にある感情を整理したり映し出したり……。
「蕗子さん……」
 晴明の話しが終わった後も、無言のまま空を見ている蕗子に、
不安になってきたのだろう。晴明が呼びかけた。
「晴明さん……。話してくれて、ありがとう」
 蕗子は口辺に笑みを浮かべた。
「……これで、良かったのかな。僕は何だか不安なんだ」
 暗い眼をしていた。
「なぜ……?」
 蕗子の問いかけに、晴明は首を振った。
「わからない。だけど、たまらなく不安だ」
 なぜ晴明は不安になるのだろう。不安になるべきなのは、蕗子の
方ではないのか。それとも、そう思うから、晴明も不安になるのか。
「ひとつ、教えて欲しいんだけど……」
「うん……」
「里美さんとの愛について。……後悔している?」
 思ってもみなかった質問だったのだろう。表情が固まっている。蕗子の方に
向いていた顔を天井に向けた。暫く沈黙していたが、やがてゆっくりと、
呟くように言った。
「正直に言うよ。その事で、君を傷つけたら嫌だけど、嘘はつきたく無いから……」
「いいの。正直に言って」
「……端的に言えば、今は後悔していない。……本当は、そんな一言で
片づけられる事じゃないんだけどね。彼女を失った直後は、後悔していた。
愛を無理につき通した事で、彼女を失くす事になってしまったんだから、とね。
そう思っている方が、実は長かった。でも段々と変わって来た。彼女との
愛を後悔したら、彼女が可哀想だって思うようになったんだ。それじゃぁ、
彼女は何のために生まれて生きて来たのか分からないじゃないかって。
僕と愛し合った事で、確かに幸せだったんだ。僕だって同じだ。
その時の想いを大事にしなきゃ、ただ惨めなだけだ……」
「ありがとう。良かった……」
 晴明は顔を蕗子の方に向けた。
「本当に?傷ついてない?」
「うん。私も思うの。晴明さんが後悔していたら、里美さんが可哀想過ぎるって」
 晴明は蕗子の肩を抱き寄せた。
「ありがとう……」
 せつな過ぎる話しだった。どうしてなんだろう。本当に、神のいたずら
だとしたら、酷過ぎる。運命とは、こんなにも過酷なものなのか?
でも、誰もが受けるわけではない。なぜ、晴明と里美は、こんな目に
遭わなければならなかったのだろう。晴明自身、ずっと問い続け、未
だに答えは見つからない筈だ。
「私たちは……、どうして出逢ったのかしら……」
 蕗子が呟いた。
「もし神がいるのだとしたら、きっと僕に対する罪滅ぼしだ」
「え?」
 深刻に問うたのに、何だか思いもしない可笑しな答えに目が点になる。
いや、彼も深刻なのだろうが、どうもピントがズレていると時々感じる。
「僕を地獄のどん底へ落した事に対する罪滅ぼしだよ。その為に、
天使の君を僕の元に使わしたんだ」
「はい~?」
 真面目な顔で言っているのが、たまらなく可笑しい。
「ねぇ、何か、その台詞。歌の文句になかった?」
「え?そうだった?」
「私、真面目に訊いてるんですけど」
「僕も真面目に答えてるんだけど」
 ふぅ、と思わす溜息がこぼれた。
「じゃぁ、私は?天使の私は、どうして?私はあなたを救う為だけに出逢ったの?」
 晴明は一層真剣な顔つきになった。
「君はどう思う?」
「正直なところ……、分からないわ。分からないから訊いたのに」
 自分が、神が罪滅ぼしの為に晴明に使わした道具だとは
思いたくなかった。そう。天使とは聞えがいいが、結局は道具だ。
私自身は、そこに存在してないように感じてしまうのは何故なのか。
単なる蕗子の僻みに過ぎないのか。
(私だって苦しんだのに……)
 そんな風に思ってしまう。晴明の苦しみに比べたら、大した事では
ないのに。こんな風に思う自分がおかしいのだろうか。間違って
いるのだろうか。私自身も、自分の気持ちを主体にしか考えられなく
なっているのかもしれない、そんな風にも思う。
 そして、何より一番思うのは、愛って一体何なんだろう、と言う事だった。
そして、運命とは。時間とは。空間とは……。
 ここで、一年半もの間、ただ愛だけを見つめて暮らしていた二人。
生涯の伴侶はこの人しかいないと互いに思って、兄妹と知りながらも
離れられなかった二人。死が二人を別ってしまったが、それがなければ
今でもここで愛を育んでいたに違いない。
 それほどまでの愛があったのに、この人は今、ここで私を愛している……。
 私達の愛も、いつか風化してしまう時がくるのだろうか。
 その時、きっと死ぬまで彼の中に残るのは、里美さんとの愛だろう。私ではなく。
 そんな風に思えてしまうのだった。
 こんな思いに、この先もずっと囚われていくのだろうか。
 諦めきれないと言ってくれたけれど、それは里美との時だって
同じだった筈だ。それなのに、今は私を……。
 蕗子は晴明の話しを聞いているうちに、愛という存在の頼りなさを
感じてしまったのだった。普遍ではないと言う事を。じゃぁ愛とは何だ。
結局、男女の間では、肉欲的な事と結びつかずにはおれないのか。
そしていつか飽きて終息していく……。そう考えると侘びしくなってくるのだった。
「君はやっぱり、僕の話しを聞いて後悔し始めているのかな」
 驚いて晴明を見た。すっかり明けてしまった朝の光を浴びて、
白く沈んでいるように見えた。
「後悔って、あなたとの関係の事?」
 晴明は頷いた。
「どうして?」
「分からないけど、なんとなく……」
「後悔はしてないわ。あなたの話しを聞いて良かったと思ってる」
「でも君は、どこか寂しげで、割り切れないような複雑な顔をしてる」
「それは……。ごめんなさい。割り切れないと言えば、割り切れないわ。
割り切れるような事じゃないでしょ。私、基本が理数系だから、
割り切れない事は苦手よ。ただ、数学の世界では、本当は割り切れない
ものなんて無いんだけどね」
「それはどういう事?」
「数値としてきっちりと当てはめようとするのは人間よ。そもそも数を
決めたのだって人間だし。でも、実際には、割ろうと思えば物質は
幾らでも割れる。そう考えると人の心だってそうなのかもしれない。
割れないのは割ろうとしない主体側に原因があるんだわ」
「なるほど……」
 晴明は考えるように眉間に力を入れていた。
「僕が不安に感じたのは……、きっとそういう君の性質が、突き詰めて
答えを出そうとして、僕の望まない方向へ行ってしまうんじゃないかって
事なんじゃないかって今分かった気がするよ」
「晴明さん……」
 蕗子は自分の事を言い当てられた気がして戸惑った。
「ごめんなさい。私、考え過ぎるんだと思う」
 晴明の指が伸びて来て、蕗子の頬をなぞった。
「いや、いいよ。そういう所も好きなんだ……」
「本当に?」
「ああ」
「でも、晴明さん」
「うん?」
「最初に逢った瞬間に恋に落ちたんでしょう?私の事なんて、何も知らないのに」
「確かにね。でもね。その瞬間に、全てを知ってしまったような気がするんだ」
「そんな。それこそ、神でも無いのに」
「ははは……。この人はこういう人だって言葉であれこれ分かるんじゃなくて、
言葉で無い何かで、その人自身の全てが分かって好きになってしまった。
そんな感じかな。的確な言葉は出て来ない。そもそも言葉で表現
できることじゃないと思う。その事は、君にも分かってると思うけど……」
「そうね……」
 結局、自分も同じだった。認めたく無かっただけで。
 ただ、怖いのだ。過去の愛を知った事で、今の愛が、それを超えて
いるのかいないのかを考えてしまう自分が。
 終わった愛をあれこれ考えてみても仕方ないのに、終わったという事実が、
今の愛の未来まで暗示しているような、そんな気にもなってしまう。
愚かだと思うが、消せない思いだった。
「もう少し話していたいけど、少し眠らないか?夜が明けてしまったけど、
全然寝て無いからね。頭も働かなくなってきてないかい?」
「そうね。あなた、眠そうな顔をしてる」
「君もね……」
 そうだ。少し眠った方がいい。お互いに。ひとまずここで、休憩だ。
 二人は頭を寄せ合って、互いの呼吸を感じながら眠りに落ちた。

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