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小説・月と星の間<完>
7.孤影


月と星の間 7.孤影 ⑥

2015.01.21  *Edit 

 僕の父親が日本画家の倉山行人だって事は、君のお父さんから聞いたと思う。
倉山行人の家は旧家でね。結構、金持ちだったらしい。その家の二男坊で、
小さい時から絵が好きで、芸術好きな父親、僕にとっては祖父なんだけど、
その祖父が行人の絵を日本画の巨匠の北山鳳仙に見せたんだ。
伝手があったらしいよ。それで、是非、弟子入りさせないかって言われて
喜んで弟子入りさせた。
 正直、恵まれてると思うよ。彼の華やかな画風も鳳仙から受け継いでるよね。
行人は華ばかり描いてたから、余計に合ってたと思う。
 鳳仙には一人娘がいたんだ。その娘は弟子の一人が婿養子に
来てたらしんだけど、鳳仙は行人を弟子入りさせた後で後悔したと
言われている。娘に婿を貰うのを早まったってね。それほど、
買っていたみたいだ。行人の事を。
 行人が鳳仙の婿になっていたら、その後どうなっていただろうね。そんな事を、
後から考えた事もある。馬鹿げていると思いつつ。……行人が一緒になったのは、
僕の母。母は阿部和実と言ってね。鳳仙の娘の女子大の後輩だったんだ。
茶道部のね。それで北山家に出入りしているうちに互いに見初めた。
 母の実家の阿部家も一応、名家でね。お嬢さんだったんだ。だから、
倉山家にとっては文句は無いし、阿部家にとっても、旧家の次男坊で
鳳仙の愛弟子である行人に文句は無かった。絵に描いたような
美男美女だったらしい。
 結婚して、行人も画家として名を上げるようになってきて、僕が生まれて。
暫くは充実した生活だったみたいだ。亡くなった母も、その頃をよく懐かしんでた。
一番世界が輝いていて幸せな時だったって。でも、段々と不審な影が
忍び寄ってくるのを感じたらしい。
 行状が少しずつ派手になってゆき、その一方で、時々酷いスランプの
ような物に悩まされるようになって来て、その度に、母や僕に当たる。
帰らない日もあって、その頻度が増していった。母は他に女がいる事に
薄々気付いてたらしい。
 そしてとうとう、出ていった。自分の荷物の全てを持って。母と僕を残してね。
僕が四歳の時だ。でも僕は全然覚えてないんだよ。父の事を。
父と過ごした時間も、父の顔さえも。四歳くらいなら、少しは覚えていても
良さそうなのにね。
 母は僕を連れて実家に戻った。阿部家の怒りは凄かった。師匠である
北山鳳仙もね。妻子を捨てて、愛人の元へ走った行人を、破門した。
阿部家に対し、そうしなければ顔向けができないって、ひたすら弟子の
代わりに謝ったらしい。阿部の実家では、倉山家から相当の慰謝料を貰って
正式に離婚させる事に決めた。
 それからの僕は、ずっと阿部の家で育った。母は美しくて優しい女性で、
おっとりしてるんだ。阿部家の中では大事に育てられてきたみたいで、
戻ってからも皆から大事にされていた。ただ僕は、どこか厄介者な匂いが
付いて回ってた。何と言っても、行人の息子だからね。でも誰も、
僕の父の事を話題には出さないんだ。
 僕は、ずっと自分の父親が行人だとは知らなかった。死んだって
聞かされてたんだよ。ただ、画家である事は知ってた。どうしてかって言うと、
僕も小さい時から絵を描くのが好きでね。暇さえあれば描いてたんだけど、
その姿を見る母の目が悲しいんだ。どうしてなのか知りたかったけど、
あまりに悲しそうで母には聞けなかった。だから祖母に聞いたんだ。
その時に、「お前の死んだ父親は日本画の画家だったんだ」って教えてくれた。
それで、僕が日本画を描くと母が悲しくなるから、違う絵にするといいって
言われてね。
 子供の時は、日本画って何?って理解できなかったけど、結局のところ、
自分は洋画の方が好きみたいだから問題は無かったわけだけどね。
 今から考えると、阿部家ではどこか肩身が狭くて居心地が悪かったけれど、
僕が絵の世界へ進む事には反対しなかったのが不思議だし、感謝してる。
ずっと孤独だったんだ。絵が無かったら僕の人格はもっと歪んでいただろうって
思うよ。今でも人より変わってるって自覚してるんだよ?これでも。
 里美と出逢ったのは、僕が美大の研究生だった頃だ。大学院を出た後も、
大学に残ってた。その頃は、普通に風景画を描いていた。今から……
六年くらい前になるのかな。その頃は初台のあの家に住んでたんだよ。
僕が美大に入学した時に、母が実家にねだって建てて貰った家だったんだけど、
大学院を卒業して間もなく、母は亡くなってしまった。
 母子家庭だって言うのに、金銭的な苦労は無かったから、いつまでも
お嬢様みたいな女性だったな。再婚もしないでね。縁談はあったんだ。
でも、僕がいたからね。僕を何より大切に思ってくれていたから、
僕を連れても置いても嫁ぎたく無かったらしい。
 女としての幸せを考えて無かったのか。それとも、ずっと行人に想いが
あったのか。後から思い出したんだけどね。行人が自殺した時、僕は確か
中学三年だったと思うんだけど、朝、母が新聞を見て泣いてるのを見たんだよ。
びっくりしてね。慌てて駆け寄って声をかけたけど、「なんでもないの」と言って
首を振りながら涙を拭ってた。そばから新聞を覗いたら、行人の自殺の記事が
出ていたけど、その時には分からなかった。
 行人が自分の父親だと知った時、あの時の母の涙の意味が分かったけれど、
その気持ちは今でも理解できないでいる。
 それで里美と出逢ったのは、彼女の個展が開かれた時だ。この辺は、
君のお父さんの報告通りだよ。美大の関係者で陶芸好きな友人がいてね。
最近、注目している作家がいて、個展をやるから一緒に行ってくれって言われた。
行きたきゃ勝手に一人で行けばいいのにって、その時は思ったよ。陶芸に
興味が無かったわけじゃないけど、僕は何を観るにしても、
人と一緒に観るのは苦手なんだ。
 一人一人、感性が違うだろ?何に魅かれ、どんなペースで観るか、
それぞれだからね。人と一緒だと自分勝手に観てられない。なんせ
そういうのを批判するお国柄だし。でも、誘われて無下にも断れず、
一緒に観に行った。それが良かったのか悪かったのか……。その時に
一緒に行かなければ、出逢わなかったかもしれない。同じ絵の領分だったら
違っただろうけど。
 彼女の作品は……、君も見たね。味わい深くて素敵だって君は言った。
僕もそう思う。彼女の焼き物をそう言ってくれて、本当は内心嬉しかったんだけど、
複雑な思いでもあったんだ。
 とりたてて人を強烈に引きつけるものは無いんだけれど、それなのに、
目が離せないと言うか、引きつけてやまないものがあるんだよ。
若かったから、まだ粗削りな部分が目立ったけれど、この人はいずれ
大成するに違いない、そう思わせる何かがあった。
 観に来てる人達も、不思議そうな顔をしてじっくり観てる人が多かったな。
「なっ?いいだろう?」って友人に言われ、彼が誘ってきたのも無理は
無いって思った。それでね。縁って言うのは不思議だね。その時、
彼女の個展を手伝いに来てた人がさ。僕らの美大の先輩でね。
先輩の友人の後輩だったらしい。つまり後輩同士?それで紹介されたんだよ。
彼女を……。
 僕はひと目で好きになった。彼女は僕より五つ下。……君と同じ歳だな。
凄く控えめな大人しい女性って感じなんだけど、懸命に生きているって
印象だった。こう言っては何だけど、可愛らしい人だったね。小柄だったし。
ひっそり道端に咲いている、デイジーのような感じ。顔立ちは整ってたから、
ハキハキした性格だったら、もっと華やかなんだろうに、地味だったね。
魅かれたのは、そういう所だったと思う。多分……。
 大人しいけど意志が強くて、一歩も後ろに下がれなくて必死に前へ進
もうとしているような、けなげさとでも言ったらいいのかな。そういうのが、
凄くいじらしく感じてね。分かりやすく言えば、孤独の影が色濃く出ていたと思う。
 彼女も僕と逢って、すぐに僕を好きになったと言っていた。
同じ匂いを感じたって。でも後から思えば、それもそうなんだろうって
思わないか?兄妹だったんだから。同じ匂いで当たり前だろ。おまけに、
互いに似たような生い立ちだったわけだし。
 彼女のお母さんは、画材屋の娘さんだったんだ。行人は出入りの画材屋の
店番をしていた彼女のお母さん、紗枝さんと恋仲になった。僕が二歳くらいの
時だったらしい。それで、母に内緒で愛人として囲ってたんだ。
 どんどん抜き差しならない仲になって、とうとう紗枝さんが妊娠した。
それが里美だったんだけど、行人はそれをきっかけに母と別れる決意をした。
 僕には分からない。母とは互いに好き合って一緒になったんだし、
僕と言う息子もいる。世間的に見れば、まだ結婚してそう時間が経って
いるわけでも無かったし、一体、母に何の不足があったんだってね。
 後になって里美から聞いたところによると、あの人はいつも、些細な事で
躓いては周囲のせいにして、その傷を余所で癒そうとする人だったって。
 行人が自殺した時、里美は十歳だった。物ごころついた時から、
行人の女遊びは酷かったそうだ。芸者を家まで連れて来ることもあったらしい。
その接待を妻である紗枝さんにさせていた。だから里美は絵を描くのが
嫌いになった。元々は好きだったんだそうだ。だが、父親が絵描きだったから
嫌いになった。指先を使うのが好きでもあったから、子供の頃から、
絵を描く変わりに粘土細工で遊んでいたのが陶芸の道へ進む元になったって。
 出逢った頃、僕が絵描きだと言ったら変な顔をされた。でも洋画だと知って
安心したような顔になってね。日本画家だったら、どうだったんだろうって思うよ。

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