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小説・月と星の間<完>
7.孤影


月と星の間 7.孤影 ➂

2015.01.14  *Edit 

「スーツ、クリーニングに出していいかな」
 ジャージを着終えた時に、晴明が言った。
「ついでに服を何着か買わないとな」
 照れくさそうに笑っている。
「ねぇ……。どうして買ってあるのは下着だけなの?」
 蕗子は率直に訊いてみた。晴明の白い顔に赤みが差した。
「服はさ。万一無くても僕ので間に合うだろ。でも下着はそうはいかないじゃないか」
「それはそうだろうけど、どうせ買うならついでに買っても良くなくて?」
「服はサイズも難しいし、買うなら一緒に選びたい。それに何より、好きな女が、
自分の服を着て、そのブカブカな様がサ、可愛いでしょう、そういうの」
「はい?」
 目を合わせずに、うろたえている。
 蕗子は可笑しくて笑いだした。可愛いって、そっちこそ可愛い。
いい歳した大人の男が、こんな事を言うなんて。
「笑うなよ」
「だって……」
 見た目は若々しいが、内に凄く暗いものを秘めているせいか、落ち着きが
あると言うのに、時々見せる子供っぽさが妙に女心をくすぐってくる。
 晴明は笑う蕗子をいきなり抱きしめた。
「あっ……」
 ジャージの上から乳房を掴まれた。
「ブカブカのジャージ姿……、凄く、可愛いよ……」
 耳元で囁くように言って、首筋に唇を這わせてきた。
「晴明さん……」
「自分のものだって、実感するんだよ……。僕の選んだ下着を着けて、
僕の服を着て。……愛してる。誰にも渡したくないよ」
 唇が重なり合った。啄ばむように、互いの唇を吸い合った。
そっと離して見つめ合う。
「分かってくれた?」
 蕗子はこくりと頷いた。
「じゃぁ、クリーニングに出すついでに、服を一緒に買おう」
「そうね……って、あーっ!!」
「どうしたの?」
 蕗子は壁の時計を見て驚いた。九時を回っていたからだ。
「やだ、しまった!!もう九時過ぎてる!」
「えっ?」
 蕗子は急いでバックを掴むと、中から携帯を取り出した。着信ランプが点いていた。
「ヤバイ!」
 と言いながら、携帯のボタンを押す。
「あっ、私です。五條です。ごめんなさい!!今日、都合で行けそうにないの。
お休みします。ごめんなさい!……あ、はい……」
 晴明は呆気に取られた顔をしていた。
「あ、もしもし、所長?すみません。本当に申し訳ありません。……あの……、
夕べあれから、ちょっと色々あって……。差し迫ってしまったので、東京を
脱出しちゃったんです。今日休む事は、ちゃんと連絡するつもりだったんですけど、
なんか取り込んでしまって……。はい、はい、大丈夫です。……え?でも……。
それじゃぁ、そちらは困るんじゃ……。本当にいいんですか?……はい……。
ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます。
……はい。詳しい事は、また後日にお話ししますので。……はい。はい。
はい、わかりました。はい。はい。どうも失礼します」
 蕗子はペコリと頭を下げて、携帯を切った。
 ふぅ~、と大きく溜息をつく。とんでもない、大失敗だった。会社に休む
連絡を入れ忘れるとは。無断欠勤するところだった。
「蕗子さん……」
 晴明を見ると、驚いて呆れて二の句が継げないといった顔をしていた。
「あはは、やっちゃった~。私とした事が……」
 蕗子はポカポカと自分の頭をゲンコで小突いた。
 晴明は小さく息を吐くと、笑顔で言った。
「いや、僕も悪かった。気付かなくて。週末でも無いって言うのにね。
君には大事な仕事があるって言うのに、ずっとここに居るつもりになってたよ」
「晴明さん……。ごめんなさい。あなたのそばに、ずっといたい。
でも仕事があるから」
 蕗子は寂しげな顔をして、晴明を見上げた。そんな蕗子をせつなげに
見る晴明に、蕗子はニンマリと笑った。
「この際だから、一週間、休みをくれるって!キャハ」
「えっ?」
 晴明は一瞬、理解できなかったようだ。
「え、何?どういう事?」
 訊き返してきた。
「やぁねぇ。アメリカにいすぎて、日本語理解力が低下しちゃったとか?」
「ちょ、なんだよ、君ってばそんな酷い事を言うのかよ。
ちゃんと説明してくれてもいいだろう?」
 うろたえてる晴明を見てるのが楽しい。こんな風に、この人を
オロオロさせるのが。自分にこんな一面があるとは思わなかった。
でも、そんな自分を愛おしく感じる。今まで体験したことのない感覚だ。
恋人との、こんな時間が蕗子を幸福な気持ちにさせる。
「所長がね。どうせ、そろそろ夏休みの時期に入るから、このまま一週間、
休んでいいよ、って言ってくれたのよ。ね?嬉しいでしょう?」
 浮かれている蕗子の様を見て、晴明は呆れ顔になった後、嬉しそうに笑った。
「凄く嬉しいよ。君が仕事を休める事を喜んでいることが。
誰より仕事虫の君が、僕と一緒にいられる方を喜んでくれてる事が。とっても」
 蕗子はハタと晴明を見た後、ゆったりと微笑んだ。
「ありがとう……。私、本当に嬉しいの。長くは無いけど、暫くは一緒に
いられる。あなた、私の所に泊まった事、一度も無かったわよね。
まぁ、あの狭い、何にも無い場所じゃ、泊まっても朝食は調理パンとかしか
ないけど……、でもね。私本当は、言わなかったけど……寂しかった。
あなたが蘇芳と別れる前から、夜空を見る度に、星は見えないけど、
あなたの絵を思い出して、それからあなたを思い出して、胸が軋んだ。
自分の心を打ち消すようにしてたけど、それでも……」
「ごめんよ……、気付かなくて。君の部屋へ出入りするようになってから、
何度泊まっていきたいと思った事か。だけど、僕はできなかった。
しちゃいけないと思ってた。だから、君が来てくれて、本当に良かったよ。
君は、身ひとつで来てくれた。三軒茶屋を出る時には持って出た大事な
パソコンすら持たずに……。まぁ、差し迫っていてそれどころじゃ
なかったんだろうけど。だから、そんな思いをして来てくれたのに、
僕は本当に悪かったよね。本当に、ごめん」
 晴明は蕗子を抱きしめた。蕗子も抱き返す。
「離したくないよ」
「離れたくない……」
 蕗子は晴明の腕の中で、彼の匂いを感じながら、ふと思った。
亡くなった人とも、こんな風に離れがたかったのかと……。



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