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小説・月と星の間<完>
7.孤影


月と星の間 7.孤影 ①

2015.01.09  *Edit 

 蘇芳の手紙を読み終えて、蕗子は愕然として体が震えた。
「蕗子さん……」
 傍で覗き見ていた晴明に声をかけられて、蕗子はギョロリと横目で彼を見た。
晴明も青ざめた顔をしている。
「こんな事……、信じたくない。信じられないって、思うでしょ?でも……。
でもね。夕べ、私……」
 蕗子は言葉を継げなくて、両手で顔を覆って泣いた。
 ずっと前から、子供の時から、お父さんは私を?あんな事が無ければ
信じられない話しだった。だが、夕べの父の行為。異様にギラついた目、
荒々しい息に、自分の太ももを這った手……。全体重をかけるように、
のしかかってきて……。
 蘇芳の書いてある事は、その通りなんだ。母の素っ気なさもこれで合点がいく。
そして、ずっと蕗子の彼氏を蘇芳に誘惑するように仕向けていたとは。
晴明との事が無くとも、ずっと自分の手元に置いたまま、いつか夕べのような
事をしようと思っていたのか。
 晴明は、かけるべき言葉が見つからない代わりのように、蕗子の頭をそっと撫でた。
「ど、どうして来たかって……、訊いたわよね」
「蕗子さん、それは、もう、いいよ……」
 苦しげに晴明は言った。
「おかしいと思うでしょ?……スーツ姿のまま、ハンドバックだけで、
レンタカーに乗って、深夜に……」
「蕗子さん……」
 蕗子はバックからティッシュを出して、鼻をかんだ。そして、涙を拭いながら
晴明を見た。晴明はかばうような、慰めるような、それでも触れたくても
触れられないような、まだ遠慮したような気配を漂わせている。
「昨日、仕事が終わって、部屋へ帰ったら、中にお父さんがいたの……」
「えっ?」
 何かあったのだろうと予想はしていただろうが、部屋の中にいたと言う事実は
驚愕する事だろう。誰だって、何故いるんだと思うに違いない。
「私がいる時に、やって来たんじゃないのよ。あなたの事を教えに来たのは、
多分あなたの所に手紙がいったのと同じ頃だと思う。凄く不愉快で、
父の姿こそ、おぞましいと思った。だから、またやって来ても上げなかったわ。
引っ越せって強制的な言い方して、それで引っ越したのか確認に来たのかも
しれないけど、私、仕事でミスしちゃって、所長に残されてね。父が来た時は
いなかった。父は管理人に掛けあって、身分証を見せて父親の権利を
振りかざして、開けて貰ったそうなのよ」
 思い返すと身の毛がよだつ。ザワザワと寒気がしてくる。
 蕗子は自分を抱きしめるようにしながら、父から受けた行為を晴明に話した。
晴明は黙って聞いていたが、聞き終わった時には、酷く青ざめていた。
 『近親相姦がどういうことなのか、教えてやる』そう言われて、父親に
強姦されそうになったのだ。晴明には言うべき言葉が見つからないのだろう。
 暫くの沈黙の後、晴明が悲しそうに呟いた。
「みんな、僕のせいだ……」
 蕗子は驚いて晴明を見た。冷たい瞳が、洞のように暗く沈んでいた。
これまで何度か似たような眼を見て来たが、これ程、底が知れないと
思うほどの深さでは無かったと思う。
 その眼が、蕗子の視線を捉えた。
「ごめんよ。僕のせいで、君を酷い目に合わせて」
 蕗子は思いきり首を振った。
「でも、良かった。君が無事で。それでも、凄く傷ついたよね……」
 蕗子の目から、ポロリと涙がこぼれた。
「晴明さん……。あなたに、逢いたかった。とっても、とっても。
他の誰でもない、あなたに……。だから、ここへ来たのよ?」
「おぞましい、近親相姦のケダモノなのに?」
 晴明は、まるで自分を嘲るように笑った。それはまるで、笑いながら
啼いているようだった。胸がえぐられる程、悲しい笑みだ。
 蕗子はたまらなくなって、晴明の胸に飛び込んで、彼の体を抱きしめた。
「蕗子さん、駄目だ」
「どうして?」
「僕は君に触れてはいけないんだ。君を……穢したくないよ」
「馬鹿な事を言わないで」
「馬鹿な事?」
「そうよ。何故、そんな風に思うの?私たちは別に近親相姦でもなんでも
ないじゃない。なのに、どうして?私には父の主張は全く理解できない」
「蕗子さん……」
「お願いだから。私を抱きしめて。ギュッと強く。あなたに抱きしめて
もらいたくて、こうして来たって言うのに。酷いじゃない。私に冷たくして」
 蕗子は晴明を強く抱きしめた。晴明は戸惑いながら、蕗子の背中に手をまわした。
「だって、いいのか?本当に。僕をおぞましいと思わないの?」
「思わないわ。だから父は、私にあんな事をしたのよ。でも父は間違ってる。
あの人こそ、おぞましい人よ」
 晴明は、回した手に力を入れて来た。
「蕗子さん……。僕は本当に、おぞましい男なんだ。だから……、
もう誰も愛さないと決めていた。それなのに、僕は君を……。諦めるべきだったのに、
無理だった。どうしても、無理だったんだ。でも、肝心な所で、僕はくじけた。
怖くなった。手に入れる事よりも、失う事の方が怖かった。手に入れたら、
また失うんじゃないか。里美のように……君を不幸にしてしまうんじゃないか。
指の間からこぼれ落ちる砂のように、儚い幸せで終わってしまうんじゃないかって……」
 晴明は蕗子を抱きしめながら泣いていた。
この人がずっと背負ってきた深い悲しみを晴らしてあげたい。この人が、
ずっと夜しか描けなかったのも、闇しか見えなかったからだ。その中で、
僅かに光る星々と、煌々と輝く月だけが、唯一の灯だったのだろう。
その僅かな光量で見えるものだけが彼の心の景色だったに違いない。



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