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小説・月と星の間<完>
6.葛藤


月と星の間  6.葛藤 ④

2015.01.05  *Edit 

 燦々とした太陽が顔に降り注いできて、蕗子は眩しくて目を開けた。
いつもと違う感触と景色に慌てて飛び起きて、自分がソファの上に
寝ていた事に気付いた。洋服のままだが、上着だけは着ていない。辺りへ目をやった。
 暖炉のある広いリビングだった。檜の木造だ。檜の匂いが心を穏やかに
してくれる。首を巡らせて部屋中を見たが誰もいない。
 そうだ。自分は夕べ遅くにここへ来たんだ。晴明の住む家に。そして、
中へ入った途端に物凄い睡魔に襲われて……。その後の事は覚えていない。
 それにしても、晴明の姿が見当たらない。どこにいるのだろう。
腕時計をみると、午前七時だった。
 蕗子は立ち上がり、窓辺に立った。外は綺麗な快晴だった。エアコンが
入ってはいないのに、とても清々しい気持ちの良い朝だった。東京は
早朝から蒸し暑いのに、ここはまるで違うようだ。
 それだからだろうか。蕗子は自分が微かに汗臭いのを感じた。本当なら、
昨日のうちに風呂に入っている筈なのに、それどころではなく、すんでの
ところで逃げ出して、一目散にここへやってきて、酔い潰れるように
眠ってしまったのだ。
(だけど私、何も持ってない……)
 背後のドアが開く気配がして蕗子は振り返った。
 晴明が立っていた。
「おはよう」
 二人の声が被った。互いの顔に微かに笑みが浮かんだが、晴明の方は
すぐに無表情になった。その事で蕗子の心は棘が刺さったような痛みを感じた。
(私はやっぱり、ここへ来てはいけなかったんだ……)
 夕べもそう思ったが、その思いが更に強くなった気がした。
「晴明さん……。私……」
 シャワーを浴びたいんだけど、着替えを持って無いの。
そう言いたかったが言えない。
「夕べは、着いた早々、そこに転がって寝ちゃったから驚いたよ。
シャワー浴びるかい?」
 晴明の言葉に赤面しながらも少しホッとした。
「あの……、そうしたいのは山々なんだけど、私、着替えも無くて……」
 晴明はふっと笑った。
「全くもって、驚きだな。今、タオルと着替えを持って来るからちょっと待ってて」
 晴明はそう言うと、踵を返して出ていった。暫くして戻って来た手には、
バスタオルとジャージの上下と下着らしきものが乗っていた。
「お風呂はこっちだから、ついてきて」
 そう言われて彼の後に続く。
 リビングを出ると玄関と廊下があり、廊下の先に洗面所と脱衣場があった。
ステンドガラスの引き戸の先が風呂場だった。
「お風呂の扉がステンドガラスなの?」
 蕗子は驚いて晴明を見た。晴明は少し口角を上げた。
「珍しいだろ」
 蕗子は渡された着替えを見て、目を見張った。下着らしき物は間近で
見ると、矢張り下着だった。しかも女性物の。
「ジャージは僕のだけど、下着は未着用の物だから安心して。じゃ」
 それだけ言って出ていった。
(この下着って一体?)
 まさか、ここで蕗子以外の女性と暮らしてる?もしくは密会でも?
だから、あんな態度なのか?だから、何も連絡をしてこなかったのか。
そうだとしたら、完全に自分は道化だ。
 蕗子は着ている物を脱いで、ステンドガラスの扉を開けた。そして目を剥いた。
まるで温泉旅館の小さな露天風呂のような作りだからだ。外との間には
ガラス窓で仕切られているが、透明ガラスなので外と繋がっているような
錯覚を与える。
 蕗子はビックリしながらシャワーを浴び、そっと浴槽に浸かってステンド
ガラスの方へ目をやって、再び驚いた。外の光を吸収して、とても美しい。
洗面所の方から見ていた時には分からなかったが、こうして俯瞰して見ると、
牡丹の花の意匠だと気付いた。
 何だか意外だ。彼の描く絵からは想像が出来ない。これはもしかすると、
亡くなった女性の趣味が反映されているのか……。
 そうだ。彼は彼女と、ここに二人で住んでいたんだ。ここは二人の
愛の巣だったんだ。そこへ私は勝手に乗りこんで来たんだ。
そう思うとまた悲しくなってきた。
(帰ろう)
 蕗子はそう決意して、風呂から出た。用意されたタオルで水気を拭き、
下着を手にして躊躇った。確かに新品のようだが、もしかするとこれは、
例の彼女の物かもしれない。亡くなった人の……。薄い水色のショーツだった。
蕗子は迷い、結局身に付けた。ジャージは晴明のものだろう、大き過ぎた。
ズボンの裾をかなり捲りあげる。上は肩幅が広い為か肩下に下がって来る。
当然、袖も完全に手が隠れた。
 憂鬱な面もちで廊下に出た。帰ろうと思うものの、一体どこへ帰ればいいのか。
あの部屋に帰って、父がまだいたら。いないにしても、またやってきたら。
 父が言ったように荷物は少ないから引っ越そうと思えばすぐにでも越せる。
だが、また見つかって、父親の権限で鍵を開けられて入ってきたら。
 考えると恐ろしくてたまらない。身の毛がよだつとは、まさにこの事だ。
それを教える為と広志は言ったが、怖い思いをさせるだけだったのか?
それともその先までするつもりだったのか。蕗子には、ただ怖い思いを
させるだけだったとは思えなかった。あのまま抵抗できずにいたら、
犯されていたと思う。
 蕗子は急に吐き気を覚えて洗面所に取って返した。
 吐き気を催したものの、出てくるのは胃液だけだった。昨日は昼を
食べたきり夕飯は食べていなかった。終業後に事務所で財前と話しをし、
帰宅後に部屋でフツールでも食べようとコンビニで買って帰ったが、
それどころでは無くなった。
(私は本当に馬鹿だ)
 一体、こんな所で何をしているのだろう。どうしてこんな事になってしまったのか。
晴明と出逢いさえしなければ、父にあんな行為を受ける事だって無かった筈だ。
逃げ出してきても、肝心の晴明は受け止めてくれる様子は無い。
 心の窓が閉じている。
 そう感じた。
 結局、いいように振りまわされてきただけだった。
 蕗子は顔を洗って鏡を見た。顔に険が立っている。そう感じる。
何て顔をしてるんだろうと、自分が情けなくなった。
(でも……)
 このくらいでなければ、崩れてしまいそうだとも思う。
 姿勢を正して、蕗子は歩き出した。




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